54 気付け薬をあたしにください!
「あんた何を考えてる?」
「その吸血鬼達を倒せたら教えてあげるよ。英、岡、涼子を殺せ」
ローレライは2体の吸血鬼を指さした。木刀のようなものを持っている女性とナイフを持った男性だ。
涼子は合気道の稽古を思い出しながら1人、立ち向かった。噛みつかれないように距離を取らざるえなかった。天秤投げをした。すかさず、武器をとって、叩きのめす。そして距離を取る。もう一人は、今度は胸突き小手下ろしを決める。ナイフで切った肩に、涼子は手を切って血を落とす。
「「ウォレスト」」
いきなり、きららはピアノを、九条はトロンボーンを出した。
♪
「ドヴォルザークの”序曲『謝肉祭』”」
2人の演奏は活力を上げているような演奏だった。
音は増えていく。
ローカのヴィオラ。ケシーのソプラノサックス。赤石のフリューゲルホルン。たなたんのクラリネット。絵空のアルトサックス。アルトのフルート。勇のコントラファゴット。さくらの篠笛。ロサのバイオリン。ミャウカのファゴット。眞子のセルパン。まゆらのパーカッション。川田のトランペット。スプルースのコントラバス。メデュー先生のフレンチホルン。フネニのクラリネット。ノールのチェロ。リフレーンのオーボエ。まだまだ人はいる。バイオリニストが多かった。チュービストもいる。先ほど、日本にいた時に飢餓状態になって涼子を噛んだ動物の月影と昆虫の月影が集まって、曲を奏でているらしい。
「何故、全員無事なのかい? 吸血鬼、吸血鬼が……、何かしたのかい? 涼子さん」
ローレライは狂心で小さく笑う。
「”気付け薬をあたしにください”って願っただけだ! ローカ、他の子達はどうしたんだ?」
「赤石が同じことをお願いして治していったんだ」
「ローレライ、何を考えている?」
「僕は、人間を管理して牧場を作り、吸血鬼の世界を作るのみだよ。さて、ローカ君、涼子さんを殺してもらおうか」
「それはできない」
「そうかい、だったら、僕が殺してやろう!」
「「ウォレスト、遷移」」
ローレライとローカはほぼ同時に武楽器の剣を出した。
カキン! カキン! カキン! カキン! カキン! カキン! カキン!
2人の剣が火花を散らす。やがて空をも翔んで、2人はぶつかり合う。
「ネニュファール、撃てる?」
「ね、狙えませんわ」
「この指輪、つけて、時の手帳に名前を!」
涼子は指輪を外すと、ネニュファールにつけた。
「ローカさん、全てを変えますわよ。ニーベルング」
ネニュファールは時の手帳に、ローレライ・スターリングシルバー 17時10分〜17時20分と書き込んだ。現在の時刻の約5分後だ。すると、周りを青い炎で取り囲んだ。
「ローレライ! 俺に力を与えろ! 恋人を連れてきただろう」
「いいよ、ハンデにもならないけどね。パース」
ローレライは箱から瓶を取り出す。そして、ローカに投げ渡した。
「なんだと?」
何らかの液体が入っているように見える。
ローカはその瓶の中身を飲み込んだ。すると、頭から大きな角が2本生えた。
「うぉああああ」
先程より、動きが早く、ローレライにぶつかった。
ローレライはそれを楽しむように攻撃を受け流す。剣を放り投げると、ローカに体当りした。それから、拳で真下に打ち付ける。
「ぐはっ」
ローカは一旦大地につく。その地面はヒビが割れた。
剣を杖のように持ち、体制を整える。
再びローカが空を翔んだ時、2人の子どもが飛び出していった。
ミャウカとロサだった。ローカの腕を左右、2人は掴んでいる、
「ミャウカ、ロサ。なんで。赤石から体液をもらったんじゃないのか」
「従わなければ、頭がガンガンするの」
「悪いが俺様はミャウカの味方だ」
「血を舐めさせただけです、キスはしてません」
「赤石。あんた」
涼子は赤石の方を覗き込む。
「申し訳ありません」
「はっはっは、この体はボロがきている。その健康体に乗移らせてもらうよ」
「ふっ! ぬん!」
ローカは抜け出せないでいた。
「ローカを離せ!」
「それにしても、少し体力をなくさせなければならないね、はあ!」
ドォ!
ローレライはローカの顔を殴った。
「ウォレスト」
涼子はピアノを出した。グリッサンド奏法をして針を飛ばした。大量の10センチの針だ。
ローレライはローカの影に隠れる。
「ウォレスト、針を落としてもらおうか。僕はロサの体でもいいんだよ」
ローレライは剣をローカの胸の前に当てる。
「なるほど、吸血鬼の世界は生きやすそうですわ」
ネニュファールはリフレーンの羽の生えた半月化により抱きかかえられ、空を翔んでいた。
「わかってくれたかい、ネニュファール」
ローレライはネニュファールに近寄っていく。
「ごめんなさい、ローリ様。この世の中は生きづらいからこそ輝いて見える物なのです」
ドン!
「かっ」
ローレライは涼子の血が着いた銃弾を左胸に打たれて、多くの血を吐いた。
その時、演奏は終わり、行く末を皆、見守っていた。
「皆! ”月の光”だ、早く演奏を始めるぞ!」
九条が叫んだ。
「ウォレスト」
涼子もピアノを出して弾き始めた。
♪
ローレライから出る紫色の瘴気が月へと返っていく。ミャウカとロサ、そして操られている吸血鬼からも出ていった。雨が止む。
「おぎゃああああ」
ローレライのいたところに赤ん坊が泣いていた。落ちていく。
その子をネニュファールは無意識にキャッチしていた。翔んでいた者が降りていく。
「その子は一体?」
涼子は複雑そうに見る。
(殺すべきなのか?)
「ローリ様の生まれ変わりかもしれません。わたくしが責任持って育てます」
「この子は、ローレライ?」
「いいえ、名前は……」
「名前か? 俺の名前のローカの逆でフローにしよう」
ローカが急に顔を出す。
「いいですわね。フロー、いい子ですわ」
「うぶ、あぶ!」
フローはニコニコ笑っている。元気な男の子だ。髪の毛は藍色だ。
「かわいいなぁ」
「うわああん」
「なんで俺を見て泣き出すんだ?」
「角が怖いのかと? そうですわ、パース」
ネニュファールは海のような箱を出すと、おしゃぶりを取り出した。
「泣き虫の子はこうですわ」
「むー」
フローはおしゃぶりに食らいついた。
そうこうしているうちに曲が終わり、皆が集まってくる。
「おい、ローレライは死んだのか?」
「その子は?」
「まさか、ローレライじゃ?」
「どうする? 殺すか?」
「お待ちなさい」
吸血鬼ハンター協会がしゃしゃり出てきた。
「こんなにかわいい子が悪魔のはずがないわ。赤ちゃんは皆で天使、育て方で悪魔にもなりうるもの、この子は吸血鬼ハンター協会で預かります。瘴気もありませんし」
「お断りします。この子はわたくしの子、絶対にお譲りしませんわ」
「このメデュー先生に楯突くとはいい度胸ね。この子は、ローレライの可能性もあるわ。つべこべ言わずに渡しなさい」
「あたしが、あたしがお世話します! 学校に行ってる間は執事とメイドに頼みます」
涼子は赤ん坊を不憫に思って、声を上げた。
「ナイスアイデアですわ。わたくし、本日を持って辞職しますわ。その代わり、涼子さんの家のメイドにしてもらえますこと?」
「それはお母さんに聞いてからだが。吸血鬼ハンター協会はそれでいいのか?」
「ここまで来れたのも、涼子さんのおかげ。それで手を打つわ。ただし、いじめてないかたまにはチェックにはいることを許しなさい」
「分かりましたって」
「そうしましたら、全員解散してください! この度はありがとうございました。ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした」
川田が厳粛に言うと、皆散っていった。
「「もう夜だな」」
「「同じ事を」」
涼子とローカは一緒に言う。
日没の時間だった。
「そうだ、日本は大丈夫なのか?」
「リコヨーテにある城の願い石を使って紫の雨は降ってない、ルコ様がやってくださった。日光を浴びても砂にならずに済む」
川田は冷静に返す。
「ルコ様に報告しないと」
「フローのことは黙っていてくださいませ」
「ミャウカ、ロサ、あんた達黙っておけよ」
「はーい」
「はいはい」
「ケシー、アッパーされてたけど大丈夫なのか?」
「はい、顎の骨、折れたんですけど、ボク、半月なんで治りました」
「俺のことは?」
「その角、いいな」
「うん」
「うんじゃねえよ。……ローカ、”気付け薬をあたしにください”」
「んえ? やだよ」
「そこはうんって言えよ」
今日も1日が終わっていく。
明日こそは、”気付け薬をあたしにください”。




