51 パンデミック!
少したち、文化祭の日。
1日目はローカと各クラスの出し物を見て回った。スタンプラリーや縁日など様々な場所で笑いあった。楽しかった。
2日目は、クラスで会計の仕事をした。
きららがケシーと回ったようで、涼子のクラスで販売するドーナツを買っていった。
世界がキラキラと輝いて見えた。
◇
ついにあの日から、約束の1か月がたつ頃、絵空に連れ出されたのは、あのジャズ喫茶だった。土曜日の午後なのでケシーは留守番だ。
「無理! あんなに美味い人の後に弾きたくない」
「お嬢様、一流の人たちと遜色ないんで大丈夫ですよ」
絵空が笑わないように、涼子はセッションするためのピアノの前にたった。
「これから披露するのは新人のピアニストの涼子さんと、いつものメンバーで”Moanin’”です」
ケイはピアノのそばを離れて、紹介する。
涼子は穴が開くほど見られている。穴があったら入りたいほどだ。どきどきしていると、「ハーモナイズすればええんやで」とアドバイスされる。
(ハーモナイズって何だよ? おい、本当に始まるのか?)
♪
涼子は思い切って弾き始めた。正確に、そして曲に体を預ける。
すると、合いの手が加わっていくように、壮大なジャズになっていく。
涼子は楽しかった。
そして、10分弱の演奏が終わった。
パチパチパチパチ。
大きな拍手をされる。
「ありがとうございました〜〜〜〜」
ケイが何かを話すも何も耳に入ってこない。
絵空の側に寄った。
「レベル2はクリアです。次はクラシックと言いたいところですが、息抜きに体術の訓練を行いますレベル3です。……すみません。急用ができたので俺達、帰ります」
「そうなの? 良かったわ、演奏」
「また来ます」
そう言って2人は裏口から出ようとする。
「どうやって鍛えるんだよ、ジムにでも行くのか?」
「それもいいですが、次のテストにはちょうどいい相手がいらっしゃいます」
「誰だよ?」
「私です」
涼子の目の前にはいつの間にか、きららがいた。九条もいる。
「きららちゃん?」
「素敵な演奏でした。私は3日前にレベル2をクリアしてます。後、私は空手を習っています」
「さあ、修行場に行きましょう」
修行の初めに音感テストを行った、倉庫のような場所に移動した。丸くマットが広めに敷いてある。
2人は白い柔道着に着替え、ヘルメットのようなものを装着する。
「ダウンさせた方が勝ちでいいですね?」
「あたしは合気道を習っていたんだがいいんだな?」
「いいですよ」
「一応言っとくが、合気道は試合ではなく稽古だからな」
審判は九条が行う。
「始めますよ、ファイ!」
カーン!
コングの音で始まった。
涼子はきららのパンチを受け流して、関節技を決めようとする。しかし、きららの回し蹴りをもろに食らう。倒されたが、すぐに起き上がった。きららの突き蹴りを、前に突っ込んで捌く。
きららは、転がった。
きららの上にのしかかり、投げた右手を引くことで相手を守る合気をした。
距離を詰めて戦うことで、空手の打撃技を防いだ。
きららが5秒以上ダウンして、涼子は勝った。
カンカンカーン!
コングの音で終わった。
「ありがとうございました」
「どうもな」
「レベル3もクリアです」
「最後はクラシックか?」
「そうですね、では課題曲はドヴュッシーの”月の光”と決めさせていただきます」
「その曲なら弾けるぞ、ウォレスト」
涼子は円状のマットの上にグランドピアノを出した。音の強弱をつけながら、ジャズを弾くのとは違う弾き方で、弾いた。
♪
絵空もきららも九条も口を開けて驚いている。
「もう俺から教わることはないですね」
「帰ったらゲーム返せよ」
「仕方ないですね」
◇
外は暗くなっており、ポツンポツンと雨が降ってきた。絵空と涼子ときららと九条は帰り道、奇妙なものに出会う。
吸血鬼が若い女性を襲っている。首から大量の血を吹き出させている。
「殺されてる!」
「助けるか?」
「いけません。警察と病院に電話をしてください」
「おう」
涼子は110へ電話をしたが、通話中で電話をとってもらえなかった。
「おかしいな、なんで繋がらないんだ?」
119にも、病院にも電話は繋がらない。
「な!」
「え?」
絵空ときららの驚愕した声を涼子は目の当たりにした。
遠くの方からオッドアイの吸血鬼が3体、4体と集まってくる。
車の方に近づいてきている。
絵空はバックで逃げながら、ラジオに切り替える。
『吸血鬼が飢餓状態になっていきます。街はパンデミック状態になりつつあります』
「パンデミック? 絵空は平気だよな?」
「紫の雨が降ってきました、もしかしたらそれに当たって、吸血中毒になっているのかもしれないです」
「ローカさんやケシーは無事ですか?」
「分かりません。邸宅に向かいます」
大通りでは車が渋滞しているので脇道を走った。
そして何とか、家にたどり着き、涼子ときららは車外へ出た。九条はトートバックの中にいる。
「ローカ!」
ローカは傘をさしながら、家の門の前に立っていた。
「涼子、俺、今、すごく血を吸いたくて」
涼子は家の鍵を開けた。家の中は電気がついていない。あの日の事件がフラッシュバックする。それから、明かりをつけた。
「絵空は?」
「傘を車に常備させているからすぐに来るはず」
「ロー、うああああああああ」
オッドアイのローカは涼子に噛みついてこようと胸ぐらを掴んだ。
涼子はとっさに右腕を差し出して、後ろに倒させた。護身術だった。
「お嬢様、ローカ様、きらら様」
家の奥から赤石が出てきた。
「お、赤石、ちょうどいいところに。今こいつ、吸血中毒になりそうで、縛って欲しいんだ」
「会話が聞こえていました。私はジェシカ・タマ先生の薬を持っております」
赤石は麻縄で、ローカを後ろ手にして手足を拘束していった。そして、液体状の薬を飲ませる。
「俺は一体何を?」
ローカは平常に戻ったようだった。
「悪かったな、パース」
ローカは箱に顔を突っ込み、銀のナイフを取り出した。
「あんた、何を?」
「心臓を潰さない限り吸血鬼は死なない、だから、今、俺は」
「馬鹿野郎! この異常事態で変な気を起こすんじゃねえ! どうしていきなりこの雨が降っているのか知らないとならない、どこまで降っているか、知らないとならないんだよ」
涼子は、ローカの持っているナイフを取り上げた。
「そうだ、願い石に祈れば治るんじゃないか?」
「今持っている全ての願い石を使っても、治らないかもしれねえ。だめだ、またくらくらしてきた」
ローカは続ける。
「この箱の中から願い石を出してくれ。パース」
ローカは過呼吸になりながら50センチ四方程の箱を出した。
「あたしじゃわからねえからきららちゃんと赤石も探ってくれ」
「「はい」」
赤石はテニスボール程の金の石を取り出した。
「あ゛あ゛あ゛」
薬は月影化はしないが吸血中毒を起こすのを止めることができなかった様子だ。
涼子は赤石のもつ石を受け取った。
「〜〜〜〜」
蚊の鳴くほどのボソボソと願いを、願い石に願った。出しぬけにローカに唇を合わせた。すると、ローカは治っていく。紫色の瘴気が体の中から溢れ出し、窓の隙間から出ていった。感触は柔らかなマシュマロのようであった。
「ローカ」
「あれ? 俺今何をしてたんだ?」
「吸血中毒になっていたぞ。テニスボール状の願い石を使って治した」
「テニスボール状の願い石が最後だったんだ。城に行こう、リコヨーテのお城の中にはまだ願い石があるはずだ」
「そうだな、リコヨーテの人たちはまだこの雨に触れてないかもしれないしな」
涼子は大きく頷くと、ローカを縛る縄を銀のナイフで切った。
「絵空は何をしているんだ?」
「分かりません」
赤石が窓を見やって言ってくる。
「涼子さん、ローカさん。僕なんだか、体がムズムズしてます」
ケシーはカエルの服を着てリビングにやってきた。
「ケシー。無事で良かった。実は吸血鬼に有害な物質が降ってきているようだ」
「あの紫色の雨、月影の血ですね。何らかの魔法曲で吸血鬼の体を動かしているみたいです」
「あたしなら治せるかもしれない」
涼子はケシーに近寄るとケシーに口づけた。
「ん、涼子さん何を!」
ケシーから体を離すと涼子はケシーを見つめる。
「どうだ? 体のムズムズは消えたか?」
「あ、はい」
「まだ、願い石の効果は続いている」
「絵空が出てきました! 大変です、傘をさしていません」
「赤石、あんた、あいつを捕まえられるか?」
「もちろん、大丈夫です。ただ外には出られないので誘導してください」
赤石は白い手袋をつける。
「その前にあたしに吸血しろ」
「え?」
「いいから」
「では少し」
赤石は、涼子の肩に軽く噛みつく。
「んん、んん」
涼子は声を漏らす。
「はあはあ、もういいのか?」
「お嬢様、身長が」
「赤石も体、治ったか?」
「はい。よく、ムズムズしてるのが分かりましたね」
バーン!
玄関先から音がした。
おそらく絵空だ。
赤石がいち早く、玄関へ。
「お嬢様、吸血鬼がたくさんいます!」
赤石と絵空達の対決を黙ってみているわけにはいかない。
「ローカ、拳銃は出せるか?」
「パース」
ローカはリボルバーを出した。
涼子は銃弾を出す。そして自らの手をナイフで切り、血を銃弾につけた。それを装填する。
「心臓以外を狙えるか?」
「五分五分だな。涼子、ケシー、きららちゃん必ず追いかけるから、窓から逃げるんだ」
ローカはニーベルングの指環を外して涼子の左手の薬指につけた。
「わかった。他の弾は?」
涼子が言うと、ローカは箱に手を突っ込んだ。
小さなビニール袋に10発程の銃弾が出てきた。
涼子は揉み込むようにして、血をつけた。




