38 月影とサラス!
大男達は、チェロの斧とコントラバスの大剣を手にしている。
距離はかなり狭まっている。
トカゲの月影は2人の大男に追突してきた。
2人は斧と大剣で飛ばされないように受け流す。
ガウ!
2人の真ん中を通っていく。
大剣の持った大男は軽く大剣を振り上げ、トカゲの月影の尻尾を切り落とした。
ガアアア!
トカゲの月影は先程より獰猛になり、チェロの斧を持っている大男を狙う。切られた尻尾が動き、斧を持っていた大男の斧を弾き飛ばした。
噛みつかれる、と思ったが、大剣を持った男がトカゲの口に大剣を挟ませた。
すぐさま、ベロで押し返されたが、トカゲの月影には大きな傷になった。
「うわああ」
大剣を持った大男は木に叩きつけられて、意識を失った。
「危ないわ、援護しましょう」
「あたいも行く!」
「俺様も!」
「皆行くのか? あたしはあの子とピアノを弾いてるぞ?」
「大丈夫。お前の方にはこさせないから安心しろ」
ローカ達は駆け出していった。
「あんた、連弾できるのか?」
涼子は黒髪のおさげ髪の女の子に声をかける。
「岬浦……涼子さん?」
「どうして名前を知ってるんだ?」
「新聞にのっていたからです」
「あんたの名前は?」
「愛川きららです」
「あんた、ケシーの? 保護者の!?」
「ケシーを知っているんですか?」
「中学生の女の子って聞いたけど、高校生なのか?」
「これは吸血鬼に殺された姉のセーラー服です」
「そうか。で、できるの? できないの?」
「連弾はできます」
「ウォレット・ストリングス」
涼子の呪文でグランドピアノが現れた。
きららの椅子はもともと座っていた椅子を高めにした。2人は並んで座った。
「英雄ボロネーズだぞ」
「わかっています」
涼子は目配せをし、曲をスタートさせた。
♪
涼子は指に全神経を集中させる。弾き終わりそうだと、前を向くとローカ達はすっかりトカゲの月影を討伐していた。
トカゲの月影の血液や肉片が、金貨、銀貨、銅貨、装飾品、宝石、貴金属などに変わっていった。そのうちに丸太に似た宝箱がピアノにぶつかった。
「これが、言っていた宝箱か」
「イットウ! ニトウ!」
きららは大男達に寄り添っていく。
2人は生きているようで、深く呼吸をしている。
「半月じゃないのによくやったな」
「助けてくださりありがとうございます。あの、私達3人で組んでいたんです、もしよければ2人に宝を」
「おばさん、抜けるか?」
「いいの? 抜けるわよ?」
「もう1人は?」
「アルトはテレパスを送るし、ローカは受験者でもないし、あたしもサラスを止めないと、ミャウカかロサは?」
「ミャウカ、いいぞ。抜けろ」
「でも兄ちゃんは?」
「俺様は、サラスの野郎に敵をうつために残るよ。まあ、この大男を殺ってもいいんだがな」
「あんた、そんな事したらビレッド様にチクるぜ?」
「父ちゃんの名前を出すな、クソガキ」
「あんた、あたしより下でしょ?」
「まあまあ。じゃあ、僕、アルトと涼子さんとロサ様とさくらさん、そして受験者ではないローカさんとで戦いましょう」
「とりあえず、信号弾を打ちます……えい!」
きららは銃口を上に向けた。
パン!
赤い信号弾だった。
涼子は首を傾げた。
(1人1人、違う色の信号弾なのか?)
「さくらさんからまたテレパシーです。リスの月影、かなり苦戦しているみたいです。サラス軍、残り8人です」
「サラスを殺して横取りしよう」
「ロサ君! サラスは屈強の相手だ、簡単に倒せると思うな」
涼子は宝箱を持ち上げる。なかなか重量がある。
ミャウカは中身をいち早く開けた。
「ふうん、大して豪華じゃないんだね」
ミャウカの言葉に、皆が宝箱の中身を固唾をのんで見守った。
「え? 可愛いぞ」
青くて、貝殻が割られて入っている腕輪だった。金箔の腕輪が3個と銀箔の腕輪が2個とそれぞれついている。
「さくらさん、そろそろ正体がバレそうでヤバいです」
「助けに行かなきゃ」
「じゃあここでお別れだわね」
「幸運を祈ります」
きららが手を振る。
涼子達は別れたはずだった。
しばらく、森の中を進んでいる時だった。
「きゃ」
涼子の腕に何かが乗った。ピンク色と白色のハムスターだった。
「ごみゃーん、あたいもやっぱり兄ちゃんと一緒に出る!」
言葉とともに風が吹いて、ミャウカに変わった。
「な!?」
「だって、あたい、ロサ兄ちゃん、涼子、さくら、アルトでちょうど5人だもん!」
「そりゃ、そうだけど」
『ファーーン』
森の至る所から音声が流れる。
『ただいま、受験者4人がトカゲの月影の討伐に成功し、船に戻られました。残り31人、残りの月影は3体となりました。ちなみに吸血鬼ハンター試験の棄権も認められています! それでは吸血鬼ハンター協会からでした』
「棄権か、半月以外にはいいかも」
ローカは唇を噛みしめる。
「攻撃を受けた普通の人には便利な制度だな」
「さくらとサラスは今どこにいるんだ?」
ロサがアルトを睨む。
「そんな怖い目で見ないでくださいよ。今どこですか。……はい、わかりました。……リスの月影が逃げて、東のこちら側に向かってます。サラスによって死者が出ました。志願者2名です」
「鉢合わせしないように、さくらだけ北に来いって連絡しておいてくれ」
「了解しました」
北は竹藪のゾーンだ。
5人は険しい道を少しずつ登っていった。そこは丘のようにになっていた。
「ワン!」
柴犬が走ってきた。
「さくら」
涼子はなでなでする。
さくらは嬉しそうに尻尾を振っている。
風が吹いてさくらの姿が人に変わった。
「……サラスは怪奇的殺人者です。分身達はBGではありませんでした」
「オマエ、ヤハリ、スパイカ?」
涼子達は瞬く間に、サラスの軍団に囲まれてしまった。
さくらはまんまとサラスの手中に落ちたようだ。
「わざと泳がせたんですね」とアルト。
「ヤハリとは?」
「コノニオイ。スミ」
「あたしたちをどうするつもりだ」
「キュウケツキ、ナカマ。フツウノニンゲン、エサ。イマ、ゲツカゲ、オウテル。オレ、ヒトリノコス。コロセルノナラ、コロシテミロ」
「1戦交えたいのか?」
「ココ、キケン。ツイテコイ」
サラスの1人が前に出てきて、涼子達に近づく。
「あんたも分身?」
「ソウダ」
「ナメられてるな」
「本体はどこにいるの?」
「タオシタラ、オシエル」
サラスが言うと、皆黙々と後をついて行った。




