37 放たれた月影!
サラスは追撃を喰らわそうとワタを薙ぎ払った。赤い帯紐が揺れる。
「ウォレスト、遷移」
ロサがバイオリンの剣で立ち向かう。
「眞子さん、戻ってきてください」
「シモウタ、アヤツリニンギョウ、コロシチマッタ」
サラスの声が不気味に轟く。
「人形? もしかしてBG?」
「いやまさかな」
「吸血鬼には殺す意思がないようだ。俺等が時間を稼ぐから、おばさんとアルトと涼子は逃げてくれ」
「ハーーーーーハッハ」
サラスは木に登り、手斧を持ちながら、ミャウカに手を伸ばす。
涼子は不審に思う。
(なにかする? 操るつもりなのか)
「やー! 来ないで!」
ミャウカは更に高く翔んでいった。
「ハイハイハイ」
「ひゃ」
涼子の方にサラスの手斧が飛んできた。
カキーン!
ローカは剣で手斧を弾き落とした。髪の毛を少し切られた。
「ウォレスト」
サラスの武器が戻っていった。
「逃げろ!」
ローカがサラスに突っ込んでいく。
「行こう!」
そして、海辺に戻ってきた。
涼子は逃げている間にコチドリの月影を見つけた。両目が赤く、目の周りには黄色のアイリングがある。小さい。
「おい、アルトの武楽器は?」
「フルートです」
「どうしたのよ?」
「コチドリの月影だ」
「もしも、太陽さんの真似ができれば、この地獄から1抜けできるぞ。ウォレット・ストリングス」
涼子はピアノを出した。
♪
グリッサンド奏法をする。
コチドリの月影はテケテケと素早い歩行を見せる。
♪
反対にグリッサンド奏法をした。
針は3本しかでてこなかった。
コチドリの月影はまっすぐ飛んでくる針に気が付き、軽々と避けて、森の方へ翔んでいった。
「畜生! 失敗だ」
「そんなに落ち込まないでください」
「そうよ、あれはプロじゃなくちゃ倒せないわよ」
「そうだよな! 今は落ち込んでいる時じゃないな!」
「あ!」
アルトは思わず、手で口を覆った。
空を飾っているのは黄色い信号弾だった。それは誰かが月影を倒したのを物語っていた。
「あの船の前で待っていれば、倒して持っていけるか?」
「流石に反則じゃないですか?」
「そうだわね。攻撃されるわよ」
「船の前に兵士がいるな」
涼子達は、抜ける人達を指をくわえてみているしかなかった。
『ファーーン』
島中でのサイレンがなっている。島全体にホーンスピーカーがついているようだ。
『ただいま5名の吸血鬼ハンター試験の合格者がでました。倒された月影はサソリの月影です。残り4体、張り切っていきましょう。以上吸血鬼ハンター協会からでした』
その放送中、3人は微動だにしなかった。
「サソリの月影どうやって倒したのだろ?」と涼子は口にする。
「森の中に入りましょう。ここで待ってても仕方ないというか、月影を倒せませんよ」
アルトの言葉で森の中に入る3人。
「大変だ、ミャウカとロサが操られている!」
ある人が森の中をかけてくる
「ローカ? じゃない誰だ!?」
「俺、ローカだ」
「ローカには犬歯が生えている」
「あぁ、こうか?」
その人は犬歯を生やした。服装は和風のような袴を着ている。
「「ウォレスト、遷移」」
眞子がセルパンの鞭を、アルトはフルートを出した。
「ローカの偽者、覚悟!」
眞子が言うと、ローカの偽者は後退り逃げ出した。
「捕まえないと、見分けつかなくなります」
「その必要はない」
後ろから聞こえるのはまたもやローカの声だ。
「ぎゃあ」
偽者のローカは速く翔べるローカに背中を切られた。
「本物のローカ?」
「パース」
ローカは箱から縄を取り出した。
「ミャウカちゃんとロサ君は?」
「生きているが、しばらく戦闘不能だ」
ローカは偽者のローカを縛りあげる。
「サラスにやられたのか? どうなったんだ? サラス」
「結論から言うと、サラスは逃げた。一応殺したあれは、分身だったんだ。俺達は攻撃を受けたのだが、吸血鬼というか半月は殺さないらしい。ミャウカとロサは穴蔵に隠れている。戻ろう」
「こいつはどうする?」
涼子は偽者のローカの顔を覗き込む。
「ごめんなさい。仲間に入れてほしかったんです。さっきの戦いの一部始終を見ていて。戦いで落とした藍色の髪、口に含むとその顔に変身できます。魔法曲で。犬歯などは口を閉じていたからわからなかったんですが」
「そんな魔法曲があるの?」
「篠笛独奏曲“響鳴“は篠笛で吹くから魔法になるのであって、違う楽器で演奏しても魔法になりません」
「本当の顔に戻ってみて」
「わかりました。ペッ」
彼は髪の毛をはいた。すると、篠笛を吹いていた青年の顔になった。茶髪に、よく見ると柴犬のような耳をしている。
「犬の半月?」
「はい」
「あんたの名前は?」
「水元さくらです。血を出しすぎて半月の月影化しそうです」
さくらは答えた。
涼子は足の縛ってあった縄をコンパクトナイフで切る。
「さくらも来いよ。ミャウカちゃんとロサ君のところで、治す魔法曲を奏でようか」
涼子は言葉を続ける。
「この子はアルト、こっちのおばさんは眞子さん、あたしは涼子、さっき変身していたのがローカ」
「誰がおばさんよ」
「俺が案内する。速歩きで行くから気をつけてね」
ローカは地面から少し浮きながら、進んでいく。
地面は木の幹の塊があったり、ぬかるんでいたりして歩きづらい。
涼子は前を見やった。でかいウツボカズラのような植物がパクパク動いている。人の影が映っている。
「食虫植物なのに人を食っている?」
「助けるか?」
「助かるのであれば助けようぜ」
「ウォレスト、遷移。フン!」
ローカはビオラの剣で撫でるように切った。割かれたウツボカズラから人が出てきた。
「大丈夫か? 溶けてる、涼子、見ないほうがいい」
ローカは血まみれの死体を剣でつつく。
「それは遺体なのか?」
「ああ、半月でもなさそうだ。先を急ごう」
ローカは涼子の手をとる。
前へ前へ突撃するかのように移動する。
「ここだ」
ローカは握りこぶしに立てた親指で合図する。
「ミャウカちゃん、ロサ君」
2人とも腕を損傷していた。ミャウカはハムスターの耳を生やし、ロサはかなり毛深くなっていて、半月の月影になりそうだ。
「さあ皆で演奏しよう」
「“主よ、人の望みの喜びよ“な」
「「「ウォレスト」」」
「ウォレット・ストリングス」
♪
ピアノ、ビオラ、フルート、セルパン、篠笛の曲は圧倒的にエクスタシーを感じるものとなった。
辺りに飛び散った血と武楽器から出てくる金貨は血となり、縫い合わせるように傷口を塞いでいた。
「ありがとう」
「どうも」
ロサとミャウカがお礼を言う。
さくらは樹に絡んでいるあるものをとってポケットに入れた。
「え?」
涼子は目を疑う光景を目にした。
「サラスが3人? 4人?」
穴蔵の前の林を通るサラス達。
涼子達は木々が生い茂っていて見つからずに済んだ。サラスが続々と現れた。
「反対方向に逃げよう」
「うらは1曲奏でなきゃならないです」
「それなら音が漏れないように穴蔵の入口は、俺の箱で塞ぐ、パース」
ローカは箱を穴蔵の入口より大きくだした。
♪
篠笛を弾く。
この曲は“響鳴“だ。
「何をしようとしているの?」
眞子は不思議そうに見る。
「これで髪の毛を口に含むだけで誰の顔にもなれます。さて、アルトさん」
さくらはアルトに軽くキスをした。
「僕に何を!」
「これでテレパシーが使えるようになりました。ここからは別行動にしましょう。サラスの本物に会うまで、サラス軍についていきます。うらは鼻がきくんです」
「服はどうするんだ?」
「脱いでいきます」
「待った。全裸は流石にまずい。パース」
「柔道着ですか?」
さくらはローカが出した白い柔道着に目を輝かせた。
「柔道着あんど墨汁ーーッ!」
「あんたは未来からきた猫型ロボットか!」
涼子のツッコミもそこそこに、ローカは柔道着に墨汁をかけ、揉み込む。すると、みるみるうちに黒くなっていく。
「パース」
次に箱を出して、着色された柔道着を入れた。
「カーボンブラーックッ!」
ローカはハキハキと言った。
「カーボンブラックってなんですか?」
「炭素の微粒子な」
涼子の説明も馬耳東風でローカは箱から柔道着を取り出した。
乾いた黒い柔道着が出てきた。その所作は水気を切っただけのようだった。
「これを着な」
「ありがとうございます」
「ついでにサラスの首の後ろを見てきてくれるか」
「はい、じゃあ着替えるんであっち見ててください」
「女子か! 男ならバーンと着替えろよ」
「セクハラすんな。お前は男でも大して変わらんだろうけど。すまん、さくら、俺が涼子の顔隠すから今のうちに着替えてけ」
ローカは涼子の目を手で覆う。
「わかったから、あたしに触るな。見ないから」
「見たら、おっぱい1揉み3000円な」
「あんたに言われなくても見ないっつってんだろ」
涼子は目をぎゅっと瞑った。
ローカは手をどけた。
「もういいですよ」
さくらの声に涼子は目をパッと見開く。
「サラス!」
涼子は身構える。
そこにはサラスの姿があった。
「偽者ですよ」
「声まで……。高クオリティだな」
「何かあればアルトさんに送ります。行ってきます」
「位置情報も細かく送れよ」
「はい」
さくらは林の中に、まるで誰もいなかったかのように消えた。
「俺等は、月影を2体倒そう!」
「狸とコチドリとトカゲとリスか」
「ローカ、匂い探れる?」
「やってみる」
「さくらさんからテレパシーです。島の西の方にリスの月影あり、サラス15体ほどで戦闘中とのことです」
「東に行こうぜ」
「だね」
涼子達は西の方に向かい始めた。
しばらく歩いていると音楽が聞こえてきた。
♪
「ショパンの”英雄ポロネーズ”だ。なるほど」
おさげの黒髪の少女はキーボードピアノを弾いている。遠くから金貨が飛び飛びになってピアノに入っていく。
少し離れたところで、後の2人は戦っていた。
相手はトカゲの月影だ。赤い目をしていてレッド系のボディで鱗がある。瞼の傷口のところから血が流れて、金貨に変わる。それはピアノを弾く少女によって変化させられていた。
「横取りするか?」
「人の獲物だぜ? 傍観者に徹してよう」
「やばくなったら援護に行くわよ?」
「はい、そうしましょう」
アルトは言い終わるとじっくり観戦し始める。




