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36 命がけの試練!

次の曲は“序奏とタランテラ“だ。

涼子は船内に入っていった。聴く必要はないと感じたからだ。テレビのある、船内のリクライニングシートに座った。


ドン、ドン、ドン!


花火のように次から次へと大きな音が響く。


ドン、ドン、ドン!


音はやまない。


ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン!


命の散る音はついに途切れた。

涼子は残った試験生の様子が気になり、屋根付きのデッキに向かう。

(例え、皆が死に、最後の1人になったとしても弾き続けなくちゃならないのか?)

船の縁には2人の生存者がいた。

2人のうち1人はアルトだった。もう1人はお下げ髪に黒縁メガネをつけた高校生だった。

城の執事のトロンボーン奏者が水を出して、もう一人はモップを使って甲板を綺麗にしている。ピカピカになると城の兵士の集まる階段横に身を紛らわせていた。


「最後の組ね、呼びなさい」

「はい。長らくおまたせいたしました。D組の皆さんどうぞ外へお並びください」


計算すると18人の志願者がぞろぞろ出てきた。眞子も混じっている。D組は船の縁に立った。


「私が指揮を行う。そして、オケを台無しにしている人を見つけたら、即刻、拳銃で打つ。サメの餌になってもらう」

「「「ウォレスト」」」

「「「ウォレット・ストリングス」」」


バイオリン、チェロ、セルパン、篠笛、ピッコロなど、様々な楽器が出てきた。

ルコは手を大きく上にあげる。

皆、楽器を構える。

美しい音色だ。

(赤とんぼか、綺麗だな)

音を外した1人のバイオリニストに拳銃を向けられた。


「ひ、ひい!」


ボチャン!

ルコが打つ前に彼は自ら落ちていった。

涼子は手を伸ばしたかったが、間に合わなかった。

(大方、緊張で足元がふらついたのだろう、可哀想に)


他の人は間違えることもなく、不穏な空気の中、終曲を迎える。


「吸血鬼ハンター試験、第1次試験、終了しました。甲板に集まってください」


妙に高い声の放送があった。


「私の名前はスプルース。これから30分後に無人島に着陸する」


甲板で鎧を成人の男性は偉そうに言った。

志願者達はざわざわしだした。


「そしてそこには月影を5体、放ってある、倒したら信号弾で知らせてほしい。特別な宝箱を落とす。その中身は装飾品5つ。それを身につけてほしい。組んでもいいがチームは5人までが好ましい。残るは46人。月影を倒し、装飾品をつけて、船まで戻ってこれたら吸血鬼ハンター試験合格とする」

「期限は?」

「明日の朝5時までだ」


ざわつく船内。皆が敵と味方を分け隔てている。

涼子は強くて頼りになりそうな人を探した。アルトがこれから着く無人島に硬い意思を持った眼差しで見ていた。


「アルト君、組もうよ」

「いいですよ」

「あれ? 日原翔太は?」

「打たれて死にました」

「そっか」

「涼子ちゃん、私も仲間に入れて」


眞子が入ってきた。


「アルト君、いい?」

「いいですよ」

「それならいいぜ」


涼子も承諾する。その時だった。

涼子の両手を掴む人物がいた。


「あたいも」

「俺様も」


ロサとミャウカだった。


「あんた達、あたしにどんぐりぶつけたでしょ!」

「あれくらい避けれなきゃ」

「演奏してんだから無理に決まってるだろーが」

「全くひどい弟共だ」


低い声が混じった。


「そうだよな、……ってローカ? え? なんでローカがいるんだよ?」

「時の手帳で、ババアの後、追いかけたんだよ」

「え? 待って。弟共って、ミャウカちゃん、女だよな?」

「……ついてるよ」


ミャウカは照れ隠しのようにうつむいた。


「うっそ! 女の子かと思ったのに」

「月影倒し。俺も手伝うから無人島に先に行ってるわ」


ローカは飛び上がると高速で翔んでいった。


「行ってら」


涼子は不服な顔をする。


「まあ、ミャウカ様とロサ様なら実力はありますからいいんじゃないでしょうか?」

「うーん、分かった。その代わり、絶対に裏切るなよ」

「やったぁ、裏切らないよ、ね、兄ちゃん」

「そうだな、まあ、俺様たちだけでも倒せそうだけどな?」


「私達は恩恵を受けるってことを言いたいの?」と眞子。


全員が押し黙った。


「まあまあ、僕らはどんな月影か分かりませんよ? 2人だけじゃ困難なこともありますし」

「10時か、お昼どうしようか? ローカに頼んでおくか」

「無人島に電波は届かないのでは?」

「あー、確かに」


涼子は頭を抱える。


「無人島ならいくらでも食料とれますよ」

「なまじ、舌が肥えてると厄介だな」


涼子は悪下もなく言葉にする。


「あたいと兄ちゃんもね」

「僕、船酔いしてきた」

「大丈夫か?」

「袋もらってくるわ」

「男子トイレ行ったほうがいいぞ」


涼子はアルトを連れてトイレに送る。

(本当にミャウカとロサ連れて行っていいのか?)


そうこうしているうちに船が到着した。


「アルト君、平気?」

「何とか大丈夫です」

「大きなフェリーだね」

「あたいは小さな船乗ったことないよ?」

「それを言ったら、このフェリーは小型に分類されるぞ?」

「まあまあ」

「はい、信号弾だ、1人1発だから大事に使えよ」


スプルースは降りていく人に1つずつ信号弾を渡している。


「ありがと」

「どうもです」

「ありがとうございます」


アルトと眞子と涼子が受け取り、船を降りた。ミャウカとロサはのそのそと行動していて、最後になってしまった。

5人はローカを探しに海辺を歩いた。


「遅かったな」とローカは木の上から現れた。


「月影を倒す目処はたったの? 何の月影か知らないが?」

「もう上から見た。でかいトカゲの月影、小さいコチドリの月影、でかい狸の月影、でかいリスの月影、でかいサソリの月影。どれがいい?」

「リスの月影が1番危険なさそう」

「逆だな。肉食になったリスには犬歯の歯が生えている。動きも速い。1番安全なのはコチドリだけど、小さいから引き当てるのが難しい。それでトカゲのほうが普段から狩っている俺等にちょうどいいと思ったんだ」

「それより今は腹ごしらえの方が先だ、な、アルト君」

「そうですが、貴方は一体誰ですか?」

「ローカティス。“吸血鬼の“吸血鬼ハンターさ。ローカでいいよ。アルト」

「あんた何カッコつけてるの?」


涼子はローカを睨む。


「食事ならさっき仕留めたウサギ肉があるぜ? パース」


ローカの箱の中から解体されて血抜きされた、ウサギの丸焼きが出てきた。


「ありなのか? 箱を使うってんのは」

「セーフね。こっちの食材だもの」

「お腹ペコペコです。早速皆さんで分けましょう」

「あたいも食べるぅ」

「ミャウカ、そんなもん食べるのか? 俺様はいらない」

「俺もさっき健康栄養食品食ったから、4人で分けていいよ!」


ローカは真顔で言ったが、テヘッと首を傾げた。

ローカからもらったウサギ肉は足の部分で割かれる。


「「「いただきます」」」


蛋白でさっぱりとした肉の味がする。鶏肉に近いような食感だ。


「ふーん、一口くれ」

「間接キスになっちゃうじゃん」


涼子は慌てて止める。


「じゃあ、アルト」

「待てよ! 持ってけドロボー」


涼子は食べていた肉をローカに渡した。


「本当に残り一口だな、まあ、いいけど。もぐもぐ、うん、食べれないことはないね」

「塩コショウがあればいいんですけど」

「俺の脇の汗でいいか?」

「いいわけないですよ」

「森に入ろうぜ」

「パース」


ローカは箱を出すと、中からスプレーをとると、全身にかけている。


「虫除けスプレー?」

「蛭がいたらやだし」

「貸せよ」


涼子はふんだくると全員に行き渡らせた。


「なんか血に匂いがするな」

「そうですか?」

「あたいも思ってた所だよぉ」

「俺様も」

「見に行く?」

「いや止めとこうぜ!」

「それより、月影のところに案内するよ?」


ローカの言葉に首を傾けるミャウカ。


「ミャウカちゃん、待ちなさい」


ミャウカは走り出す。

涼子達は、突然、走り出したミャウカの後を追っていると、急に止まった。涼子はつんのめった。敵がいるので隠れる。

サラスが人を殺していた。両手に手斧を持っている。マラカスの形態変化したような丸みのある手斧だ。それをお手玉のように回している。


「オラ。ヒト。コロス」

「サラス。あらかた片付いた?」


話しているのはワタだった。

辺りは血の匂いでいっぱいだ。5人の志願者が頭部や心臓や腹部やらを切られて、横たわっている。臓器が四方八方に飛び散っている。


「いやー助かるよ、血がないとやっていけんもん。この試験内容で良かった」

「キュウケツキ、コロサナイ」


そんなサラスに気づかれないように、涼子達はそっと逃げようとした。


パキ、ミシィ!


涼子はサラスと目があった。

サラスの斧が飛んでくる。


「パース!」


ローカの箱が身を守った。


「逃げよう」

「ウォレスト」


ワタがアルトサックスを出した。

ミャウカは走って近づく。

ビーーーー!

ワタがシの音を出した。

ミャウカの足元に土の刃が突出する。


「ウォレスト」とミャウカは浮き上がりながら唱える。

出てきたのはファゴットだった。

「遷移!」

ファゴットは如意棒のように長くなってワタの顔をどついた。


「ぶごっ! ……何をしているサラス! さっさと殺れ!」


ワタは殴られた頬をおさえながら、サラスに目を向ける。


「キュウケツキ、コロサナイ」

「もういい! 俺が」

「ウォレスト、遷移」


眞子のヘビのような鞭がワタの首に巻き付いた。


「おばさん、危ない!」


涼子の声に振り向く眞子。

サラスが鋭い牙を向けて噛もうとしていた。


「きゃ!」

眞子はワタを身代わりにして、防いだ。


ゴボ、グガ!

ワタの首から上が無くなった。大量の血液が流れていった。


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