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35 吸血鬼ハンター試験当日!

そして、試験日の当日。

コンコン。

ノックの音にベッドから這い出て、鍵を開ける。


「お嬢様、起きていらっしゃいましたか」

「全然寝れなかったぞ」

「お食事は?」

「いらない、おにぎりを包んでくれ、リフレーンは?」

「ダイニングでステーキ定食を食べております」

「ステーキ定食? あの子が?」

「身支度ができましたら、ダイニングまでお越しください」


赤石が去っていく音がして、涼子は頬をつねる。

(夢じゃない、9月3日だ)

制服に着替えるとポケットにコンパクトナイフとケータイ、お財布を入れる。

歯を磨き、顔を洗い、髪をとかす。一連の動きは早い。


「リフレーン! 何を朝から厨房フル稼働させてんだ!」


ダイニングに着くと、鉄板の上にのっているステーキ定食を食べているリフレーンの姿があった。


「おはようなのじゃ!」

「え? あ、おはよう」


てっきり無視されると思ったが、挨拶をされて、涼子は戸惑いを隠せない。

リフレーンは昨日と同じ、ゴスロリ姿だ。


「お嬢様、こちらをどうぞ」


小さなバッグにおにぎりが入れてあった。


「いいや、なんかお腹空いたからここで食べてく。いただきます」


ダイニングの席に座り、熱々のおにぎりを頬張る。中身は鮭と梅干しだ。


「うん、うまい、ご馳走様でした」


涼子はおにぎりを平らげた。


「お粗末様です」

「ご馳走様」

「お粗末様です」

「リフレーン、あんた、髪の毛が絡まってるぞ。来な」


涼子はリフレーンの手を鷲掴み、洗面所に連れてくる。胸まである長い髪をとかした。


「お、時間がないのじゃ」

「行こうぜ」


涼子とリフレーンは走って、外に出る。9月の朝は比較的明るい。


「リコヨーテに行くのじゃぞ」

「シチリアーノ。覚えてるぜ」


あの公園まで5分ほどで着いた。


「ウォレスト」


リフレーンの発した言葉に驚く。

リフレーンはオーボエを出した。


「あんたも、武楽器所持者(プレイヤー)だったのか」

「そうじゃよ。急ぐのじゃ」

「ウォレット・ストリングス」


涼子は土管に近づくと、グランドピアノを出した。


「ほう」と小さく言ったリフレーンはオーボエを構えると、目で合図して、吹き出した。

涼子も合わせて弾き始める。間違えないように小手先のテクニックだが何とか弾き終える。


「先に行くのじゃ」

「おう!」


涼子は土管の中に入っていった。




「あいた!」

海の見える灯台近くに落っこちた。


「よっと、……こっちじゃ」


リフレーンは今度は自らが涼子の手をひいていく。

着いた場所は半月デパートと書かれた看板のある場所だった。

上は2階と屋上まで、下は7階まであった。

エレベーターで移動するように中に入っていった。1階から下は定食屋だけだ。


「おい、まだ腹減っているのか?」

「うるさいのじゃ、ここで間違えたら洒落にならんのじゃ」


リフレーンは地下7のボタンを3回、地下4のボタンを2回、地下1のボタンを1回、立て続けに押した。下に進むエレベーターは途中で止まってしまった。


「エレベーターが下に行かない。故障か?」と涼子が言った瞬間だった。


背後に動き出して真っすぐに進んでいく。

金色に輝きながら、ドアが開く。


「涼子、確かに送り届けたのじゃ、頑張るのじゃぞ」


リフレーンの声がする。

ドンと背中を押されて、その空間に入っていった。


「わっち!」


涼子は転倒する際に手がでた。周りは人が大勢いる。上を見るとすぐに分かった、ここは船内だ。見回すも出口はないようだ。

知っている顔を探す。


「あ、おばさん!」


涼子はセルパンを振り回していた眞子と再会した。


「失礼ね、南眞子よ。ここはどうやら改造されたフェリーの内部のようよ。下手に動き回らないほうがいいわよ」


眞子の話に耳を傾けながら船内を見渡した。


「はい、貴方、64番ね。このバッチをつけてくださいね」


老婆はしわくちゃな手で涼子にバッチを渡した。

キャッシュカードのような四角いバッチだ。


何処かで見た顔の人がいる。


「アルト君」


つい声をかけてしまった。


「何故僕の名前を知っているんだい?」

「えっと、ルシュヘルから分かったの」

「ルシュヘル様と知り合いなのかい?」

「向こうは知らないけど、あたしは知ってると言うか」

「ほう、興味深い話だ」

「だからえっと、ややこしい話なんです」

「詳しくは後でね」


アルトは涼子に問いただすのをやめた。


「君! 新人かい?」


小太りでスキンヘッドの中年の男性は涼子の肩を叩いた。


「俺はワタ。情報屋をしている」

「はじめまして、岬浦涼子です」

「あっちにいる男は長いこと吸血鬼ハンター試験落ち続けてるらしい」


その男性の指差す方にしている顔がいた。


「日原翔太君?」

「知り合いかい?」

「はい」

「危険人物もいる。あそこに座っている、サラス。彼は去年のハンター試験の最中に大量殺人して試験に落ちたらしい」


サラスは黒い長い髪に血のついている黒い柔道着を着ている。


「ミャウカ様とロサ様も来ていらっしゃるな、2人は噂だと家族以外は全て敵で、殺すことに厭わない。殺しは遊びと同じで、より強い相手を探しているらしい。試験も恐らく遊びの一環だろう」

「ワタさんって古株なんですね」

「古株というより情報集めが好きなんだ」


ガチャン。


前の方で日光が差し込み、大きな階段が降りてきた。


「吸血鬼ハンター試験の志願者様、よくぞおいでいたしました。Aグループの方から前にでてください」


ミャウカとロサが先陣をきった。人が流動していく。約18人、いなくなって、残りは45人となった。

何か話をしている。


ドン!

(何の音だろう?)

ドン、ドン!

ドン!


銃声のような音が立て続けになった。


「この音ってなんですか?」


涼子はワタに聞く。


「心配しなくても、そのうち分かるよ」


演奏は終えたようだが、A組の人は戻ってこない。


「次B組の人、お願いします」


13人の人が涼子とともに流れ出た。

甲板に集合する

船には柵がない。兵士により13人は船の縁で並ばさせられる、吸血鬼ハンターの志願者達だ。


「私が指揮を行う。そして、オケを台無しにしている人を見つけたら、即刻、拳銃で脳天を打つ。サメの餌になってもらう」


言っていたのはルコだった。


最高権力者の前では、足が生まれたばかりの子鹿のようにへっぴり腰になる。


「「「ウォレスト」」」

「「「ウォレット・ストリングス」」」


涼子は椅子の上に座った。


始まった。指が指とこんがらがりそうだ。

ルコは指揮をしながら、片手で拳銃を取り出した。

ドン!

ボチャン!

隣のユーフォニアムの少女が拳銃で額を打たれ、簡単に海に落ちた。

涼子は震え上がる。振るい落とされているのを肌で感じとった。

(死。本当に殺された。……なにか視線を感じる?)

デッキの後ろの方にミャウカとロサが居た。結構近いのに誰も気が付かない。

ミャウカは白いリボンのワンピースに黒い三角帽、そのリボンはアーガイルチェックだ。

ロサは黒いシャツにアーガイルチェックのケープのインバネスコートをまとったルックだ。

1段高いところから見下している。


ゴツン!

涼子の額に強く何かがぶつかった。

痛みより恐怖が上回った。

涼子は一瞬、演奏を停止させる。

(打たれた……のか)

カランコロン。

それはピアノに跳ね返る。額に当たったのはどんぐりだった。

(打たれたのではない。銃声は聞こえてない)


その証拠に打たれた方向を皆見るが武楽器を弾いている人は気の毒そうに涼子を見てきている。

その他の前方の武楽器を弾いてない人は「今日は風が強いね」と話している。

ロサとミャウカは次に打つどんぐりを装填している。


「いった!」


どんぐりの再来に思わず声が出てしまう涼子。暗譜が飛んでしまいそうだった。しかし、指が覚えている。

(ロサとミャウカは魔法曲で姿を透明化してパチンコで打ってきているようだ)


「運否天賊も試験の一環だわよ」


ルコはそう言いながら、鉄砲を涼子を含む演奏者に向ける。


涼子は仕方なくどんぐりの襲撃に耐える。

演奏も中頃といったところである変化が起きた。

ひらひらとピアノの鍵盤に桜の花びらが降りてきた。涼子の真横に小さな桜が咲いていたのだ。曲が進むにつれ比例して、どんどん大きくなっていく桜。

曲の終わりに、桜は花吹雪になり、情緒溢れる光景に変わった。


「12名試験通過」

「試験通過、おめでとうございます」


乗組員から拍手をもらう。

「あれ、試験ってまだあるんですか?」

「今年は豊作だから、間引かないとね。さあ、後方や船内に入って休憩しなさい」


ルコは珍しく、涼子と会話する。そして、銃弾を装填する。


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