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26 懐かしきアイツ!

開けてきたのは水辺のある砂利の場所だ。

クワア!


鳴いていたのは見上げるほど大きな月影の真鴨だ。3メートルはありそうだ。


「涼子さん、下がってください。ウォレスト、遷移」


ケシーはアルトサックスを槍にすると、槍投げをした。

月影の真鴨は首を反らせて、安安と避ける。

その時だった。


グワアア!


風が一瞬にして吹きわたり、月影の真鴨の腹を切り裂く者がいた。彼は吹き出す血を一身に浴びて、神々しい光を放った。

彼とはもちろんローカのことだ。


「パース」


ローカは月影の真鴨のついばむ攻撃を箱で防いだ。

どうやら月影の真鴨は脂肪のある腹を切られたようだ。臓器は出ていない。風を巻き起こしながら空を優雅に飛んだ。


「来るなら来い! ウォレスト、遷移」


ケシーはまたソプラノサックスを槍のようにして出した。


「槍1本で、なんとかできないぞ! 逃げよう」


月影の真鴨は涼子の方を見て、近づいてくる。

コオオ! ベチャ!

涼子に液体のようなものが全身にわたり飛んできた。無色透明なそれは、異常に臭かった。


「臭い!」


涼子は戦意喪失して腰が抜けた。


「てい!」


ケシーの投げた槍も当たらず、困り果てる2人。


月影の真鴨は口に炎を迸らせている。


「火!?」


そういう涼子の元に飛んできた。

(だめだ、当たる! 死ぬ?)


「パース」


嗄れた声が後ろから聞こえてきた。

ヒノキのような箱が涼子とケシーを守った。振り向くと、真っ白い髪にサングラスをかけた不思議な出で立ちのおじいさんがいた。服装はシャツに黒いズボンで赤のギンガムチェックのリボンを左腕に縛っている。肌は日焼けしていた。


「ウォレスト、パース」


グリッサンド奏法をするとピアノから針が出てきた。10センチ程度の針が無数に出てくる。

今度は反対にグリッサンド奏法をすると、翔んでいる月影の真鴨に針が飛んでいく。

月影の真鴨は正面を無数の針が襲い、剣山のようになって、大地にひれ伏す。


「涼子ちゃん、デュカスの”魔法使いの弟子“は弾けるかね?」

「ファーストなら」

「いいね、それじゃあ早速弾いてみよう」

「ウォレット・ストリングス。パース・ストリングス」


涼子はピアノを椅子ごと出した。


「待ってください。ロース肉は残しておいてください」

「わかった。……せーの」



ピアノ2台により白熱した演奏が行われた。

とてもミステリアスできれいな曲だった。

月影の真鴨の血液や体液、肉片が金貨、銀貨、銅貨、装飾品、宝石、貴金属に変わっていく。涼子についた体液は落ちても匂いは落ちないようだ。


「なんで、あたしが武楽器ピアノだって知っていたんだ?」

「空から見てたからね。私は君の母親の母親の姑の息子だからな。名を石井太陽という」

「あんた、ストーカー?」

「見守ってあげていただけだ。人聞きの悪いこと言うなよ」

「あたし、涼子。こっちがケシー、向こうにいるのはローカ。よろしく」

「ほおう、ローカはルコの血をひいているんだな」

「なんで分かるんだ?」

「彼は有名人だから。それに私は君たちの7倍は生きているからね。私はテイアでピアノの講師をしている。こうやってたまに、森に入って月影を狩っている」

「1人で?」

「基本的にはね。だけど、こうやってパーティーの中に入って助太刀をよくしているよ」


太陽はそういうと、ローカの方に目を向けた。

ローカは一心不乱に月影の真鴨のロース肉を削いでいる。そしてそれを箱に入れている。


「ローリとは正反対の性格のようだね」

「ローリ?」

「彼のお兄さんだよ。もう亡くなっているけど」

「元気なおじいさん。足腰痛くないですか?」


ケシーは遠慮気味に言った。


「私は一度死んで、新しい身体を手に入れているから寿命が長そうだよ。願い石でね」

「おーいみんな、行こう! 肉は剥ぎ取ってきたぞ。ん? 誰?」


そう声をかけたのはローカだった。


「石井太陽さん。あたしたちを助けてくれた人だ」

「ふーん……なにか事情がありそうな感じだな」

「早く移動しましょう」

「なんか臭いな、涼子?」

「あんたのせいだからな。鴨にマーキングされたの!」


みんながそれぞれ言いながら、木の根に気をつけて、先を急いだ。

やがてクライスタルが見えてくる。


「あの宝石綺麗だよな」と涼子。


「今まで深く考えてこなかったけど、どうやってクライスタルのクリスタルができたんだろ」

「それは私が来る前からあったもんで、わからないな。クライスタルの王様なら分かるやもしれん。おおかた昔の人が何処かの竜を魔法曲でクリスタルにしたのだろう」

「そんな事できるのか?」

「さあ?」

「やろうと思えば長丁場の演奏でできると思うよ」


太陽の声は響いて検問の人に睨まれる。


「お前ら、何処のもんだ?」

「私は石井太陽。パース。兵士番号20009番です」


太陽は手帳を取り出して見せる。


「彼らはリコヨーテ兵です」

「全員、箱を出せ。華、出番だ」


検問の1人は犬を呼んだ。そのフレンチブルドッグは相変わらず太っていて、のろのろと動く。


「パース・ストリングス」

「「パース」」


そうして出てきた箱の匂いを、華は嗅ぐと、ワン! と吠えた。


「通ってよし! 門を開けろ!」


その場にいる人は皆ホッとしている。


「どうするんだ? リコヨーテのババアに会うんだよな? 先に食べてく?」


門を入ってローカからまた会話が始まった。


「まだ飯にするには早いだろ。リコヨーテに行って女帝に会おう」

「私もついて行っていいかい?」

「うん」

「うんじゃねえよ。相談しろ!」

「断る理由無くない? 兄貴の事知ってるみたいだし」

「ぐ、そう言われると」

「いいんじゃないですか? だめですか?」

「好きにしろ。あたしはどうなっても知らんからな」

「ありがとう、涼子ちゃん」

「別にありがたがられるほどでもないけど?」

「太陽さん、涼子ツンデレだから」

「あたしはツンデレじゃないぞ、変なこと広めるなよ」


涼子はそう言うと黙り込む。


「太陽さんって、吸血鬼ハンターですか?」

「私? 違うよ」

「匂い的にパンピーだよ」

「なるほどです」

「そうだ、肉が腐るからジビエ料理のお店の冷蔵庫に入れといてもらおう。ジビエ料理の店よるな。涼子、いいよな?」


ローカの声に涼子は黙って頷いた。


「右に曲がってすぐだ」

「懐かしいな、マッサーの店だ」


太陽は店の窓に貼ってあるよくわからない魚の煮付けなどを感慨深く見やった。


「マッサー? この店、前から気になっていたんだよ」

「石橋正幸さんの店だ。マリンさんの店を継いだんだろう」

「ローカ、初めて入るのか? まあ、いいから入ろう」


ローカが我先にと店内へ。


「いらっしゃっせー」


中は程よく狭くカウンター席とテーブル席があった。

おじいちゃんの店長はおでこが薄いため、光を反射させている。

それでも、かっこいい部類に入るだろう。


「正幸さん、この肉でなにか作ってくれますか? パース」


ローカは箱の中から鴨肉をカウンターの上に放り投げた。


「真鴨の肉やな? 鴨ロースなんてどや? すぐに用意しまっせ?」

「あ、えっと今じゃなくて、後4時間後くらいに店に戻ってくるので」

「ほな、待ってんで! 名前は」

「石井太陽」

「いし……い? あんちゃんやんけ! 何紛れてんねん。全く気づかなかったぞ!?!?」

「久しぶり、マッサー」

「積もる話は後にして、ババアのとこに行かないと」

「ちょい待ち。そこにいるのはローリか?」

「その異父兄弟だよ」

「へえ、運命のめぐり合わせやな」

「太陽、遅くなるから行くぜ?」

「はいはい。……じゃあまた」

「ほなまたな!」


涼子一行は店を出て、街の中心部へと歩き出した。

獣耳の獣人や、奇抜な色の髪色や瞳の人が大人子供問わず、すれ違う。

テントで骨董品を売りさばく店や、豚肉や鶏肉を扱う店など様々で、いろんな匂いがした。


「ローカさんとケシーさんと私でシチリアーノを弾くよ」

「あたしがジムノペディ弾いたってよく分かるな。やっぱり、ストーカー?」

「まあまあ、喧嘩しないで」


ちょうど街の中心部の大きな丸い円状の膜まで来れた。

太陽は無言で入っていった。

バチバチバチ


雷のような音がなり、膜が乱れる。


「「「ウォレスト」」」


何もなかった世界に楽器が登場した。

ローカがアインザッツをして、曲が開始する。

その曲は完璧だった。

そのうますぎるトリオに、涼子は悔しくて苦虫を噛み潰したような表情に変わっていった。


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