25 一難去ってまた一難!
「日曜日だし、出かけようか?」
「ボクはこれで、眠りにつきます」
「いやケシーは眠気覚めただろ?」
「あ、確かに」
「日光を浴びて、ご飯を食べれば、眠気は覚めるもんなのさ」
「テイア行ってみよう。ババアに会わせたい」
「その前にやることがあるだろ?」
「え?」
「赤石の記憶からBGを探れ」
涼子は小さな声で話す。
「いつの記憶を見ればいい?」
「あたしの家が襲撃された日、15日前」
「時雨赤石な。わかった」
3人は涼子の部屋に戻った。
「何をするんですか? わくわく!」
「ニーベルング」
ローカの指輪の中から、本のようなA4サイズの本が出てきた。
「ペン」
「ペン?」
「貸して」
「貸してくださいだろ」
「貸してください」
「ほら」
涼子はキリンのマスコットのついたペンをローカに渡す。
「少し離れて」
ローカは本をめくると、さらさらとペンを走らせる。やがて、目を閉じたローカの周りに青い炎がガスコンロのようについた。燃えるわけではなく、ローカに触れる侵入者を憚らせようとしているようだ。その証拠に、ケシーが炎の上を触ろうとすると火柱がたった。
約1分経とうとしていると、炎は意思を持っているように消えた。
「赤石さんは誰も殺していない。血のついた衣服でBGのマークを風呂場に書いただけだ。上司の人は俺には名前がわからない、白いと赤の巫女の服をきた女の吸血鬼と、背が高くて目が細くて肌が白くて癖っ毛の男だ」
「指輪を貸してくれないか?」
「この時の手帳は1日2回しか作動しないようになっている、ローレライという親父がそうしたようだけどいいのか?」
「あたしなら分かるかもしれない」
「分かった。貸す」
「ありがと」
◇
「うーん、見たことあるような、ないような」
涼子の脳内で映像は鮮明に写って消えた。
「まあ明日観ればいいか。ニーベルング、ニーベルング、ニーベルング」
時の手帳は一度消えたっきりで指輪にも反応せずそのままだった。
「壊れたらどうするよ」
「ほら、返すぞ」
涼子はローカの手のひらに指輪を握らせた。
「テイアに行くのか?」
「ババアに会いに行ったら、その後、腹ごしらえするか。テイアに美味しく食べられるジビエ料理の店があるんだよ」
「まさか月影、狩って食べるのか?」
「そそ!」
「月影なんて食べて平気なのか?」
「腹壊したことないから多分大丈夫!」
「ボクも行きます」
「お昼ご飯狩って食べるか。制服に着替えたほうがいいんじゃない? おんなじ服だと箱に入ってくる金貨の数が多くなって、すぐに新しい月影に備えられるんだけど」
「よし、ちょっと着替えてくる」
涼子はバタバタと出ていった。
「忙しい人ですね」
「ケシー、君に着せたい服があってな? パース」
「ボク、この服着るのは恥ずかしいです。いつもの半袖半パンでもいいですか?」
「下は好きな服きてもいいけど、上はこれな? 隙あり!」
「だ……おわあっ」
「うん、似合ってる」
「ケシーをいじめるな! あ! 可愛い」
部屋から出た涼子は夏服の制服姿だった。
ケシーはパーカーを頭の上から被らされていた。フードに緑の生地のカエルの目のついた半袖パーカーだった。
涼子はケシーに愛でるような視線を送った。
「ボクは可愛いですか? そうでもないですよ?」
ケシーはまんざらでもなさそうだ。
そして広い廊下を3人は肩を寄せ合った。
「来週から夏休みだな」
「そうだね、海とか行く?」
「あたしは吸血鬼ハンターの試験の準備をしないといけないんだよ」
「じゃあ今日、テイアの海まで連れてってあげる」
「遠いし暑いんだろう?」
「そうですね、月影が多く出没する岩山地帯を通りますもんね」
「じゃあどうしたいんだ」
「森にいこうよ。そういや、今日見ないけど赤石は?」
「今日は休みとってるぞ? そっとしておいてやれ」
「うん、じゃあこの3人で行こう」
ハムスターに姿を変えたローカは、ケシーのフードに入って丸くなった。
「あんた、自分で歩けよ」
「いいですよ、この方がうるさくないですし」
「それもそうか、ははは」
2人は笑いあいながら、ホテルを出た。
「確か、こっちだぜ?」
涼子は先を行く。
風が吹いていて、比較的涼しく感じられた。
そしてあの公園に到着した。
禍々しい土管が人々を待っていた。
「あたしが演奏する、ウォレット・ストリングス」
涼子のピアノが姿を見せる。
♪
情熱的なジムノペディだ。
ケシーは感心した様子を見せると、大きな土管の中に入っていく。
涼子も弾き終えると、土管の中に突入していく。
身体から風を切る音が聞こえて、まっすぐ下に落ちていった。
「ぎゃああ」
どすんと尻もちをついた涼子。
「いい加減慣れろよ」
ローカはいつの間にか人間に戻っている。
「うっせえ」
涼子は周りを見渡す。ケシーが心配そうにこちらを見ていた。地面は丸く、森からくり抜かれたかのように芝生が群生している。
「まあまあ、怒らないでください」
グワア!
何かが近くで鳴いていた。
「真鴨だね。食欲をそそる」
よだれをふくとローカは駆けていった。
「ちょっとまて!」
「真鴨って言ったって月影だから肉食なんですよ」
肉食というケシーの言葉には不安な気持ちが込められているようだった。




