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23 本命!

「……ボクが人間になれば食べられずにすみますか?」


ケシーは人に姿を変えた。


「おやおや? 一目見たときから食べたいと思い自制してきました。半月は血が少なくなると月影化するようでして。少しだけ痛めつけてあげましょう」


赤石はどこからかくる風と同じタイミングで大きなコウモリに変化した。片方の目が真っ赤だ。上空から飛んでくる赤石をケシーはすんでのところで避けるも、腕に傷を負った。


「ローカ、ケシー、渋谷君を連れて逃げよう」


涼子は清十郎を背負った。


「美味しい血を持つ者は生かして捕まえたいところです」


赤石はコウモリから再び人に戻ったようだ。


「どっちにしろこの屋敷からは逃げられないわよ。出口の鍵は私が持っているから」


千夏の声を皮切りに涼子達は走り出した。駆けて駆けて駆け続けた。


「ふはははははは」


遠くから千夏の笑い声が聞こえる。

涼子達は階段を登る。

奥の部屋に隠れた。ベッドのある埃っぽい部屋だ。

涼子はベッドに清十郎を寝かせた。


「はあはあ、サックスのリードを貸してください。さっきボクも触ったので出せると思います」

「いいけど、何をする気?」

「昨日の夜、ローカさんが教えてくれた、分身を増やす曲を奏でます」

「吹けるの?」


涼子から武楽器の1部をケシーは受け取った。


「ソプラノサックスなら、昔、吹いていた時もありました。ウォレスト」


ケシーの前にソプラノサックスが出現した。


「ローカさんの毛髪を1本ください」

「……はい」

「いきますよ」


毛髪を3本抜いたケシーはカエルのように頬を膨らませた。

この曲はバッハの”目覚めよと呼ぶ声あり“だ。

髪の毛は月影化した、ケシー3匹とローカ1匹になった。両方とも黒い目をしており、冷静沈着だ。


「カエルの君たち、ここから1番、離れたの部屋で鳴いていてくれるかい?」


ケシーは慈しむかのような眼差しをケシーのコピーに向けた。


げこげこ。


「ローカさんのコピーは僕らと一緒に、外気の出る場所を探してくれるかい?」


キキッ!


伝わったようだ。

ケシーがドアを開けるとカエルのコピーは一目散に逃げていった。


「清十郎さんにキスをするのであちらを向いていてください」

「はい!」


涼子はドアの方を向く。ついでにコウモリが来ないか見張る。来る気配はない。


「あれ? ここは? ケシー?」

「清十郎さん、大丈夫ですか?」

「う、うん。ここに涼子さんがいるってことは計画失敗かぁ」

「ウォレスト、遷移」


ケシーはソプラノサックスを槍のような形にして出した。


「ちょっと、渋谷くんに何する気だ?」

「少し黙っていてください」


ケシーは清十郎の匂いを頭から足まで嗅ぎはじめた。背中にまわると、背中の右の肩甲骨辺りに軽く槍を突き刺した。


「ぐああ、な、何故分かった?」


恐ろしく低い声にその場にいる誰もが固唾をのんで見守った。


「清十郎さんに取り憑きし悪魔、退散してください。吸血鬼の鼻を舐めてもらっては困ります。もっとも、匂いを消す吸血鬼もいますが」

「もう少しだったのに。我が野望、崩れたり……」


黒い瘴気は清十郎の身体から出ていった。


「何だったんだ」

「あれは侵食する類の悪魔でした。さあ、涼子さん、ローカさんのコピーの後についてきてください。清十郎さんはもう大丈夫です」

「渋谷君?」


涼子は清十郎の顔を覗き込む。


「大丈夫、先程よりスッキリしてるよ」と、清十郎が言った時、ケシーははっと前を向く。


「ボクの分身が食べられてます。時間がありません、早く行きましょう」

「ローカの月影化はとれないのか?」


涼子一行は部屋からでて左方向に走った。


「残念ながら、その呪いは専門外です。リコヨーテのお祓い屋でならなんとかなると思います」


階段を降りつつ、様子をうかがう。

キキッ

ローカのコピーのハムスターが鳴いた。

どうやら先には進めない場所に出てしまった。下方に小さな穴があいている。カエルとハムスターならなんとか出られそうだ。


「2人とも、応援を呼んで。あたし達なら捕らえられても殺されることはないから」


涼子が言っていると、ローカが下に降りてきた。首を降っている。


「どうしたんだ?」

「もしかして……。ローカさんのコピー、この穴の中に入ってください」


ケシーに言われたローカのコピーのハムスターは穴に入っていった。


ガシャン!


何かが閉まった音がした。


ギキーーー!


恐ろしく大きな断末魔の叫びが聞こえてきた。


「おや。残念、コピーの方でしたか。これは無駄足になりました」


壁を挟んで聞こえる赤石の声。

そして血の匂いがする。


「これは僕達をはめる罠ですね」

「あ、ちょっと、ローカさん、何処に行くの?」


清十郎は心配気に話す。

ローカは反対方向に走っていった。

全員、追いかけることにした。

行き着いたのは書庫。

ローカは1つの本を指差す。

ケシーはローカを持ち上げる。

彼らの目の前には、黒くて、また、薄く、古い本があった。


「この本は?」

「なんとかの、シグナルって書いてあるね」


古くて誰もがその字を読むことができなかった。


「読んでみましょう」


ページには歌詞のついた楽譜と可愛い女性の写真があった。


「この女性って、夢野亜紀だね!」

「本の中に閉じ込められているのか?」

「弾いてみましょう。ここは狭いので、先程の2階の部屋に行きましょう」


3人と1匹は元の場所に戻った。


「ウォレット・ストリングス」

「ウォレスト」


ピアノとソプラノサックスが現れる。

ピアノの譜面台の端に楽譜を置いた。

4分音符を1分間で60回、つまり4分音符を1秒感に1つ打つ速さだ。

涼子は奮闘した。ゆったりとしたきれいな曲だった。

(メトロノームはないけれど、初見で弾いたにしてはずいぶんうまいのではないか?)

弾き終えると本がばさばさと暴れまわった。そして、ボーン! という爆発の後に写真の人が出現した。

「あ。私」

「夢野先生、いや夢野さん」

「ご、ごめんなさい。芽川先生になにかされたのでしょう?」

「いや、夢野さんが謝ることでは。閉じ込められて困っているのです」


清十郎はほとほと困ったような顔をした。


「私が及ばなかったせいです。ごめんなさい。私が説教しますので。もしかしたら血が流れることもありましょう。その時は私に構わず逃げて」

「貴方と芽川千夏ってどういう関係なんですか?」

「共依存といいますか。舎弟といいますか」

「無理に月影化した人の呪いを解けますか?」

「ごめんなさい。私にはできません。クライスタルかリコヨーテの偉い人なら解けると思います」

「嘘だな。あんたは解呪できる、またはその方法を知っているはずだ。そうではないと、芽川の側にいることはできない。共依存ということは情報を共有しているということだ。万が一にも備えているはずだからな!」


涼子の語気は粗くなる。


「わかりました、わかりました。怒らないでください。私、怒られる事が1番嫌いなんです。ウォレスト」


亜紀はハーモニカを出した。


「もしも勝手な真似したらどうなるか分かってますね? ウォレスト、遷移」


ケシーも武楽器であるソプラノサックスを出した。


「呪いを解きます」


涼子は初めて聴く曲に耳をそばだてた。

この曲もゆったりとしていてきれいな曲だった。涙が目に浮かんでくる。


「この曲は?」

「桜歌の子守唄です。リコヨーテの過去の国王から受け継がれてきた呪いを解く曲です、私は元リコヨーテ兵だったのです」

「ローカ、戻ってくれ。それともまだ無理か?」


涼子の問いにローカは行動で示した。

捻りながらローカの身体が人間の身体に戻った。風でホコリが舞った。


「ローカ! 良かった」


涼子は思わずローカを抱きしめた。


「なんでこの場所が分かったのです?」

「ハムスターになったら、いろんな匂いが嗅ぎ分けられてな」

「BGのことは聞かなくていいんですか?」

「あ、そうだった。夢野さん、ブラッティーギャングって知ってます?」

「知らない」

「じゃあ今度こそ、芽川をやっつけよう」

「いけない。それはおすすめしない」

「自分が人質だということに気づいてないのですか?」


ケシーは先端の鋭いソプラノサックスを亜紀の首に当てた。


「まあ、なんて扱いなの? 親が泣くよ」

「ローカさん、芽川千夏のところまで案内してください」

「はいはい」


ローカは先頭に立って歩き始めた。

ケシーは自分より背の高い亜紀をみて何かを考えるように首を傾けた。


「よく考えたら、奴隷にしたほうが早いですね」

「そうだな、ちょっくら、ぶっちゅーしようか?」

「ボクがします、皆さん、待ってください。亜紀さん、すみません」


ケシーはソプラノサックスを消すと亜紀にキスをした。


ドン!

ケシーは強い力で押し倒された。


「私は千夏さんの奴隷にしかならない」


そう言い残して、亜紀は走って消えていった。


「ケシー、大丈夫?」

「ボクは大丈夫ですが、再度、ピンチです」

「芽川なら俺が剣で倒すよ」

「秘策はあるんですか?」

「なーい」

「軽くあしらわれておしまいですよ」

「ちょっと待って、なにか使えるもの出す。パース」


ローカは箱を出した。

クラッカー、耳栓、にんにくスプレーなど色々なものを出した。


「耳栓はつけた? 行こう」


ローカは前へ前へ進んでいった。

明かりのついた部屋があった。

千夏と亜紀がローテーブルを囲んだソファに座っている。そして2人のメイドがいた。亜紀は千夏に頭を撫でてもらっているようだ。


冬奈(ふゆな)千晴(ちはる)、出番よ。生きのいいように踊り食いするから、適度に壊してきて頂戴」

「はい、千夏様」


2人はこちらに向かってきた。

涼子は殺されると思うと足が震えてその場にへたりこむ以外できなかった。


「うおおおお」


ローカの剣はメイドの2人に届く。


「殺しはしない神経毒を塗っておいた」


2人は倒れた。


「まいった。私の負けでいいわ」

「本当だな?」


ローカが部屋に入ろうとして、急に後退る。

原因は降ってきた赤石だった。

ローカは肩にダメージを食らった。

赤石はコウモリの姿でよだれを垂らした。狙いは涼子のようだ。


「来ないで!」


パーン!

ケシーは涼子の前に立ちはだかり、クラッカーを鳴らした。


「子供だましですね」

赤石はコウモリの姿を保つことができず、人になった。


「それはどうかな?」


ドン! ドン!


ローカの持っている拳銃の銃弾は赤石の横っ腹と右胸にあたった。


「喰らえぇぇぇ」


千夏は果物ナイフでローカを狙うも、ナイフは剣で弾かれた。

ビオラの剣は千夏の足に垂直に刺さった。


「さてと、チェックメイトだ」

「大丈夫ですか? 涼子さん」

「全員捕まえて、BGの事を吐かせよう」

「待って! 千夏さんを殺さないで! BGの事を教えるから!」

「あんた、やっぱりなにか関わっていたのか」

「BGは私を入れて7人。最近模倣犯が出ているけど、首の裏に団員番号とピエロのマークがある。現場には血の文字でBG(ブラッティーギャング)と書くようにしてる」


亜紀の首の裏を見ると、片目が星で囲われたピエロのマークと隣に”BG5“と書かれてあった。


「数週間前、この近くの洋館で岬浦という人物とそのメイドが殺されたのは知っているか?」

「ちょっと待って。私は恐らくその事件で相打ちになった半月のBG団員が抜けて、空きができたから入ったの」

「まあいい。今すぐBGを抜けろ」

「それは困る」

「その談義はここをでてからにしようや。パース」


ローカは箱を出して中から縄を取り出した。

敵の一人一人、亜紀以外の手足を縛っていく。


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