22 屋敷へ潜入!
♪
からくり時計が5時になることを示唆した。
涼子はすでに起きている2人と顔を合わせた。
「ご夕食は魚介グラタンとパンナコッタになります。御三方、召し上がりますか?」
赤石は部屋をノックして告げた。
「食べてくよな?」
「うん」
「はい、ありがたいです」
「赤石! 食べてくって!」
「かしこまりました。では30分後にダイニングにおこしください、それから新しく入ったメイドを紹介します。少しばたばたしていて紹介できずにいたので。ご入室しても構いませんか?」
「いいぞ?」
涼子の声が合図になったかのようにドアが開かれる。
「こんばんわ! はじめまして! 棚田詩聖でーす! たなたんって呼んでくださいね!」
たなたんこと詩聖は日本人のようで黒目黒髪だ。髪型はシニヨンカバーをしている。そしてキャピキャピしている。見た目は涼子と同じ10代に見える。ただ、身長が少し低く、ケシーと同じくらいだ。
「元気いいな! 宜しく頼むぞ」
「はい、お嬢様、お二人はご友人ですか?」
「私はこれで」
赤石はこつこつと靴の音を鳴らしながら気配を消した。
「彼氏と友人だ」
「きゃあ、彼氏! お嬢様も隅におけませんね。こちらの方ですか?」
たなたんは両手でローカを示す。
「なんで分かったんだ?」
「そんな、手を組んでいながら間違いということはありませんでしょう!」
たなたんが見ているのは、涼子に手を絡ませているローカだ。
「いつの間に! なにすんだよ!」
「グーはやめて!」
殴られそうだったローカは涼子から離れた。
「赤石と仲良くな?」
「はい! それでは失礼します!」
たなたんは幸せそうに笑いながら出ていった。
「なんか涼子さんのいる所に来ればひもじい思いをせずに済みそうですね」
「ケシー、それって」
「いや、ひもじい思いはしてないだろ」
「昨日の晩ごはん、焼きスルメ1枚でした。朝はししゃも1匹でした。しくしく」
「そりゃカエルになれるんだし、それで満足だろ」
「ローカ、あんた、信じらんないぞ? ケシーは育ち盛りなんだから。ケシー、あたしのところ来いよ」
「いいんですか?」
「いいぞ、ケシーの部屋借りるな」
「ボクは虫かごで充分です」
「そんな事言うな! 馬鹿なこと言ったら怒るぞ」
「涼子さん、ありがとうございます」
「ご飯食べたら言うからな」
涼子はケシーをハグする。
「イイハナシダナー」
ローカはベッドに転がりながら遠目で2人を見る。
「ローカは後で、タコ殴りにするとして、なにか食べたいものある?」
「卵かけご飯です」
「げ、卵?」
「あんたんとこだと絶対に食べれないな。わかった、ケシーの明日の朝食にしてやるからな」
「うわーん、ありがとうございます」
ケシーは涙を流して喜んでいる。
「カエルが卵を食べるんだな」
「細かいことは言うな」
涼子がツッコミをいれると、時計を見る。
「あと15分、トランプの続きでもしよう」
◇
そうして、夕食を食べる時間になった。
3人の目の前にチーズの匂いが沸き立つ、グラタンが置かれた。その隣にあるパンナコッタにはいちごのソースがかかっている。
「「「いただきます」」」
涼子は美味しそうな焦げ目のついたグラタンをスプーンで一口大にして食べる。チーズが伸びて噛み切るのに手間取った。エビやアサリやホタテなどの魚介の旨味がつまっていて美味しかった。味はまろやかでマカロニのもちもちとした弾力に驚き、言葉がでなかった。
次にパンナコッタに手を伸ばす。牛乳を寒天で固められており、プルプルして弾むような口当たりで、なおかつ柔らかかった。
「「「ご馳走様でした」」」
3人はすっかり丸ごと綺麗に食べきっていた。
「美味しかったです。ありがとうございました」とケシーは礼儀正しく頭を下げる。
「うぃす」とローカはぶっきらぼうに言うと立ち上がり、2階へ行く。
「そう言えば赤石、お母さんは?」
涼子は小声で赤石と意思疎通をする。
「奥様は緊急のフライトで席を外しております」
「今日帰ってくるのか?」
「恐らく人手不足でお帰りにならないと思います」
「好都合だな」
「およそ朝の7時まではカンヅメになるかと」
「なるほど。それじゃ1時頃来てくれ」
「かしこまりました」
赤石は目だけが笑っていないように笑うと、食器を下げ始めた。
◇
深夜0時55分。
コンコン。
ノックとともに、赤石がドアを開けた。
「行きましょう」
「そうだな」
4人はこっそりと部屋をでていく。しかし、たなたんに見つかってしまった。
「あら? どちらに行くのですか?」
たなたんの甲高い声が壁にあたって響いた。
「少々コンビニへ」
赤石は緊張した面持ちで答えた。
「あたしが風を当たりに行こうとしたら、皆ついてくっていうんだよな?」
「そうそう、そうそう、そう」
「ローカ、黙って」
涼子はややこしくなりそうだったのでローカを黙らせた。
「お気をつけて」
「はい」
4人は熱波のあるなか外に出る。車に乗り込んだ。
「ローカ、渋谷君との通信は?」
「ちょっとお待ち。清十郎は今学校についたようだ。赤い車が来た。ミニクーパーだ。追いかけて大丈夫だ」
「行きますよ」
赤石はアクセルを踏んだ。
◇
「後200メートル手前で止まった。大きな屋敷が見える。そろそろ車から降りよう。人力でも追いつく」
「3人先に行ってください。車を近くのコンビニに止めてくるので」
「分かった。行こうぜ。赤石も早く来いよ」
「かしこまりました」
赤石は停車させた後、10メートル前を右折して行ってしまった。
「いかん。これは参った」
「どうしたんですか?」
「清十郎がキスされている。通信が断たれた」
「またかよー」
「どうする?」
「前進するしかないだろ。ケシーは月影化しておいてくれ」
「はい」
ケシーは光りながら風を吹かせて姿を変えた。そして涼子の肩に乗った。
向かう先はどうやら廃墟らしい。ボロボロの木でできた外壁が陳列していた。そして、正面に行き着いた。
ご丁寧に、どうぞ入ってくださいとでも言うような無防備の大きな屋敷が佇んでいた。
「あれは?」
赤いミニクーパーが敷地内に停まっている。
「赤石を待たなくてもいいのか?」
「俺だけで入ってみる。お前らはここで赤石を待っていてくれ」
「待ってくれ。こんな怖い所にあたしを置いてくな。あたしも行くから」
涼子は恐れおののきながら、ローカについて行った。そして千夏のいる屋敷に潜入する。
中は広くて迷子になりそうだ。
「うーんと、多分こっちかな?」
ローカは顔色1つ変えずに速歩きで進む。
楽しそうでもあった。
「kqzt♪」
「なにか歌が聞こえる。彗星証をつけるんだ。パース」
ローカと涼子は耳に黒い彗星証をつけた。
「我愛するは神への思召し。心に一閃の闇となれ〜〜〜〜」
千夏の声はブツブツと声を歌に乗せている。
「いかんな、呪いをかけているようだ、魂を引き剥がして魔法曲で従わせようとしている。悪いが彗星証をとってくれ。ウォレスト。一気に畳み掛けよう」
ローカは剣を掴んで走っていく。
「おい、こら!」
涼子も速い脚力を使う。
(何の予防もなしに行ったら危ないだろう)
しばらく足音を反響させる。
広い部屋に出る。
そこで魔法陣の上に清十郎は眠っていた。
ローカが駆け寄っている。
「大丈夫か?」
「やっとローカティスを刺せる場が整った」
上の階段から見下しているのは千夏のようだ。マイクを握って歌っていた。
「inisieyoriaiwokomete♪」
ポン!
ローカは月影化した。
「ジャンガリアンハムスター?」
「そうねえ、ローカティスの父親がハムスターの月影だったのね。さあどうする、岬浦涼子! 哀願する? それともチリになる? 飛んで火にいる夏の虫とはまさにこのことね」
「まあまあ、合流した私めにも興じらせていただきたい」
赤石が到着して涼子は大きく安堵する。1階の反対側から出てきた。
1階の階段付近にソプラノサックスを含め色々な楽器が飾られてあった。ソプラノサックスを棚から出して抱えた。
「ねえ、赤石、弾けるかわからんが武楽器のサックスの一部分だ」
「その必要には及びません。ウォレスト」
フリューゲルホルン。
トランペットの仲間である。トランペットの形に似ているが、縦横ともに大きく、管はトランペットとコルネットなどの円筒管とは異なる円錐管になっている。
赤石は非常に柔らかい、温かい音を出した。
「私は元フェルニカ兵の半月なのです。なお、月影化できる生き物はカエルクイコウモリです。今ならカエルの半月をくださるのならお助けいたします」
「ケシーを食べさせるわけねえだろ」
「ほう、交渉不成立ですねー」
「教師が、生徒にこんな事してもいいの?」
涼子は清十郎が血を吸われている動画を最大の音量で流す。
「願い石、私と清十郎の写るケータイの動画のデータをすべて消して」
千夏はポケットから金色の石を出して口付ける。
ケータイからデータが飛んだ。
「無駄だぞ? パソコンにバックアップをとっといてある」
「千夏さん、バックアップは私が消しておきました。思う存分に大騒ぎしてください」
「赤石、いつの間に?」
「お嬢様、いや涼子さんが寝ている時に少し弄りました」
「赤石! 何故、何故裏切る!」
涼子は涙を貯めた目で赤石にすがりつく。
「申し訳ありません。今日で執事を辞職いたします。もっとも、涼子さんが生きておられたらの話ですが」
赤石は強い力で涼子を突き飛ばした。涼子の肩に今度はローカが乗った。
ケシーは降りていた。
「だめだ、ケシー!」




