20 危険なBG!
赤石は一旦、呼吸を落ち着かせて喋りだす。
「世間を賑わせているBGの件についてご報告があります。再び事件がありました」
「BGか。ブラッティー・ギャングのことだな? どこで事件が起きた?」
「茨城県の宇都宮でです。若い作業療法士が帰宅途中で襲われて重症とのことです」
「なんで、BGだと分かったんだ?」
「血の文字で書かれた紙が落ちていたそうです」
「名前は? 何時頃だ?」
「五十嵐優子。昨晩20時から21時の間です」
「うーん。わかった。また何かあれば気兼ねなく言ってくれ」
「はい」
次にローカに電話する。
『もしもし、ローカ?』
『さっき別れたばっかで、何かあったのか? 俺の声が聞きたくなっちゃった?』
『そういうんじゃなくて。ローカ、死んだ人間の過去って観れるのか?』
『残念ながら観れんな』
『重症の場合は?』
『多分観れる』
『観てほしい人がいるんだが』
話しながら涼子はホテルへと帰った。
朝陽は仕事のようだ。
『〜〜〜〜ということで宜しくな』
涼子は人の名前と時間を告げて、電話を切った。
パソコンでカメラの内容を編集する。いじめと千夏の話をまとめてみた。
今日はとても濃い1日だった。
毎日のルーティーンをこなしてすぐに眠りについた。
◇
朝がやってきた。
「おはよう」
「あー涼子、おはよう」
「昨日の件はどうだ?」
「犬なら捕まえたよ。これ赤石さんに」
ローカはサックスのリードをよこした。
「ありがとう。いや、そっちじゃねえよ」
「あー、五十嵐優子なら俺が観る前に亡くなったよ」
「どういう事だ?」
「BGの病院関係者がいたらしくて、五十嵐優子は殺されて、その犯人も死んでいる」
「そんなことってあるのか」
「五十嵐優子は鋭利なもので刺殺され、犯人は墜落死したって夜のニュースでやっていたよ」
「犯人はどこから墜落死したのか?」
「病院の屋上からだけど。大きなオッドアイのコウモリの姿がネット上に広まってる。そして刺した方の犯人の財布にBGと書かれた紙があったって」
「BGは規模のでかい犯罪組織とみて間違いなさそうだな。芽川先生のその時間はどうだったんだ?」
「観てないけど、関係してるのかな?」
「観てみろ」
「後でね」
そんな話をしてると教室についた。
「「「涼子、ローカ、おはよう」」」
「「おはよー」」
涼子とローカはいじめから立ち直りほぼ皆から、歓迎されているようだ。
涼子は周りを見渡す。
俊介は狼狽している。菜由は学校に来ていないようだ。
「あ、あいつ、もう来ないんじゃね?」
「いつも調子乗って指図してきたよね」
どうやら菜由が今度のいじめの標的になっているようだった。
涼子にとってみたら、取るに足らないことだった。
(冷たいと思われるかもしれないが、何もないことが1番幸せだ)
キンコンカンコーン。
そう思っているとチャイムがなった。
担任がなにか言っている。
涼子は自主学ノートを渡した。
「涼子、移動教室だよ、行こう」
ローカはぼうっとしてる涼子の肩を叩いた。
「眠い」
「昨日は眠れなかったの?」
「うん、眠れなくてな」
「かわいそうに」
「あんたは元気そうだな」
「吸血鬼の朝は、回し車を回すハムスターのように一定して脳内が動かされてるの。人聞きの悪い事言わないで」
「何を言ってるかよくわからないけど、悪かったな」
科学室に着き、椅子に座った。
再度チャイムがなり、授業を習った。
◇
放課後
涼子は熱っぽくなり、すぐに赤石を呼んだ。それから、赤石が来るまで机に突っ伏す。
「熱中症か? それとも生理か?」
「うるせえ!」
涼子は教室でローカにまとわりつかれ、一喝する。
(頭が痛い、吐き気もする)
「ローカ先輩、可愛い男の子ってどこですか? あれ? 涼子先輩どうしたんですか?」
しありが2年6組の教室に堂々と入ってきた。
「うち来いよ? 血飲みたいって吸血鬼がいるんだ」
「身長は?」
「ケシーのほうが低いから、背が伸びちゃうね」
「ローカ先輩が、また、うちにチューしてくれればいいっすよ?」
「ごめん、俺彼女いるから」
「前はしてくれたじゃないですか」
「それは仕方なく、気付けしただけだよ」
「じゃあ、行かないです」
「涼子ー、キスしてもいい?」
ローカの発言に涼子は椅子から転げ落ちた。
「あ、あ、あたしに?」
「しありちゃんに」
「ふーん、だめだ。ケシーに頼めば?」
「そうか、ケシーも吸血鬼の端くれだしな」
「うちはローカ先輩がいいんですけど」
「まあまあ。今度噛みついてあげるから。今日のところはケシーに血を飲ませてやってくれ」
「絶対ですよ」
「じゃあな、ローカ、しありちゃん」
「涼子、平気?」
「大丈夫」
「じゃあ」
「先輩、気をつけて」
しありとローカは先に帰る。
数分後、赤石から連絡が来たので、涼子も下駄箱に向かっていると、不意に吐き気に襲われた。
「お嬢様、ご無事ですか?」
赤石の声が遠くから聞こえてきた。
涼子は意識を失った。
◇
「ん? ここは」
大きなベッドにバラの壁掛け。
ここはいつも泊まっているホテルだった。
「お嬢様、目を覚ましましたか?」
赤石が近寄ってくる。
「あたしを運んでくれたのか」
涼子はおでこをおさえた。
(頭が重い)
「はい。ゼリー飲料をお飲みになられますか?」
「いや、いい。今何時だ?」
「夜中の1時すぎですね」
「ああ、わかった。明日、お母さんにバレないように深夜1時に学校に送っていってほしいんだが」
「そんな無茶はいけません」
「友達が吸血鬼に狩られそうなんだ。頼む」
「それは致し方ありませんね。ただ、今日は安静になされますよう、ただいま新しい氷枕を持ってまいります」
赤石は部屋から出ていった。
氷枕が温かくなっていたが、体温は微熱だ。
「明日行けるか?」
涼子は枕元に置いてある、スポーツ飲料を飲む。
「失礼します。ああ、お嬢様、寝ていてください」
赤石は氷枕を片手で持ってきた。
「おお、ありがと」
「もしも明日も体調を崩していましたら、私がどこかへ連れて行くことはできません、ご了承ください」
「少し休めば大丈夫だ」
「そうですか……」
「電気を消して、出ていってくれ」
「何かございましたら、呼び鈴を鳴らしてください。おやすみなさい。お嬢様」
枕元のランプの近くに銀色の呼び鈴があることを手で示すと、赤石は退室した。
涼子は目を閉じると、すぐさま眠気が襲ってきた。
夢を見た。
大好きな刑事ドラマの2人が出てきて、犯人を追い詰めるも、大きな船に乗られて取り逃がしてしまう夢だった。
◇
「っは」
涼子は目が覚めると早朝だった。
体調は良い。
机の上にはキーボードピアノがあった。
涼子はつられるかのように、ピアノを手にした。
音量を小さくして弾き始めた。
♪
鍵盤を叩くと、心地良い朝の始まりだった。
1曲弾き終えると、赤石が部屋をノックして入ってきた。
「ピアノの手腕も調子良くおられて何よりです。朝食はご飯になさいますか? パンになさいますか?」
「パンだな。トーストとマーガリンで、目玉焼きと焼きウインナーも頼む」
「はい、かしこまりました。15分後ダイニングで」
「おう、んー」
涼子は頷くと軽く伸びをした。
赤石は引き返していった。
涼子は新聞紙を流し読む。
「ん?」
宇都宮で起きた殺人事件が記されていた。
吸血鬼の話のようだ。
五十嵐優子は死ぬ前に血を抜かれていた。
刺殺した方の犯人の栄川波亜兎は五十嵐優子と仲が良かったが、喧嘩でもして揉めたのだろうかと憶測が広がっている。
(さしずめ、栄川波亜兎は接吻により下僕になった。そして、刃物を持ち込んで、五十嵐優子を刺し、自分のことは逃がしてくれるようにコウモリの月影化した半月に助けてもらおうとした。しかし事故か故意かはわからずだが、転落死したということだろう)
「んー」
♪
涼子はしばし唸っているとからくり時計が7時だということを知らせてくれた。
「飯にするか」
涼子は新聞紙をほっぽりだし、ダイニングに向かった。
「いただきます」
「お嬢様、5分遅いです」
「わりい、ちょっとBGの事考えてたらな」
「私が調べます。……ひょっとして、深夜1時というのはBG関連の話ですか?」
「あー、まあね」
「私も同行します」
「だめと言っても来るんだろう。いいぞ、わかった」
「はい、もちろん」
ご飯を食べ終わると、同時に朝陽が起きてきた。
「今日は仕事じゃないんだ」
「涼子、今日新しいホテルに移るわよ。荷物をまとめておいてね」
「ヤブから棒に! なんでそんな面倒の事を」
「涼子の部屋にグランドピアノを設置するからそれでいいわよね?」
「それはありがたいが」
「決まりね。10時には出るから。いただきます」
朝陽はテーブルにセットされた、朝食を食べ始めた。
「奥様、15分遅刻です」
赤石が言うと、沈黙が流れた。




