表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/54

2 迫られた選択!

放課後

「あれ? ローカは?」

「後輩の女の子に呼び出されて連れてかれたよ? 体育館裏だって」

「あいつ、あたしという彼女がありながら。いや、でも断るよな!」


涼子は体育館の裏にいるローカと可愛い色黒のギャルに見える女子高生を発見した。見つからないように小さな倉庫のすぐ裏に隠れた。ローカと並んでみるとその女子高生は身長170センチメートルくらいだ。


「あのう、星野輪(ほしのわ)先輩って吸血鬼なんですか?」


きれいな声が核心を得るかのように耳に伝わった。


「んえ?」

「実は、昨日、保健室にいたんですけど全部丸聞こえでした」

「あー」

「それで〜〜〜〜」


ヴィオオオオオ


その時、突風が吹いてきた。


(なんて言ったんだ?)

涼子が不審がっているとローカが笑ってこう答える。


「いいよ、俺で良ければね! ローカ先輩って呼んで?」

「わあ、ありがとうございます。ローカ先輩」


その喜んでいる金髪の色黒のギャルはローカと連絡先を交換している。

涼子はその場に出ていこうか迷ったが、止めた。

(あたしとはやってけないということか)


「それでは部活があるので」

「またねー!」


ローカは鼻歌交じりで教室の方向へ向かっていった。

涼子はしばらく動けずにいた。涙はとめどなく溢れてくる。

雲が何層にも折り重なっている。蒸し暑く、喉が渇く。今の季節は真夏だ。

水滴が短髪から滴り落ちた。

汗か、と思ったらどうやら違うらしい。

涼子は意識を取り戻したかのようにハッとした。

どれほどの時が流れただろう。

雨が降り出してきた。


「ローカティス!」


涼子は鬼のように叫んで教室へと走る。

(あの女の子と二股してるんだ)

ローカこと、星野輪ローカティスは遊び人かもしれないので注意してみていた。その結果がこれだ。

ローカはケータイで音楽を聞いていた。

涼子はそのワイヤレスイヤホンをブチギレる力で取った。


「あんた浮気してるだろ?」

「んえ?」

「あんた浮気してるだろ?」

松村(まつむら)しありちゃんの事?」

「しあり?」

「大丈夫だよ、彼女は俺の生き餌だからさ」

「はあ? あんた、勇気持って告白してきた子になんてこと」

「んえ? 何のこと? ギャッ」


バシーン!

ローカは涼子にビンタを食らった。


「ちょっと待って! ちょっと待って。しありちゃんが血を」

「フーフー! あんた、さっき、告白されてオーケーしたんだろ?」


涼子は椅子を頭の上に持ち上げる。顔は紅潮していた。


「誤解だよ、さっきのは、血を吸ってくれませんかって言ってた!」

「それは本当?」

「俺の血を吸われ隊第6号だ」

「……血を吸うだけなら勘弁してやるか」


涼子は椅子を側に置くと、ケータイを取り出した。すぐに胸ポケットにしまう。


「ねえ、本当にしありちゃんって血を吸うだけ?」

「あー成り行きだな、がッ!」


ガシャアアアン!


ローカは涼子のグーパンチが顔に当たり、ひれ伏した。机と椅子が衝撃で物音を立てた。


「なにか変なことしないように、血を吸っている間はあたしが隣で見るから。血を吸うときは言えよ」

「痛いな、わかったよ! 仮に誰かと浮気しても、涼子のもとに帰ってくるよ!」

「言質とったからね」


涼子はケータイを胸ポケットから出して、録音を止めてみせた。


「まるでゴリラみたいな女だね」

「ありがとう。ローカはなよなよして女の子みたいだな」

「よっこらっしょっと。ジョークだよ。一緒に帰ろう。俺、お前が来るの待ってたんだよ?」


ローカは乱雑になった机と椅子を直す。


「別にそういうのいらんし! まあ、そうだな、雨も振り始めたしな」


涼子は赤くて大きめのリュックを背負った。唇を尖らせている。


「傘は?」

「持ってきてない」

「じゃあほら。折りたたみ傘。あたし、普通の傘あるから」


涼子はピンク色の折りたたみ傘をローカがこちらを向くと同時に手渡した。


「相合い傘したかったな」


ローカが呟くと涼子は無言のまま、手を繋いで歩き出した。

窓を見るとゴロゴロと空が音を立てている。


「もしかして雷苦手なの?」


ローカは強く握られた涼子の左手が震えているのに気がついたようだ。


「そんなわけない、別に普通だ」


涼子はぱっと手を離す。そして玄関の靴箱にて上履きとローファーを履き替えた。ビニール傘を手にすると、ローカを見た。

(患部舐められただけで高揚感を感じるけど、キスしたらどうなるんだろう)

「何? 家で雨宿りでもさせてくれるって考えているの? 2人きりになりたいの? まーでも、俺同意無しで襲ったりしないよ? その辺、紳士だから安心して」

「何、変なこと言ってんだよ。そんな事考えるわけ無いだろ。あたしん家が広いこと知ってんだろ。これ以上変な噂が立つのはゴメンだ。大体、なんであんたに施しを与えなくちゃなんないんだよ。ばーか」


涼子はカウンターをうつのと同じように長い言葉で言った後、悪態をついて締めくくった。

ローカは「はいはい」と受け流しながら、傘をさした。


「傘、明日持ってくるね」

「当たり前だろ」

「口が悪いね。顔だけじゃなく」

「おい」

「ひぃ。じゃあ俺こっちだから」


ローカはT字路を右に曲がろうとした。


「待って、その……、家まで送り届けてくれんか?」

「いいよ」

「笑うな!」


ピシャー!

涼子はピカっと光り電気を含んだ雲と、同じくらいの声量で言った。


「いや、笑ってないよ」


ローカは驚くようにまじまじと涼子を眺めた。

涼子は恥ずかしそうに左斜め下を見た。凍りついた石像のようだった。


「じゃあ、行こうか」

「家についたら、さっさと帰れよ。傘貸してるんだから貸しとかないからな」


涼子はローカの隣を歩く。


「今日のチビの助、いつもにましてチビだな。やっぱり俺のせいかな?」

「そこまで低くないよな。今度血を飲むときは前もって言えよ、舐めさせるから」

「悪いな」

「別にあんたに謝られても、今更って感じだ。しょうがないだろ、そういう体質なんだから」


岬浦家のアーチ状の門扉が見えてきた。

広い庭付きの洋館のような佇まいだ。


「じゃあ」

「おう、またな」


続きが気になった方はブックマークと評価、いいねを押して頂けると嬉しいです。書く励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ