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人間と共存したい

 複数の獣は駆け抜ける。敵は複数人、突如としてやってきた。

 敵に牙を向けたが、既に半数は斬り捨てられている。


 今は森の頂点に君臨していたプライドを捨てて逃走する。個々は集となって一つとなり、駆け抜ける。

 意思疎通は必要ない。ただ長についていくだけでいい。大きな塊となって獣になり、時には細長くなって蛇のようになる。


 だが、敵によって斬り削られ、次第に獣の規模は小さくなっていく。

 ついにその個体の順番が来た。


「逃げられねえよ。この俺の前ではなあぁ!」


 獣に食らいつく脚力は恐れを感じた。細長く魅せられてしまいそうな、美しい刀に斬られる。


 ヒューヒューと懸命に息をする。まだ走れる力があり、立ち上がろうとする。


「もう寝とけ」


 どんっと腹に衝撃がくると、限界だった。嘔吐して気力を失っている間に新たな敵が現れてなすすべなく運ばれる。

 気付いたら意識をなくしており、目を覚ましたときは激痛があった。


「ギャンッ!?」

「検体、起きました」

「問題ない。そのままやる」


 何が起こっているか分からなかった。いたるところから激痛があり、また意識をなくす、目を覚ますを繰り返す。


 もう限界だった。

 意識は朦朧とし、起きているか否かいか定かでない。


 そのとき、目の前に人間がいた。手足が拘束されており、何事か懸命に叫んでいる。とても、とても目の前だった。


 限界だったのは痛みだ。また、空腹だ。


 痛みが嘘だったように、顎が動いた。少し奥に顎を突き出せば、肉があった。


「や、やめろ。頭からは…………ぃ、」


 がぶり。


 悲鳴を上げられたが、気にすることはなかった。気にする暇がない。食べるのに必死だ。硬くて食べられるところは少ない。だが、あんなに痛めつけたくれた人間が、同じ人間の頭を割ってくれて食べやすくなった。


「じに゛、た……ぐな……」


 それは私も同じだ。

 食べていく内に、人間の悲鳴が読み解くことができる。

 なぜかなんてどうでもいい。今はまだ生き長らえる幸福を噛みしめる。


 人間が物言わなくなっても、食べ続ける。次はいつまで食べさせてくれるか分からない。

 食後はどの人間の言語理解を手に入れた。それを確かめるような実験があった。だが、痛めつけられることは変わらない。一つ増えただけで、以前と変わらない時間。


「ーーー失敗だ」


 そして、処分された。そのはずだった。


 *



 夢から覚める。

 夢、のはずだ。現実にあったことではないと思いたい。あんな、人間を食らうなんて、まさに化け物なのが私だなんて……。


 私は記憶喪失で、一番古い記憶は気付いたら荒野に立っていたことだ。それ以降は人間と魔女は見たが、私のような姿のものを見たことはない。


 作られて私ができたのか。


 そう考えれば、私が化け物の姿をしているにも関わらず、人間の心を持っていることには納得がいく。


 認めたくはないが、そのように私が作られたことにする。この件について考えていると頭痛がしてくる。


 魔女に言われた通り、人間のいない場所に行くことにし、辿り着いた先は山奥だ。流石にこの場所まで人間がいたら、私でなく人間の方が悪いと思う。

 山菜や狩りをするとしても、山の奥まで入ることは普通ないだろう。


 そう思いたかった。


「なぜだ……」


 遠くの方から微かに声が聞こえて、まさかと思いつつも恐る恐る近づくといた。人間の子どもだ。男で右足を怪我している。今は叫び疲れたこともあってか、ぐったりしている。


「なぜこうも人間と縁があるのか」


 人間と関わるなと魔女は言った。といっても、怪我は見過ごせず、そうしてしまったら化け物に成り下がってしまう。人間を食べた光景を思い出す。不快だ。


「はあ……」


 魔女としては放っておけと言うだろう。死なせておけばいいのに、生かして返せば私の存在が知られてまた騒ぎになる。


 そうなる前に場所を変えるか。


 済むなら安住となるように、家を作っていたのだが仕方ない。


「ぎゃああああああああああああ!」


 予想通りの恐怖。予想通りの抵抗。予想外の信用。

 人生ならぬ化け物生はうまくいかない。


「なあ化け物、あれ、なんていうんだ?」

「ナルソウだ。不味い」

「化けもんの味覚で不味いんだろ、俺にとってはうまいかもしれないじゃん」


 と言ってばくっと食べるのは速かった。吐き出すのも速かった。


 呆れつつ、口直しの実を差し出す。枝ごと渡せば実は潰れない。


「ん」


 礼もなく、もぐもぐと口を動かす少年はベレムだ。化け物相手に傲岸な態度なのは相応しいのか、相応しくないのか。敵わない相手であることを考えれば、相応しくない。だが、それを私は許している。


 姿を見せたら、さっさと場所を変えるつもりだった。たださっさと、というのが想定より長かった。


 まず私は針の体毛をしている。足に怪我をしている人間を元いた場所に運ぼうとしたら、傷が増える結果となる。


 という訳で、とれる方法がベレ厶の傷を癒すことなのだが、雨風防げるよくに木を倒して簡易的に休める場を作る。食事となりそうなものを与える。傷が癒える時間を待つ。これを現在進行形で行っており、傷はあと二日あれば癒えるところまできた。


 その中で食事まで与えれば、害する意思はないことが伝わったようで、べレムは私に話しかけるようになった。


 無視することもできたが、話し相手というものに私は存外飢えていたらしい。関わるのは食事の時間のみだが、そのときだけ話には応じていた。


 にしても気になる点はやはり、


「いちいち偉そうだな」

「そりゃそうだ。俺は村長の息子なんだ。偉いのは当然だろ」

「村長が偉い訳で、べレムが偉い訳ではない」

「次期村長になるんだ。将来を見越して、今からその立ち振る舞いをしていて何が悪いんだ」

「礼ぐらいは言った方がいい」

「……化け物に説教されるとはなんて。化け物なのに、人間の道理も知ってるんだ?」


 ふん、と鼻で笑われる。小さな子供と言えど腹には立つが、醜い人間の大人よりはと考えると、怒りは引く。


「調子にのんなよ、化け物。道理を知っていたって、お前が人間と同じようにはいられないからな!」


 とは言っても傷つくものは傷つく。

 私が化け物だったせいでステラは死んだ。私が化け物だったせいで平和に人間と共存できたかった。ベレ厶のような子ども相手でも敵わない。


 化け物の体に人間の心は、なんて歪で生きにくいことだろう。

 心まで化け物であったら、どんなに楽だっただろうか。

 こんな子ども相手の言葉なんか理解もせず、一方的な暴力で終わったに違いない。


「私が化け物でよかったな」


 これはプライドだ。人間の心をもっているのなら、せめて気高に振る舞う。


 激情を抑えるためにベレ厶から離れる。次回からは食事を運ぶときもお互い話すことはなかった。


 物言いたそうなベレ厶を、私は許すことはなかった。




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