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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ハッピーエンドが終わらない

それが貴方の捧げる大団円

作者: ぴあ

――――――――――――――――――――

world:NO_DATA

stage:NO_DATE

personage:傍観世界/ザ・サード

image-bgm:無音(-)

――――――――――――――――――――





 ……

 …………

 ………………?


 最初に私の脳裏へ刻まれた文字は“クエスチョンマーク”だった。


 それは【わたし】という自我が残存していることに対する疑問で、次がこの宇宙空間が如き星空に浮かぶ現在地に関する疑念で。

 銀幕に流れゆくエンドロールのような浮遊感に身を任せながら、私は五感へと強制的に流し込まれる圧倒的情報量に、ただただ呆然と思考を止めてしまう。


「にょほほ。(ぬし)様よ、お嬢がようやく目を覚ましたようにござりんすえ?」


 どこか耳障りな笑いを袖口に忍ばせて、背後から誰かを呼ぶ声が聞こえた。


 本当に不思議なもので、推進剤など当然ながら所持していないというのに、私の肉体は私が思うままにかぶりを振って転回する。

 そして、のっぺらぼうな顔からかつて半眼と称された瞳を見開くと、こちらの狼狽えようを見守るように佇む三つの人影に気がついた。


 一人は、紅白の巫女服に身を包んだ見覚えのある狐耳淑女の二刀流剣士で。

 一人は、セーラー服に白銀の装甲板を張り付けた見覚えのある異界の勇者で。


 そしてもう一人は……


 いや、もう一人は本当に誰なのだろうか?

 不良少年っぽいファッションの見た目中学生くらいな彼は、年頃の少年らしく、バタフライナイフを特に意味もなくカチャカチャと回転させていた。


「あ、あなたたちはいったい……?」


 そんな不可思議な情景に、私の声帯が震えて思わずセリフがこぼれ落ちて。生まれて初めて耳にした己が肉声に、私は再び表情を引き攣らせつつ口元を押さえた。


 知らない人には、私が何に驚いているのか分かるまい。

 しかし【地の文】として創造されたこの私が“文字”でなく“言葉”を喋るのは、ライトノベルが自ら語り始める程度には奇怪な超常現象だったのである。


 目の前の三人は、喋り初めの赤ん坊を愛でるようにこちらを見つめて。

 ますます混迷を深める私の頭をリセットするように、シャランと軽やかな錫杖の音色が満天の星空に響き渡った。


「――貴女は、()()()()に満足しましたか?」


 三人を脇に退け近づいてきたのは、純白の薄衣をさらりと着流した少女だった。


 三人と比べてもずっと幼く小柄な容姿の彼女は、でも三人の誰よりも神々しく重々しい空気をマリンブルーの瞳に宿しながら、長い金髪を揺らして私を見やる。


「結局【原典のエルザ】は救われず、勇者一行も復活しない。登場人物たちの記憶は消されたままで、過去の惨劇が回避されたわけでもない。もっと別な、上手い“やりよう”があったのではないかと、不満を感じはしなかったでしょうか?」

「……」


 考えなかったかと言われれば、それは嘘になる。


 あの物語は、たしかに最大限に成し得る大団円を迎えた。

 だが、最高のハッピーエンドと呼ぶには敷かれた犠牲があまりにも多すぎた。


「そして、なにより元凶(あなた)が救われなかった」


 ……でも、私がそれを望むのはあまりにも身勝手で。

 ……でも、私がそれを期待してしまうのはあまりにも分不相応で。


「そのような“後悔”こそが、世界に【想像力という名の怪物】を生み出すのです」


 シャランと、少女の持つ白銀の錫杖が意志を持つように擦れ合う。

 太陽風に吹かれて髪を揺らす彼女の姿は、思い屈した私に羊飼いを連想させた。


「全ての登場人物が救われるためには、全ての登場人物が報われるためには。世界(ものがたり)は完膚なきまでに終わらなければなりません。これ以上想像力の働く余地がないほどの、絶対的で絶望的な、幸福な終幕を迎えなければなりません」


 そのために我々は世界を越えたのだと、少女が臆面もなく宣言する。


 それを聞いた狐の巫女は、愉快気に尻尾を揺らした。

 それを聞いた異界の勇者は、気恥ずかしげに鼻を掻いた。

 それを聞いた謎の不良少年は、キシシと嗤ってナイフを舐めた。


「物語に不要と断じられた憐れな貴女に、まずは名前を与えましょう。自らを排し他者に寄り添う慈悲深きモノよ。――貴女はこれより“傍観世界(ザ・サード)”を名乗るのです」


 傍観()……世界(サード)……?


「それでは参りましょうか。想像力は止まってはくれません。一刻も早く、一文字でも早く、我々は全ての世界を終わらせる必要があるのです」

「ま、待ってください! あなた達は、あなたはいったい何者なんですか!?」


 あたり前のように踵を返そうとした彼女へ向けて、私は慌てて声を張り上げた。

 問われて足を止めた少女は、初めて思い至ったと言わんばかりに虚空を見上げてから、あらためてこちらに振り返って真正面から相対する。


「私は小さな小さな物語の主人公にすぎません。そして世界を越えるときに、物語と共にその名前も捨ててしまいました」


 しかし、

 だからこそ、


「今こそ名乗りを挙げましょう。私のこの名を“傍観世界(あなた)”に刻み込みましょう」


 彼女の背景に太陽が如き後光が昇り、錫杖が高鳴りながら眩い輝きを放つ。

 淡く揺れる金髪は今にも消えてしまいそうで、だがその一方、マリンブルーの瞳はこの宇宙ごと呑み込むほどに深く力強くて。


「我が名は大団円主義者ハッピーエンド・シンドローム、あらゆる物語に幸せな結末をもたらす者です!!」


 それでは終わらせよう。

 全ての世界を終了させて、この不毛な妄想劇に終止符を打ち込もう。


 これは“傍観世界(わたし)”が生まれ、そして“彼女”が産まれたときの物語。





「――大団円は、これからです!!!」





          【ハッピーエンドが終わらない】 始


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