希望の光
前回のあらすじ
エルナのところにファルタ&ジェイド登場!
エルナは一般の家系にしては珍しく、優秀な魔道士としての才能があった。そのためエルナは幼い頃からギルドに入り攻略者になることを決めていた。魔道士自体、数がそこまで多いわけではないため、入るギルドに困るくらいには様々なギルドに誘われた。その中でも紳士的な好青年が団長をやっている7人組のギルドに入団させてもらった。ギルドの雰囲気もエルナ自身に合っていたのでダンジョン攻略は比較的楽しかった。しかし時折、副団長の女性に鋭い視線を向けられることがあった。本人に聞いても関係ないの一点張りだったので、特に気にしないことにした。
(ここでなら私も役に立てるかな。)
ギルドに入って半年ほど経った頃、Bランクダンジョンに挑むことになった。基本的にCランクに挑むことが多かったので不安ではあったが、団長が私達を鼓舞してくれたので勇気を持てた。
しかし私達は少し甘く見ていた。主の神術、《瞬間移動》によって私達はダンジョン内の場所にバラバラに分けられてしまった。エルナの近くには団長の青年がいたので共に行動することにした。しかし、運が悪く強力な剣士の魔物に遭遇してしまった。エルナは後方で支援をして前衛で闘う団長の援護をしていたが、団長が敵の攻撃で吹き飛ばされてしまい魔物がエルナに迫ってきた。魔物の一撃によって死を覚悟したエルナは目をつぶる。
目を開けるとそこには自分をかばって攻撃を受けていた団長の姿があった。ギリギリの所で他の仲間がやってきたのでエルナは助かったのが、団長を死なしてしまった後悔がエルナの心を縛ってしまった。そのダンジョンは無事に攻略することができたが、皆顔は暗いままだった。
翌日、副団長の女性に呼び出された。
「なんであんたが生きているの?なんで彼が死んだの?あんたがいなければ、彼があんたのことを好きにならなければ!」
どうやら副団長は団長に好意を寄せていたらしく、その団長はエルナに好意を寄せていたらしい。しかしエルナはそんな事知らなかったし相手の気持ちも理解できなかった。団長の死は自分のせいだとは思う。でも好意に関してはエルナは何も悪くない。しかし人間とはなんとも馬鹿らしいときがある。恋心一つで馬鹿げた行動をとってしまうのだから。
翌日、副団長の言葉を特に考えないでギルドに集合しているであろう仲間の元へ向かう。待ち合わせの酒場に入ると仲間がまるで敵意を持っているかのような視線でエルナを見てきた。するとギルド内でもかなり優しい性格である男性がエルナによってきてこう言い放った。
「エルナ、済まないがこのギルドから抜けてくれないか?」
エルナは衝撃で何も言い返せなかった。
「副団長から話は聞いた。ギルド内の共有の資金を自分自身の美容のために全員に無断で使用していたみたいだな。さらには、この前のダンジョンの主の情報を事前に知っていたのにも関わらず誰にも共有せず団長と二人きりになれる機会を伺っていた。そして二人きりになるやいなや団長の好意を利用して自分の身代わりにしたんだってな。」
知らない。そんな事エルナは何も知らない。確かにギルド内のお金が異様に減っているのは分かっていた。しかしエルナは何もやっていない。つまりエルナは濡れ衣を着せられたのだ。恋敵への逆恨みとして。
「済まないがそんなやつを入れておくほどこのギルドは優しくはない。今後は周りを助けられる魔道士になりな。」
エルナはちゃんと弁明もした。しかしたった半年程度の付き合いの少女の言葉は、数年の付き合いの仲間の言葉には勝てなかった。何が悪かったのか。エルナが至った結論は実にシンプルなものだった。
「今後は、簡単に人を信じるのは辞めないとな。」
エルナはギルド追放と同時に多額の借金を背負ってしまった。ギルド追放というレッテルが貼られていては他のギルドに入るのもほぼ不可能な状況なので、一人で攻略するしかなかった。早く借金を返済して攻略者をやめる、それがエルナの当分の目標になった。
エルナが街を歩いていると喫茶店のテラス席で知っている人物がいた。まあ知っているだけで話したことはないし相手も自分のことなど知っているはずがないのだが。確か初心者でありながら恐怖に屈せずソロでダンジョン攻略を行ったとか。それだけ実力があるのだろう。当の本人は呑気にサンドイッチを食べている。実力があり、周りからも頼られるだけの実力がある彼の存在は少し癪に障った。しかしこれと同時に憧れのようなものもあったと思う。
(こんな事思っているようじゃ、私も元のギルドと変わらないな。)
ぼーっと彼を見ていると彼がサンドイッチを落としそうになった。反射でエルナも手が伸びてサンドイッチを拾った。彼は笑顔で感謝をしてくれた。嬉しかった、今の自分も誰かの役に立てたかもしれないことに。しかしそれと同時に過去の出来事が頭によぎる。
(だめだ、彼を見てると思い出しちゃう...)
悪気はなかった、ただ彼と一緒にいると思い出してしまって仕方がない。だからわざと彼を突き放した。もう会いたくなかったから。
なぜ最近はこんなに運が無いのだろうか。会いたくなかった人に翌日早々に再開してしまった。だから先に言ってさっさと攻略してしまおうとした。結果それが仇となりウルに苦戦を強いられることになった。すると彼とその仲間の人は最奥にたどり着いて私を助けてくれた。
(なんで...やめて...)
エルナは彼らに告げる。
「私は助けなんか求めてない。余計なお世話だからどっか行ってよ!」
「何言ってんだ。ボロボロの魔道士一人置いて逃げようとするほど薄情じゃねえよ。」
「私を助けて何をするつもりなの?何が目的で助けるの?それを話して。」
「は?人助けにいちいち求めることなんてねえよ、強いて言うならただの自己満足。」
エルナは理解できない、なぜそんな簡単に他人を信じるのか。私を助けても、私が今後何をするかなんて分からないのに。
「私を助けても今後君等に良いことをする保証はない、助けても後悔するかもしれないだけなのに、信用したって意味な」
「そんなに喋れるなら後ろで援護してろ。俺もファルタも喚いてるだけのやつと喋っていられるだけの余裕はない。」
エルナの言葉をジェイドは遮る。事情を知らないジェイドにとって、エルナは邪魔なやつでしかないのだから。ジェイドの命令に渋々従い二人の援護をする。
「...分かった、最低限の援護はする。封神無法『最良の医者』。」
エルナが呼び出した精霊、エイルによって3人の傷は癒えていった。
「お、傷が治った!」
「あと私ができるのは後方からの魔法での援護、とはいえ今の回復で魔力結構使ったからあまり期待しないで。そして、お願いだから死なないでよ。」
(もう、自分のせいで、誰かが死ぬのは嫌だから。)
エルナの回復で疲労も消し飛び、動きがより一層軽快になる。すかさずファルタとジェイドはウルへと切り込む。
「チッ!あの狙撃攻撃やばすぎるだろ!どうやって攻めてけば良いんだよ!」
「ファルタ、できるだけ固まらずに攻めろ、相手の狙いを分散させろ!」
二手に分かれて左右から攻め込むファルタとジェイド。しかしウルの射線には二人は入っておらずその先には膝をつくエルナの姿があった。ウルの行動は当然とも言える選択で確実に倒せる者を倒して数を減らす。目の前の光景にエルナは死を覚悟した。自分を助けてくれる人はいないと......ただ一人を除いて
「...え...。」
目の前には矢を剣で受け止めるファルタの姿があった。
「なんで、なんで私のためにそこまでできるの?そんな簡単に人を信じた所で後悔しか残らない!だから私のことなんて気にし」
「知らねえよ!お前の事情なんか知らねえから俺等は無責任かもしれねえ!でも俺はお前が悪いやつだとは思わない。少なくとも素直に俺等を助けようとするくらいにはな。だから俺はお前を助けた!そして信じた!俺等を助けてくれたから!今後俺等に関わる必要はないし俺等も嫌なら関わらねえ!だから今だけは......俺等を信じてくれ!」
エルナにとって信じるとは呪いでしかなかった。でも今のファルタの言葉はエルナに取って呪いなんかではなく、希望の言葉だった。自分のことを本気で信じてくれたのがただただ嬉しかった。だからエルナは言う。
「分かった、良いよ、今も、これからも、あんたらのこと信じてあげるわよ!」
エルナは誓う、彼に、ファルタに託すことを。エルナは自身の魔力をすべて使い神術を使う。
「封神無法、『勇気ある心』!」
エルナの力で、ジェイドとファルタのあらゆる能力値が増加した。
「よっしゃ、行くぞジェイド!」
「お前が余計なことしなきゃ、もう終わってたけどな!」
「爆進無法、『疾風切り』!」
「死神の構え、『闇凪』。」
二人によって放たれた技によってウルは撃破された。
「これで攻略か。ありがとなエルナ、信じてくれてよ。」
「いや、こっちこそありがとう。じゃあここでお別れかな。」
「「え?」」
ファルタとジェイドは疑問を持った。
「え?」
エルナも驚いた。
「お前今ソロなんだろ?色々事情あるみたいだし俺のギルド入れよ。今俺とこいつしか団員いないし。」
昨日までのエルナなら断っていただろう。しかし、今のエルナには迷いがなかった。ファルタを信じると決めたから。
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
やっぱ戦闘シーンは長くなる。ヒロインポジションのエルナですが次話からよりヒロインに近づくと思います。
エルナ・ヒェレナーク
16歳 女
淡い栗色の髪色 肩より少し長いくらい
容姿はかなり良い、ナンパされた経験あり
親に「恋を知りなさい」と言われたとか