世界で誰よりも《死神》と呼ばれる攻略者のことを愛している人物。
「……は?」
「今、殺すって言ったか?」
「言い換えればそうなるかもしれないです!」
サリサの目はすでにファルタたちのことを殺すための執念に囚われている。所詮Bランクの攻略者が一人で五人に立ち向かっても勝ち目などない。それでも場合によっては大事にもなりかねないのでサリサを無視することはできない。
「というわけで、動かないでくださいね!」
サリサは背に担いでいたレーヴァテインのような見た目の武器を手に持ちファルタたちの元へと向かってくる。流石に神物としての効果はないだろうが、その刃は明らかに本物。まともに喰らえば致命傷にもなり得る。
「おい!どうする!?逃げたほうがいいか!?」
「いや…今の状態のサリサを表に出せば一般人にも被害がいく。ここで俺達が喰い止めるしか方法はない。となると…エルナ以外の四人で動きを止める。エルナは何かしらでサリサを気絶させろ。」
「気絶させろって…そんな神術持ってるヌシ居たっけ…」
半ば投げやりな行動だが、あまり落ち着いていられる時間もない。ひとまず周りに被害がいかないように応戦する。
「なんで《死神》さんにそんなことしたんですか!人としてありえません!人間のクズです!生きるに値しません!」
「サリサ、落ち着いてくれ!脅したことは認めるから!でも話を聞いてほしい!」
「「脅したの!?」」
ファルタが口を滑らせた。エルナとレイシャはサリサの言葉がでたらめだと思っていたので実際にそうだったことに衝撃を隠せない。ただ、問題はそこじゃない。
「脅したと言っているのに何を弁明するつもりですか!?《死神》さんはきっと、苦しい気持ちでいっぱいです。望んでも居ないのに選別戦に参加させられて、仲間だとも思ってない人のために動かなければいけなくて。きっと今も、《死神》さんはあなた達のことを憎たらしく」
「思ってない!」
サリサが喋っている途中、先程までじっと様子を見ていたライカが声を荒げた。聞いたことのないライカの声に、ファルタたちも唖然としている。
「さっきから、《死神》を愛しているとか言っておきながら、自分の思ってることをあたかも《死神》がそう思ってるみたいに話してるだけじゃん。本当に、《死神》がそんなこと思っていると思うの?」
「なんですかいきなり。あなたに《死神》さんの何がわかるんですか。私はあなたと違って《死神》さんのことを理解し、全てを信じられる存在。あなた方とは違うんですよ。」
「……彼女が、彼らのギルドに入って一緒に居たとき、何を思っていたと思う?」
サリサは、攻撃の手を止め、何かに気づいたのか、ライカの言葉を真剣に聞き始める。
「最初は、面倒なことになったって、気分は最悪だった。けど、彼らは互いを信頼していて、誰かのために全力になれる人たちだって分かって、すごく居心地が良かったんだよ。」
「……そうですか。まるで自分自身が《死神》さんみたいなことを言うんですね。」
無駄に鋭いことを言ってくるサリサに少しドキッとしたライカであったが、大きく表情は崩さず、自身の正体に気づかれないように注意する。
「でも、あなたの言いたいことはなんとなくわかりました。こちらの発言も、一部は撤回しましょう。ですが、一つ要求を述べます。あなたと、二人で会話をさせてください。」
ファルタたちのことを認めたわけではなさそうだが、ひとまず敵対意識は幾分治まったと考えて良さそうだ。と思ったら、ライカとの対話を提案するサリサ。
「私と会話?特に話すことはないと思うけど…?」
「確かに話す内容は殆ど無いです。ですが、《死神》さんがあなた達のことを認めているというのなら、あなた達のことを理解する必要があります。ただ、あなた達全員と一緒にいるともし襲われたときに人数不利で対処できなくなるので、一人ひとり面談させてもらいます。」
どうやら自分の立場が不利であることは理解していたらしい。しかし、実際どう対応するべきか、ファルタとライカが小声で話し合う。
「どうする?こう言ってはいるけど実際に襲ってこないかはわかんないぞ?」
「…放置も面倒だから、私が一人で相手するよ。元はと言えば私のことでこうなってるわけだし。それに、いくら一対一になるからって私がそう簡単にやられると思う?」
翌々考えてみれば、ライカが戦闘で負けることはおそらくない。襲われるかどうかは置いといてやられるという可能性はおそらくないと考えていいだろう。
「分かった。私が残る。他の四人は別の場所に行かせる。もちろん尾行とか会話を聞かれることはさせない。これでいい?」
「ありがとうございます。では、移動しましょう。」
ーーーーーーーーーー
ライカとサリサは、先程いた裏路地から一キロほど離れた場所まで移動する。周囲には誰も居ないことを確認して、会話を始める。
「えっと、私達に対しての敵対心は解けた?」
サリサは、何も喋らない。この空気感がただただ気まずいのか、少し距離もある。と思ったら、いきなりライカの目の前にたち……
「先程は、申し訳ございませんでしたぁ!」
清々しく土下座した。すごい勢いで、頭が地面に叩きつけられるぐらいの勢いで。
「へ?ちょ、えぇ!?なに急に?」
「あの、本当に先程までの態度を謝罪させてください!自分勝手の理由で《死神》さんのことを理解したつもりになっていて、自分の意見を好き勝手言って《死神》さんのイメージを勝手に解釈してしまって!万死に値するのは私ですぅ!」
どうやら先程までの疑いは晴れたと考えていいらしい。ここまで大々的に謝罪をしておいて嘘をついているなんてことはないだろう。
「…あー、えっと、大丈夫だから…顔上げて?でも、なんで急に私達のことを信じたの?」
「え?だって、あなたが《死神》さんなんですよね?」
「………へ?え!?なんで……?」
バレた。ここまで言い切られると反論の余地もない。確かに怪しい発言は何度かしていたかもしれないが、正体がこうも簡単にバレるとは思わなかった。
「さっき、あなたが自分の気持ちを語っていただいたときに、この言葉は本心だって感じがすごい伝わってきたんです。あの言葉聞いたときには、もう殆ど気づいてました。」
「あぁ、なるほど。でも、よくそれだけで特定できたね。私が《死神》自身じゃなくて、あなたと同じ《死神》ファンとかの可能性だってあったでしょ。」
「そうですね。でも、体の匂いとか手の大きさとか肌の色とかでもあなたが《死神》さんだなってのはわかりましたね。」
「……………え??」
聞き間違いだろうか。今、目の前の少女がなにかとんでもない発言をしたような気がする。……いや、きっと気のせいだ。いくらなんでも…
「だから、《死神》さんの体臭とか、あ!足のサイズも一緒だなって思いました!ここまで一致する箇所があると流石に同一人物だって思っちゃいますよ〜!」
「……………きっしょ………」
「え?」
「いや、さすがにキモすぎでしょ?体臭とか、どうやって覚えるの。肌の色とかも簡単に覚えられるものじゃないでしょ。」
ライカは思う。今目の前にいる少女は果たして人間なのだろうか。もしかしたら人のふりをしているなにか別の生物なのかもしれない。そうであってほしい。
「体臭は、あなたが私と3度目に出会ったときに手持ちの手ぬぐいを落としてしまったときに、その手ぬぐいを家宝として拾い、その匂いを毎日嗅いで匂いを覚えました!」
キモい…
「体の色は、こう見えて私頭と視力がかなりいいので、光や色彩の知識と実際に見たあなたの姿を照らし合わせて計算した結果肌の色を特定できました!」
頭脳の使い道を間違えてる…
「…まぁ、とりあえず私のことを信じてくれただけいいや…それと、ライカって呼んでいいからね。」
「ではライカさん。今から、私が《死神》として動いていた本当の目的を教えます。」
また深刻そうな表情で何かを語り始める。さっきの感じからしたら多分またどうでもいい理由な気がする。
「まず確認したいのですけど、ライカさんは《死神》として表に出ようとするのがあまり好ましくない。しかし、今現在は事情があって《フィンブルヴェト》の団員として選別戦に参加している。てことで合ってますか?」
多少齟齬はあれど、大まかな内容は合ってる。
「すでに選別戦に参加してしまっている以上、今まで以上にライカさんへ探りをいれる人の数は増えていくと思います。そうなったとき、正体がバレてしまわないようにするには、何かしらのブラフを入れなければならない。そこで私です!私が《死神》としてライカさんに探りがいかないようにあることないこと噂を流します。簡単に言えば、私が身代わりになります!」
元気な声で自身の目的を語るサリサ。この申し出は、ライカとしてはありがたい。今までのように正体を隠すための行動がある程度必要なくなるから。けれど、この行動はサリサへの被害が大きい。流石にそんなことをさせるわけにはいかない。
「いくらなんでもそんな作戦は受け入れられない。私のことを好きなら、実力に大きな差があることもわかってるよね?私を狙ってくる人たちは容赦なく襲ってくる。そんな人達に何をされるかわからないんだよ?」
「そんなことはわかってます。でも、私にとってあなたは憧れなんです。憧れの人のためなら、どんな危険な道でも歩んでみせます!」
「だから?私のためにって言ってるけど、当の本人がやめてって言ってるんだから引き下がりなよ!私が憧れって言うなら少しくらい私の言う通りに…」
このとき、私は少しイライラしていた。怒っていたわけではない。ただ、彼女が自分のせいで傷つく運命だけは避けたかった。そのためには、やはり無理矢理にでも引き離さなければいけない。だから、少しばかり感情的になってしまった。
だからだろう。このとき、普段なら気づけたであろう自分たちを狙う攻略者に気づくことができなかったのは。
ーーーパシュンーーー
ライカとサリサの間に、魔力で作られた白い球体が降ってくる。その球体は白く輝き出すと同時に、ライカとサリサを包み込むように強力な光を発し始めた。
(何…?魔力で作られた光?このままだと前が見えな…)
周囲の状況が何も理解できず行動に移せないライカ。すると突如として現れた男の手にライカは担がれる。
「………う〜ん。一体何が……?って、え?」
やがて光が治まり目を開けられるようになったサリサは、先程まで居たはずのライカが目の前から居なくなっていた事実に衝撃を隠せなかった。
「へ?ライカ、さん?どこに……まさか、誰かに攫われた?」




