暗躍者たち
「……え?ファルタのことが好きって………いつから?」
エルナはライカの言ったことに頭が混乱していた。確かにライカとファルタは決して仲の悪いようには見えなかった。けれど、ライカがそういった感情を持ち合わせているようには見えなかったし、ファルタの神術を聞いて好意を持つというのも一切理解できない。
「いつって言うと、だいたい6年くらい前かな。」
もっと理解できない。そんな昔からファルタと知り合っていたことも驚きだが、なぜ今更ファルタのことを再び好きになったというのか。
「まぁ私がなんでファルタを好きになったかなんて今はどうでもいい。エルナは、私と今から彼を取り合うライバル同士なんだよ。今はファルタも私も恋愛なんてしてる場合じゃない。けど、この選別戦が終わったときか、ファルタがイスカを止められるまでか、でもそのうち私は彼に思いを伝える。私はエルナのことを待ったりなんてしない。」
なぜライカがエルナにこんなことを伝えたのかはわからない。けれど、その目に映る意志は本物だ。同じ人に恋をした人として、情けも兼ねて伝えたのかもしれない。けれど、言えることは一つ。
「私だって、簡単に盗られようなんて思ってないよ。でも、それでも誰を選ぶかは彼次第。どっちも選んでくれない可能性だってある。」
恋心が必ず成就する保証なんてどこにもない。誰が誰を好きになるかは他者が介入できるものではないのだから。
「だから、もしどんな結果になっても、恨みっこなし。これだけは約束しよう。」
お互いに同じ人を好きになった。だからこそ、どんな結果になってもその結果を認める。最低限、交わしておかなければいけないことだとエルナは思った。
「いいよ。私とエルナの約束。あと、私のこと、誰にも言わないでね。あんまり騒がれたら面倒だから。」
ライカがファルタに好意を抱いていることはおそらくまだエルナしか知らない。傍から見たらそんな素振りを一切見せていない。《死神》としての姿もあるためなるべく目立つ行為は避けたいのだろう。
「おっけー。それじゃ、また5日後。今は選別戦に集中しよう。」
お互いに意志を確認した後、ライカとエルナは解散した。
ーーーーーーーーーー
「いや〜あの状況で審査突破するなんて、正直想定外だったな。」
王都から離れた外れの山麓を、データは歩いていた。その側にはもうひとり、長い髪をなびかせている女性が歩いている。
「でも良かったの?ファルタ・レイリオを殺さなくて。」
「あいつからの指示は、ファルタ・レイリオを殺すことじゃない。殺したらあいつの計画が台無しだからな。」
周りに人の気配は一切なく、暗く見えずらい道を、データたちは歩いて行く。
やがて2人は怪しげな遺跡のような所に辿り着き、遺跡の中央でデータが慣れた手つきで魔力を放つ。
「ファルタ・レイリオ。君のさらなる成長を期待しておくよ。」
不思議な光に囚われたデータたちは、しばらくして光と共にその場からいなくなっていた。
ーーーーーーーーーーー
その日、フォーリスク・フレイフィズは自身の部屋で1人酒に溺れていた。
「はあ〜やはり、ファルタは審査を突破したか。まあ、あれくらいの審査なら突破してくれなきゃ困るけど。」
審査の結果に満足しているのか。フォーリスクは満面の笑みを崩すことなく夜空を眺める。その眼は、どこか遠くの何かを見つめているかのように。
「今、お前はどんな気持ちでこの世界を見ているんだろうな。まあ何も見てない可能性もあるけど。元気にしてるか、フェンリル?弟は元気に成長してるぜ。またいつか、お前も会えるといいな。」
ーーーーーーーーーー
「よし、とりあえずやることは終わったか。」
ファルタはいろいろやることを終えて一人宿屋で先に休んでいた。エルナはいつのまにかいなくなっているし、ジェイドとレイシャは話したい人がいると言ってどこかに行ってしまった。
「…一人でいるのも暇だな。折角だし夜の散歩でもするか。」
仲間が誰もいなくなってしまい、やることがなくなってしまったファルタは、一人夜の町へと歩き出す。
「今思うと、本当にいろいろあったな。ここまで来るまで。」
ファルタは、今までの人生を振り返るように夜の空を見上げる。ジェイドと勝負したら、エルナと共闘したり、レイシャと拳を交えたり。ファルタが攻略者になってからは多くの経験をしてきた。
そんな人生を振り返ったファルタは、何か思い詰めた表情になり立ちすくむ。
「…なあ,お前は俺のことを恨んでいるのか?シーク。」
暗い表情は、まるで誰かに許しを求めているかのように顔であった。ファルタが街を歩いていると、ちょうど角を曲がるタイミングで別の人とぶつかった。
「あっ!すみません……って、イスカかよ。」
ファルタがぶつかったのは、ファルタ同様他の仲間と別れたばかりのイスカであった。
「随分と疲れていそうだな。お前の力なら一次審査なんてすぐに突破できるだろうに。」
「そうもいかなかったんだよ。俺のことを狙ってくる妨害者が多かったんだ。お前も俺のこと狙ってくるかと思ってたけど。」
「俺は早い段階で出口に辿り着いていた。後ろの話など知らん。」
この光景を見て、イスカがファルタを殺そうとしているなんて誰も思わないだろう。そのくらい、ファルタとイスカは中良さそうに話していた。
その雰囲気を変えることなく、ファルタは聞く。
「なあ、イスカ。お前は俺のことを殺したいくらい恨んでいた。それは変わりようのない事実だ。けど、今のお前は何を思って俺と話している?」
「…俺は、あの時のお前に憎しみを抱いている。だが、今のお前には…どうだろうな。ただ、俺はお前を殺さなければならない。俺に言えるのはこれだけだ。」
「…そっか。まあいいや。俺とお前が二次審査で戦うのは決勝になるからな。多分ないだろうけど、それまで負けんなよ?」
「誰に聞いてやがる。こっちは最強の攻略者だ。そっちこそ、俺が殺す前に殺されんなよ?」
二人は、何か他にも言いたいことがあったが、言うことはなかった。その問いに相手が答えた時、自分たちが求めていたものが手に入らないと感じてしまったから。
ーーーーーーーーー
「久しぶり、エウィクさん。最近はいろいろ忙しくてなかなか時間が取れなかったんだよね。今日は精鋭攻略者選別戦だったんだよ。正直、ボクが攻略者やってるなんて思ってもなかったでしょ?」
レイシャは、誰もいない暗闇で、一人語りかける。目の前の墓石に。
「エウィクさんの願いってやつは、まだわからないけど。でも、自分なりに満足してるんだよ。心残りはあるけどさ。もしよければ、ボクたちの……いや、わたしたちの選別戦も応援しててよ。」
レイシャは語り終わると、大きな酒瓶を墓石の元に置いた後、宿屋に向かって歩き始めた。
ーーーーーーーーー
「今回の選別戦、私は抜かりなく監視していた。なのに、一体いつ侵入者が?選別戦会場に入るときには出場する攻略者かどうかを一人一人確認している....確認した人に間違いが?いや、同じか同じじゃないかを判断するだけでそんな間違いはありえない。」
「レセカ、何か問題でもあったのか?」
選別戦のことについて考えていたレセカは、尊敬する先輩であるディーレに話しかけられて少し戸惑う。
「ディーレさん……いえ,二次審査のことについて考え事を。」
「確かに、今回の選別戦は例年通りにとはいかなそうだからね。無理はするなよ?」
「はい、お気遣い感謝します。」
ディーレはレセカに別れを告げて部屋を出ていく。レセカの部屋から離れていくディーレは周囲に誰もいないことを確認して独り言を語りだす。
「全く、つくづく完璧なお前に腹が立つよ。でも、よくやってくれた。今後も頼んだよ。
ファルタの覚醒のためにも、ね。」
第三章終了です。次回から第四章に入りますが、一旦キャラ紹介のおまけを投稿させていただきます。




