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世界の終末が望むとき、神々は迷宮を制覇する  作者: 柊ヒイラギ
第三章:強者は集う、己の野望が為に
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外伝:其の眼に映るは闇の中の光 その5

 正直、いつレイナのことを好きになったのかはわからない。姉さんのことは姉として慕っていたから血縁関係じゃないとはいえそういう視線で見ることはなかった。でも、レイナのことは定期的に迷宮(ダンジョン)攻略をしているうちにいつの間にか惹かれていった。

 けれど、レイナはあくまで姉さんのもう一人の人格。会いたくて会えるような人物ではないのだ。それでも、少しでも彼女のことを知りたかった。だからある日、俺は姉さんに思い切って聞いてみた。


「姉さん。レイナって、どういう人なの?」


 俺は単に、好きなものとか特技とか、そういった些細なことを知れればよかった。けれど、俺が質問したときの姉さんの顔は、少し暗かった。


「レイナは、ね。私と出身が同じなんです。もう地図に残ってない古ぼけた村の幼馴染。けれど、ある日彼女は死んでしまった。その時彼女の魂を私の体の中に移して2つの人格を一つの体で共有するようにしたんです。」


 正直最初は言っていることがわからなかった。けれど、後からレイナが死んでしまっていて本当の彼女にあうことはもうできないことを知って心が苦しかった。


 そんなとき、《ヘルヘイム》の噂を聞いた。死者に会うことが出来るという未知の迷宮(ダンジョン)に興味しかわかなかった。そのときはまだ、死にたいなんて考えていなかった。それなのに、彼女に会いたい気持ちがつもり続けていった結果、死んででも彼女に会いたくなってしまった。自分が生きていることが、誰かの支えになっていることなんて、一切考えないで。













ーーーーーーーーーー

 レイナは巨大な魔法をウィリックに向けて放った。ウィリックは困惑しており回避する気力すら残っていない。ウィリックは魔法を、受けるしかない。誰かが彼を庇おうとしない限り。


















「悪魔の構え《天魔波旬(てんまはじゅん)》。」


 ウィリックの魔法を受け止める形でジェイドがすぐさま魔法を対処する。


「ウィリックさん。色々言いたいことはある。けど、まずは生きることに徹してくれ。あんたが何を望むかを選ぶ権利は俺にない。けど、あんたの人生にいくつか提案するくらいいいんじゃないか?もし死にたいって言うなら、俺を殺してからにしろ。俺はあんたが死のうとしたら絶対にそれを阻止する。」


 ジェイドはもう、自分の目の前で誰かが死んでしまうなんてことは絶対に嫌だ。だから、たとえ敵対したとしても意地でも死なせない。


「……いや、その必要はない。俺も、言わなければいけないことがたくさんあるからな。それを言うまでは絶対に死なない。俺は、今ここで生きている意味を見つけなければいけないからな。」


 俺は、レイナに会わなければ生きている意味がないと思ってた。けど、今彼女が発した言葉がウィリックを正常な思考へと戻した。


『ありがとう。リーベを守ってくれて。』


 実際に言いたかったことはもう少し違うかもしれない。けど、姉さんはきっとレイナに全てを託された存在だ。だったら、俺は姉さんを意地でも守って彼女の思いに応えなければいけない。


「考えが変わったのか?そりゃ良かったな。俺はあんたがあの女とどういう関係か知らねえし知りたいとも思わねえけど、あいつを倒すことに異論はないな?」


「....あぁ、ない。すぐに討伐するぞ。」


 迷いなんてもう必要ない。なぜ自分がここにいるのか、生きなければいけない理由を見つけたのだから。今ここで、彼女の意志に応えるために。


「ジェイド、今の彼女の意識はおそらく俺の方向を向いている。俺が囮になるからお前が隙を突いてとどめを刺せ。」


「わかった。ただ、あんたの意志が変わった以上、相手の行動も変わってくるかもしれない。俺に敵意を向けている可能性だってある。固定概念に囚われないようにな。」


 《ヘルヘイム》に出てくる死霊たちは、基本的に攻略者が会いたいと思っている人物であり、死霊たちもその攻略者にしか興味を示さない。そのため、会いたい死者が存在しない者や、会いたい死者が多すぎる者は死者と敵対することなく攻略することができる。逆に言えば、会いたかった者と敵対した攻略者はその死者を再び手にかけるか、死者そのものを受け入れてしまうか。その2択を強いられるのが《ヘルヘイム》であり、人によって難易度が大きく変化するのである。


(レイナの戦闘スタイルは、低威力な魔法と俊敏な剣技を兼ね合わせた手数で攻める手法。だから、逃げ続けて気を引きながらもう一人に攻撃を託す分割作業が必須になる。俺に気を引いているうちにジェイドにトドメを託す。それに、俺が倒したら、多分……)


 レイナの行動を分析しながらジェイドは攻撃の隙を伺う。レイナの意識は常にウィリックに向けられているため接近自体はさほど難しくない。しかし、如何せんレイナの移動速度が速いためなかなか狙いが定まらない。


「ジェイド、一回そこで全力で構えててくれ。俺がそっちにレイナをぶっ飛ばす。」


「ぶっ飛ばすって……そんなこと出来るのか?」


「50%ってとこだな。でも、やる価値はある。多少無理するつもりだからきつかったらすぐに援護頼む。」


 戦場において、50%の賭けはかなり勝率が高いと言っていい。ジェイドは不安もあったがウィリックの言葉を信じて立ち止まり、構えの体制に入る。


(俺にしか興味がないってんなら……俺が無防備に突っ立ってれば突っ込んでくるだろ!)


 ウィリックの読み通り、レイナの死霊は先程までの牽制攻撃を中断してウィリックに向かって走り出す。


 レイナが近づいてきて、ウィリックのすぐそばに付いた瞬間、剣を抜いて勢いでジェイドの場所まで吹っ飛ばす。無防備な状態でレイナがちょうど近づいてきたタイミングでピンポイントで剣を抜き攻撃を当ててジェイドの構えに当てる。そんな芸当は超越したセンスがなければ絶対にできない。











 超越したセンスがなければ……


(……………ここだろ?)


 レイナがウィリックのそばに寄った瞬間、多少攻撃がウィリックに当たりはしたが、それと同時にウィリックがレイナに攻撃を当ててピンポイントでジェイドの場所まで吹き飛ばした。

 ウィリックが団長として慕われている最大の理由、それはウィリックの高すぎる計算能力である。どんな攻撃も僅かな誤差すらなしで的確な位置への攻撃を行うことが出来る。


(ここまで、正確に…!)


「ジェイド!ぶった斬れ!」


 すでに構えを取っていたジェイドはその技を放てばいい。ジェイドは渾身の一撃をレイナの死霊に向けて薙ぎ払った。


「死神の構え《魂の強振》。」


 ジェイドの攻撃は見事レイナに命中し、レイナの討伐に成功した………………と思ったが、


「クソが。ウィリックさん、タイミングが少しずれた。しかも、そいつ俺に麻痺の魔法までかけやがった。最後まで無駄に足掻くやつだな。ウィリックさん、はやくとどめを刺してくれ!」


 ウィリックは的確な位置にレイナを飛ばしたが、2つの誤算があった。一つはジェイドの攻撃のタイミング。ジェイドは自身の技を全力で完璧に振るったつもりだが、ウィリックの行動に反応が少し遅れてわずかに技の発動にラグが発生してしまった。2つ目はレイナがジェイドに魔法をかけたこと。吹き飛ばされたレイナが瞬時に魔法を放とうと判断するとは思わず、結果的にジェイドが被害を負ってしまった。


(……もしここで俺がレイナを殺さなければ、起き上がったレイナが麻痺で動けないジェイドに攻撃する。残された道は、俺がレイナを殺すこと、か。)


「何してるんだよ。早く殺せよ!」


「…あぁ、わかってる。」


 ウィリックは少し苦しんだ表情でレイナに向けて剣を突き刺す。体に剣を刺されたレイナはそのまま動かなくなり息絶えた。そして2人の直ぐ側には、攻略の証が落ちていた。


「よし、これでここは大丈夫か。ウィリックさん、何突っ立ってるんだよ。モタモタしてたら」

「他の団員が死ぬって?悪いけど、もう俺とジェイド以外は死んでる。そして君は、その現実を知って後悔することになる。」


 ジェイドは、ウィリックが何を言っているのかわからなかった。ウィリックは自分の命を軽く見ていても仲間の命をすぐに切り捨てるような人間じゃない。なのに、まだ見ても居ない他の団員の状況を、まるで()()()()()()()()()()()かのように話している。


「何言ってるんだよ。まだわからないだろ。少なくともこの目で見るまでは」

「もう見たよ。」


 ウィリックはジェイドたちと離れ離れになってからレイナとしか会っていないはずである。何を見たというのか。


「もう、全部見えちゃったんだよ。他の仲間の死体も、ジェイドの絶望した表情も、拠点の仲間に罵倒される君の姿も。」


「………は?何言って……まさか……」


 このとき、ジェイドはウィリックが未来を見たという事実を理解した。



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