外伝:其の眼に映るは闇の中の光 その4
元々登場させるつもりのなかったウィリックと元々書くつもりのなかったこの外伝と書くつもりのなかったウィリックの過去。
ウィリック・クライシスは、大国《フルガ》のとある下級貴族の一人息子として生まれた。特別優れた才能を持っているわけでもなく、神術を有しているわけでもなかったため、特別優遇な扱いを受けているわけでもなかった。ウィリック本人も、適当に育って、適当に後継ぎとして生きていくつもりだった。
ウィリックが10歳になったとき、父親から新しく姉を引き取ったと言われた。名前はリーベ。ウィリックよりも8歳年上の女性だ。リーベはどこにあるのかもわからない平民の村出身で、正直ウィリックはリーベのことを見下していた。なぜ父親がリーベをわざわざ引き取ったのかが一切理解できなかった。しかし、リーベが家族となって一ヶ月ほど経ったとき、その考えが180°変わってしまった。
「父様、そろそろウィリックにも話していい頃だと思います。なぜ私をクライシス家として引き取ったのか。と言うか、そろそろ隠しているのが大変です。」
「そうか。確かにそろそろ頃合いかもしれんな。リーベ、ウィリックを呼んできなさい。」
リーベ姉さんに呼ばれたウィリックは警戒しながらも父親のもとへと赴いた。
「なんですか父さん。俺、なにかしましたっけ?と言うか、なんでリーベさんもいるんですか?」
「ウィリック、お前は現状後継ぎとして余生を生きることに不満はあるか?」
「別に?特別やりたいこともないし、下級貴族だとしても貴族は貴族だ。それなりに権力があればある程度は楽して生きていけるもんだろ。他の貴族との交渉術とかも大体は身についてるし。俺だと問題でもあるのか?」
ウィリックの人生は何も考えず流れでどうにかなるようなものだとウィリックは思っている。だから、唐突に聞かれたことに違和感を覚えた。
「実はな、今我々は貴族としての立場が少々怪しくなってきているのだ。国王様も我々のことを見限り始めているように感じるのだ。もしこのまま、お前が私の跡を継ぐというのであれば、今以上の努力をしなければ元の立場に戻ることができなくなる。」
「は?そんなこと急に言われたって......どうするんだよ。」
「そこで、リーベだ。彼女は少し前まで王国守護攻略者のガーデニクス様のもとで戦闘の修行を行っていた。以前その姿を拝見したとき、その戦闘力に私は感化されて、一つの可能性を考慮したんだ。」
元の立場、それすなわち中級貴族以上の階級へと戻るということだった。貴族としての階級は下げるのは簡単でも上げるのはなかなかに難しい。上位層の者が興味を引く大きな功績を得るか、多大な金で無理やり上に上り詰めるか。どちらにせよ簡単にできるものではなかった。
ただし、強力な攻略者には上級貴族と同等の立場になる方法が一つだけある。
「まさか、リーベさんに王国守護攻略者になれって言うのか?そう簡単になれるものじゃないはずだ。」
「そんなことはわかっている。だが、彼女の実力ならばそれも不可能ではないと思っている。実際彼女は3人でAランクの迷宮の攻略を達成している。実力は申し分ない。」
Aランクの迷宮攻略、それをたった3人で行うのがどれほどのものなのかはウィリックも理解していた。ただ、それをリーベがやってのけたという事実にだけはやはり納得がいかない。
「要するに、リーベさんを最強の攻略者にしようってことか。わかった、父さんがそうしたいならそれでいいんじゃない。けど、一つだけいいか。」
リーベを攻略者として育てることにウィリックは否定しなかったが全てに納得しているわけではなかった。リーベの方へと向き直ったウィリックは言う。
「リーベさん。俺と今から戦ってくれないですか?俺は正直あんたの実力に納得がいってない。それをこの目で確かめたい。」
「私は構いませんよ。父様が許可を出してくれるのであれば。」
「構わん。ただし、互いにあまり大きな被害にはならないように努めること。」
父親から許可を得たウィリックはすぐさま剣を自室へと取りに行き屋敷の外へと急いだ。
「どちらかが戦闘不能になったら終わりだ。というか一応聞くけど、リーベさん武器持たないのか?」
「私は攻撃がそこまで得意でもないので。それに、魔法が得意というわけでもないんで。神術で頑張って対処する感じですかね。」
剣術が優れているわけでもなければ魔法が得意なわけでもない。ウィリックは一ヶ月間リーベとともに過ごしているが神術を使用しているところやましてや戦っているところすら見たことがない。
しかし、ウィリックはリーベが只者ではないのは出会った瞬間からわかっていた。それもそのはず、リーベは魔力量が一般人の2倍近くあるのだ。魔導士ならば、リーベと同等の魔力を持っている者もある程度いるが、魔導士でもないのに魔力量が異常に多い人物は珍しいことこの上ない。
「よし、俺は準備いいぜ。」
「私も大丈夫です。」
お互いに戦闘態勢に入り、クライシス家の姉弟の戦闘が始まった。
戦闘が始まっておよそ15分ほどが経過した。常に動き続けていたウィリックは少しずつ体力を奪われていく。それに対し、リーベはまだ余裕そうな表情を浮かべている。
(何なんだ?さっきから攻撃してくるわけでもなく避けに徹してくるのは。攻撃が得意でないとはいえ、魔法も神術も使わないで逃げているだけ。)
「リーベさん?なんで攻撃してこないんですか?神術も使ってこないとか、俺のこと舐めてるってこと?」
「舐めてるってわけではないのですが........正直に言えば、私の神術は精神が色々大変なことになってしまうので。あまり使いたくはないんですよね。父様から許可が出てくれればいいのですが。」
そう言ってリーベは父親の方を見る。父親は気難しい表情でリーベを見てから重い口を開ける。
「分かった。リーベの神術の使用を許可しよう。ただし、《楽園》の方は使うな。」
「それって、私に戦うなって言ってるようなものじゃないですか。まぁ、父様がそう言うのであればそうしましょう。」
父親から神術の使用の許可が降りたリーベは、息を大きく吸い込み魔力を込める。行動が読めないため、即座に対応できるようにウィリックは距離を取ってリーベを見る。
(何をしてくる?攻撃か、弱体化か、強化か。何にせよ対処できるように落ち着いて)
「さっきから思ってたけど、何その構え。やる気あるのお前?」
神術を使ったリーベが何かを話し始めたかと思うと、その姿は見た目こそ同じだが、そこには先程までの知的で清楚な雰囲気を漂わせるリーベの姿はなくなっていた。先程までとは真逆の、乱暴で荒々しい性格に変貌していた。
「誰だ?ほんとにリーベさんなのか?それが本性か。本番はこっからってことか。」
「あ?何、あいつ何も話してないの?なぁお前、あたしのこと知ってるか?」
知っているか?何を今更なことを言っているのだろう。互いのことを深くは知らないものの他人というわけでもなかったのである程度は知っているつもりだった。
「リーベ・クライシス。孤児だったところをガーデニクス・デイドルド様のもとで修行をした後クライシス家に引き取られた。」
「......あ〜、本当に何も知らないんだな。いいか、あたしのことはレイナって呼べ。あたしはリーベじゃない。覚えておきな。」
「は?何いってんだ。リーベさんじゃないって、どういうこと?」
「なんて言えばいいんだか。簡単に言えば、二重人格ってやつ?リーベの中にレイナとしての人格が入ってるの。そんなことより、闘りあうんでしょ?そっちからどうぞ。」
自分のことなどどうでもいいかのようにレイナはウィリックに向き直る。ウィリックも慌てて剣を構えて攻めの行動を取る。
しかし、そこから試合決着までは5秒も経たなかった。レイナの実力はウィリックがどうにかできるものではなかった。ほんの数秒で、ウィリックは倒れ込みうなされている。
「これで、あたしたちが攻略者として才能があるってことが分かったよね。これ以上戦っても意味なんてないから。あとはリーベに任せるからあたしは寝るよ。」
そう言ったレイナはしばらく俯いた後魔力を込めると再び顔を上げる。その姿は最初のときの、レイナではなくリーベの雰囲気へと変わっていた。
「さっきも言いましたけど、私と彼女、2人で1人のこの体なら、攻略者としての実力は十分だと思います。ウィリックさん、わたしたちのこと、認めていただけましたか?」
「......はい、認めますよ。あなたの実力は正直想像以上だった。それに、これが全力でもないんでしょう?だったら、俺が止めても無駄でしょう。ただ、一つだけお願いがあります。」
リーベの実力はその身が全てを理解したため、認めざるを得なかった。しかし、ウィリックは一つだけ、リーベに頼みたかった。
「俺も一緒に攻略者になりたい。だから、攻略者のこと、色々教えてくれないですか?」
リーベは正直とても驚いていた。ウィリックは素直にクライシス家の次期当主になるものだと思っていたから。それは父親も同じで、リーベと同様に驚いた表情をしている。
「別に、あなたに感銘を受けたとかそういうわけではないです。元々攻略者には少しばかり興味があったので。それと、このまま当主になっても存続が危ういなら、俺も攻略者として王国守護攻略者を目指す。だから、父さんもお願いします。」
これは、クライシス家の問題だ。当然、ウィリックとリーベだけでなく2人の父親も関わってくる。
「......そうか。フン、突拍子もなくそういうことを言うのは母親譲りか。どちらにせよ存続の危機であることには変わりない。リーベが許可を出すなら私もそれに準ずるとしよう。」
「.....私も、構いません。ですが、私からも一つだけ頼み事があります。それを呑んでいただけるのであれば許可しましょう。」
「頼み?出来ることなら精一杯やります。」
「私と話すときに敬語を使わないでください。」
「.......はい?」
ウィリックは困惑していた。なんというか、もっと壮大な願いを言われるものだと思っていたから拍子抜けであったのだ。
「確かに私とあなたはまだ出会って一ヶ月ほどです。けれど、家族という立場になった以上もう少し馴れ馴れしくしていただいても構いません。」
「......わかり、分かった。姉さんがそれを望むならそうするよ。それと、俺のこともウィリックじゃなくてウィルでいい。仲いいやつにしか呼ばせてないんだけど、家族なら呼んでも文句はないしな。」
「わかりました。ウィル君が攻略者になることを認めましょう。お互いに、頑張りましょう。」
「ところで姉さんは敬語やめないの?」
「これは敬語というより口癖ですので多分治らないと思います。」
そして仲良くなったクライシス家の姉弟はいつの間にかブラコンとシスコンになってましたとさ。ちなみにリーベが引き取られたときにその場にはラノスとレミエニも居たんですけど性格が色々あれだったので無視されました。




