外伝:其の眼に映るは闇の中の光 その3
散々登場している迷宮の「主」はヌシって読みます。今後はカタカナで表記する予定です。(今まで分かりづらくてすみませんでした。)
「え゙?な゙んで?え゙ェ゙ざん?」
ルーラルが姉といった女は、手に持っていた剣をルーラルの心臓に向けて突き刺した。何が起きたのか理解できなかったルーラルはそのまま地面に倒れ込み動かなくなる。
「クソ!やっぱりこいつは、すでに死んでるのか.....!」
心臓を刺されたルーラルのもとへと駆け寄りすぐさま安否を確認するが、すでにルーラルは呼吸をしておらず、息絶えていた。
(.....クソが!この女、多分当人の意識は残ってねえ。こいつを動かしてるやつがヌシなのか?だとしたらどこにいやがる。死者を操る神術?それとも中身なしの側だけ動かしてる?)
今ジェイドの周囲には、ルーラルの姉以外には姿が見えない。幸いにも出口がないわけではないようなので閉じ込められているというわけではない。
ジェイドが今警戒するべきなのは目の前の女だけ。しかし、ルーラルの姉は今のところ何もするつもりがないのか何もする素振りを見せない。
(何もしてこない.....?魔法も神術も使えないのか?でも元攻略者だったならある程度戦闘には慣れてるはず......試すか。)
何もしてこないルーラルの姉の行動に警戒しつつジェイドは剣を鞘から抜き近づいていく。ルーラルの姉とジェイドとの距離はおよそ1メートルほどにまで近づいた。しかしどれだけジェイドが攻撃の素振りを見せてもなにかしてくる気配は一切ない。
「一応聞くけど、お前に意思はあるか?ヌシはどこにいる?3秒以内に答えろ。答えないならお前の首をはねる。」
ジェイドに脅しの言葉を言われても、やはりなにかしてくる気配はない。とはいえ、目の前で仲間を殺されたジェイドはある程度気が立っていたため、躊躇なく剣を構える。
「....いいんだな。こいつと、ルーラルと仲良くするんだな。」
ジェイドは何もしてこないルーラルの姉に少量の魔力を込めた剣を振るい首をはねる。今まで何度も迷宮を攻略してきたジェイドであっても生身の人間の首をはねたことは一度もなかった。しかも知り合いの身内であった存在を。
初めての感覚に気分が悪くなったジェイドはルーラルの死体を見ることもできず早々に立ち去ろうと後ろを振り返ったとき、目の前に何かが落ちてくる。
(これは、攻略の証?まだヌシを倒したわけでもないのにか?......まさかこの迷宮、ヌシの討伐が攻略条件じゃないのか?でもそんなの前例がないはず.....とりあえずここから出るか。)
何が起きたのかわからなかったジェイドだが立ち止まっていてはまた同じように犠牲者が出てきてしまうかもしれないためすぐさま別の場所に移動した。
ーーーーーーーーーー
「にしても、本当に会えるなんて思ってなかったな。でも、流石に本物が生き返るわけではなかったか。まあ想定内だな。でも、それでいい。」
1人『シンエン』の団員と離れてしまったウィリックは目の前に立っている女性に少し気まずそうな顔で向き合う。
「えと、レイナ、久しぶり。リーベ姉さんがいないのはゴメンだけどさ。居たら居たで面倒くさいからさ。でも、俺はまた会えて嬉しい。本当は、本物の君に会いたいんだけど、俺には一緒に居られる資格があるかわからないからさ。でも、一緒に居てもいいなら、俺は君のところにいつでも行きたいと思ってる。本物のレイナには、多分ずっと言えないから、偽物でしかない君に言うことになる。」
レイナと言われた女性は笑顔を崩さずにウィリックの言葉を聞いている。その言葉が届いているのかウィリックにはわからなかったが、そんなことも気にせずウィリックは話し続ける。
「本当は、ずっと前から言いたかったんだ。俺、レイナのことが好きだったんだ。一緒に迷宮攻略したことなんて、片手で数えられるくらいしかないけどさ。それでも、君と一緒に戦ってるときはすごく心が昂ってたんだ。
ーーーだから、会いに行くよ。ーーー
ウィリックは自分の気持ちを伝えられたことに満足した表情でレイナに近づいていく。それに呼応するようにレイナも前に歩き始める。
「ありがとう。リーベ姉さんには、まぁジェイドに頼めばいいか。」
死を受け入れた表情で歩くウィリックに向けてレイナは手に込めた魔力を放とうとする。その魔力は一つの魔法となりウィリックに向けて放たれた。
「おい、ウィリック。てめえ何してやがる?」
ウィリックに向けて放たれたレイナの魔法は突如として現れたジェイドの剣が魔法を別の方向へと吹き飛ばした。
「.....来たのか、ジェイド。君はここまでよく来れたもんだな。でも、なぜ止める?」
「なぜ、だと?生憎と自殺しようとしているやつを見捨てて何もしようとしないほど人の心がないわけじゃないんだ。それより、こっちの質問に答えろよ。なんで死のうとした?」
「.....会いたかったんだ。彼女に、レイナ・ピースヒルに。その様子だと、ここで出会った人がすでに死んでしまっている人ばかりであるのには気づいているっぽいね。でも、君は会いたい人には会えなかったっぽいな。」
「会いたい人ねぇ。特別会いたいやつは居ないかもな。まぁ、元々仲間だったやつでなら、10人くらい入るかもしれねぇけど。そんな話はどうだっていい。」
ジェイドは、決して仲間のことを信用していないわけではない。ただ、仲間を信じて行動した結果その作戦が裏目に出て何度も仲間を失ってしまった、言ってしまえば非常に運が悪い。これまでも様々なギルドに加入してきたジェイドだが、その全てのギルドで団員に多大な被害が起きた。結果的に今までの仲間にジェイドが無茶苦茶な作戦を突きつけたとされて脱退に至ってしまう。それを淡々と繰り返しているのが、ジェイド・エルンディストという攻略者である。
「あんたが会いたいっていうのは、その人が恩人とかそういう人だからか?」
「いや、俺は彼女のことが好きなんだ。でも、彼女はすでに死んでしまっていて、もう、本物の彼女に会うことができないんだ。だから、死のうと思ってた。」
「.....あんたがこの迷宮に行きたかったのも、そこの女に死んででも会いたかったからってことか。」
「ジェイドは理解できないのか?人を好きになるってことが。誰かのために人生を捧げたいと思えることがないのか?」
「興味ないな。自分の人生を誰かに捧げる?馬鹿馬鹿しいな。俺は一緒に歩みたいやつは居ても歩かせてもらいたいやつなんて居ない。」
ジェイドにとって、恋愛なんて至極どうでもいいことであった。興味がないというのは流石に嘘であったが自分のやりたいことを優先して、それを納得できる形で終えたときに次のことをしたいと考える。それがジェイドなりの生き方だった。
「いいか。お前を殺そうとしたのは、本物のレイナじゃない。お前の目の前に立っているのは、ただの死体だ。そんなもんに、お前は自分を捨てるのか?というか、お前は、お前のために生きているやつがいるとは思わないのか?」
ジェイドは、ひどく苛ついていた。目の前の男と価値観が合わなかったことに。ただただ、自分の命の価値を勝手に決めつけて捨てようとしまっていることに苛ついていた。
「お前は、なんのために生きてきたんだ?そいつと楽しい人生を送りたかったからか?攻略者として地位を上げたかったか?」
ウィリックは、深く息を吸い込む。
「じゃあ、俺の人生に口出ししているお前は何なんだよ。」
ジェイドが苛ついていると同時に、ウィリックもまた、ジェイドにひどく気が立っていた。
「ジェイド。お前は、自分の人生は自分の物だって言いたいんだろ?じゃあ俺の人生だって俺のものだ。お前が口出しする権利なんてない。お前はそこで黙って見てろ。」
違う。そういうことじゃない。そう言いたいのに、ジェイドは何も言い返すことができなかった。ジェイドがウィリックに言いたかったことは簡単に言えば命を大切にしてほしいということ。自分のために人生を捧げてほしいということ。そして、誰かに人生のすべてを委ねてしまわないでほしいということであった。
ただ、ウィリックの言っていることと全く違うと言われればそういうわけでもない。ジェイドは何を言えばいいのか分からなくなり頭が真っ白になる。止めなきゃいけないのに、体が動こうとしない。
「待て、待ってくれ。俺はもう......誰も死なせたくないから......」
ジェイドの静止を一切聞くことなくウィリックはレイナのところへと歩き始める。
「ごめんな、ジェイド。これが、俺の望みなんだ。」
装備を捨て、無防備な状態になったウィリックはレイナの直ぐ側にたどり着き、攻撃を全て受ける体勢に入る。レイナはウィリックに向けて魔力を込めた手を向ける。
(これで、いいんだ。心残りなんて、もう何も.......)
「......ア゙.....イガ......ドォ.......リ.....ベ......」
「........は?今、なんて?」
レイナはただ操られているだけの死体でしか無い。だから、感情なんて持ち合わせているわけがない。だから、会話なんてできるはずがないのだ。しかし、レイナは今確かに言葉を発した。
「なぁ、レイナ?今なんて言ったんだよ。なんで、姉さんのことを?」
ウィリックにはなぜレイナが話すことができたのか。そして何を言いたかったのか。それを理解したかったウィリックだが、無常にも、レイナの強大な魔法はウィリックの体に向けて放たれた。
そういえばちゃんと人が死んだの今回が最初か。ヌシの討伐ですがそのヌシが最初に討伐されるとき以外は殺さなくてもある程度やられたら勝手に攻略されたことになります。




