負けられない戦い
「昔呪いをかけたんですよ、ジェイドさんがウィリックさんに。」
「.....ジェイドが.....呪いをかけた?」
レイベルの放った事実に理解が追いつかないファルタたち。ジェイドはレイベルの言葉に反発することなく黙って聞いている。
「オイお前、それ本当?」
「本当だと思うよレイシャ。そこのウィリックって人も話そうか迷ってたっぽいし。ジェイドも、本当ですって言ってるような顔してるしね。」
「.....いずれ話すつもりではあった。ただ、他のことで精一杯だったと言うか、変にプライドが邪魔しちまったと言うか。」
「言い訳っすか?知能明晰なジェイドさんでも焦ったらやっぱ無責任な言い訳したくなるものなんですか?」
苦悶の表情を浮かべるジェイドに対して容赦なくマイナスな言葉を振りかけるレイベル。レイベルは一切悪気のない表情でジェイドを罵倒し続ける。
「ジェイド、別に俺は怒っているわけじゃない。あのときのは正直事故だったと俺も思ってるからな。レイベルも、もう少し言葉を謹んだほうがいい。」
「いやいやウィリックさん。こいつはあなたの人生を絶望に陥れたクソ野郎ですよ?もっと怒ってもいいと思いますけどね。それに、俺はこの人に少し興味があるんで。」
「興味、ねぇ。レイベルって言ったか、俺がウィリックさんに何をしたのか知ってるんだろ?俺は自分が悪いことは認めているし今更許しを請うつもりもない。が、お前の言葉はちといきすぎなんじゃないか?初対面のはずだが、俺がお前になにかしたのかクソガキ?」
レイベルの罵倒に流石に気が立ったのかジェイドもレイベルに対して最低限の悪口を言い返す。クソガキと言われたレイベルは笑ったまま質問に答える。
「別に、何もしていないと思いますよ、俺の記憶の中では。ただ、俺があんたの後継者なんでね。実力がどのくらいか少し気になったんですよ。」
「後継者?お前が俺の?どういう意味だそりゃ。」
「そのままの意味だ、ジェイド。レイベルは、君が《シンエン》を脱退したあとに君の代わりとして入団した攻略者なんだ。」
ジェイドが《シンエン》を脱退したのはファルタと出会ったおよそ一ヶ月と半月ほど前。ギルド内の司令塔として活躍していたジェイドの代わりとしてのレイベルの入団は必要不可欠だったのだろう。
「後継者、か。で、お前は俺に何を要求するんだ?」
「そんなの、決まり切った答えじゃないっすか。」
何を今更とでも言いたげな顔でレイベルは答える。
「あんたと勝負したいんスよ。」
ーーーーーーーーーー
「勝負?俺とお前がか?」
「はい。元《シンエン》の頭脳と現《シンエン》の頭脳。どっちが上か確かめてみようと思ったんですよ。まぁ、仲間のことを深く考えないジェイドさんに、俺は負けると思ってないですけどね。」
レイベルはジェイドの実力に興味があるのか、あくまで目的はジェイドとの勝負であるらしい。
「悪いが一次審査終了までもう時間があまり残っていない。お前とタイマンしてる時間なんてないんだ。また今度にしろ。」
「おや〜?逃げるんですか〜?俺はまだ焦る必要なんてないと思ってますよ?俺達のギルドも、あんたのギルドも、主討伐数にはある程度余裕がある。少しくらい相手してくれてもいいんじゃないんですかね?」
「.....ファルタ、邪魔が入ったな。こいつのことは無視してさっさと出口に向かうぞ。」
無関係な立場のファルタは気まずい状況に立ちすくんでいたが、ジェイドが戦わない選択をした以上ファルタはその選択に従うだけだ。エルナとレイシャもジェイドの後を追うようにレイベルたちから離れようとする。
「じゃあ、こういうのはどうですか?勝った方は負けた方から何かしらの報酬を受け取れるっていうのは。それだったら盛り上がって楽しくないっすか?」
ただの勝負では興味を持たれないと分かったレイベルはジェイドに条件を持ち込もうとする。しかし、それだけで食い下がろうとするジェイドではない。
「報酬?お前に何が用意できるってんだ。それに、さっきも言ったが俺達には時間がねぇ。出口がどこにあるのかもまだ分かってないんだ。かまってやれる時間なんてない。」
「......へぇ、出口の場所、分かってないんですか。じゃあ、俺に勝ったら教えてあげますよ、出口の場所。」
その言葉を聞いた瞬間、ジェイドの歩みが止まる。
「出口の場所を教える?お前が出口を知ってる根拠がどこにあるってんだ。」
「それなら、俺が保証するさ。」
確証のない言葉にジェイドは不信感を抱くがそこにウィリックが割り込む。
「さっきも言ったが、俺は呪いで未来が見える。要するに、俺はこの場所から出口までどの道を通ればいいのかすでに把握しているってわけだ。これで、信じてもらえたか?」
「.....まぁ、あんたが言うならそうなんだろうな。」
「じゃあ、戦ってくれるってことでいいっすか?」
「.....俺が勝ったら、出口までの道を教えてくれるんだよな?」
「えぇ、それでいいっすよ。その代わりこっちが勝ったらそれ相応の対価を要求しますけどね。」
勝負に勝ちさえすればレイベルは出口を教えてくれるようだ。ウィリックが証人としているので終わってから逃げられることはないだろう。
「じゃあ、やりましょうか。準備いいっすか?」
「あぁ。負けても何も言うなよ?」
「言わないっすよ。そんじゃ、始めってことで。」
レイベルが戦闘開始の合図をした瞬間、レイベルの首元には、一本の剣が寸止めのところまで近づいていた。ジェイドが、最初にレイベルにやられたときのように。
ーーーーーーーーーー
「これで、いいか?」
「なっ!?」
ジェイドとレイベルの戦闘が始まって、その戦闘が終わるのには1秒もかからなかった。戦闘開始と同時に、ジェイドがすぐさま行動しレイベルを仕留めていた。
「俺の勝ちだな。そんじゃ、さっさと出口までの道を教えろ。」
「......は?何だよこれ......おかしいだろ。戦闘じゃない、不正だろ?もっと正々堂々勝負しやがれ!こんな.......こんな勝利認めてたまるか!俺はお前に負けてねぇ.....まだ、もう一度戦いやがれ!」
「何いってんだ?今俺達がいるのは迷宮だ。常に死が隣り合わせの危険な場所で、そんな甘ったるいこと考えてるようじゃ、俺の代わりなんて成り立たねえぞ?」
正論を突きつけられたレイベルは何も言い返せないまま下を向く。
「ジェイドの言うとおりだ。最初に出口の場所を教えるように言ったのは君だ。一度言ったからにはしっかり守れよ。」
ウィリックにも言われてしまえばレイベルとしても引き下がれない。全く持って納得していなかったように見えたが、レイベルはファルタたちに素直に出口までの道筋を教えた。
「.....はぁ。俺は認めねえからな。俺の実力は、こんなもんじゃねえからな!」
「......俺だって、こんな勝ち方したところで嬉しくもなんともねえよ。できれば、もっとちゃんと戦って置きたかった気持ちもあるんだ。」
ジェイドは比較的生真面目な正確であるため、対人戦では基本的に正々堂々正面での戦闘を好む。そのため、今回のような若干卑怯とも取れる戦法は正直したくなかった。
「でも、お前と戦って余計な時間を使って一次審査を突破できなかったときが怖かったんだよ。それと、こっちはこっちで、負けられない戦いがあるんだ。」
ジェイドにとって、アラナクに負けるのは最も求めていない未来だ。それを回避するためにも一次審査の突破は必要不可欠であった。
「この選別戦が終わって、暇な時間ができたら、もう一回、正々堂々と戦おうぜ。」
「.....はぁ。やっぱり、あんたのことは好きになれそうにないわ。」




