深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている
今回からまたフィンブルヴェトに戻ります。
「残り....15分くらいか。ファルタ、もう1位狙うとか言ってる暇なんてないぞ。そろそろ出口に向かい始めないと一次審査突破も怪しい。幸いライカが保険を作ってくれたしな。」
「.........」
一次審査も残り15分を切る。ファルタとしてはイスカに負けてしまうことはこの上なく悔しいことである。しかし、それ以前のところで戦力外通告を受けてしまっては元も子もない。
「別にここで追いつけなくても負けってわけじゃないと思うよ私は。それに、二次審査だってあるしね。」
「二次審査って他のギルドと戦うの?」
「どうだろうな。そもそも今までは二次審査の次に三次審査があったんだ。二次審査で全体の参加ギルドの半分ぐらいまで絞る。そこから更にギルドを4〜6組くらいまで絞ってギルド同士のブロック戦を行う。その中で能力の高かった攻略者を王国守護攻略者の候補として出したって感じだな。」
例年は審査が三次まであり、そこから候補者を絞っていたらしい。しかし、今回の選別戦は二次審査まで。更に言えば、一次審査の合格ギルドは16組。ここから候補者を選ぶとなるとかなりの労力になるようにも思えるが。
「例年通りなら、このあとの審査でエインヘリャルとは戦うことになると思うぞ。だからここで焦る必要性は一切ない。少しは我慢しねえとだろ?」」
「......そう、か。」
「とりあえず出口目指すぞ。ライカは多分速攻出口向かってたから多分大丈夫だと信じて....」
ライカは最初に時点で出口の主を目的としていた。大きく移動していなければ今も出口付近でファルタたちを待っているか、すでに出口を通っている可能性もあるであろう。
そんな安心しきった感情をあらわにしている4人。そんな油断しかしていない状況を、虎視眈々と狙っている者も当然いる。そんな状況だからジェイドは気が付かなかった、自分が狙われていることに。
ジェイドだけじゃない。他の四人も、予測を持つレイシャですら攻撃が来るまで存在に気がつくことができなかった。
「危なっ!?」
ジェイドの顔の前ギリギリのところを小さな短剣が横切る。運良くジェイドには当たっていないが、少しでも位置がずれていれば致命傷は避けられなかっただろう。
「攻撃!?しかも今の攻撃、殺す気満々だった......まさかファルタを狙ってる奴らの仲間?」
「いや、それはないと思う。俺を殺す気なら最初から俺を狙えばいい。わざわざ仲間のジェイドから狙う必要はない。だから多分、俺達全員を狙ってきたか、ジェイド単体に恨みがあるか.....」
「正解は後者だぜ赤髪。」
その言葉が発されるまで、誰一人として気が付かなかった。四人の中央に小柄な少年が立っていることに。そして、少年の手に握られている短剣が、ジェイドの首を切ろうとしていることに。
「......誰だ?」
ジェイドは自分の現状に焦りつつも冷静さを保ちつつ少年に話しかける。
「誰、か。答える必要あるか?めんどいから、その無駄に賢い頭を使って考えておけよ。」
少年の方は正体を明かす気はないようだ。
(すぐに俺を殺そうとしてないってことは、本気で俺を憎んでいるわけではないのか?何にせよ、まだこいつの仲間がいない間になんとかしねえと。)
増援が来る前にけりをつけようとするジェイドだが、そう思ったのも束の間、背後から別の男が姿を表す。
「焦る必要はないさ、ジェイド。君がここで死んでしまう未来は見えないから。」
「.....誰かと思えば、あんたかよ、ウィリックさん。」
ウィリックと呼ばれたその男はどこか不安定どこかぎこちない動きでジェイドの元へと近づいてくる。
「少し大人びたか?前みたいな子供っぽい雰囲気はいくらかマシになったようだな。」
「そりゃどうも。てことは、今俺の首を切ろうとしているこいつは、あんたの仲間ってことでいいのか?」
ウィリックは同意の意味を込めて頭を上下に動かす。その目は、ジェイドと目を合わせることはなく、どこか遠い場所を見えいるように感じる。
ジェイド以外の三人はウィリックとは初対面。ウィリックの歪な目に不安を感じたエルナは聞く。
「ジェイド、この人は?」
「.......ウィリック・クライシス。俺がフィンブルヴェトに入る前にいたギルド《シンエン》の団長だ。」
その名前を聞いたエルナとレイシャは驚きを隠せずにいる。イマイチピンときていないファルタはウィリックの名前とは別のところに注目する。
「シンエン.....?あぁ、確かジェイドが作戦についてこれないから脱退したギルドだっけ?でも、前に本部であったときはこんなやついなかったと思うけど。」
「いやファルタ、論点そこじゃない。もっと気になるところあったっでしょ?」
エルナたちが気にしたのはギルド名ではなくウィリックの姓である。この世界において『クライシス』という性を持つ有名な人物と言われれば一人しか思いつかない。
「ジェイド、今クライシスって言った?もしかしてだけどそれって.....」
「レイシャちゃんの言う通り。俺は、王国守護攻略者の第三位、リーベ・クライシスの弟だよ。」
「リーベ・クライシスの.....弟!?」
「あぁ。とは言っても、血の繋がりがあるわけじゃなくて、あくまで義弟っていう立場だけど。」
事実をいまいち飲み込みきれていないエルナとレイシャ。雰囲気こそリーベに似ているかもしれないが見た目や声色だけでは実の姉弟でないためわからない。
「あんたがいるとは思わなかったな。他の団員に任せることだってできだだろうに。」
「そうはいかないなぁ。そもそもこの選別戦、団長の参加は強制なんだ。ギルドの人数がどれだけ多くても俺の参加は確実だ。」
ギルドの人数が参加条件ギリギリであったフィンブルヴェトにとってはあまり関係のないことだが、どうやらそんな規約があったようだ。
「まぁ、あんたがいいなら何も言わねえけどさ。それより早くこいつどうにかしてくれない。」
今、ジェイドがウィリックと会話をしているときも、ジェイドの首元には少年の剣が向けられている。
「あぁ、ごめん。レイベル、もう離れていいよ。」
レイベルと呼ばれた少年は、剣をしまってウィリックの元へ歩いていく。レイベルはジェイドに対して、どこか舐めたような視線を向けている。
「自己紹介くらいしたらどうだよチビ。強いと過信するのはいいが、礼儀くらいは覚えとけよ。」
「......そうっすね。いやーすいません。雑魚って言っても、同じ攻略者ですからね〜。弱い人だからって平等に扱わないのは攻略者の恥ですもんね。すんませんすんません。俺はレイベル・ヴェイゼットって言います。どうぞよろしく。」
レイベルはファルタたちのことを、舐めた態度で適当な自己紹介をする。その様子を見たファルタたちは、
((((うぜぇ〜〜))))
という感情になる。
「レイベル、彼らはそんなに弱くはないさ。君と同等か、それ以上の力を持っていると言ってもいいくらいにはな。」
「そうっすか。まあ団長が言うならそうなんだろうな。まあ俺達について来れるよう頑張って欲しいもんっすね。」
「まあそうだな。俺達が一次審査を突破するのは確定事項だが、ジェイドたちが突破できるかはまだわかんないしな。」
その言葉にジェイドが反応する。ファルタたちは、自分たちによほどの自信があるだけの、それなりの実力のある攻略者としか写っていないが、ジェイドにとっては違う意味でしか捉えられなかった。
だから、ジェイドはこんな意味不明な問を投げかける。
「なあウィリックさん。今、あんたはどこまで見えてる?」
「......ジェイド、それはどっちの意味だい?」
ファルタたちは、どこまで見据えて行動しているのか、という問いであると考える。しかし、ウィリックの『どっちの意味』という言葉の意味が理解できない。
「一次審査突破が確定事項って言ってたよな?なら少なくとも一日は見えてるだろ。その先が見えるかって話だ。」
一日先が見える、そこまで聞いたタイミングでレイシャが唐突に声を上げる。
「待って!まさかだけどさ.....そのウィリックて人、もしかして」
「気付いた?その通り、俺はレイシャちゃんと同じようなものだ。」
「え?なになに、何の話してるの?」
ファルタとエルナは未だ状況が飲み込めていない。レイシャと同じ、それが意味するものはつまり、
「ウィリックさん、だっけ?ボクと同じってことはさ。あんた、未来見えるんでしょ?」




