世界樹の根
「じゃあ、お前は見様見真似で兄の使ってた秘術を使ってるってことか?」
「そうなるんじゃないか?俺は秘術なんて知らなかったけど。」
双剣秘術の発案者はファルタの兄、フェンリル・レイリオ。それをファルタは直接教わらず見様見真似で学んだという。ジェイドは、自分が神術を扱えるようになるのに真面目に教わりながらも1年以上かかった。だからこそ、それがどれだけ異常なことなのかがわかる。
「.......はぁ〜。やっぱお前いろんな意味でおかしいわ。双剣秘術ってのがどんくらいすごいかはまだ未知数だが、我流を見て学ぶなんてアホすぎる。」
「.....そんなにすごいの?」
「う〜んと、ボクが30分で超天才の秀才拳闘家になるくらいありえない。」
正直今のレイシャの説明もほとんど理解できなかったが、とりあえずすごいことなのは理解した。
「って、もうこの話はいいだろ。あんま駄弁ってる時間もないんだ。さっさと先に進むぞ。他のギルドも多分主をもっと倒しているだろうしな。」
時間はすでに半分を過ぎており、イスカのギルドとの差は主3対分。個人の話に十分な時間を割けられるほどファルタたちには時間が残っていなかった。
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「いやー、結構頑張ってるつもりだったのに。ジェイドに負けてるじゃんか〜。」
「ふん、どうせ汚い手でも使ったのでしょう。アラナク様が気にする必要はありません。」
混合迷宮の一角。ファルタたちとはかなり離れた位置に、ギルド《ユグドラシル》の姿はあった。ユグドラシルの現在の主討伐数は3体。飛び抜けて多くはないが着実に討伐数を増やしている。
「団長殿、『ジェイド』というのは、開戦前に談笑してなさった者のことであるか?」
「そうだよマスリア。私の幼馴染、私がずっと会いたくて......二度と会いたくなかった人。」
「.....?アラナク様、それはいったいどういう意味で?」
「だめだよクルーシェ。入団の条件忘れたの?団員の過去や秘密に勝手に踏み入らない。破ったら団を抜けるって話でしょ。」
「.....そうだったなミーレック。アラナク様もすみませんでした。」
「いいよ、私は気にしてないから。」
「でも、後々は教えてほしいのね。チューラもアラナクの話気になるのね。でも、無理して教える必要はないのね。」
ユグドラシルはアラナク・アリアヴァンによって結成されたギルドだ。とは言っても、結成時はアラナク一人だけで、後々この4人含む複数の団員が集まった形だ。
「はいはい、とりあえずこの話終了。それよりも、多分この次の部屋だけど、主がいる。」
「ほんとだ。それに、魔力の流れが異常に乱れてる。結構強い主かもしんないね。ボクとクルーシェで前に詰めて動きを見る。チューラとマスリアとアラナクは敵の攻撃に注意しつつ死角を取れたら取って。」
「おっけー。クルーシェ、一様印をつけれるように準備しといて。」
「了解です。」
「よし、じゃあ行くよ。クルーシェ、ボクに合わせて。過重無法《二重衝撃拳》。」
「了解だ。共鳴無法《共鳴の印》。」
主はまだアラナクたちに気づいていない。この隙を狙ってミーレックとクルーシェは同時攻撃を狙う。その時、そこにいた主は、一瞬であったが、確かにアラナクたちの方に意識を向けた。
「....!待って。気づかれた!」
「何?我々は気配をほぼ完全に断ち切っていたというのにか?」
ユグドラシルは、5人とも確かに気配をほぼ完全に消していた。探査系の神術でも有していない限りは見つかることはそうそうない。それでも主は気がついた。その主の姿を、アラナクはただ黙々と瞬きもせず観察していた。
「ふたりとも、今みたいに前に出ていいよ。多分探知系統の神術持ちだから神術に戦闘能力はさほどないと思う。見たところ武器も持ってないから魔法にだけ警戒して一気に突き進んで。」
「了解ですアラナク様。共鳴無法《天啓の囁き》。」
「過重無法《過重魔力》。」
自身の神術をまとったクルーシェとミーレックは主の元へと突き進む。その様子を見ていたアラナクはチューラに声を掛ける。
「チューラ、今すぐあの二人に魔障壁を展開して。なるべく硬いやつ。」
「.....?チューラの魔障壁は内側からの攻撃も通らなくなるのね。展開したら主の攻撃だけじゃなくて二人の攻撃も通らなくなるのね。それでも展開するのね?」
「うん。多分、やばいの来るから。」
アラナクに指示されたチューラは主の元へと駆けていくクルーシェとミーレックに魔力を通さない魔障壁を展開する。その瞬間、どこからともなく二人に向けて多量の魔法が間髪なく浴びせられる。
「.....!?何が起こったのだ!?二人の周囲から突如として魔法が.......しかし、主に魔法を放つような動作はなかったはず。」
「.........。」
何が起こったのかマスリアは理解できていない。隣りにいるチューラも同様に。ただ一人、アラナクだけは、この状況を理解したような目で場を見ていた。
「お二方、大丈夫でありますか!?」
「.....大丈夫だ。さすがチューラだな。こんだけ魔法を浴びても傷一つついていないなんて。」
「当然なのね。」
チューラ・フィロトゥーリ。ギルド《ユグドラシル》に所属する魔道士。その才能はエルナやレセカにも引けを取らないほどだが、攻撃魔法をほとんど習得しておらず、味方のサポートに特化した術を使用する。彼女の魔障壁は柔い攻撃では絶対に破られない。
「でも、一体何が?アラナク、なにかわかった?」
「う〜んとね、まあ大体予想通りではあったんだけど、多分自分の魔力を使って罠を設置する神術なんじゃないかな。」
「トラップだと?団長殿、どういうことでありますか?」
「最初に疑問に思ったのはミーレックが言ったこの部屋の魔力の流れの話のとき。」
ミーレックがこの主の部屋に入ろうとしたときに放った言葉、『魔力の流れが異常に乱れてる。』という言葉。アラナクもその事実には最初の段階で気がついていた。
実際、魔力量や魔力の質が異常な主の周囲の魔力の流れは不規則で奇妙な流れになることがある。
しかし、この部屋の魔力の流れは主の周囲だけでなく、部屋全体に広がっていた。そこからこの部屋の周囲には何かしらの魔力が宿っているのではないかという推論を立てた。
「そして2つ目、私達は気配をほとんど消していた。なのに主には普通に気づかれた。探知系統の神術とも思ったけど、魔法を撃ってくるわけでもない。能力がバレても余裕かましているのはまだ何かしらの策があるってことだと思ったんだよね。」
アラナクたちがこの部屋に入ってすぐに主は気配に気がついた。おそらく、部屋に入ると主に通告が入るような罠が仕掛けられていたのだろう。
「そして最後にクルーシェとミーレックが魔法を浴びたとき、主は何もしてなかったから条件を満たせば罠は勝手に発動する。でも新しい罠を設置している様子はないから罠の作成にはそれなりに時間がかかる、てとこかな。」
アラナクの予想は的中していた。今アラナクたちが戦闘をしているのは、もともと、ダンジョン《エーリューズニル》の主であった《ガングレト》という主である。
ガングレトの神術は《策略》、自分の魔力をこめたトラップを作成し、好きなところへと設置できる。例えば魔法を入れ込んだトラップに何かしらのトリガーを設置しておけばトリガーが発動と同時にその魔法が放たれる。なお、込める魔法の魔力量や複雑な発動条件であるほど、トラップの設置に時間がかかる。
「要するに、この部屋にはありとあらゆる場所にあいつの罠があるってことだね。」
「なるほど、しかし罠がそこら中にあるとなると警戒しながら戦わなければいけない分我々が少々不利ということか。」
罠を警戒しながら戦闘するのは当然用意ではない。どこにあるのかもわからないため不用意な行動は控える必要性が出てくる。しかし、不安視するマスリアにクルーシェは言う。
「何を言っているマスリア。発動条件達成によって発動する罠、俺と相性が抜群だ。」
「.....!そうか、確かにそうだな!」
クルーシェの言葉の意味を理解したマスリアには、先程の暗い表情は見受けられない。アラナクはガングレトと目を合わせ言う。
「ごめんね。多分、私たち、君の天敵だから。」




