一寸の悪意も
遡ること30分ほど前、第一次審査《混合迷宮攻略戦》が始まって直後のこと。ライカは一人、迷宮の奥へと進み続けていた。
(とりあえず私についてきてる人はいないっぽいね。まあ来られたら困るけど。何体か主もいたけど、ここで倒しすぎてもあいつらが倒せないで最悪二次に進めない。やっぱり混合迷宮の最奥に行くしかないな。)
ライカが無我夢中で迷宮を駆け抜けているとき、運悪く主と戦闘をしているギルドに遭遇してしまった。
「....!なああんた、死神だろ?頼む、助けてくれ!」
「嫌だ。」
ライカは即答する。手助けをしたところで時間の無駄にしかならない。今自分がすべきことはこの迷宮の奥に行くこと。赤の他人を助ける必要性はない。
「お願いだ!この主の討伐はお前がしていいから!だからせめて俺達を生かしてくれ!」
その言葉にライカは反応する。通常なら無視するところだが、点を譲ってくれるとなると話は変わる。このまま無視して進んだところでこの主が倒されずに終わる、もしくはこのギルドに点を取られてしまうのはこちらにも不都合。ならば今ここでこいつを倒すことに意味が生まれる。
「わかった。でも離れてて。危ないから。」
ライカはレーヴァテインを構え、主に向き直る。当の攻略者はなぜか離れようとしないが。
「我が身を望む死の刃よ、獲物の命を絶え裁け、神物解放《選ばれしもの》。」
ライカは主に向かってレーヴァテインを振りかざす。レーヴァテインの能力によって主はそのまま壁に打ち付けられ討伐された。
「なっ!?.....一撃だと?」
「一体どこにあんな力が.....」
周りの攻略者たちはライカの実力に驚いているがライカとしては早くどっかに行ってほしいと思ってる。
(.....まあ、実際は私が倒したわけじゃないしなー。敵の体力を約99%分削る。これは残り体力の99%だ。だからレーヴァテインは絶対に敵を殺すことができない。討伐されたと判断したのは主の方、諦めるのが早かっただけだし。)
ライカが再び出口へと向かおうとしたとき、突然その場にいた攻略者たちが声を荒げる。
「ちっ。やっぱ死神に頼んだのが良くなかったんだ。一撃で倒すとか反則だろ。」
「折角漁夫の利狙おうと思ったのに。ちょっとあんた、なんか責任取りなさいよ。」
(......................めんどくさ〜)
討伐していいといったのはそっちなのに何故自分が悪い空気になっているのだろうか。そもそもそういうたちの悪い考えで突破しようとしていることが間違っているのでは?
対応するのが面倒くさくなったライカは情報提供だけすることにした。
「あっちの道を進むと主が2体、その先に出口があります。私はもう少し討伐してから行くのでお先にどうぞ。」
「へえ〜。情報提供か。まあいいだろう、許してやるよ。俺達の団長の目的はお前じゃないしな。」
思いの外素直にライカの情報に従った攻略者たちはすぐさまライカに指示された方向へと進んでいった。
(にしてもあいつら馬鹿だなー。あっちに行ったところで主の亡骸と入口しかないのに。もう少し考えて動こうとは思わないのかな。まあそりゃそうか。この混合迷宮の構造を理解してる人なんて私以外いないと思うし。)
ライカは決して宛もなく迷宮を進んでいるわけではなかった。それなりに正しい道を通って進んでいる。その理由は、ライカが受付嬢であるということだ。受付嬢である以上、ギルド本部の様々な迷宮の情報を自由に閲覧することができる。受付嬢の中でも優秀なライカはBランクのダンジョンのマップをある程度理解しており、試験で使用されている混合迷宮が実際の迷宮を元に作られているのは瞬時に理解したため基本的に道を間違えることなく進むことができたのである。
「もう少し人を疑えっての。」
攻略者たちをあとにしたライカはしばらく進んだ後、おそらく出口であろう部屋付近まで来た。出口である確証はないが、ここだけ異常に魔力による警備が激しい。迷宮内の主が出口を通ることを防ぐためでもあるのだろう。
「出口までは入口から大体........全速力で10分くらいか。これくらいならファルタたちも余裕持って来れるかな。」
特に大きな障害がなければ10分、主を倒しながらでも1時間の制限時間には十分に間に合う。過度な心配は余計なお世話というやつだろう。
まだ審査を終える必要はないためライカは出口付近にいるであろう主をとりあえず倒していこうと思う。そうして別の部屋にライカが立ち入ったとき、その部屋の入口が魔法によって閉ざされる。
(どういうこと?こんな罠ここらへんのダンジョンにはなかったはず.......情報が食い違ってる?いや、それとも......この混合迷宮、運営がいくらか適当な罠を追加してる?可能性はある。レセカはBランクダンジョンを元にしているとしか言ってない。いくらか手を加えている可能性も十分ありえるってことか。)
あくまで元にしているだけで全く同じとは限らない。想定外な事態であったが、ライカは落ち着いて状況判断をする。しかしその時、更に想定外な事態がライカを襲う。ライカの眼の前に3つの影が降ってくる。
「...............えぇ、そりゃないでしょ。主3体同時戦闘は流石にきついって......」
ライカの目の前には3体の主が構えていた。いくらライカと言えども流石に3対1は苦しいらしい。
(まあ、やれるだけやってみるか。無理そうだったら諦めよう。)
ーーーー15分後ーーーー
「流石に、もう限界だって......」
ライカはわずか15分で2体の主を討伐していた。しかし、流石に体に限界を感じその場に倒れそうになる。
(.......いや、だめだ。ここで倒れちゃ。あいつに、申し訳ないもんね。仮にも、私は、あいつの仲間なんだから、ここで倒れて言い訳がない。)
ライカは再び立ち上がる。目の前の主を討伐するために。しかしその時、目の前の主がその場に倒れる。
「?一体何が.....」
状況が理解できないライカ。呆然としていると、背後から何気ない顔でライカに別の攻略者が話しかける。
「君、大丈夫?理不尽な戦闘は流石に疲れるでしょ?手柄を横取りしたみたいになっちゃったけどごめんな。まあこっちも焦ってたもんだからな。」
「.......?あんたは、確か.......」
「俺か?別に名乗るほどの名前じゃない。助けたのも、いくらライバルとはいえ、目の前で人が事故で死んじゃう姿を見るのがは心に来るからね。」
「なにそれ。まるで」
「まるで、事故じゃなければ何も感じないみたいって?」
ライカの背筋に悪寒が走る。その言葉には、一寸の悪意も感じられないほど、素直な言葉だったから。
「自分で殺す分には別にどうとも思わない。むしろ、今は殺したいやつがいるからな。そいつのことを考えると体中が怒りでどうにかなりそうになる。」
その男を見て、ライカはただただ恐怖する。そして理解する。今、こいつの標的になっているのが誰なのかを。その恐怖と事実に、頭が追いつかない。
「まあ俺は君には興味がない。だから俺は先に行く。まあ、せいぜいあがいてみろ。」
私は、この男を知っている。少し前まではAランクギルドの団長として少しばかり名の知れた攻略者だった。非神術者であるものの多彩な思考力から生まれる戦闘スタイルには独自の魅力があった。しかし、数ヶ月前、ある攻略者を非人道的な行動で襲い攻略者としての評価が落ち姿をくらませていた。
ギルド名《フェラーグ》。名を、バルテ・ウィークルゥという。
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『続いて第2位のギルド、ヒャズニング。以上になります。主討伐数は5体です。』
ヒャズニングという名前を聞いて、エルナは顔をしかめる。ファルタはその表情に気がついたが特に追求はしなかった。
「流石に2位にまでなるとギルドも一つだけか。しかもこれよりも上のギルドがいるんだろ?」
「そんなもん、決まってるだろ。未だに呼ばれていない最強のギルドの名前がよ。」
ファルタはわかっている。1位のギルドがなにかを。認めたくはなくても、認めなければいけない結果を。
『そして第1位、エインヘリャル。以上です。主討伐数は7体です。以上を持ちまして、精鋭攻略者選別戦第一次審査《混合迷宮攻略戦》の中間報告を終了いたします。残りの時間もがんばってください。』
「結局、1位はイスカのところか。でも、まだ負けたわけじゃない。こっからはペース上げて行くぞ!」
意気込んだファルタに続いて他の3人もファルタに続いて意気込んでいく。確かにファルタにとって、この事実は焦りを生むものであったと思う。でも、ファルタはそんなことではめげないくらいには強くなっていた。




