ミーミルの泉
今回は結構長め
「さて、ミーミル、お前は何をしてくるんだ。」
ファルタをおいてミーミルと対峙するジェイド、ミーミルは透き通った肌に眺めの青髪は美しいという他なかった。
「攻めてこないのか、ならこっちから行くまでだ。」
勢いよく飛び出しミーミルへと接近する、攻撃を仕掛けてくる可能性も加味したがその様子はない。
「これで終わりだ、ミーミル。」
勢いに乗ったままジェイドは手に持った剣を振った。しかしその剣は当たったと同時に当たっていないかのような切れ味だった。
(何だ?確かに今こいつを切ったのに、なぜ攻略の証が出ない?まさか...!)
ジェイドは自分の至った応えに不信を抱きつつも周囲を確認する。するとその予想は見事に的中する。ジェイドの周りには無数のミーミルの姿があった。つまりミーミルの使用する神術は、
「分身か。」
ミーミルの使用する神術は、自身と姿形が全く同じ分身を複数体作り出す《分身》。ジェイドを取り囲んだ分身は一斉に魔術を射ち放った。
(クソ!攻撃自体は決して強いわけじゃねえのに数が多すぎる!攻めようにも近づけねえし近づいた所で本体じゃねえから意味はねえ!)
ジェイドは想像以上に手強い相手に苦戦を強いられることになった。
「さて、落ちたわけだが、ここどこだ?」
最奥の扉の前の罠のせいで地下に落ちたファルタは、周囲を確認する。どこからか分からないが光が差し込んでいるため、出ることが不可能なわけではないのだろう。
「急がねえと先に突破されるしな、急がねえと、とわいえなにかあるかもしれねえし、ちょっと探索でもするか。」
勝負以前に、探索したい欲が出てしまったのである程度探索をしてみる。すると明らかに何か隠してますよと言わんばかりの怪しげな部屋があった。中を除いてみるとそこには多くの武器や財宝、中央には3mほどの大きな石像があった。
「石像、ていうより女神像とでもいうべきか。」
女神像の材質は今では見たことのないような材質で造られておりやはり古代の誰かが造ったのだろう。興味本位でファルタは女神像に触れる、すると物語の定石とでもいうべきか、女神像が光り始めた。ファルタは警戒して剣を構えようとする。しかし直接的な攻撃は何もしてこない。
(何もしてこないのか?...!?)
攻撃をしてくる気配がなかったため警戒をある程度解いたその時、ファルタの脳内におそらく石像の原型となった者が語りかけてきた。
『お前は、ハハハ、以外にも出会うのが早かったな。やはりあのお方とよく似ているな。』
(あのお方?誰のことだ?)
『折角会ったのだ、あのお方の望みのためにも手助けをしてやるとしよう。あのお方の、フェンリル様の覚悟に応えるために。』
「フェンリル!?」
女神像の主、おそらくミーミル本人から何かを受け取ったらしい。ただ今は、その力がどのようなものかなどどうでも良かった。
「フェンリルだと?なんでここで、俺の兄貴の名前が出てくんだよ?」
一方、ファルタが地下を探索している間に、ジェイドはかなり疲労が溜まっていた。
(どれだけ切っても分身がなくならねえ!いつまでも無限に湧いて出てくる!だが、確実に本体は分身の中に紛れ込んでる!切りつけたやつの何体かは全力で避けていた。だとすると本体を見破ることができれば勝てる!)
ジェイドの予想通り、ミーミル本体はジェイドを取り囲む分身に紛れ込んでいた。しかし分身を発見した所で魔術による他の分身からの攻撃を避ける必要があり、なおかつ一度分身から目を逸らせば魔術で煙幕を作った後、再び姿を見失う。
「まじでこのままだとジリ貧だな。急がねえと...!」
気が苛立ったときの一瞬の集中力の途切れ、それは戦場において大きな失態である。
「やべっ!?」
ミーミルの一撃を喰らい体制を崩すジェイド、そこに残りの分身が更に追撃を仕掛ける。ジェイドは恐怖に煽られた。今ここで死んでしまうかもしれないという恐怖に。そして、今までの自分のお行いに嫌気が差した。自分が強者として上に立っていると思っていた。しかしそれはただ高度な作戦を立てるだけの役立たずであり、結局一人では何もできない自分が嫌になった。自分は無力で臆病であるという事実に押しつぶされそうになり、一度諦めようとした。
(なんで、俺はまた、自分を嫌いになっているんだ...)
ジェイドは実力こそあるが、Bランクダンジョンを一人で攻略できるほどの実力はなかった。でも、二人でなら......
(......なんの...音だ?)
扉付近から巨大な足音が聞こえた。そこには赤髪の二刀流の青年がいた。
「まだ、やられてないっぽいな!だったらこっから反撃とするか!」
「ファルタ、逃げろ。二人がかりでも多分勝てない。」
「知らねえよ、つかお前こそ大丈夫なのかよ、そんな体ボロボロでさ、このままだと勝負は俺の勝ちだぜ。動けないなら、俺がこいつを倒すところをしっかり見とけよ。」
ファルタはジェイドの警告を無視してミーミルへ接近した。ミーミルは再び分身を作り出しファルタへ襲いかかる。
「分身とかまじかよ!見分ける方法はないのかよ!」
「多分どこを見ても本体と分身に違いはない。虱潰しに攻撃仕掛けるしか方法がない。」
「なるほどな、よしジェイド、動けるか?動けるなら俺からある程度離れててくれないか?」
ファルタの指示に従い部屋の端へ移動する。するとファルタは腰の双剣を抜いて構える。
「爆進無法、『暴風乱』!」
ファルタを中心に周囲に高速で攻撃を仕掛ける。
(これだけの範囲攻撃なら分身なんて関係ないってか。大雑把だが確実に倒す方法としては十分か。)
約五秒間におけるファルタの攻撃が終わると周囲のミーミル分身はすべて倒れていた。これで終わりだと、油断をしていたのも束の間、ファルタの背後から魔術が飛んできた。ジェイドがいないはずの背後から...
「なんで分身全部攻撃して本体に当たってないんだよ...。めんどくさすぎて笑えてくるな!」
残りの一体だと思い攻撃をする、しかし感触は分身そのもので本体ではなかった。
「ハァ...ハァ...ジェイド、これって」
「ああ、間違いねえ、多分本体はこの部屋の何処かに隠れてる。」
「だよな、どうする?二人で探せばなんとか見つけ」
その時、最奥の部屋の中心には大量の分身が新たに生成されていた。
「まじかよ、こいつら無視しながら本体探すとか、キツすぎだろ。でもしゃあねえ、こいつら相手しながら」
「待て、流石にそれは無茶だ。いくらなんでも一人でそれをするのは無理だ。
「じゃあどうしろって、」
「俺が本体を探す。分身相手と本体探し、役割分けてやれば多分行ける。どちらをやるかはお前に任せる。」
「分かった。じゃあ本体探してくれ。俺が分身の相手をするからさ。というか、案外ド・シンプルな作戦立てるのな、お前。」
笑って言われたが罵倒する気も否定する気もないためそのまま流す。
「じゃ、さっさと見つけてくれよ。」
「ああ、それまで死ぬなよ。」
二手に分かれたもののどうすれば良いのだろうか。どこにいるかもわからないやつをどうすれば見つけられるのか。見つからないでこのまま二人とも死んでしまうのではないか。
(俺は、また人を死なせるのか?でも、もし俺がここで死ねば.....誰も.....)
(馬鹿かよ、何を考えてんだ俺は。もうあの時と同じことをしてたまるか!考えろいる可能性を、探しながら、できるだけ早く。今までの情報から応えを導き出せ。この部屋にはパッと見隠れられるような場所はどこにもない。となると、隠し部屋?どこにあるかもわからない隠し部屋を探し当てろとでもいうのか?くそ!もっとなにか情報はないのか!?)
ジェイドは思考を巡らせて、ある一つの可能性にたどり着いた。
(ファルタは最奥の入口の手前で地下に落ちた。どれだけ広いかは知らないがもしこのダンジョンと同規模の地下層があるなら。)
地下の可能性を考えたジェイドはファルタに指示を出す。
「ファルタ!床に向けて思いっきり打撃を与えられるか?多分ミーミルがいるのはこの部屋の真下だ!」
「了解!なら話が早い!」
勢いよく真上に飛び上がったファルタは真下に向けて爆速をのせた状態で拳を振り下ろした。
ひび割れた地面には予想通り、ミーミルの本体が潜んでいた。姿が露わになるとミーミルは一目散に逃げようとする。
「逃げられると思うなよ?これで終わりだ!」
ミーミルの逃げた先で待ち構えていたジェイドによってミーミルは体を切りつけられた。それと同時に周囲にいたはずの分身も消えていった。しばらくして二人の手元には攻略の証が渡っていた。
「これで攻略完了か、援護助かった、ありがとなファルタ。」
「おう、でもそっちがミーミル倒しちまったから勝負は俺の負けか〜。」
「いや、お前の勝ちでいい。俺一人の実力では勝てていなかった。お前が来たから勝ってたんだ。今回でよくわかった。俺は自分の弱さを認めたくなかった弱者だったんだってな。」
「ふーん、まあお前が良いなら良いけどさ。まあ何はともあれ今後とも宜しくなジェイド。」
「頼んだぞ、団長さんよ。」
結構重要そうな話が出てきたりしてきた感じです。やっぱり戦闘シーンを書いてる時が一番楽しいかも。
ジェイド・エルンディスト
男 17歳
髪色:ネイビー 身長175.6cm
武器 少し重めの片手剣
好きな食べ物 幼なじみの作る料理
好きな言葉 完全勝利