分かるよ
「アイリスはさ、私のこと、本当に嫌いなの?」
「......なにそれ、どういう意味?」
「率直な疑問だよ。だって私は、今の貴方のことが別に嫌いじゃないから、あんたはどうなのかなって思っただけ。」
エルナはアイリスのことが嫌いではない。そんな事を急に言われてもアイリスは信じられなかった。だって、アイリスは、エルナを無理やりギルドから追放して濡れ衣を着せたのだから。本来なら大嫌いで、憎んでいて、二度と会いたくない存在でもあっただろうに。
「.......あんたもなかなか変わってるね。私はあんな事したってのに、そんな私のことが嫌いじゃないなんて。それはなに?許してくれたって考えていいのかな?」
「まさか、理不尽な追放をされて、借金までつけてきたってのに、許そうとする人のほうがおかしいでしょ。」
「なのに嫌いじゃないって、言ってることおかしくない?もうちょっと国語力鍛えようよ。」
「されたことを許すつもりは一切ない。けど、やり方が悪かっただけで、本当はあんただって私のことそこまで嫌いじゃなかったでしょ。あの人を、ヘリオトープ団長への愛情を言い訳にして、私を、私のためにギルドから離そうとしたんでしょ?」
その言葉を聞いてアイリスは目を見開く。ヘリオトープ・フリージア、ギルド《ブルームス》の初代団長、攻守ともに優秀でリーダーシップを持っていたこともあり、団長が彼になったことに誰も異論はなかった。そんな彼にアイリスは密かに恋をしていた。でも、エルナと出会ってから、彼は変わってしまった。
ーーーーーーーーーー
ヘリオトープは、エルナをギルドに引き入れてかららしくない行動を取ろうとすることが増えた。例えば、エルナの好きなものを知るために1日中エルナと一緒にいようとしたり、堅実な性格だったのにエルナのためだと言って後先考えず無茶をしたり。ヘリオトープに対するアイリスの思いが変わることはなかったが、それでも、些か不安に思う行動が増えたのは確かだった。
そしてある日、事件が起きる。
「ヘリオ?あんた.....なにしてるの?」
エルナが別のギルドメンバーと攻略に行ってる時、ヘリオトープは無断でエルナの部屋へと侵入していた。アイリスはエルナに対してヘリオトープの気になる人ということもあり正直あまり好きではなかった。けれど、好きな人の好きな人である以上大切にしたい気持ちはあった。でも、そんな好きな人がついに奇行にはしった。
「別に?彼女はどんなものが好きなのかなとか、そういう事を知るには趣味がわかりやすく出る個人の部屋が一番いいでしょ?許可を取ろうとしなかったのは悪いと思ってるけど後で謝ればいいでしょ。」
アイリスは思った。彼は、ヘリオトープはエルナと合わせてはいけなかったんだと。アイリスは、二人が離れられるように影で暗躍するようにした。
〜数日後〜
ヘリオトープが死んだ。普段Cランクばかり挑んでいた私達は調子に乗ってBランクのダンジョンに挑んだ。どうやらエルナを庇った結果であったらしい。その状況を聞いて嬉しい気持ちもあった。けど、それ以上に悲しい気持ちでいっぱいだった。
(あいつが、あいつさえいなければ.....)
エルナがいなければ、ヘリオトープがおかしくなることも、死ぬこともなかったかもしれないのに。そんな時、アイリスはネリオスからこんな話を聞く。
「最近、拠点の至る所に変な罠とか団員の気味悪い絵とかがあるんだけどさ。なんか知らないか?」
アイリスは、それが全てヘリオトープのせいであるとすぐにわかった。エルナを知るために至る所に罠を仕掛けていたのだろう。絵は、エルナの顔を間近で見ていたいから。他の団員の絵は練習用で。そんな状況で、満足のいく生活なんてできるはずがない。そして何より、ずっと狙われているエルナのことが、可哀想で仕方がなかった。だから、アイリスは選んだ。エルナを悪人に仕立て上げることを。
ーーーーーーーーーー
「私を心配してあんな行動取ったんでしょ?まあ、流石にもうちょっといいやり方はなかったのかとは思ったけど。普通にみんなに説明してから私と話し合うでも良かったんじゃないの?」
「それはそうだけどさ。他のみんなはあんたのこと嫌いだったからさ。いっそのことストレス発散させようかなって。」
いくら自然な流れで離れ離れにしたかったとはいえ、むしろ若干不自然な流れでギルドを抜けさせている。だからこそ、アイリスはエルナに会いに来たのだ。
「エルナ.....ごめん。」
アイリスがエルナに会いに来た理由、それは、エルナにしてしまった自分の行いを謝りたかったから。自身の思いを告げたアイリスに、エルナも自分の気持を打ち明ける。
「さっきも言ったけど、私は謝られたからって、許すつもりは一切ない。」
エルナは自分の考えが変わることはないと言うことを念を押して伝える。そして、今の自分がどんな気持ちでアイリスと向き合っているのかも。
「アイリス、今ならあんたの気持ち、わかるよ。好きな人に素直になれなくて、それでも好いてもらえるように必死にアピールして、誰かに好きな人が盗られそうになると嫉妬しちゃったりして、そういう気持ち、すごいわかる。」
ブルームスにいたときのエルナは恋愛や好きという感情に関してほとんど興味を持っていなかった。そんなエルナも、ファルタという者に対して恋心を自覚してからはよくわからない行動をしてしまうこともいくつかあった。
「でも、恋っていうのは速いもの勝ちだし、時に理不尽だったりする。どれだけ長い間一緒にいても、行動一つで嫌われるし、自分以外の誰かに相手が惹かれてしまうかもしれない。それでも、相手のことを責めないで理解してあげられるように努力して、倫理観のある行動を取れるようにならなきゃ、人として終わりでしょ。」
「.....ほんと、好きになれないな。」
アイリスにとってエルナは憎き恋敵であった。けれど、こんなことを言われてしまっては自分のバカさを認めざるを得ない。そして、血迷ってしてはいけない行動を取ってしまった自分の愚かさを。エルナ・ヒェレナークという魔道士の実力を。
「エルナ.....本当に、ごめん。私にできることなら何でも」
「あ、そういうの大丈夫。」
少しでもなにか詫びようとするアイリスだがエルナはそれを拒む。
「何かしらで罪を償おうとする姿勢はいいと思うよ。けど、あんたがやったことは最悪人の人生を終わらせる行為だ。償うには、あんたもそれなりに被害者にならなきゃいけない。けど、それじゃ一生被害者が生まれるだけだ。だから、そういうことはしないで、気持ちだけ受け取っておくよ。」
「そう.....なら、一つ約束させて。」
エルナには詫びを断られたアイリスは、最後に自分の望みを言う。
「このあとの2次審査で、私とあんたは絶対に戦う。今回と違って、全力の真剣勝負で。」
お互いの素性を知ったうえで再び全力の戦闘を行いたい。それがアイリスの願いであった。エルナもアイリスのことをすでに認めている。ならば、断る理由はどこにもない。
「わかった。次は、全力で。でも誤解しないこと。次は私とあんたの戦闘じゃない。フィンブルヴェトとブルームスの戦闘だよ。」
エルナとアイリスは笑って約束を交わす。そこにネリオスとの戦闘を終えたファルタが戻ってきた。
「エルナ、大丈夫か?」
「うん、そっちは.....って、心配しなくても大丈夫そうだね。」
「まあな、ていうかお前剣使ってたのか?近距離戦慣れてないんだから無理すんじゃねえぞ?」
「大丈夫だって。そんなに心配しなくたって。こっちの問題はもう解決したからさ。勝手に巻き込んでごめんね。」
ファルタはそんなこと一切気にしていなかったが、エルナの事情がそれなりに重いのでなんか謝らなきゃいけない気がしてしまった。
「まあそういうことならいいけどさ。じゃあ行くか、時間もそこまで残ってないし。」
「そうだね、じゃあアイリス、また後で。」
「うん。」
エルナはアイリスと最後のに挨拶をして再びファルタと別の場所に移動し始める。そしてしばらくして、アイリスのもとにネリオスが戻ってくる。
「結局そっちも負けたんだな。」
「何?文句でも言いたいわけ?」
「別に。ただ、今のお前、すごい嬉しそうな顔してるからさ。」
アイリスの顔は無意識のうちに口角が上がっていた。恥ずかしくなったアイリスはもとの済ました表情へと戻る。
「まあ、嬉しいと言うか、スッキリしたと言うか。」
「あいつと仲直りできたってことか?」
「まあね。多分できたと思ってる。それに....」
アイリスは去り際のエルナの表情を思い浮かべる。
(あんな可愛い表情するようになったんだ。)
エルナが去り際に見せた表情は、すぐとなりにいる青年に恋する乙女の表情そのものだった。




