焦りは禁物
「焦らなくてもいいって言われてもな、先生の価値基準と俺の価値基準のズレって結構すごいと思うんだけど。先生にとって楽なことでも俺にとっては苦なことなんだよ。」
「なに弱音を吐いとるんだい。まだ始まってもないだろ。そんな弱腰じゃ、この先が思いやられるねえ。」
「別に弱音を吐いてるつもりはないけどな。そんなことより、早く修行しようぜ。時間は有限なんだからよ。」
選別戦当日まで残り5日、この期間内にファルタはイスカ以上の実力を身に着けなければならない。当然与えられた時間を惜しみなく使う必要性がでてくるわけだが。
「そうだねえ、じゃあファルタ、あたしに勝つまであんたの仲間に会うのは禁止だ。会いたければ、あたしを倒してみな。」
ガーデニクスが提示した修行内容、それは至極シンプルなものであった。ガーデニクスを倒す事、ファルタにはそれがそれだけ困難であるか理解できた。
「先生を倒す、か。そりゃかなり無理難題だな。」
「出来ないのかい?」
「できるできないなんて関係ねぇ。やらなきゃ俺は成長できないんだ。我儘言って後悔したら元も子もないしな。」
(へ〜。あんなに修行嫌いだったファルタがここまでやる気を見せるなんてねぇ。イスカとあって意志に変化の兆しがあったか、新しい出会いに心を動かされたか。)
「じゃあ具体的な修行日程を伝えるとするかね。選別戦当日までは残り6日、その間にあんたはあたしを倒さなきゃいけない。戦闘は1日に2回、朝と夕方に行う。それ以外の時間は何をしていても構わないよ。ただ今日はお互いに少しつかれとるからねぇ。戦闘は明日からだよ。」
ガーデニクスと戦うのは1日で2回、当日までに戦えるのは合計で10回、10回以内にファルタは倒す必要がある。しかしそう簡単に終えることが出来ないのはファルタが一番理解している。
「分かった。じゃあ明日から、よろしく頼みます!」
ファルタとガーデニクスの修行が始まった。
〜1日目〜
1日目の最初の戦闘。結果を先にいうとファルタは惨敗した。どれだけ年老いようと現役時代の圧倒的な剣技にファルタはついていくことが出来ず一方的にやられる始末となった。
「ファルタ、お前昔言われたことが何も身についてないじゃないか。双剣を使うときは基本的に両方の刃に等しく力を込めな。お前は利き手の左手に力が偏って右からくる攻撃に対して対応がうまく出来てない。双剣の利点は全方位に的確な対応ができることだよ。一方に偏ってちゃ普通の片手剣で良いじゃないか。」
ガーデニクスは剣技の才能もさることながら師としての能力も一級品であった。
「....くそ。ダンジョン行ってくる。」
戦闘を終えたファルタはすぐさまダンジョンの攻略に向かった。ファルタ自身も原因が何なのかは理解していた。体が思考についていかなかっただけで。
しばらくしてファルタは帰って来た。攻略にかかった時間はおよそ17分と前回よりも格段と時間が短縮されていた。
「まだ一日しか経ってないってのに、しかもほとんど何も教えとらんのにのう。もう3分も短縮するとはねぇ。ファルタ、やっぱあんたにはとんでもない潜在能力が秘めている。」
「そんな話どうでもいい。先生、早く外でろ。2回戦だ。」
帰って来たファルタは最初に言われた修行内容を無視して早々に再戦を申し込んだ。
「最初に言っただろうに。戦闘は1日に2回まで、次は夕方だよ。あんたはそれまで休んでな。」
「先生、頼む。時間がないんだ。なるべくたくさん戦って自分の弱点を克服しておきたいんだ。」
「....あんた、なに焦ってんだい?5日間で仕上げれば良いんだろう?無理して戦ったって良い結果は巡ってこないよ。」
「....焦ってなんかねぇ。ただ早く強くなりたいだけだ。」
ファルタはガーデニクスの言葉を否定する。しかしガーデニクスはファルタの目を見て再び言葉を続ける。
「ちなみにあたしは、しょうもない嘘をつこうとするやつのことは嫌いだよ。そんなやつには修行なんて一切つけようだなんて思わない。」
そう言われたファルタは大きくため息を付いた後観念したのか自分の心境を話し始める。
「俺はあいつに会う前に、Aランクのダンジョンを一つ攻略した。主はすげえ強かった。俺たちのギルドだけで攻略したんだけど、できた時は自分が強くなっているって感じて嬉しかった。」
刻限の制御、仲間との連携などファルタはオーディンとの戦闘において多くのことを学び成長した。
「でも、オーディンを倒した後、オーディンは俺に言った。今のお前じゃ兄には会えないって。俺が兄を探して攻略者になったのは知ってるよな。その兄に会うのに必要な実力が今の俺にないって言われて正直苦しかった。しかも、イスカと戦った時も結局俺が負けた。そういうことが色々あって結構焦ってるんだと思う。」
ファルタは強敵と2度の戦闘を経て自身の弱さを認めざるを得ない状況に陥ってしまった。そしてその経験が強さへの欲求として強く出てしまい焦りへと繋がった。
「俺が弱いままだと、傷つくのは俺の仲間だ。そんな状況にはなってほしくない。団員のことを守れない団長とか最悪だろ。」
「....なるほどねえ。あんたが言いたかったことはだいたい分かったよ。自分の弱さを認めたからこその焦りなのはわかった。けどね、だからって今のあんたみたいに無理に焦って戦うことは逆効果にしかならないよ。」
焦りは禁物、焦ってしまったところで無駄な動きが多くなるだけ。
「早く強くなる必要があるのは事実だよ。けどね、物事には必ず順序ってもんがあんのさ。最初から優秀である必要なんて全くないんだ、少しずつ自分の弱さを修復していけばいいんだよ。よほどの天才でない限り強さへの近道は通らなくていい。」
弱さとは決して恥じるべきことではない。弱さとは成長への手がかりであり自身の弱さを認めることはその人を一つ上のステージは連れて行く。
「あんたの仲間だって弱くはないんだろ?なら、しっかり信じて自分を見つめ直さ。」
「.......ああ。ありがとう。じゃあまあお言葉に甘えて少し寝るわ。時間になったら起こしてくれ。」
今自分がすべきことは何か。それはどれだけ早く強さを手に入れるかではなくどれだけ無駄なく行動をすることができるかである。自分のすべきことをしっかりと理解してファルタは休憩に入った。
ちなみにこの後思いっきり寝坊してボコボコにされるファルタであった。
〜2日目〜
「さてと、3戦目だよ。まあ昨日のは2戦目に入れていいか曖昧だがね。」
「昨日みたいにはいかねえよ。そんじゃ、早速始めようぜ。」
先に動いたのはファルタ、神術を駆使してガーデニクスとの距離を一気に詰めて剣をふる。ガーデニクスも即座に反応してファルタの背後に周りファルタの右側から攻撃を仕掛ける。
「.....へえ、たった1日で防げるようになるなんてねぇ。」
昨日までファルタが苦手としていた右側背後からの攻撃、しかしファルタはその攻撃にすぐさま反応して攻撃を受ける。
「防げるようになったっていうか、先生が避けたあとほんの一瞬だけ神術で周りの動きを遅くしたんだ。流石に急にできるようにはならなそうだから感覚だけでも掴めないかなって。」
(確かに今のは神術による反応速度だったのかもしれない。でも、一瞬遅くしただけで反応できるほどあたしの攻撃は遅くない。更に言うならファルタは自身の癖を無理矢理治そうとしている。そんなこと、この短時間で擬似的にもできるようになってる方がおかしいのにねえ。しかし、昔から思ってはいたが、ファルタは.....)
王国守護攻略者の第一位をも上回る潜在能力を秘めている。
想像よりも修行が長引いた。




