刻限VS逆襲
「《フリィティング》か。」
エルナとヴェルンドの力で造られた双剣《フリィティング》、翡翠色に輝くその剣はファルタの手に渡りオーディンに刃を向ける。
「新たに武器を創り出すとは、しかもヴェルンドの武器となるとかなり高品質の武器か。良いではないか、ファルタ、貴様は我を満足させることができるか?」
(すげえなこの剣、持ってるだけで分かる。この剣はリサナウトと同等、いやそれ以上に丈夫だぞ。この剣なら、刻限を使っても壊れない!)
「そんじゃオーディン、第2ラウンドと行こうか。ジェイドは下がってろ、俺の神術に巻き込まれる可能性が高いからな。」
そう言われジェイドはファルタとオーディンから距離を取る。そしてファルタとオーディンは互いに全力のぶつかり合いをする。
「刻限無法《刻の戯れ》。」「逆襲無法《死ニ行キ様之断チ》。」
二人のぶつかり合いはもはや他の者が介入する隙もなく驚異的な速度で戦況が進んでいく。
「ファルタの本気って、ここまですごいのか....?さっきまで3人で対処するのが精一杯だったのに、オーディンと一人で渡り合ってる。」
「多分、ファルタが全力を出せば、ニーズヘッグにも一人で勝てたと思うよ。あいつの刻限っていう神術はどんな魔道士でも習得が無理だと言われた時間に干渉するものだからね。」
「そんなに強いのか?あいつが俺に話したときはすごい自分のことを卑下してたのか。何かちょっと強くなるだけーみたいなノリで言ってきたから話半分で投げ出しちまった。」
あれだけ重たい雰囲気で自分の秘密話すって言ってたのになぜあまり具体的に伝わっていないのだろうか、とエルナは少し呆れたが、そんな事は今はどうでもいい。
「あの神術は時間を操れるって聞くとすごく強く感じるけど、実際は、多分どんな神術よりも扱いが難しいと思うよ。神術のONとOFFを素早く切り替えながら戦っているように見えるけど、時間が遅い状態と速い状態が瞬時に切り替わってそれが何度も繰り返されるって、頭の処理が追いつかなくなって苦しくなると思う。だからこそ、」
だからこそ、ファルタが戦えているこの状況がどれだけ異常なのかが伝わってくる。
「そうなるとやっぱ、うまく扱えなかったって話も納得できるな。それをあそこまで扱いながら戦っているって、そんだけ、努力したんだよ。.....クソ!」
ファルタの実力と努力を認めると同時に、ジェイドは地面に拳を叩きつける。その表情は悔しさと怒りが入り混じった苦悶の表情であった。
「俺は、あいつに助けられてばっかだ。俺は今も、アイツの力になれてない。今俺は、ただ傍観することしかできない。」
「それは、私もだよ。でもだからって無理に割って入って邪魔をするわけにはいかない。一言で言えばしょうがない。だから、努力と同時に、今自分にできることを探すしかない。今私達にできることは、ファルタが苦しくなった時に対応できるよう、万全な状態で待機しておくことだけだよ。」
できないことを無理にやることは馬鹿のやることだ、と言う人がいる。それは当然の考えだ。だから出来ないことは周りの誰かに頼り誰かが出来ないことを自分ができることで補う。助け合いとはそういうものである。
(時間の流れを操る神術、やはりあいつの.....基本的な太刀打ちは我とやり合える程度に抑えつつ決められるタイミングで神術の出力を上げて攻撃を当ててくる。)
「刻限無法《刻の舞》。」
(なんだ?周りの時間が遅くなって)
オーディンの動きが一時的に停止する。当然その隙をファルタが見逃すはずなく確実に一撃を当ててくる。
(今のは.....今の技は、これ以上受けるのはまずいな。)
《刻の舞》の能力、それは脳の処理能力を通常よりも遅くし思考力や判断力、更には時間の感じ方を遅延させることで動きを封じる。強力な術ではあるが一歩間違うとファルタにも被害が及ぶ可能性がある。
一撃を与えた所でファルタは絶え間なく攻撃を続ける。その目には、ただ倒すことに執着した攻略者としての目であった。
(此奴の目、やはり嫌いだ。このままでは、まずい。まさか、負けるのか?この我がか?)
オーディンは今攻略者に対して初めて恐怖を、自身に対して不安を覚える。負けるかもしれない、その緊張感に、オーディンは思わず笑みをこぼす。
「は、ハハハ、良いな!ファルタ!認めてやるさ、貴様のその実力と努力をな!」
「そうか、興が乗ってきたところかもしれないが、オーディン、お前はもう終わりだ。刻限無法《刻々元凱》。」
「逆襲無法《憤怒の被幕》!」
オーディンは神術によって力が上昇している。しかしそれ以上の力でファルタは技をぶつけてくる。その姿を見てオーディンはいよいよ限界を迎える。
「流石に、きついな。こうなれば、最後の大技と行こうではないか。これを耐えられれば、貴様らの勝利だ。技を受けたうえで耐えるか、技を放つ前に倒しきるか、好きにするが良い。」
「最後の大技、だと?そんなもん、俺の神術でっ!?」
技の準備をさせる隙を与える間もなく倒そうとするファルタであったが突然頭を抱えてうずくまる。
「ハァ....ハァ....」
「流石に貴様も限界か、使い慣れてもいない神術を無理に使えば誰であろうとそうなるであろう。それに、我だって堂々と準備をするつもりがなかろう。来い、フギン、ムニン。」
オーディンの呼びかけでどこからか何かが飛来する。その姿はカラスによく似ておりしかし通常のカラスよりも一回り大きく見える。
「我が準備している際はコイツらに任せる。こいつらを対処できるのなら我を倒せるだろうな。」
「まじか、ここで、増援とか、聞いてねえっての。」
脱力して倒れ込むファルタ、そこに向かってフギンとムニンは飛来する。
「予測無法《終わりの道標》!」
あと少しでファルタに攻撃が当たるという所で拳闘家の少女が手助けに入る。
「大丈夫ファルタ?まあボクが言えたことじゃないけど。」
「そっちこそ...もう動いて大丈夫なのか?」
「良くはないけど魔力と体力は最低限回復した。ファルタは一回休んであいつの大技に対処できるように準備して。」
どうやらファルタが動けるようになるまでレイシャが時間を稼いでくれるらしい。しかし無駄に心配性なファルタは問いかける。
「一人は無茶だ。俺も戦う。」
「無理せず休んでなって。それに、なんでボク一人っていう前提なのさ。当然」
「俺と」「私も」「「加勢する。」」
レイシャのところへジェイドとエルナも合流してそれぞれ戦闘態勢に入る。
「お前ら....分かった。少しの間頼む。オーディンは、俺が倒すから。」
(3人で挑むか、我の準備に要する時間までには終わらない。我の勝ちだ。)
ジェイド、エルナ、レイシャとフギン・ムニンとの戦闘が始まる。互いに一歩も譲らない戦闘を続ける姿を見てファルタは改めて思う、自分がどれだけ恵まれた仲間に出会えたのかを。
「「「合成無法《鬼眼彼岸》!」」」
ジェイド達による合成無法はフギンとムニンに命中する。すると以外にもあっさりフギンとムニンは動かなくなる。
「これで終わりか、よしじゃあ次はオーディンを」
「こちらに来る必要はないぞ。」
その時、四人の目の前にはまばゆい光を放つグングニルを構えたオーディンの姿があった。
「貴様ら、時間切れだ。我の技が完成した。この技を受けて耐えられたのであれば貴様らの勝ち、耐えられなければ我の勝利だ。」
四人は固唾を呑み後ろに下がる。こうなったらできることはただ一つ、ただ全力で攻撃を受け切るだけである。
「では、行くぞ。」
オーディンはグングニルに全ての力を込めて攻撃の構えに入る。
「獲物を穿つ矛先よ、穿つ刃より世を揺れ動かす、神物開放《揺れ動くもの》!」
オーディンの最後の一撃がファルタたち目掛けて放たれた。
グングニルの神物開放は最後に取っておこうと早い段階で決めてました。次話、ヴァルハラ篇終了です。




