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朝日は来ない

作者: スイートポテト

  朝日は来ない

                     スイートポテト

     

     ○沖縄の海・崖の上 昼

     

            軍服を着た一郎(16)は、冷たく動かなくなっ

            た香織(16)をお姫様抱っこしながら、飛び入る。

            海の中で赤い糸が、香織と一郎の手からゆっくり

            と解ける。

     

     一郎 「海の中に沈んでいく…」

        「悲しいという感情と、今までの記憶が、泡と共に消えた」


            海の底に目を向ける一郎と、死んだ香織の声が海

            の中から響き渡る。


     香織 「一郎…」

  


     一郎 「あぁ、今行くよ…香織」



     ○沖縄 古宇利島の海岸

            波の音とともに、砂浜にいる白いワンピースを着

            た香織の後姿。

 

     

             

     ○(回想)昭和時代1934年の沖縄県古宇利島・昼

            街を走る一郎(3)は八百屋のおじさん(35)

            に呼び止められる

     八百屋「大池一郎くん。今日も元気だねぇ、どこにいくんだい」

     一郎 「おじさんこんにちは!今日はお父様が帰ってくるから

         お迎えに行くの」

     八百屋「そうかい、あの辺は森が近いから気をつけていくんだよ」

     一郎「わかってるー! 」


     

               

     ○森

            一郎、森の中に入る。森の小さな抜け道を通ると

            港が見える崖にでる。一郎、港を眺めていると

            木陰の方から足音が鳴り響いた。 

            

     一郎「……! 誰かいる……」



            一郎、恐る恐る木陰の方に歩いていく。木々の隙

            間から奥の細道に香織(3)が山菜をとっている。

     一郎「ねー! 君も一緒に待とう? 」


            一郎、香織の元に走り出す。香織、怯えた表情で、

            山菜を入れたカゴを落とす。一郎から逃げる。


     一郎「まってー」

            

            一郎、香織を追いかける。

            香織の手を掴む。香織、一郎を目を泳がせて見る

            一郎、元気よく話しかけた。

            

     一郎「ねぇ! 君のお父様も、兵隊さんなの? 」

            

            香織、首を傾げる。下を向きながら小さく頷いた。

            

     一郎「やっぱり!僕とおんなじ、兵隊さんのお父様なんだね! 」


            一郎、香織が落としたカゴと山菜を集めて返す。

 

     一郎「君のお父様も、山菜が好きなの? 」

     香織「うん……お父さん、山菜で作ったお餅が好きでなの。だから

        毎年、この日にワラビを取りに行くんだ」

            

            一郎、香織の手を引き森の奥へと足を踏み入れた。

 

     香織「どこに行くの……? 」

     

            一郎、指を刺すワラビが大量に生えており、動物

            達のなき声が聞こえる場所にいた。


     一郎「僕、昔船を探してたときに、この山菜がいっぱい生えている

        場所を見つけたんだ。それで、お母さんと一緒に持って帰っ

        て、お菓子屋さんにお餅を作ったんだ。だから、君にも教

        えたかったの。お父様に、いっぱいわらび餅、食べさせて

        あげて?」

     香織「ありがとう」

 

            一郎と香織、ワラビをカゴいっぱいにとる。

  

     ○森   昼

     

      海の見える海岸に行き、2人で海を眺めている。

      香織「ねぇ……このお水、なぁに……? 」

      一郎「海だよ!あの船に乗ってお父様達は帰ってくるんだよ」

      香織「どうして香織が兵隊さんの子どもだって思ったの……?」

      一郎「僕のお父様。この海の先で訓練をしているんだ。それで

         今日は海の向こうから帰ってくる日だから、山菜をとって

         たのを見て、僕とおんなじ。お父様を待ってたのかなって

         思ったんだ。島のみんなもそうしてるでしょ?」

         

            香織、下に俯き、カゴを見ると口を薄くひらいた。

 

      香織「香織ね、街のこと知らないの。街に出るなってバァバに

         言われてるから……」

      一郎「……でもどうして森にいるの?森にはお化けがいるから

         きちゃダメなんだよ?」

      香織「お父さんがワラビ餅が好きだから、山菜を取りに来たの

         私、森からでちゃダメだから……」   

          

           一郎、海を見た。

 

      一郎「じゃぁ今日はお父様と一緒に帰って、一緒に山菜のお餅

         を作るといいよ。そうしたらお父様もきっと喜ぶよ?」

      香織「……うん」


      ○古宇利島・一郎の家 夜

            

            太郎(50)、静(36)、一郎食卓を囲む

      

      一郎「それでね!今日かわいい女の子に出会ったの!」

      太郎「そうか、どんな子か気になるなぁ」

      静 「そのことはどこで出会ったの?」

      一郎「……」

      静 「まさか森にまた1人で……」

      太郎「いいじゃないか。この子も悪気があって行ってる訳で

         はないし」

      静 「でも……」

      太郎「それにあんな老婆に子どもなんていやしないさ。気にする

         ことじゃない」

      静 「あの男のことですから、信用できません」

             

             静、おひつを持って立ち去る

      

      太郎「(ため息を吐く)たく、どうしてあそこまで頑なに嫌が

         かね……」

      一郎「ねぇお父様」

      太郎「ん?」

      一郎「どうして森に行っちゃいけないの?」

      太郎「……」

      一郎「僕知ってるんだよ。森にお化けなんていないって。でも皆

         あの森に行くなっていうんだ。何も怖いものなんていな

         いのに。どうして?」

      太郎「……なぁ一郎。おまえは賢い子だ。なんでも物事をよく理

         解できる。だからお前は自分の目で、心で感じたものを

         信じて生きてほしい」

      一郎「信じる……?」

      太郎「そうだ。お前なら多分わかると信じている。頼んだぞ」

      一郎「……わかった。お父様」

      

      

      ○海岸・昼(春)

 

              香織(5)と一郎(5)、誰もいない砂浜で、

              貝拾いをする

              一郎は白い貝を持って、香織の元に向かう。


      一郎「ねぇみて!香織ちゃん。この貝殻、綺麗!」


              香織、一郎の手のひらを覗き込んだ。


      香織「うわぁすごく綺麗! 」

      一郎「えへへ、でしょ? あっちで拾ったんだ〜」

      香織「本当に一郎くんは真っ白な貝を拾うのが上手だね! 」

      一郎「うん! だって香織ちゃんに似合うから」

      香織「私?」

      一郎「うん! ほら」


              一郎、持っている貝殻を香織の髪にかざす。

              

      一郎「すっごく香織ちゃんに似合ってる。」

      香織「……ありがとう一郎くん」

      一郎「うん!」

           

              香織、ポケットから赤い糸芭蕉を取り出した。


      一郎「なーに? その糸」

      香織「これはね〜糸芭蕉!」

      一郎「なにそれ?」

      香織「おばぁから貰ったの。おばあのおばあに教わって、

         おばあが初めて作った大切な糸なんだって〜! 」

      一郎「へぇ〜」

              香織、琉球糸芭蕉を貝殻に巻き、首飾りを作る。


      香織「これをこうして巻いて…できた! はい、ネックレスだよ」

      一郎「すご〜い!可愛いね」

 

              香織、糸の両端を手で握る。貝のネックレスを

              一郎の首にかける。


      香織「はい! これ一郎くんにあげる」

      一郎「僕に? 」

      香織「うん!これは香織と一郎くんが、ずっと一緒ってあかし!

         約束ね?」

      一郎「約束する! 俺大きくなったら、香織の旦那さんになる!

         ずっと守ってみせるよ」


              後ろから沙織(70)が香織を捕まえようと走

              ってくる。


      沙織「コラー!香織ー、坊主ー!」


              静江を見た香織と一郎、笑いながら走って逃

              げる。

      

      ○一郎の家・夜



              一郎、玄関の扉を開ける。静(28)、竈門の

              火元に竹筒で息を吹きかける。一郎、靴を揃え

              玄関に置く。


      一郎「ただいま〜!」

      静 「あら、お帰りなさい。」

       

              静、エプロンを取り、一郎の前に腰をかけた。


      静 「あら?そのネックレス……」        

      一郎「なんでもないよ!」

      静 「一郎。何度も言っているでしょ?もうあの子と遊ぶのは

         やめなさい」

      一郎「どうしていつ戻ればっかり……俺は、香織ちゃんの事すっ

         ごく好きだから、離れ離れになるの嫌だ!」

      静 「あの娘の父親。金城武かねしろたけしは、戦争反対

         のデモを起こした非国民なのですよ。」

      一郎「え……」

      静 「今まであの人のためにと言ってこなかったのですが、あ

         の娘は非国民の娘。だから街に降りられない反逆者なの

         です。非国民は貴方だって許せないはず」

      一郎「……で、でも……!」

      静 「分かったらもう二度と関わらない事。良いですね」

      一郎「……」

      

      ○海岸・昼


              香織と一郎、2人で海岸を歩いているも、一郎

              が下を向き続けているのを、香りが気つく。

    

      香織「どーしたの?一郎くん」

      一郎「…香織ちゃん、非国民の娘…なの?」

      香織「へ?」

      一郎「俺、聞いたんだ。香織のお父様の事戦争反対のデモを起

         こした非国民だって」

      香織「……」

      一郎「違うよね…?だってあの日、お父さんのためにワラビを

         取りに行ってたし……戦争が嫌いなら、兵隊のお父さんが

         いるはずな……」

      香織「…あーあ!バレちゃったなぁ」

      一郎「え?」

      香織「そーだよ。香織は非国民だよ。あの日にワラビを取りに行

         ったのは、頼まれただけだもん」

      一郎「…嘘ついてたってこと…?」

      香織「そうだよ?ずっと一人でいるのがあきたから、嘘ついて

         一郎くんと遊んでただけ〜」

      一郎「じゃぁ僕とずっと一緒にいようって言ったことは?あの

         約束は?」

      香織「そう言ったら一郎くんが騙されてくれるかなって思った

         だけだよー香織は一郎くんなんてこれっぽっちも好きじ

         ゃないもん」

      一郎「ひどいよ!香織ちゃん!」

      香織「なんとでも言えばー?」

      

              一郎、香織の元を立ち去る。

              


      ○一郎の家・昼

             

              一郎、静の元に泣きながら歩いていく。

 

      静 「あら一郎。お帰りなさい」

      一郎「…ん…」

      静 「あら、どーして泣いているの?」

      一郎「香織ちゃんがね、俺の事なんか好きじゃないって…あきた

         って…」

      静 「あぁ…可哀想に…本当にあんな女と離れてよかったわね」

              

              静、一郎を抱き締める。

      静 「もう二度と、あんな女の元へは行くのではないですよ。あ

         なたを弄ぶだけの醜女なのですから」

        

              一郎、静を突き放す。

        

      一郎「醜女なんて言わないで!香織ちゃんは、そんな子なんかじゃ

        ない!」

      静 「ならどうしてあんな酷いことが言えるのですか」

      一郎「……わかんない……けど理由はあるはずだから……ちゃ

         んと話してみたい」

      静 「……」

      一郎「行ってくる……」

      静 「……わかりました。行ってらっしゃい」

               

              一郎、家から出る。            

      

      ○森の香織の家・昼

             

              一郎は、香織の家まで走って来た。香織の家に

              入ろうとすると、大きな泣き声が聞こえる。

      香織「(大きな泣き声)」

      一郎「か、香織ちゃん…?」


              一郎、物陰に隠れて話を聞いていた。


 

      沙織「あんたって子は、本当に馬鹿なんだか、不器用なんだか」

      香織「だって…!一郎くんが非国民と一緒にいたら、私達みた

         いにいじめられるんでしょ?一郎くんの家族だって、私

         のせいで嫌われちゃう…そんなの嫌なんだもん!」

      沙織「だから言ったじゃろ?最初から一緒におらん方がええと…」

      香織「だって!好きなんだもん!ずっと一緒にいたかったんだ

         もん…!」


              一郎、香織の元に行く。

      一郎「香織ちゃん!」

      沙織「んな!このバカモン!!いつもいつも来よってからに!

         来るなと言うとるじゃろ!帰れ!」

      一郎「嫌だ!俺、絶対帰らないもん!」

      沙織「お前もお前で本当に馬鹿じゃのぉ!お前達が一緒にいれ

         ばいるほど、辛いだけなんじゃよ!非国民と居れば、他

         の大人達が良くは思わん!その結果、大人達から引きは

         がされる未来しかないのじゃよ。好きになれば好きにな

         るほど離れるのが辛くなる。それを今日知ったじゃろ?

         ならもう今のうちに会わないようにしなさい!」

      一郎「嫌だ!」

                  

             一郎は香織を抱きしめた

      

      一郎「ぜったい離さないもん!何があっても、ずっと一緒に生

         きていくんだもん!」

      香織「い、一郎くん…!?」

      一郎「非国民なんて関係ないよ!だって香織ちゃんは、俺のお

         嫁さんになるんだもん!」

      沙織「まだ言うか!お前自分の母親から家を追い出されてもい

         いのか?」

      一郎「いいよ、家を出ていけって言われても皆から虐められても、

         香織ちゃんの手だけは離さないもん!」

      香織「(泣きながら)一郎…くん…」

      沙織「はぁ〜とんだバカふたりじゃ…わしゃ知らんぞ?」

          

              沙織、いの間からはける

              

      香織「一郎くん、どーして?非国民は嫌いって言ってたじゃん」

      一郎「関係ないよ。俺は非国民なんて関係なく、香織ちゃんと

         一緒に居たい。香織ちゃんは?もう好きじゃない?」

      香織「私…私は…一郎くんが好き…!ずっと好きだよ!飽きた

         りなんかしてない!ずっと…ずっと…!」

      一郎「じゃあ…もうどこにもいなくなんないで?俺とずっと一

         緒にいよう」

      香織「…うん…!」


     ○ 1941年、12月の雪の日。一郎の家にて


              一郎(13)、香織(12)の家に手見上げ

              を持ってやってくる。

              

      香織「おはよ!一郎、お誕生日おめでとう!今日で13歳だね!」

      一郎「ありがとう。13歳の香織ちゃん(少しおちょくる様に)」

      香織「あ!また毎年恒例の年下扱い!」

      一郎「だってしょうがないじゃん。俺の方が先に誕生日なんだし」

      香織「一週間違いでしょ!馬鹿にしないで!」

      一郎「はいはい、おちびの香織ちゃん。(からかう)」

      香織「もー!」

      

              一郎と香織、家でのんびりとくつろいでいる。

              ラジオのの音声をあげる。

              

      (声)「臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上

          げます。大本営陸海軍部。十二月八日午前六時発表、

          帝国陸官軍は本八日未明、西太平洋において、アメリカ・

          イギリス軍と戦闘状態に入れり。」

          

               一郎、青ざめる

              

      一郎「まずいぞ……香織、すぐに家に帰る……」

      香織「どうして?お誕生日会は?おばあ帰ってきちゃうよ?」

      一郎「いってる場合かよ!」

      香織「ねぇどうしたの?なにがあったの?」

      一郎「香織、これは……戦争だ。」

      香織「へ?」

      一郎「戦争がやってくる…!」


 

               一郎、家に向かって走る。

               

      香織「一郎……!」

               

               扉を勢いよく開ける一郎。静(38)が

               歩いて目の前で正座する。


      一郎「母さん!」

      静 「一郎さん。どうしたの?」

      一郎「(息を切らす)アメリカ、との、戦争が始まっ、ちゃう

         みたい……」

         

               沙織、一瞬驚く。すぐ同情を隠し、凛々し

               く。

      静 「だからどうしたというのですか」

      一郎「え?」

      静 「あなたも日本男児でしょう。覚悟くらい出来ているでしょ?」

      一郎「どうしてそんな事を言うの?父さんが言ってたじゃないか

      戦争がやってくれば…」

      

               沙織、一郎の頬を平手打ち。

               

      静 「いい加減にしなさい!それ以上は言ってはなりません!」

      一郎「なんでだよかぁさん!戦争が来れば、沖縄が真っ先に領

         土を奪われ、無残に人が殺される!沖縄人に逃げる場所

         なんてどこにもないんだよ!?」

      静「その様な非国民的発言はつつしみなさい!日本が負ける

         とでもお思いで?」

      一郎「……(言葉を詰まらせる)」

      静 「良いですか。陸軍大佐の息子であるあなたが、その様な

         発言をすればこの島に住む者が不安になるでしょう。それ

         にねぇ、異国の民が日本の領土に入らない為に、今も皆

         兵隊様がお国を守っているのです。それくらいわかるでしょ?」

      一郎「でも母さんもしっている筈だ!日本がおされている事を…!」

      静 「……(息を詰まらせる)」

      一郎「父さんは俺たちにだけ現状を話してくれた。逃げる術も。

         母さんは父さんよりも、国を信じるの?」

      静 「(沈黙の後)確かにあの人は、私達にだけ真実を教えて

         くれました。私だって不安で仕方ない。父さんの活躍を

         応援する反面、どこかで終戦を待ちわびております。でも、

         言葉にしてはならないのです……それを口にして、誰か

         が聞いていたら、どうするのですか?あなたの守りたい人

         を傷つけることになるのです。良いですか、なにがあって

         も、この事は私達の胸に秘めなさい。」

      

               (沈黙)

      

      一郎「…それじゃあ香織は?何も知らない香織は、どうなるの

         ですか…?」

                

               沙織、俯く。

      

      一郎「生涯かけて香織を守る……それがずっと、俺の夢です……

         香織がこの事を知らず、戦争で死んでしまったら、俺は一

         生自分を許せない」

      静 「一郎……」

      一郎「母さん、香織には伝えてはならないのですか……?」

       

              沙織、小さく頷く。

              

      一郎「…ならせめて、香織を、俺の伴侶に迎えたいです」

      静 「ずっと言ってましたものね」

      一郎「はい。せめて自分の手で、守りたいのです。隣で、出兵

         したとしても、彼女のために国を守りたいのです」


              沙織、箪笥から軍服を出して、渡す。

              

      静 「これは、父さんが私の家に始めてきたときの軍服です。

         一級品物ですから、失礼はないでしょう。これを着て、

         香織さんの元を訪ねなさい」

      一郎「すぐに結婚を申してもいいのですか?」

      静 「あなたに残された時間はあまりありません。覚悟がある

         ならいきなさい。私ができるのは、これくらいなのです

         から…」

              

              一郎、母さんに頭を深々と下げ香織の元へ走る。

     

      ○海岸(ハートロックの見える)夕

              

              一郎、貝殻を見てそわそわしながら香織を待つ。

              

      香織「一郎…?」

      一郎「香織……俺と、結婚したいと、今でも思ってくれてるか?」

      香織「け、結婚!?」

      

              香織、初めは顔を赤くして驚いていたが、

              一郎の思い詰めた顔を見て、俯く。


      香織「あれから10年たったけど、変わらず一郎とずっと一緒に

         なりたいと思っているよ」

 

              一郎、崩れるように香織の肩に頭を乗せ


      一郎「ありがとう…」

 

              一郎、肩を抱き、香織を抱き寄せる。

    

      香織「どーしたの、何かあった?」

      一郎「結婚、して欲しい…大人になってからじゃなくて、今」

      香織「えっ……(赤面)」

      

              香織、沈黙の後笑顔で

               

      香織「一郎の事だから、真剣に考えて出た答えなんだと思う。

         だから、一郎が言うなら、私はいつでも受け入れるよ。

         それが今日でも、明日でも」

 

              互いに顔を見つめた後、キスはをかわし、

              笑顔に

               

      ○香織の家・外 夜


              沙織(80)、庭で繊細な糸に色を染め

            


      一郎「香織のおばあ様。本日はお話があってここへ参りました」

      沙織「(穏やかに)おかえり、ささ、誕生日会をしよ……」

            

            沙織、一郎を見て察する

      

      沙織「……(笑顔で)どうぞおあがり」

      

               

      ○香織の家・中 夜         

      

      一郎「おばあ様…」


             沙織、首を降って笑いかけた。

             

      沙織「話はわかっているよォ〜結婚、だろ?」

      一郎「…どーして知っておられるのですか」

      沙織「ほほっ、お前さんのその堅苦しい態度じゃよ。いつもお

         ばあおばあと懐いとるのに、こんなに改まって、軍服ま

         で着ておったら、分かるぞ」


             一郎、胸を撫で下ろす。沙織、重い口調になる。 

      沙織「私の息子はのぉ、正義感の強い子じゃったぁ。虐められ

         た子があれば、行って、守ってやり、風邪の子があれば

         看病に行っただからじゃのお…日露戦争で、多くの仲間

         が敵を殺す姿を見て、悔いておった」

      香織「それって……お父さんは……」

      沙織「これ以上、市民を戦争に染めてはいけないと、家族を捨

         てて、同士を募った。そして、あの子は天皇様に背いた。

         戦争反対のデモを起こした……」

      一郎「(息を呑み、仏壇の写真を見る)」

      沙織「正しい事をしたよ。戦争で人を殺して、称号を貰ってい

         ばる奴らなんかよりよっぽど正しい!」

      香織「だめだよおばあ、その言葉はひ……」   

      沙織「(被せる)でも、あの子に待っていたのは、処刑ではなく、

         奴隷になった中国の人々を毒殺することだった……!」

 

             その場にいた2人は絶句する。


      沙織「多くの中国人を殺したと言っていた。多分その中には善

         良な市民もいたじゃろ……人を殺した私の息子…香織の

         父は、日本兵に頭を撃ち抜かれて死んだ。遺骨を貰った

         時に、日本兵の1人が毒殺を立派だと称え、英雄の死のよ

         うに私に告げた。わしは後悔したよ。自分の息子を非国

         民だと罵ったこと。正しい事をしたあの子に寄り添って

         やれなかったことを」

         

             沙織、2人の手を取る

             

      沙織「いいか、2人とも。これから何があろうと、この事を忘れ

         ないで欲しい。そして、もしお前たちのどちらかが国を

         裏切ったとしても、絶対に相手を信じてやって欲しい。変

         な意地を張る必要は無い。それで後悔するくらいなら、人

         を殺す度胸があるなら、非国民にだってなんだってなれ」


             2人は頷く。

 

      愛(N)「その10日後、2人の式は開かれた。酒やジュースを

           くみかうだけの質素なものだった。親戚もおらず

           おばあと一郎の母だけが同席していたが、星達は

           優しく2人を照らし続けた」

            

      ○海岸 夜

             式を終えた2人、海を眺め

             

      一郎「あっという間だったな…結婚式」

      香織「うん。今とっても幸せだよ。一郎…これからは一郎さん

         かな?」

      一郎「これからだよ。これから沢山楽しい思い出も、辛い試練も、

        2人で沢山つむいでいこう」

      香織「……はい」

     

              2人、互いの手を強く握り締める。

  

      ○3年後一郎宅・昼

              

              翔子(2)が香織(15)と家事をしている。

              

      香織「翔子〜一郎さんを呼んできて〜」

      翔子「はーい、お母様」。

             

              少年兵の格好で帰ってくる一郎(15)、翔子

              を見て、抱き上げる

      一郎「ただいま。翔子」

      翔子「あはは、お帰りなさい!」

      香織「一郎さん、お帰りなさい」

      一郎「あぁ、ただいま」

      香織「今日も訓練お疲れ様でした」

      一郎「ありがとう。そっちも大変だっただろう」

      香織「いいえ、翔子が頑張ってくれましたから」

      一郎「翔子がか……えらいぞぉ(頭を撫で)」

      翔子「(笑う)」

              

              一郎、香織を見て笑顔で手招きをする

      

      一郎「今晩話をしよう」



     ○一郎の家・寝室 夜

     

              一郎と香織、布団に2人で横になり、抱き合

              って寝る。一郎、頭を撫でながら話し始める


     一郎「もうすぐ、アメリカ軍が沖縄に攻め入るでしょうそうなっ

        たら、この古宇利島は、真っ先に標的になります」

     香織「え、でもこんな小さな島に攻めいれられれば、あっという

        間にアメリカ兵に捕まってしまいます」

     一郎「はい。それで話があります。もし、アメリカ軍が沖縄に攻

        めいることがあれば、本土に逃げてください」

     香織「しかし、この島から本土に行くには船が必要です。そのよ

        うな事できるのですか?」

     一郎「こんな事も有ろうかと、私の母に避難準備と、船の隠し場

        所を伝えてあります。それを使って本土に向かってください」

     香織「ずっと私達のために用意していたのですか?全然気づかなか

        ったです」

     一郎「えぇ、私があなたと結婚して3年間の間で作り上げました」

     香織「3年!?」

     一郎「安全という訳ではありません。最悪数日しか生きられない

        かもしれない。でももし、本土に行けるなら、運が良けれ

        ば終戦を迎えるまで持ち堪えることが出来るかもしれない」

     香織「一郎さん…」

     一郎「お願いです。香織、一日でも長く生きて……」

              

              香織、一郎の手を握る

              

     香織「えぇ、必ず本土に行ってみせます」


     

     ○ 1年後・一郎の家 夕

              

              軍服姿の一郎(16)が家に帰ってくる。

              翔子(3)、わらびの入ったカゴを持ちなが

              ら一郎に駆け寄る 

 

     翔子「お父様ー。おかえりなさい」


              香織(16)、いの間から小走りで走ってや

              ってくる

              

     香織「あなた。おかえりなさい。今日は早かったんですね……」

              

              香織、前掛けで手をふき、一郎を見る。

              一郎、静かに笑っていた。

     

     一郎「今晩が最後だ」

     

              香織、首を横に振りながら走って近寄る。

              

     香織「赤紙は届いてはいません!」

     

              一郎、首を横に振り、香織の肩をもつ。


     一郎「沖縄戦が、もうすぐ始まるのです。それに伴い、私達は明

        日から準備をせねばなりません」

     香織「(驚きで言葉を詰まらせる)」

     一郎「分かってくれますね…香織」


               一郎、悲しい笑み。香織、唇をかみしめう

               なずく

     香織「はい…」

     

     ○一郎の家・庭 夜

               

               香織と一郎、縁側で寄り添い、小さな声で

               話し始めた。

     

     一郎「月が綺麗だね」

     香織「はい。とても」

     一郎「こんなにも穏やかな夜は、久しぶりな気がするよ」

     香織「いつもは翔子が起きているから、夜でも賑やかですものね」

     一郎「あぁ。翔子は本当に昔の香織にそっくりだね、この子を見

        てるといつもあの頃のことを思い出すよ」

        

               近くに寝ている翔子を見て

               

     香織「一郎さんの誕生日になったら、毎年年下扱いされて怒ると

        ころですか?」

     一郎「ははっ、懐かしいなぁ。そんなこともあったね」

     香織「ふふっ、本当に……」


               (間を置く)

               

     香織「どーしてでしょうね…昨日まで一緒にいることが当たり前だ

        ったのに、覚悟もしていたんですよ?でもこーして、今そ

        の時が来て、悲しくてたまらないのです……」

     一郎「香織……」

     香織「…ねぇ、一郎さん。もしこの戦争が無くなったら、3人で

        静かな場所で暮らしたいです。争いのない、静かな場所で…」

     一郎「…あぁ、その時は、私が香織の願いを沢山叶えるよ。どんな

        願いでも、絶対に君を満足させてみせる」

         

               一郎、優しい笑み。思わず涙する香織。

               香織、一郎の胸に中に顔を隠した。か細い声

               で話す。

     香織「願いなど、とうに叶なっています。貴方と出会えたこと。結

        婚した事、そして今日までずっと一緒にいられた事……あな

        たは私に全てを叶えてくれました。叶う度に、私に沢山の幸

        せをくれました……もう私には、願いなどありません」

     

               一郎、香織を抱きしめて、小さく呟いた。

               

     一郎「今宵くらい良いではないですか。強がらないで」

     香織「行かないで一郎……!ずっと私と、翔子と3人で生きて」

     一郎「出来ることなら、今すぐにでもしたいです…貴方を離したく

        ない……!」

     

     ○一郎の家・玄関 朝(晴れた雨)


               一郎、軍服と荷物を持ち、香織が作った弁当

               を手に、玄関の前に立つ。

               

     香織「行ってらっしゃい、貴方…お国のために……」

               

               一郎、言葉をかぶせて笑いかけた。

               

     一郎「あぁ、君を絶対に守ってみせるよ。国のためでは無い。あ

        なたの為に……」

     香織「……はい」


               香織、涙に滲む笑顔で送る。

               一郎、振り返り歩み出す。

     

     一郎「行ってきます。お元気で

     

               扉がピタリと締まり、足音が遠くなっていく。

               

     香織:…ぐすっ(すすり泣き)

               

               一郎のいない部屋を見て思い出達が呼び起

               こされていく。涙をふきとびらに向かってい

               勢いよく走り出す。玄関を勢いよくあけ、家

               の外の道を見る。太陽の光が誰もいない道を

               照らしつけている。

    

    香織「あぁ……ぁ……あぁぁぁぁ!!(泣き叫ぶ)」


               泣き叫ぶ香織の声に気づき、一郎も涙が溢

               れ出てきた。

    一郎「どーして…こんな……俺はただ、貴方とずっと……一緒に生

       きていたかっただけなのに……!」

               

               


   ○3月・海岸 昼


               香織、翔子、静(42)、沙織(84)港

               で船の用意をする。船に香織、静、翔子が

               乗る。沙織が乗ろうとした時、後ろおから

               村の住人がくる。

               

   沙織「……来よったか……」

   村人1「おい非国民ども、こら一体どーゆーことだ?」

   沙織「何って、こーゆー事じゃよ!」

              

               沙織、船を海へと押し入れた。

               

   香織「おばぁ!!」

   村人2「な、何してんだババァ!」

               

               島の男2人が船を追いかけようとする。

               沙織、男二人を投げ飛ばし、香織に叫んだ

               

   沙織「早くこいでゆくのじゃ!」

   香織「おばあ!」

   沙織「なーに、私しゃこの島にいる方がしょうにあっとる」

   香織「でも!それじゃあおばぁが……」

   沙織「死にはしないさ、おばあは強いからのぉ」

   沙織「おばぁ……」

   

               本土行きの船は、古宇利島からどんどん離

               れていく。村の人々が沙織に襲い掛かるも、

               次々に薙ぎ倒される。

               

   沙織「達者でな。香織」

   香織「ありがとう……おばあ……」



   ○少年兵の本土のガマ・中 昼


               教官の大きな声がガマの中に響いていた。


   教官「現在本土に敵襲があった!ここもそう長くは持たないだろう!

      お前たち、気合いを引きしめて戦いに望むように!」


               一郎、背筋を伸ばし教官を見つめる。ふと

               隣を見る。戸田の胸ポケットから写真がは

               み出ていた。

               

   一郎「教官」

   教官「なんだ」

   一郎「教官。少し上の方から物音がしたので、自分が見に行ってもい

      いですか?」

   教官「ん?そう言って逃げるつもりじゃないだろうな!貴様!」

   一郎「いいえ。陸軍大佐の息子の名にかけて、そんな恥じるような真

      似は致しません。ただ、敵襲がそこまで来ているのなら、私が

      偵察に行きたく思っただけです。不安であれば、見張りにこの

      者を同席させていただけませんか(戸田の腕を掴む)」

   教官「む、そうか。お前があの噂の陸軍大佐の息子か…素晴らしい心

      意気だな。行ってきなさい!」


               一郎、戸田にともに行くよう声をかけた。


   戸田「どーしたの、僕を呼んで」

   一郎「胸ポケットの写真。落とすよ?」

               一郎、写真を指さす。戸田、慌てて写真をポ

               ッケに直した。

               

   戸田「このためにわざわざ呼び出したの?」

   一郎「あぁ、あの教官口うるさそうだったからな。もしあの場で指摘

      したら、私情は捨てろとか言い出しそうだったし」

   戸田「……優しいんだね。一郎くん」

   一郎「そんなナヨナヨ話していたら、あの教官に目をつけられるぞ」

   戸田「あっ!ごめんなさい……」


               一郎、双眼鏡で海を見る。大量のアメリカ

               兵の船が見える。

               無数の爆弾を本土めがけて打っている。

               

   戸田「何を見てるの?」

   一郎「軍艦の数。ここで何もせずに帰ったら、怒られるだろ?」

   戸田「確かに…一郎くん凄いね」

   一郎「そう?」

   戸田「うん!何だろう。人の様子とか、よく見てるね?」

   一郎「あぁ……実は俺の嫁さんと色々あってさ。3歳の頃、1度離れ離

      れになった事があるんだ…でも後悔して。お母様の言うことを破っ

      て嫁さんのところに行ったら、すっごく泣いてた。それ見た時に

      何が正しいのとかさ相手の思ってることの大切さとか知ったんだ

      だから周りの人の様子とか、相手の本音とか、何が正しいのか見

      極める様になったんだ……」

   戸田「へぇ…素敵なお嫁さんなんだね」

   一郎「……うん。世界一の女性だよ」

   

               教官が後ろから2人を呼んだ。


   一郎「遅くなり、すみません」

   教官「全くだ!今まで何やってたんだ!まさか私語なんてしてないだ

      ろうな」

   一郎「はい。敵艦の数と、現在の状況を把握しておりました」

   教官「ふざけるな!この距離からそんなものがわかるわけが無い!」

               

               教官、一郎を殴ろうとする。一郎、割り込

               むように話し続けた。

               

   一郎「戦艦10隻・巡洋艦9隻・駆逐艦23隻・砲艇177隻が援護射

      撃をしていました。敵は恐らく、6万人の兵士を上陸させ、中西

      部に飛行場を設けるつもりかと思われます」

   教官「何をデタラメな……!」

   一郎「私たちは、確かにこの目で見ました。教官がご不審に思われる

      のでしたら、是非、見てください」

              

               教官、再び殴ろうとする。伝達が入る。

    

   伝達(声)「こちらは第3部隊。こちらは第3部隊。応答頼む」

   教官「……こちら、第8部隊少年兵団」

   伝達(声)「現在敵は戦艦10隻・巡洋艦9隻・駆逐艦23隻・砲艇

         177が援護射撃をしていました。敵は恐らく、6万人

         以上いると思われます」

   教官「(言葉を失う)」

   伝達(声)「どうされましたか?第8部隊教官」

   教官「いえ、失礼します……」

    

               受話器を下ろす

   

   教官「……一郎……どーやってこの情報をしった……」

   戸田「教官!僕は見ていました。一郎くんは、海を見ていただけです!」

   教官「…今回は見逃してやる。次があると思うなよ?」

   一郎「……戸田……」

   戸田「礼はいいよ。君が居なきゃ、僕も今頃殴られてた」

   一郎「あぁ、わかった」


 

   ○1ヶ月後本土のガマ・昼

             

              戦況が激しくなる中、香織と翔子と静は、豪で

              座り込んでいる。爆弾の音で村人2(女)が悲

              鳴が聞こえてきた。

   

   香織「(祈り)一郎さん、貴方だけでも無事でいてください……」

   翔子「ママ〜」

   香織「翔子、どーしたの?」

   翔子「まだ戦争終わらないの?」

   香織「……」

   翔子「私もう、こんなの嫌だよォ。お父様、帰ってきてぇ……!」

   香織「……大丈夫だよ。翔子。一郎さんがきっと助けてくれる。だから、

      その日まで、3人で生き残りましょう?」

   翔子「う、うん……」

              

              静、音も立てずに横たわった。

              

   香織「静さん……?」

              

              香織、静の手を握ると冷たくなっていた。

   

   香織「うそ…どーして、お母様!」

   

              香織、救命になるものを探すため、一郎の母

              のリュックを開けると、1週間分の食料を見つ

              ける。手紙があり、「2人で生きるのですよ」

              と書いてあった

              

   香織「まさか……私たちのために……?」

   

              香織、恐る恐る静の顔を見る。静、笑顔で寝る。

   

   香織「お母様……お母様!!」

              

              香織の涙き崩れる。

   

   香織「……もう終わらせよう……」

   翔子「お母様?」

   香織「翔子、私達はここから出て、お父様の元へ行きましょう。もうこ

      んな戦争、辞めさせるのです……!」

              

              翔子と香織、ガマからでる。目の前にはアメ

              リカ兵が集まっている。

   米兵1「コンニチハ?」

   

              香織翔子を抱きしめ身構える。

   米兵1「私、ウタナイ。トウコウシナサイ」

              

              香織、後退りするも翔子が向かっていく

              

   香織「翔子……?」

   翔子「大丈夫だよ、おばあに教えてもらったんだ」

              

              翔子、アメリカ兵に話しかける。手に白い貝

              殻を持って、赤い糸で巻き付ける。

   

   翔子「あなたにあげる」

              

              アメリカ兵は不思議そうに見るも、表をつか

              れたように笑い始める

   

   米兵 2「you are so crazy」

   

              米兵1に翔子、一郎と香織の幼い写真を見せる。

              

   翔子「これはずっと一緒のおまじないなんだよ」

              

              翔子、米兵1の手を握って笑いかける。

   

   翔子「みんな同じ苦しみも、同じ笑顔も一緒に分かり合えるお友達。

      だからずっと、みんな仲良く一緒にいよう」

              

              米兵1、言葉に詰まった後、困った顔をする。

   

   米兵1「僕、アナタノ友達、イッパイ殺シテル。ソレデモ友達?」

              

              翔子、笑顔で首を縦に振る。

   

   翔子「みんな同じだけ苦しいんだ。もういいの。だからお友達として

      これからは仲良くしようね」

              

              米兵1貝殻を手に、笑いかける

   

   米兵1「I’ll definitely protect you」

   

              アメリカ兵は香織と翔子を囲み、安全な方へと

              誘導する。

   

   翔子「あのね、米兵さん」

   米兵1「何?」

   翔子「パパを助けて」

   米兵1「……」

              

          

   ○少年兵の本土のガマ・中 昼

   


              教官、静かに宣言する。

   

   教官「先ほど連絡が入った。今近くのガマで民間人が襲撃にあったと」

   一郎「もう長くはない……」

   教官「打つ手なしだ……」

   

              教官、少年兵と一郎に手爆弾を持たせる。

   

   教官「せめてお国のために、名誉ある死を選ぼう」

              

              少年兵、引き金に手をかけた。次々と人がしぬ。


   戸田「一郎くん」

   一郎「なんだ?」


              一郎の手から手榴弾を取り上げ


   戸田「君は死なないで。嫁さんにまた笑顔を向けてあげて……僕は死ぬ

      事を選ぶけど、君は会うべきだよ。妻に」

      

              戸田、一郎に最後に笑いかけると、爆弾を自

              分の口に投げ入れ、自決した。

   一郎「…戸田…」

   

              一郎、怒りで武器を手にガマを出る。

   

   教官「おぃ!どこへいく!」

   

              一郎、ガマを走ってでると、そこにはアメリカ

              兵の大軍と、妻の姿があった

   

   香織「一郎!」

   一郎「……!」

    

              一郎、武器を手から滑り落とす。


   香織「一郎……」

              

              香織と翔子は一郎に抱き寄せた。


   一郎「香織……翔子……?」

   香織「はい……私と翔子で、投降したんです。ガマを出て、そしてあ

      なたを探すようにお願いしたんですよ……」

   一郎「そっか……そっか……!」

              

              3人、抱きしめあったまま、涙していた。

              そして、香織の手を引かれるがまま、一郎は

              アメリカ兵の元へと駆け寄った。

              

   香織「一郎さん、もう戦わなくてもいいんですよ。軍の元で、3人なら

      生きていけますよ……これからもずっと」

   一郎「あぁ。」

   

              教官、香織に銃を向けて、発泡。銃弾は香織

              の胸を貫通した。香織、横たわる。


   一郎「香織!!」

   

              周りのアメリカ兵が教官をいっせいに打った。

              香織、小さく笑っていた。

   一郎「香織……!」

   香織「……あ、ぁ……翔子も一郎さんも…無事でよかった……」

   一郎「そんな…何言ってるんだ!香織!君が死んでしまったら、私が生

      きていたって、意味が無いじゃないか!」

   香織「一郎……さん?」

   一郎「俺はとなりでずっと、君を守る…小さい頃からそれが叶えたい

      夢なんだ…!なのにどーして……」

   香織「……一郎さん」

   一郎「どーして……守れなかったんだ…!」

   香織一、ろう……?」

              香織、一郎に声をかけようとするも目を閉じ、

              動かなくなる。

              

   一郎「香織……?香織、香織!!」

   

              一郎、涙を流す。香織、一郎の手の中で幸せ

              そうに死んでいた。一郎、香織を抱き上げて、

              ゆっくりと歩み始めた。

              

   翔子「……?お父様……?」

   一郎「翔子、すまない。お前はアメリカ兵と先に行きなさい。俺も、

      後を追う……」

   翔子「は、はい」

  

  

              一郎、ガマの入口から、山をおり、海を出た。

              

   ○海岸・崖の上 昼

   

              一郎、崖の上でポケットから貝のペンダント

              を手に取ると、自分の手と、香織の手に巻き

              付けた。

   一郎「ごめんね…守れなくて…でもせめて、来世でも君と出会ってま

      た恋をして、今度こそ君を一生守ってみせる……この赤い琉球

      糸芭蕉にかけて……」

              

              一郎、海の中に飛び込んだ。もうろうとする

              意識の中。香織の幻覚が見える

   

   香織「……ちろう……一郎……」

   一郎「!」

   香織「一郎。死んじゃダメだよ」

   一郎「どーして……君は死んでしまった。俺は君を1人にしたくないんだ……!

     頼む。私も、君の元へ行かせてくれ!」

   香織「ダメだよ。一郎。それじゃあ翔子は?この先ずっとひとりぼっ

      ちじゃない」

   一郎「……」

   香織「私たちが出会うのは、また来世だってできるよ。きっと必ず私

      はあなたと恋に落ちるわ。でも、翔子は、私達ふたりが死んだら、

      悲しんで死んでしまうかもしれない。そんなことになったら、来

      世であの子に顔向けできないよ……」

   一郎「……(言葉を詰まらす)」

   香織「だからお願い。一郎。翔子の事、私の分まで幸せにしてあげてね」

   一郎「香織!行かないでくれ!香織!!」

   香織「大丈夫。私はいつでも君のそばにいるよ……どこまでも」

   一郎(N)「この言葉に目を覚ました。目の前で翔子は泣き崩れ、

         アメリカ兵たちは、娘を置いて死ぬなと怒っていると、後

         から知った。その後は、早く時がすぎた。翔子は一人前

         の女性となった。顔は全く似ていないが、香織そっくり

         の可愛らしい女の子に育っていった。俺は生涯、一生を

         かけて香織との思い出を描き続けた。その日記は100冊

         以上あったが、誰もそれを見つけることはできないはずだっ

         た」


   ○現代 児童養護施設星空学園 昼

              

              本を片手に読み聞かせをする愛(16)

           

   愛「そして一郎は最後に香織に未来の手紙を送って、生涯を終えました」

              

              子供たちは口々につまらないと言ってさる。

   夢「おっはよー!!愛!」

   愛「うわ!夢お姉ちゃん!びっくりしましたぁ」

   夢「ん?それまた自作小説読み聞かせしてるの?」

   愛「えぇ、まぁお姉ちゃんは読む前に寝ちゃうと思いますが」

   夢「いや、愛の文章が独特というかなんというか……」

   叶「2人とも、何してんだ?」

   夢「叶……!」

   叶「なんだよ、小説なんて書いてるのか……!」

               

              叶、小説を読んで驚いた顔をする。

              

   叶「……夢、ちょっと外してくれないか?」

   夢「え?う、うん。分かった……」

   

              夢はける

              

   愛「お久しぶりです。お父様…いいえ、一郎さん」

   叶「そっかぁ。お前だったのか。翔子」

   愛「はい。私も運が良く2人のもとに転生することが出来たみたいです」

   叶「あぁ…全然気づかなかったよ。翔子」

   愛「ふふ、まぁ前世と全く違いますからね」

   叶「…さっきの小説、もしかして……」

   愛「はい。前世の2人の物語です。この日記を参考にしました(日記

     を取り出し)」

   叶「どうしてその日記のありかを?」

   愛「探したんですよ。父の書斎を入ったら、膨大な量の日記が出てきて、

     全て読みました。辛いけど、何度も何度も……でも全てを読んで、

     私もお母様とお父様の今世の恋を応援しようと思いました。今度

     は長く、2人が結ばれるように……」

   叶「…そっか…でもどうして小説を書いたんだ?別に日記を見れば、

     また思い出せるだろ?」

   愛「そうですね……これは私のやりたい事なんです」

   叶「やりたい事……?」

   愛「そう。私のやりたい事。それは、この物語を描ききる事」

   叶「え……」

   愛「この2人の奇跡を、戦争の恐ろしさと仲良くすることの意味をい

     ろんなメディアに書き残し、作り上げて、すべての人々の心に生き

     る……何年先でも、人類が終わるその日まで」

   叶「……」

   愛「黙って書いてしまってごめんなさい。私の物語に必要だったんです」

   叶「いいや、嬉しいよ」

   愛「え?」

   叶「そうやって愛が書籍を残してくれたら、もしかしたら来世の俺たち

     がそれを見て、また思い出せるかもしれない」

   愛「……ありがとう」

   叶「こちらこそ。俺たちの物語を書いてくれてありがとう」

   愛「いえ…お父様。絶対、今世はハッピーエンド、書けるように一緒

     に頑張りましょう」

   叶「あぁ!」

   

               愛、窓を開ける。


   愛(N)「一郎と香織には、平和の朝日を見る日はこなかった…でも

        今なら見えるよね?赤い丸の国旗が……」

        

   愛「さぁ、ここからが夜明けだよ」

   

   愛(N)「朝日は今、ここに来る」

   


 

見てくださった皆様ありがとうございました。


読んでみてどうでしたか?

私はこの作品を書いたのは小学生の頃から第二次世界大戦に興味を持っていました。

それはたたかいものが好きだったとか、歴史がもともと好きとか言った理由はありません。

私がこの時代を残酷な表現を表さず、楽しく、しかし時に悲しい現実を表したいと思っていました。


おそらく見た視聴者の方は今回の台本を見て、

残酷じゃない戦争なんてないだろう!こんな幸せそうな世界なんてない!

と思う方もいるでしょう。

しかし、いつの時代も幸せな日常もあり、その幸せはいつでも壊れます。

明日あなたの身にも何が起こるかわからない。

だからこそいつでも人生を謳歌することがあることを一郎と香織共々

皆様にお伝えできればなと思い書きました。


香織や一郎のように戦時中の様に苦しい時代ですが、幸せに生きたように、

今悩んでいる1人でも多くな方が幸せに生きて行く力を回復できる日が来ること願っています。

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