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最終話 幻覚

 俺が意識を取り戻したのは、チナミ本社が提携している病院のベッドの上だった。


 俺は点滴をつながれていて、周囲では両親と歯科衛生士の恋人が俺を心配そうに見つめている。



「目を覚ましたのね!? よかった、私、飛行機事故でハヤト君は死んだと思ってたから……」


 両目からぶわっと涙を流して俺にすがってきた恋人の顔が、連れ去られた村長の孫娘の顔に変わっていく。



「……うっ……やめろ! 俺にその顔を見せるな!! 俺の前に現れるな!!」


 自分でも何を言っているのか分からない状態で、俺は恋人の身体を振り払った。



「何でも、漂流した島で大火災があったんですってねえ。救助に来た海上パトロール隊の方が隼人を見つけたのよ」


「そんなはずはない! あの島では殺戮が行われたんだ、人身売買の事実をもみ消すために誰かが火を放ったんだ!!」


「隼人、落ち着きなさい。お前は島民に虐待を受けたせいで心神喪失状態になっているんだ。今すぐ看護師さんを呼ぶからね」


 父親はそう言うとナースコールのボタンを押し、俺は両親の同意に基づきそのまま精神科病院に医療保護入院させられた。





「あの島では島民全員がラ・プラスを信仰していて、何者かがラ・プラスのゲームやバッテリーと引き換えに島の若い娘を連れ去っていたのです。もしかすると主犯はチナミの海外支社かも知れません。今すぐこの事実を警察に伝えてください!!」


「なるほど、おかしな島で大変な目に遭われたんですね。今は仕事を休んで、ゆっくり身体を癒やしましょう。恋人さんもまた面会に来てくださいますからね」


 精神科病院の医師は、明らかに俺の話を妄想だと思っていた。


 俺はそれからも恋人や家族に島で見た光景について訴え続けたが、誰も俺の話を信じることはなく、恋人が悲しそうな目で俺を見ることにはもはや耐えられなかった。



 あの光景は島民に虐待を受けたせいで見た幻覚だと俺も信じることにして、それからは精神科病院を退院して元の生活に戻ることができた。


 ようやく心的外傷から回復した俺を見て安心した表情を見せてくれた恋人に、俺は彼女を心配させ続けていた自分を恥じた。



 俺が日本に帰還するまでの間に「ラ・プラスNEO」は発売されていたが、俺の精神はもはや「ラ・プラス」を普通の恋愛シミュレーションゲームとして見られる状態ではなかった。


 今の俺は子供向けのスポーツゲームである「ポケットサッカー君」の開発チームに回され、恋愛シミュレーションゲーム制作で身につけた能力を選手育成モードの制作へと活かしている。





「君、ちょっと前まで入院していたっていうけど、その時言ってたことを教えてくれないかな?」


「私が見ていた幻覚ですか? おぼろげには覚えていますが……」


 ある日の仕事中、開発チームの責任者である上司は俺を別室に呼んでそう尋ねた。



「君も知っての通り、ポケットサッカー君の選手育成モードは一風変わったシナリオが持ち味でね。君が見た幻覚を題材にしたら面白いんじゃないかと思ったんだ」


「分かりました。ええと、その島ではラ・プラスと引き換えに若い娘が……」



 俺の話した「幻覚」を元に制作された「ポケットサッカー君6」のシナリオは、後に怪作として人気を博すこととなる。



 そのシナリオが、本当に起きた惨劇に基づいているということを知る者は誰もいない。



 (END)

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