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第2話 神体

「皆の衆、今日はこのラ・プラスの島に神の使いが訪れた記念すべき日である。神の使いにご馳走を捧げ、感謝の踊りを見せるのだ」


 村長と呼ばれている老人は、俺を上座らしき場所に座らせると島民たちに英語で命じた。


 損傷が激しいスーツの代わりに現地の衣装を与えられた俺は意味が分からないまま、若い女性たちの踊りを見ながら魚料理中心のご馳走を口にしていた。


 そして、踊り子たちの中心には3つの石像が置かれ、俺はその意匠に見覚えがあった。



「綾香、花凛、咲希……」


「流石は神の使い、我らが三柱の女神をご存知なのですね。アヤカ、カリン、サキの新しい姿は見せて頂きましたよ」


 この島はラ・プラスという名前であり、公用語は英語であることからアメリカやイギリスの旧植民地であると思われた。


 島民たちは漁業と農業で自給自足の生活を送っており、インターネットはおろか電気さえ使われていない。


 男性の島民全員が持っている、ヨンテンドー3DXを除いては。



「私は神の使いではありません。このゲームを作っている、日本のチナミという会社の社員です。皆さんはどうしてラ・プラスをご存知なのですか?」


「ゲーム? ラ・プラスは神々から我ら島民に与えられた女神のお恵みであって、遊びの道具ではありませんよ。我々がこうして三柱の女神を信仰してきたからこそ、神々はあなたという神の使いをここに導いてくださったのです」


 村長はそう言うと、ラ・プラスの3人のヒロインに酷似した石像に向かって深々と頭を下げた。


 他の島民に同じことを伝えても反応は同様で、この島ではラ・プラスは聖典と同様の扱いを受け、島民は恋愛シミュレーションゲームのヒロインに過ぎないはずの綾香、花凛、咲希を女神として奉っている。


 生活に電気が使われていない島で、ヨンテンドー3DXと旧機種の2DX、そしてそれらを充電するための携帯型バッテリーは異彩を放っていた。



 不可思議な感情に脳内を支配されながら食事を口にしていると、踊り子のリーダーであるらしい妙齢の女性が俺の隣に座って話しかけてきた。


「この島はかつて、暴力と怒りだけが支配する悲しい場所でした。大昔に海の向こうからやって来た人々が去ってから、この島では食べ物や土地、そして女性を巡って男たちが何十年も殺し合いを繰り返していました。ですが、ある日ラ・プラスが島にもたらされ、人々が三柱の女神を信仰するようになると争いは収まったのです。今のような暮らしなら、私の父も争いで殺されずに済んだのです」


「悲しい歴史があったのですね……」


 村長や踊り子の話を総合すると、この島にラ・プラスと旧々機種のヨンテンドーDXがもたらされた時期は初代ラ・プラスの北米版がアメリカで発売された時期に一致している。


 この島は植民地という立場を脱してから無政府状態となり、島の内部では暴行や略奪が横行していたが、ラ・プラスと3人のヒロインを信仰するようになってから平和になったらしかった。


 娯楽がない島にとって、美しい3人の少女と幸せに暮らす恋愛シミュレーションゲームは楽園のように見えたのかも知れない。



「この島には発電所などはないようですが、あの機械はどちらから取り寄せられているのですか?」


「神の使いとはいえ、部外者の方に現場をお見せすることはできませんが、この島には月に1回バッテリーと呼ばれるあの機械がもたらされます。2DXや3DXと呼ばれる聖なる機械が壊れても、自然と新しい機械がもたらされるのですよ」


 村長はあまり深くを語りたくない様子で、酒を飲みながら俺にそう答えた。


 この島から脱出して日本に戻れるのかは今のところ分からないが、この島に機械文明が存在しない以上、明らかに島の外部との交流はある。



 その真相を知ることができるまでは大人しく暮らしていようと考えて、俺も村長に勧められた酒を飲んだ。

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