表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネオテニー  作者: 志麻寺みのら
7/14

葛藤

「なるほど。友達ですか」


 加奈は期待に溢れた表情で裕人を見つめている。きっとすぐに良い返事がもらえると信じているのだろう。しかし、彼は混乱していた。


 どうする?友達ならいいんじゃないか?  

 加奈さん、可愛いぞ。これで終わるの惜しくないか?  

 そもそも彼女のいう友達ってどういう意味なんだ?  


 裕人の頭の中で様々な考えが交錯していた。実際には1~2分ほどの沈黙だったろうが、返事を待つ加奈には、とても長く感じた。



 神大路加奈は、里中裕人の優しさに賭けていた。


 大学の夏休み前に範子からARATAに似た同級生がいたと聞いたときは、半信半疑だったが、写真を見た瞬間から心を奪われていた。世に言う一目惚れってやつだ。


 彼女がフィリピン人ハーフの同級生だったことや、幼い頃に両親が離婚し、父親の転勤で高校一年生の三学期からアパートで一人暮らしを始めたことなど、裕人の高校時代のエピソードを範子から聞くほどに思いは募るばかりだった。つい最近、彼女がいると聞かされたが、そんなことで加奈の気持ちが揺るぐことはなかった。


 今日、本人と会って加奈は里中裕人が好きたまらなくなった。でも「好きだから付き合ってほしい」と伝えても彼がOKしないことは範子から聞かされていた。彼女なりに一生懸命に考えた抜け道が「友達」だった。


 彼女や恋人ではない、漠然とした友達という関係であれば、優しい裕人ならOKしてくれる。しかも即答で。今日、彼と話して、彼女はそう確信していた。しかし、彼女の予想は外れて「なるほど。友達ですか」と言ったきり彼は沈黙している。


 なぜ返事をしてくれないんだ。深く考えることじゃないよ

 さっきまでと同じように笑顔で「いいですよ」と言うだけだよ

 よく見てよ。今日のボクは可愛いぞ。髪型だって好みのショートだぞ

 ノリ坊の見立てで買った服は、もっとあるぞ。全部見なくていいのか?

 お願いだから友達になっておくれよ。恋人じゃないよ。友達でいいんだ

 さっきまで、あんなに沢山話してくれたのに、どうして黙っているんだよ


 ひょっとして里中さんは、ボクなんかどうでもよかったのかな

 ノリ坊に頼まれて、三時間だけって約束で相手してくれただけとか


 あーぁ、それなら、なんでボクに優しくしたんだよ

 なんで褒めてくれたんだよ。なんで話を聞いてくれたんだよ

 今日だけで、こんなに大好きになっちゃったじゃないか

 好きで好きでたまらないよ。狂おしいほど好きなんだよ


 もう会えないのかな。悔しいな。悔しくて悔しくて、ただ悔しいな。

 もう一度、里中さんと会いたいな


 ボクみたいな奴に、あんなに優しい笑顔を見せてくれたんだから、

 彼女さんには、もっと素敵な表情をするんだろうな

 羨ましいな。そういう里中さんをボクも見たかったな


 わかっている。今は断る台詞を探しているんだろうな。

 目の前の里中さんに触れるけど、決してボクのものにはならない

 こういうの何ていうんだっけ?そうだ「坂の上の雲」だ

 手を伸ばせば、雲は掴めそうに見えるんだけど、絶対に掴めないってやつ

 里中さん欲しかったな。なんとか手に入れる方法はないのかな?

 今、悪魔が現われて、里中さんを恋人にしてやるから、

 魂をよこせって言われたら、喜んで渡しちゃうな

 


「ごめんなさい。ボク、里中さんが優しかったから、勘違いしちゃって。

 年上なのに中学生みたいな奴から迫られたら気持ち悪いですよね。

 里中さんには彼女さんがいるってわかっているのに、

 こんなお願いする奴、迷惑で嫌いですよね。あの、ボクは…」


「加奈先輩、やめましょう。そんなこと言ったら里中さんが困っちゃうし、

 私だって、すごく悲しくなるから」


 加奈の言葉を遮るように片山範子が割り込んでくる。範子は秘かに「もしかしたら、ひょっとして」を期待していた。


 裕人と電話で話した日から、ずっと自分のことを卑怯な偽善者だと自嘲していた。彼女は、なんとか加奈の希望を叶えてあげたかった。心の奥では裕人が彼女と別れて、加奈と一緒になればといいと思っていたが、彼には加奈から告白されたら断れと言った。そう言わないと裕人は合コンに参加しないだろうし、彼には味方だと思われたかったからだ。


 合コンに参加させて裕人が加奈に興味をもってくれたなら、きっと別れ際に「また会いましょう」くらいは言う。裕人が、そういう優しい人物だということを範子は知っていた。もし何も言わなかったら、自分が「里中くん、もう一回ぐらい、会ってあげてもいいんじゃない?」と振るつもりだった。


 なので加奈が友達になって欲しいと頼んで、裕人が沈黙しているという状況は予想もしない事態だった。「このままでは加奈先輩を傷つけてしまう」彼女には耐えられなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ