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ネオテニー  作者: 志麻寺みのら
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「さっきは、いきなりでごめんなさい。

 ボク、里中さんが予想以上にARATAに似てるから興奮しちゃって。

 本物のARATAは身長が190㎝もあるんで、前から170㎝くらいのお手頃サイズで

 優しい感じのARATAがいれば最高なのにって妄想してたんですけど、

 里中さんが、まさにそのものなので、すっごく驚いてます。

 ボク、ノリ坊から里中さんの高校時代の写真を見せてもらったんですけど、

 今のほうが、ずーっと素敵でカッコイイですよ」


 加奈の言葉は裕人に対するお世辞ではなく、彼女の本心だった。彼が隣に座ったときから胸の高鳴りが止まず、顔が赤くなっているのが自分でもわかった。異性と関わったことがない彼女にとって、全てが初めての経験だった。


 一方、裕人は、まだ乾杯しかしていないのに顔が赤くなってて、手で仰ぐジェスチャーをする加奈を見ながら、可愛いな。来てよかったと思っていた。


「神大路さんの今日のファッションは、お似合いですけど、

 いつもそんな感じなんですか?」


「里中さん、ボク、緊張しちゃうから敬語じゃなくて、普通に話してください。

 ボクは本当は、もっと地味です。高校生の頃のワンピースを今でも着てるし、

 髪だって黒いし、学校じゃコンタクトじゃなくてメガネだし。

 今日は里中さんと会うんで、そんな格好じゃ、絶対に相手にされないと思って、

 ノリ坊にお願いして、御徒町で上から下まで全部、見繕ってもらったんです」


 裕人の隣で、加奈の話を聞いてた片山範子が両拳をサムアップする自慢ポーズをしていた。


「ノリ坊から里中さんの歴代彼女は全員ショートだって聞いて

 まずショートボブにして『いっそ金髪、行っちゃいます?』って言われて

 染めたのも実は昨日なんですよ。今日が初披露で、朝から心配だったけど、

 里中さんがお似合いですって言ってくれて、やって良かったって気分です」


 歴代彼女が全員ショートだと?確かに岩倉智子も次の彼女もショートだったけど、それは単なる偶然で、今付き合っている美緒はロングだぞと裕人は思ったが、もちろん口にはしなかった。


「ボク、一年生のとき一回だけ合コンに行ったことがあるけど、

 そのときは何も話せなかったから誰も相手してくれなくて、

 合コンって嫌いだったけど、今日は里中さんが聞き上手で、

 何でも話せて楽しいです。本当に来てよかった」


 いつの間にか加奈は裕人のシャツ袖を指で摘みながら話している。ひょっとして、これも範子のアドバイスかな?だとしても可愛い仕草だからOKだなと思いつつ、彼女の話に耳を傾けていた。


 加奈は、いろんな話をしてくれた。高校時代に不登校で留年したことや両親共にライダーだったので、自動二輪免許を所持しており、愛知に帰省すると母親から譲り受けた1980年代の古いスズキの250㏄バイクに乗って、岐阜や静岡にソロツーリングに行くこと。大学一年の夏休みにカナダに語学留学したので英語は割と話せること。容姿とは裏腹にお酒には強くてワインが好きなど意外な一面が次々と本人の口から語られた。


「ボクの話ばっかりじゃなくて、里中さんのことも教えてください。

 好きな芸能人は誰ですか?理想の女性のタイプとかも知りたいです。

 好きな食べ物は?実家暮らし?それとも下宿ですか?

 あと、ノリ坊が言ってた僕っ娘の呪いって、詳しく聞かせてください」


 真っ先に最後の質問を範子と健二が面白おかしく盛りながら話してくれたので、裕人はいつものように岩倉智子と半同棲のくだりを訂正して、残りの質問に答えた。それを加奈が身を乗り出して真剣に聞いていた。


 途中、裕人がトイレに行くので席を立ったら、範子が「トイレ?案内するよ」と一緒に来てくれた。


「あんなによく喋って、楽しそうな加奈先輩を見たの初めてだよ。

 里中くん、さすがだわ。感心する。本当に今日はありがとうね。

 やっぱり会わせてよかったんだね」


 範子から真面目に御礼を言われて、裕人はちょっと照れ臭かった。


「ノリちゃんも神大路さんと一緒に御徒町まで行って

 ファッション・コーディネートをやってあげるなんて偉いよね。

 すごく似合っててセンスいいなと思った。まさにハートを鷲掴みで、

 もし彼女がいなかったら、完全に加奈さんに落ちてたわ」


「またそんな上手いこと言って。加奈先輩から『こんな格好じゃ

 里中さんに相手にしてもらえないよ。ノリ坊、助けてよ』とかお願いされたら、

 やってあげるしかないじゃない。でも、あれは我ながら良くできたと思ってる。

 もちろん、先輩の素材の良さも大きいけどね。そろそろ戻るわ。

 男性用トイレは、その柱の奥だから。後半も引き続き、

 加奈先輩の面倒見をよろしくお願いね。頼んだよ」


「あのさぁ、神大路さんが、ずっと俺のシャツ袖を摘みながら話してんだけど、

 ひょっとして、あれもノリちゃんのアドバイス?」


「何それ?私、そんなアドバイスしてないよ。加奈先輩、そんなことしてるんだ。へぇ、これは本気だぞ。ヤバいぞ。里中くん、まあ、気をつけてね」


 裕人が席に戻ると、加奈が、またすぐに彼の袖を摘んできた。話を聞きたいし、自分の話を聞いて欲しくてたまらないのだ。なんか動物に懐かれたみたいだなと思いながらも裕人も満更ではなかった。



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