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ゾンビになった私は平和に暮らしたかった  作者: 煮れもん
ノア編
9/22

第七話

今回でノア編完結でござんすノシ

次回はオマケ2本を投稿する予定です。ノシ

「すみません、そこの貴方。少し話を聞かせてもらえますか?」

スラム街の路地裏。都市の出入り口へ向かっていた私は後ろからの声にびくりと肩を震わせ、振り返る。


警察の制服を着用した、薄い紫色の髪の女が立っていた。

その背には長方形の箱が背負われている。まるで楽器のケースだ。

「…私に、何か御用ですか?」


「ええ。まずは名前を教えてください」

「……」

私は無言のまま女の顔を見る。

制帽を深くかぶった彼女の表情からは何を考えているか読み取ることは出来ない。

しかし顔と身元を隠している私にとってはあまり良い事態ではない。

「答えていただけないのであれば、少々手荒なことをしてでも聞き出すことになりますが」

「……服部です」

物騒な雰囲気を醸し出す女に、私はそっけなく答えその場を後にする。

「待ちなさい」

女が私の腕をがしりと掴む。

「っ、離してください…!」私はとっさにその手を振り払う。

はずみでサングラスが落ち、女と目が合う。

「あ」

女は私の目を見るなり、「あなた、ゾンビですね」と呟いた。

「……なんのことでしょうか」

私は内心冷や汗をかきつつも、極めて冷静に答える。

「とぼけないでください。我々が知らないと思ってるんですか?」

女の視線が鋭くなる。

「国は貴方を捕えろという命令を下しました。一度は邪魔をされましたが次は逃がしませんよ」

「……」

「大人しく捕まりなさい」

女はそう言うと、素早く背負っている箱から大型の銃を取り出し構える。

「な…」

私は頭が真っ白になる。

このままでは殺される。いや、死にはしないだろうが捕まれば死より恐ろしい目にあわされる可能性だってある。


嫌だ、生きたい、前の人生よりもマシな人生を送りたいって願ったじゃないか。



生きたい、生きたい死にたくない死にたくない!


そんな考えで頭の中が埋め尽くされる。



生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きた―――




バァン








「うぐっ…はぁっ、ち、ちくしょうっ…」


我に返った私はうめき声を聞いた。なぜか右側の視界が闇に包まれており、口の中は妙に鉄臭い。

おそらく右目を撃たれたのだろう。


地面を見ると、腕を食いちぎられた女が地面に伏しており、うめき声をあげている。

次に私の手を見る。真っ赤だ。これは、血?


「は、ははははっ」

私の口から乾いた笑いが漏れる。

「やった、やったぞ、私は、生きてるんだ…」

目の前で苦しそうなうめき声をあげる女を心配するよりも、私は自分が無事であるということに喜びを感じていた。


「あ、マズい…」

我に返った私はサングラスを拾い、慌てて走り出す。

女が追ってくる気配はなかった。その代わり無線で何か喋っているような声が聞こえる。

早く去ったほうがいいだろう。





◆◆◆◆


数十分ほど歩き、スラム街を出ることができた。目の前の広い道路は住人や観光客らしき人々でごった返している。

私はその中の人間の顔を一人一人確認してみる。

普通の肌の色、綺麗な澄んだ色とりどりの瞳。以前の自分と同じ。


それに比べて、今の私は…。




私はやはり、もう人じゃないらしい。

人じゃないからこんなふうに誰かを傷つけても笑っていられる、

もう、リリーやアルの隣に立つことはできない。


「すまん、二人とも」

私はだれにも聞こえないようなか細い声で二人に詫びた。もう二度と会うことはないだろう。


ふいに何か重苦しいものが心にのしかかったような感覚に襲われる。同時に何か頬に冷たい感触が走ったような気がする。

私は流れるはずがない「それ」を、ごしごしと拭う真似をし、再び歩みを進めた。




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