第四話-後編-
ノアの中心部に聳え立つ黒いビル。その最上階の部屋に設置された巨大な玉座には、金髪の若い女が座っていた。
「女王、ご機嫌はいかがですか?」
黒スーツに身を包んだ白髪の男が声をかける。
「機嫌は…悪くはない。それより報告を」女が答えると、男は恭しく一礼し、書類を差し出した。
「こちらが例のデータになります」
「ありがとう…目を、通しておく」
そう言って彼女は手元にある資料に目を落とす。
そこには、この世界の様々な種族、能力者について書かれていた。
「ほう、これは面白い」
彼女がパラパラと資料をめくるのを、白髪の男は微笑ましげに眺める。
彼女が『ヘル』と書かれた書類を手に取った時、部屋の扉がガチャリと開かれた。
「失礼します」
「ん……ペスト、君か」
「はい、女王」
ペストと呼ばれた青年はゆっくりと頭を下げる。
「私の作った資料はもう読まれましたか?」
「いや…まだ」
「でしたら是非。そこの青い表紙が私が作成した資料です」
「分かった」
彼女は青表紙の資料を開く。
そこには、男の顔写真があった。
「う…」
その男の風貌に、女は思わず顔を顰める。
「一体彼は?」
青年はニヤリと笑う。そしてこう続けた。
「彼の名前は『服部悠二』。この都市に突然現れたゾンビです」
「ゾン…ビ?」
その言葉を聞いたことが無いのか、女は首をかしげる。
「いわゆる、生きる屍の事ですよ」と、ペストが説明を付け加える。
「それで、そのゾンビがどうかしたの?」首を傾けたまま、女はペストに尋ねた。
「はい、実は興味深い話を聞きましてね……」
「ふむ、続けて」
「はい。彼はなんと、不死身なんですよ。いくら傷つけても、心臓に杭を打とうとも死ぬことができない」
「ふぅん…それはすごい」
「はい。そこで、彼をもっと詳しく調べようと思いまして」
ペストは不敵な笑みを浮かべる。その笑みを見た女は思わずぞくりと背筋を震わせる。
「彼には様々な利用価値があります。我々は即刻彼を捕らえなければなりません。女王、私の部隊を動かすことは可能ですか?」
「……うん、いいよ。でも相手は不死身。何が弱点化、ほかにどういう能力があるのかをもう少し調べてから動かして」
「ありがたき幸せ」
ペストは深くお辞儀をする。そして顔を上げると、「では早速準備に取り掛かります」と言って部屋を出ていった。
「お見送りしますよ」
白髪の男も同時に部屋を去る。
「さぁ、始めましょう……私たちの世界を作るための計画を」
ペストが出て行った後、女は一人呟く。
「『私たちの大地を、あるべき姿へ』」
女の足元には、赤い液体の入ったフラスコが転がっていた。