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ゾンビになった私は平和に暮らしたかった  作者: 煮れもん
ノア編
2/22

第一話

次の瞬間、私は小部屋にいた。



(なんだ…?私は確かトラックに轢かれて…)


何が何だかわからず辺りを見渡してみる。闇が広がっているだけで殆ど見えない。

数秒間考えて、私はある事実に気が付いた。


「どうして私は、生きているんだ?」

くどい様だが私は「トラックに轢かれて死んだ」。そう。確かに「死んだ」はずなのだ。

なのにどうして動くことができる?何故意識がある?

それに酷く損傷したはずの肉体からは、全く痛みも感じられなかった。


パニックになった私は小部屋から抜け出した。

そしてそのまますぐ近くに見えた扉に駆け込む。


その部屋には薄汚れたバス、洗面台、そして曇り切った鏡があった。


とっさにその鏡の曇りをふき取り、覗き込む。



「うわああっ!」

鏡を見た瞬間、私は絶叫した。






そこにいたのは紛れもなく私自身でなければならないのだが、鏡に映ったそれはもう私の顔ではなかったのだ。

まず肌の色が違う。日本人特有の黄色人種的な色味が消え失せ、蝋のように白くなっていた。

本で「死蝋」というものを見たが、今の私はまさしくそれであった。


それだけではない。茶髪に染めていた私の髪は真っ黒になっており、黒い瞳は白く濁っていた。

さらに私の口は大きく裂け、筋繊維がむき出しになっている。


まるで化物…否、死体のような顔だった。


(なんなんだこれは!?)

声にならない叫びを上げながら私は顔を覆ってその場にうずくまる。





「ここにもいたのか」

その時、頭上からそんな声が聞こえてきた。


髪を緑色に染めた女が私を見下ろしていた。


「君は……」

ようやく出た、掠れたような声で私は問いかける。

「君が私をここまで?」


「いや違う。私は君のような生存者を助けに来たんだ」

緑色の女は淡々と答える。


「助ける……?何を言って……」

「どうやらここにいるのは君だけのようだな。ついてきてくれ」


彼女はそう言うと部屋の隅にあるドアを開き、奥へと入っていく。私は訳がわからぬまま彼女の後を追う。

しばらく進むと年季の入った大きな鉄扉の前にたどり着いた。

彼女が扉を開ける。




「なんだ…ここは」


私の目の前には砂漠が広がっていた。



「?、君はこの地がどうなってしまったのか分かっていないのか?」

女が私の顔をのぞき込み、不思議そうに問う。

「いや、分からん…そもそもここはどこなんだ?私はどうしてこんな姿に?」


「君は記憶喪失なのか?」

「いや…そんなことは…というか私はさっきトラックに轢かれて…」

「なるほど、トラックに轢かれて記憶喪失になったと」

女は小脇に抱えた四角い端末を操作しながら顔色一つ変えずに言った。


「だから、記憶喪失じゃないんだって…」

私は力なく女に向かって呟いた。痛みはないが頭がガンガンするような気がする。


その様子を察知したのか、女が私の顔をのぞき込む。

女の顔は整っており、世間一般的に言われる「美人」の部類だ。つい心臓が高鳴ってしまったが、そんなことを気にするのは後回しだ。


「……失礼だが、君の名前と生年、年齢を教えてくれないか?」

顔を覗き込んだまま、女が訪ねた。


見ず知らずの人間に名前を名乗ってもよいものなのだろうか。しかし名乗らなければおそらく話は進まないだろう。


「…私の名前は服部裕二、1991年生まれの25歳だ」

「な?!」

女が一瞬驚愕の混じった表情を浮かべたのを、私は見逃さなかった。



「君、それが冗談なら笑えないぞ…

今は2160年だ」

「はぁぁぁ?!そりゃ一体どういう……」

「どういうことも何もそのままの意味だが…」



私は再び頭を抱えて座り込んだ。


「じゃあ今の私は、いったい何なんだ?それに君は誰なんだ?」


「ふむ、それは私にも分からない。だが君は顔に怪我をしているようだ。私が滞在する都市に来るといい。手当をしてあげよう」


女が目を細め、私に手を差し出した。

「ついてこい、『服部裕二』」


本当に彼女を信用してもいいのか?そもそもここはどこで私はどうなってしまったのだ?

考えれば考えるほど疑問がわいてくる。



だがこんなところにいてはゾンビ通り越してミイラになりそうだ、彼女の提案を受け入れるのも一つの手だろうと思い、私は差し出された手を握り返した。

「分かった。よろしく頼むよ」

「ああ、任せておけ」

彼女はそう言うと微笑み、歩き始めた。私もその後に続く。



「ところで、君の名は何と言うんだ?」

「私は『リリエッタ・ミューキリオス』。気軽にリリーと呼んでくれ」

「わかった。よろしく、リリーさん」




こんなわけで、私と彼女の奇妙な旅は始まりの合図を告げたのであった。


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