夢と現実の間
心が高ぶる。
いや、いい意味でじゃない。
単純にイライラして眠れないだけだ。
疲れもとれない。
鏡の中の疲れ切った顔を見て思う。
<これは誰だ?>
わかりきった答えが頭にこだまする。
<それはお前だ>
<それはお前だ>
<それはお前だ>
一体俺の人生はなんだ?
俺はなんの為に生きているんだ?
この世界はなんなんだ?
そもそもこの世界は本当にあるのか?
思考がぐるぐる回りだす。
回答のない無限ループにはまりこむ。
「これを飲むときにはスマホやパソコンを見たりしないですぐに寝てください。薬が効かなくなりますから」
薬剤師の言葉を思い出す。
今スマホもパソコンも見ていない。
俺は錠剤を一粒口に入れて水で流し込んだ。
意識とはなんだろう。
実は人の意識とは別世界のサーバーにつながっているだけなんじゃないのか。
意識が落ちるのはつながりが切れるからじゃないのか。
そんな事を考えているうちに意識が途切れた。
電車を待っている。
人があふれている。
確か今は感染症で移動宣言が出ていたんじゃなかったか・・。
そんな事をうっすらと考える。
ようやく到着した電車は混みすぎていた。
しかも乗客同士が喧嘩をしている。
ののしりあう男と女。
電車を降りた女が電車に残っている男に罵声を浴びせている。
まだ若いのに。
何か場違いな事を考えながら<関わりたくない>と強く思った。
その電車をやり過ごし、次の電車を待つ。
次の電車はすいていた
<良かった>
そう思いながら電車に乗る。
空いている座席に座り、目を閉じる。
<俺はどこに向かうんだったろうか?>
ふと疑問が頭をもたげる。
<この電車は違うんじゃないのか?>
今度は恐怖が首をもたげる。
<おかしい。俺は何かを間違ったんだろうか?>
<この電車は俺の目的地に向かうんだろうか?>
<確かめなければ>
<どうやって?>
思考がループし始めた。
その瞬間に思考は途切れ、気が付くと街の中にいた。
<ああここは〇〇だ>
その時確かにそう思った。
でも後で思い出そうとしても〇〇はどうしても思い出せない。
<そうか学校に行かないといけないんだ>
ふいにそんな事を思った。
<いやでも待て。俺は勉強道具を何も持っていない>
空は晴れている。
<行かなくてもいいんじゃないか?>
どこか違うところに行こうかと考え始めた時に後ろから声をかけられた。
髪の長いやけにスタイルのいい女の子が立っている。
「行こう」
<誰だろう?行くってどこに?>
「学校だよ」
何も口にしていないはずなのに会話になっている。
<こんなきれいな子は知り合いにいただろうか?>
「いるよ、いたよ。よかったっしょ」
また会話が続いている。
女の子が手を伸ばしてきて俺の手をつかんだ。
「早くしないと遅れるよ」
シチュエーションはドキドキする場面の気がするのに、何も感じない。
当たり前の場面が当たり前に起こっているような気がした。
走り出した。
次の瞬間に広いデパートの店内にいた。
女の子は消えていた。
<ここはどこだろう>
そう考えたらいつの間にかエレベータの前にいた。
<そうか、俺は会社に行くところだったのか>
俺はエレベータに乗り込む。
狭い。
俺は閉所恐怖症なんだ。
恐怖心がじわりと締め付けてくる。
エレベータが動き出す。
上昇を始めたエレベータは加速を増す。
俺は体を抱きしめて<大丈夫だ、大丈夫だ>と念仏のように言い聞かせる。
閉所恐怖症である俺は高所恐怖症でもある。
「いいとこないじゃんか」
誰かがそんな事を言っていた気がする。
誰だっけ?
まあいいや。
そう思った時にホテルのフロアに立っていた。
「待ってたわ」
きれいな女性が正面から歩いてきた。
手を差し出してくる。
俺はきれいなと思ったはずなのに顔はわからなかった。
この女性に会わないといけない。
なんだかそんな気がした。
あくまで気がしただけだ。
次の瞬間にはびっしりと並んだ机の前にいた。
<これは職場だ>
瞬間的にそう思った。
<いやでも本当にそうだろうか?>
<俺はここで働いていただろうか?>
なんでここにいるんだろう?
ここはどこなんだろう?
そこで意識が切れた。
目が覚めた。
部屋の中はまだ暗い。
遠くで始発電車が動き始めた音がする。
時計を見て<寝ていたんだ>と思う。
<寝れていたんだ>
<薬の力で>
もう少し寝ていたいという気持ちと寝れるんだろうかという気持ちがせめぎあう。
もう一度時計を見て<無理か>と思った。
仕方なく起きだし、服を着た。
<行きたくないなあ>
<生きたくないなあ・・でも同じか・・?>
家を出て駅に向かう。
いつも見かける人がいつもと同じように歩いている。
<今日は少しでも何かが良くなるんだろうか>
<わからない>
<もう考えたくない>
電車を待っていたら頭の中に声が聞こえた。
「大丈夫。会えるよ」
空耳だろう。もしくは本当に頭がおかしくなったのかもしれない。
それともまだ本当は夢の中にいるんだろうか。
一瞬きれいな女性の顔のイメージが浮かんだ。
「待ってるよ」
何故か口に笑みが浮かんだ。
<間違いでもいいや>
<だって今俺はとてもうれしかったもの>
<おわり>




