5G高速低遅延ババァ
なぁ、赤いQRコードって見たことあるか?
それ見つけたら、めちゃくちゃラッキーらしいぜ。
俺も友達の友達から聞いたんだけどさ。
そのQRコード読み込むと
5G高速低遅延ババァが来るらしい。
あ?違う違う、ふざけてねぇし。
5G高速低遅延ババァはアプリじゃねぇよ。
ただ、その赤いQRコードを読み込むと
突然、ダウンロードが始まるわけ。
容量は5G、めちゃくちゃでかいよな。
だけどさ、一瞬でおわるんだよ。
5Gだから。
ダウンロードが終わったらゲームがはじまる。
ファミコンみたいな昔のピコピコゲーム。
《5G高速低遅延ババァを探せ》
これ、ミッションね。
画面の中で黒い影がピコピコ逃げる。
それを捕まえるゲームらしい。
捕まえたらオシマイ、
次はこっちが隠れる番。
スマホを押入れとか、クローゼットにいれて
扉の前に立つ。そうすると、
「もぅ、いいかい」
って、聞こえてくる。
「まぁだ、だよ」って、言って、
すぐに隠れなきゃいけない。
お前ならどこに隠れる?
だけどさ、相手は
5G高速低遅延ババァだぜ、
超はやいんだ、さっきから全部そうだろ?
だからさ、隠れる前に家中の
パソコンとか、ゲームとかつけまくるんだ。
それでWi-Fiに負荷かけていくわけ。
は?え?5Gはモバイルネットワークだし
Wi-Fi関係ないだろって?
そんなの知らねーよ、
そういうもんなんだよ。
なんかあるんだよ、電波的な。
あ?外?だったら?
お前、そんときは地下鉄とか、
電波の悪いとこにいくしかねーだろ。
…続けるぞ、ここからが大切だからな。
5G高速低遅延ババァにそうやって
負荷をかけたら、
次は自分を守る番だ。
適当に隠れて、それから、
アルミホイルを右手に巻くんだ。
そしてその手をまっすぐ上に上げる。
…そう、アンテナだよ。
11秒たったら
「もぅ、いいよ」って言って、すぐに手をおろす。
そう、『圏外』ってことだ。
これで5G高速低遅延ババァは
こちらを見つけられない。
急いではじめの部屋に戻り、
スマホをいれた押入れなり、
クローゼットなりを開けると、
画面から5G高速低遅延ババァの手が出ている。
ダウンロードの途中だからな。
モタモタしていると肩ぐらいまできているかもな。
近くで見るとかなり怖いが、
5G高速低遅延ババァはこちらが
圏外状態なら見つけられないから心配すんな。
ただ、今の段階で手に触るとむこうに
引きずり込まれるから気をつけろ。
さっき腕に巻いたアルミホイルを
画面から出ている5G高速低遅延ババァの手に巻く。
目で見ると5G高速低遅延ババァの
手は止まって見えるが実際は高速振動してるから
アルミホイルはガッチリ巻くようにしろよ。
巻けたらアルミホイル上から
5G高速低遅延ババァの手を一瞬、握る。
そうすると、5G高速低遅延ババァは
素早く手を画面の中に戻すから、手を放せ。
これで5G高速低遅延ババァも圏外、
やっと助かるってわけだ。
どこがラッキーかわからない?
続きがあるんだよ。
5G高速低遅延ババァの帰ったあと、
スマホには「5G高速低遅延ババァ」アプリが残る。
それがあると、その端末で引くガチャは
全部高レアがでるようになるんだってよ!
実際、友達の友達が持ってるらしいんだが
マジでそうなんだって!
課金とかしなくてよくなったらしい。
ちょっとめんどいけどさ、
…やってみたくね?
「『景品』つき、というわけですか」
そう言った、女が歩くたびに
ペタペタとスリッパが鳴る。
「まぁ、生徒に聞くとそう言った話みたいで」
女の前を歩く教師はハンカチで額を拭った。
こちらです、と歩みを止めて、壁を指す。
「これが問題のラクガキですか」
「そうなんです、赤いQRコード」
ここだけじゃないんですけどね、
なんか不気味でしょう、という教師を押しやり、
女は壁に近づき、QRコードに目を凝らす。
「デメリットがわかりにくいのが幸いですね」
「はぁ、そうですね」
何がそうかもわからないのに教師は頷いた。
「願いが先か、存在が先か」
女は呟き、どっちでもいいけど、と吐き捨てた。
なぁ、赤いQRコードって見たことあるか?
そう、5G高速低遅延ババァ。
あれさ、やばいんだよ、
うまく5G高速低遅延ババァを
帰せたときはいいんだけど、
少しでも失敗したり、通信環境がよかったりすると、
5G高速低遅延ババァはこっちへ来るだろ。
そしたらスマホを操作して、
入っているアプリのデータ全部消すらしい。
ゲームとかアカウントから抹消して、
引き継ぎコードすら使えない状態にするんだって。
超怖くね?
え?消したあと?
来たスマホから帰っていくらしいよ。
まぁ、俺も友達の友達から聞いた話だけど。




