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夜の帳が降りる頃に  作者: 白米おしょう
第5章 おはようの朝はまだ遠くに
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第5章 4 真夜中の来訪者

 

  挙手するNo.09に一斉に視線が集まった。環の真っ黒な瞳に、No.02の面白いことが始まったという期待の眼差し、No.05はこれ以上面倒を起こすのはやめてくれと言った表情だ。No.07、08はそもそも議題を理解しているのかキョトンとしており、No.04はいつも通りの無表情だ。


  「なに?」

 

  環が先を促し、No.09は得意げに胸を張った。


  「No.10の代わり、ウチ一人いい子知ってるよマザー。そいつさ、ウチらと同じことができたんだ!」

  「は?僕らと“同じ”?」


  No.09の発言に真っ先に反応したのはNo.02だった。No.09の発言が何か気に障ったらしい。


  「マザーに選ばれた僕らと“同じ”『ダイバー』なんて、そうそういっこないだろ?バカにしてんのか?」

  「なにさなにさ?何カリカリしてんの02。」

  「お前みたいな“下位”ならともかく、そんなぽっと出が僕らと並ぶのは我慢できない。」


  吐き捨てるNo.02の発言に今度はNo.09の目尻が吊り上がる。


  「あのさぁ……ウチは別にあんたみたいなくだらない『ナンバーズ』のプライドとかある訳じゃないけどさ……」

  「くだらない?」

  「そういう物言いは、癇に障るんだけど?」

  「くだらないってなんだ?あ?お前マザーの前で……」


  売り言葉に買い言葉。No.02と09の間でくだらない口論が発生する。

  正直くだらない問答に飽きてきていたので俺は対岸の火事を楽しみたかったが、二人の間に環が割って入った。


  「……やめなさい。」


  静かな口調で間に入る環の言葉に二人はピタリと押し黙る。


  「この世にたった十人の兄妹なんだから……ああ、一人減って九人か……」


  十人も居たらどうも台詞にありがたみも説得力もないな……


  俺のそんな心の呟きもよそに環は予想外にもNo.09の話題に食いついた。


  「で?09…その子は私の子供になり得る『ダイバー』だと?」

  「……ん。知らんけど…他の子よりは…だってさ、秋葉の夢の中で秋葉に精神干渉したんだ。上塗りだよ世界の…その子の精神が“明晰夢”にすら干渉--」


  と、何やら興奮気味に口にするNo.09を環が黙らせる。

  自分の唇に人差し指を立てて「黙れ」の合図。ピタリとNo.09の口が閉ざされた。


  No.09の言っているのは、おそらくはあの二人の『量産機』のうちどちらかだろう…


  「いいわ、で?その子は?どこの子?」


  環は興味を示したようだ。『量産機』でありながら精神世界への過干渉。いかにも環が好みそうな暇つぶしの種だ。実に面倒くさい。

  環はもう花梨のことなどどうでもいいといった雰囲気だ。くらい瞳を輝かせる環にNo.09は非常にバツが悪そうに返した。


  「……あ〜と……実はその子さ、今その『ダイブ』で寝たきりなっちゃって…」

  「壊れたの?」

  「いやいや、きっとまだ間に合う。ただの精神汚染だし?だからさ…マザーあのね?」

  「潜りたいというの?」


  ああ実に面倒くさい。

  今の環ならきっとOKするだろう。本当に面倒くさい。

  No.09の言う『ダイバー』は以前環が監視を命じた『ダイバー』のはずだ。つまり、以前『ダイバー』に『サイコダイブ』したあの娘…

  あの時の“事故”にも環は多少興味を示した。

  本当に面倒くさい。まさかあれを『ナンバーズ』に入れるつもりか?上手くいくとは思えない。あれは今『ナンバーズ』に対して相当な敵対意識がある。

  環はそういうところを理解しない。いつだって相手の意志など置き去りだ。


  「後輩なの?だめ?」

  「……だめ。」


  No.09に間髪入れずに返した俺に彼女はふぐみたいに膨れた。

 

  「なにさ!ウチはマザーに聞いてんの!」

  「黙れ。あれはもう助からん。廃棄だ。環、10の代用ならこちらで手配する。すでに04が……」

  「好きにすればいいわ。」


  俺の意見を無視して環はNo.09に微笑んだ。どうやら機嫌が戻ったようだがおかげでこちらは気分が悪い。


  「まじ?いいの?いいの?」

  「……上手く寄宿舎のマザーを言いくるめてね…それで?その子はどこの子なの?」


  環が問題の『ダイバー』の素性を尋ねる。それにNo.09は嬉々として答えた。


  「あんね〜……--」




 ※




  辺りがすっかり暗くなった頃--時計の針はちょうど十二時を指し示していた。


  あの後マザーたちに連れていかれた先で、私は事の顛末を誤魔化しながら説明した。ヨミは私が連れ出したことにしようと思っていたが、こちらが話し出すより先にマザーたちはクロエの事を確認してきた。


  「クロエがまたあなた達を連れ出したんだね?」


  どうやら、彼女本人からそういう連絡を受けたとのこと。クロエは私たちを庇ってくれた。


  その後、適当な嘘をつきながらマザーたちの追求を躱し私は開放された。

  処分はヨミが戻ってから--そう言われて私は入院棟の病室に押し込まれた。まぁ、当然だろう。

 

  すぐに藤村先生の診察を受け、私の入院期間は一週間も伸ばされた。

  私の精神状態をチェックした藤村先生の表情は険しく、やんわりとだが厳しい言葉で説教された。


  実感はなくとも、おばさんへの『サイコダイブ』はそれくらい私の精神にダメージを与えていた。

  それでもまだマシだ。私は帰ってこれたんだから。


  「……。」


  そう、私は戻ってきた……一人で…


  ヨミを置いて。なぜあの時食い下がらなかったのか?クロエやNo.04に押し切られて、一人戻ってしまったのか……

  あの子はなにも関係ないのに。ただただ、私のお節介を焼いて巻き込まれただけなのに……


  「……絶対、このままにはしない。」


  暗闇の病室で私は決意を口にした。

  目も闇に慣れ、私の視界に殺風景な病室が映り込む。時計の秒針が規則正しく時間を刻み、その音が何故か私を不安にさせた。


  今の私に何ができるか……?

  分からない。こんなザマでは…でも、こんなザマでもヨミは私を連れ出してくれた。

  私だけ寝てられない。


  「……ごめんね。」


  昨日、花梨にかけるはずだった言葉が口をついて闇に溶けた。

  誰に届くことも無く、暗闇に吸い込まれていく呟きを私は耳で追いかけるが、夢より深い夜闇は私の紡いだ言葉を返してはくれない。


  「…いつもいつも、私は言うべきことを言うべき人に言えないな…」


  「--何黄昏てんのよ。」


  静寂に溶けた私の呟きに、よもや返ってくる言葉があろうとは思わず私は思わず飛び起きていた。


  私の病室。当然、私以外には誰もいない。

  私一人の空間に、割り込んできたその声は、ベッドの真横の窓際から飛んできた。


  「…もうとっくに寝てるかと思った。」


  いつの間にか開けられた窓の縁、ぷらぷらと両足を投げ出して私を眺めるのは黒髪、黒縁メガネの少女--


  呆れた様子で私を見下ろすハルカがそこに座っていた。


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