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夜の帳が降りる頃に  作者: 白米おしょう
第1章 夢の世界へ
8/214

第1章 8 ねずみの行軍

 

 ※



  メインストリートの石畳を砕き割りながら突っ込んできた観覧車は、そのまま観覧車が佇んでいた真反対--遊園地の正面ゲートまで転がっていった。


  視線の先、なにかにぶつかったであろう観覧車が凄まじい轟音で空気を震わせながら横倒しに倒れる。

  8回建てのビル位の高さの車輪が、周りのアトラクションや土産屋をなぎ倒し、押し潰し、重量の暴力となった破壊が夢の世界を蹂躙する。


  「……空が、割れてる……」


  観覧車が地面に倒れたと同時に、夢の世界が大きく揺れ、灰色の空に亀裂が走る。

  暗い空にひびが広がり、世界が崩れていくような様相だ。


  突然の出来事と世界の終わりのような風景に、私がしばし呆然と立ち尽くしていると……


  「--ヨミ!その中だ!!」


  私の背後--観覧車が転がってきた方向から聞き慣れた悪友の声が飛んできた。


  「…ハルカっ」


  振り返る私に、ハルカはそのまま私の横を走り抜けながら遠くに倒れる観覧車を指差し声を張り上げる。


  「その中?」

  「うさぎ!あの観覧車のゴンドラの中!!」


  ハルカはそう叫びながら私を置いて走り去っていく。見ると、彼女の身体にも私同様、獣に噛まれたような傷が見て取れる。私より重症なのか、彼女の走った後、石畳にポツポツと血の足跡が残されていく。


  私は彼女の赤い足跡を追いかける。


  「ハルカっ、もしかしてあの観覧車ハルカが転がしたの?私、あれで死にかけたんだけど?」

  「あれは勝手に転がったのよ!」


  少し遅れる形でハルカに追いつき、先程の暴挙について避難するが、どうやら勘違いらしい。

  右脚の肉を大きく持っていかれた影響は確実に現れている。ハルカの走りについて行くのが辛く、どうしても少し遅れる。


  「ていうか、マザーの言ってた新しい子は?」

  「え?ハルカと一緒じゃないの?」


  走りながらそんな疑問を口にするハルカ。

 私はそういえば姿を見ていない。私はてっきり、ハルカと一緒に潜ってきたのかと思っていたが…


  「……そう、まだ合流できてないみたいね。」

  「ちゃんと潜れてるのかな…まぁいいや。」


  人の心配をしている場合ではない。


  私たちが目指す観覧車の目の前--

 瓦礫の山と化したアトラクションや土産屋の下から、再び白いねずみたちが大挙として這い出てくる。


  「……ちっ」

  「まともに相手してられない!」


  私の舌打ちに被せるように、苛立ちを声に滲ませるハルカが立ち止まり、影に手を突っ込む。

  影から引き出す指にはピアノ線が絡まり、その先端にはナイフが結び付けられていた。


  「ヨミ!細かいの任せた!」

  「あいよっ!」


  その場で大きく腕を振り、指に巻き付けたピアノ線を弧を描くように振り回す。ハルカの攻撃より先に私は前に駆け出した。


  勢いよく突進してくるねずみに対して私の方からも突っ込む。

  目の前、跳躍しようとするねずみ目掛け、ライフルの鉛弾を至近距離で食らわせる。ジャンプしかけた体勢で、丸出しの腹部を吹っ飛ばされたねずみは、後ろ足で立ってバンザイしているような間抜けなポーズでばたりと倒れる。

  目の前力尽きる同胞などお構い無しに、後列のねずみたちが私に襲いかかる。


  「頭飛ぶよ!!」


  後方、ハルカの物騒な警告に私は姿勢を大きく下げた。

  目の前、無防備な私に襲いかかるねずみの頭が、私の頭上を通過するピアノ線に繋がれたナイフにより一気に吹っ飛ばされる。

  頭上を一閃したハルカのピアノ線が、そのままメインストリート脇の街灯に巻きついた。

 

  ナイフによる横薙ぎの一閃をかろうじて躱していたねずみの一匹が、再び私に襲いかかる。

  私はその顔面を靴底で止め、落ち着いてレバーを引き下げる。小気味良い金属音と手に伝わる感触。私は容赦なく銃身を目の前のねずみに向けて引き金を引く。


  さらに後方から迫るねずみたち。

  そこで、遥か後方が大きくピアノ線を引く。街灯に巻きついたピアノ線は、そのまま引かれる力に応じ引き絞られ、街灯の頼りない鉄の柱を切断した。

  迫るねずみたちの頭に切り倒された街灯が直撃する。


  「ダッシュ!!」


  ハルカの声に背中を叩かれ、私はねずみの死骸を踏みつけて前に進む。右脚の痛みがじくじくと主張してくるが、気づかない振りをして走る。

  新たに湧いて出てくるねずみの頭を踏みつけて、走る。


  「ホント、うんざりよ…ねずみにかじられるし、うさぎ殴られるし…」

  「ハルカはまだマシな方でしょ。私は全身真っ赤っかだよ。」


  並走するハルカに私は自らの有様を改めて見直す。


  肩と右脚肉は抉られ、今もどくどくと出血している。

  髪の毛も顔も、頭から浴びたねずみの返り血と臓物でべっとりで、夢の中だと言うのにリアルな不快感が動く度に付きまとう。

  一張羅の制服も上から下まで血まみれだ。


  「うへぇ、それタオルとか創って体拭きなよ。臭い。」


  私だって好きでベトベトなわけじゃないのに…ダイレクトに「臭い」なんて酷いやつだ。


  「いい。どうせ起きたら全部リセットだから。」

  「いや…一緒にいる私が臭いだけど…」


  ハルカが不快感を表している間にも、私たちは観覧車の残骸の下までたどり着く。

 

  「やつは?どのゴンドラ?」

  「わかんないや!!もう。全部叩こう!」


  ライフルを構える私にハルカが声をはりあげて返す。

  そして、私たちが観覧車にたどり着いたのを皮切りに、今までの比ではない量のねずみが石畳から湧いてでた。

  サイズも巨大化している。大型犬--シェパード位ありそうな巨大ねずみだ。

  流石にこのサイズになると一匹の脅威が段違いだろう。リアルでこのサイズの犬に組み伏せられたら普通に泣く。あとでっかくなったことで気持ち悪さも数段上昇した。そっちの意味でも脅威が段違いだ。


  「ハルカ!!任せた!!」

  「またねずみかよぉ……」


  涙目でこちらに訴えかけるような視線を向けてくるハルカに今は構っていられない。

 

  私はライフルを観覧車のひしゃげたゴンドラに構え、下から順に弾を打ち込んでいく。

  鉛弾の直撃でゴンドラが車輪状のフレームから順々にぶっ飛んでいく。


  「じれったい!機関銃とか出せないわけ!?」

  「仕組み知らない!!」

 

  一発一発、シングルアクションで撃っていく私に後ろでねずみと死闘を繰り広げるハルカのヤジが飛ぶ。


  今ところ、親玉本体からの反撃はない……


  --そして、


  最後の一発。

 赤色の屋根のゴンドラを撃ち抜いた時、割れたガラスの内側から洪水のように鮮血が飛び出した。


  「見つけたっ!」


  「--きぃゃぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


  私は耳をつんざく断末魔を聞きながら、ゴンドラの下へ駆け出した。


  ここで確実に仕留めるために。

 

  誰とも知れない、誰かの心の闇を払うために。


  観覧車のフレームの上を駆け抜け、傾きひしゃげたゴンドラの上に飛び乗った。

  眼下ではハルカがねずみに囲まれつつあった。数の暴力の差を埋めるには、一人では限界がある。

 

  急がないと……っ


  私はゴンドラの割れて血の滴るガラスの中へとライフルの銃口を突っ込んだ。


  ゴンドラの中は、私に撃ち抜かれたことでの出血で赤く染め上げられ、その中央--ピンク色の球体がどくどくと血を垂れ流しながら蠢いている。


  私は銃口を球体に押し付けた。


  --ゼロ距離からの銃撃は球体の身体を容易に貫通し、先程よりさらに激しい血の濁流を私に浴びせる。


  --むせ返るような生臭く、鉄臭い血の匂い。


  全身--視界もままならなくなる程の返り血を浴び、私は勝利を確信した。


  --視界もままならなくなる程の返り血を浴びて……


  「--ヤメロォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」


  返り血で視界が赤一色に染まる中、私の鼓膜を絶叫が震わせる。


  「--がふっ!?」


  私の身体が重い一撃を受けてゴンドラの上から吹っ飛ばされたのは、その直後。

  私の身体は受け身も取れずに石畳の上に叩きつけられていた。

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