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夜の帳が降りる頃に  作者: 白米おしょう
第4章 忘れてはいけないもの
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第4章 19 『ナンバーズ』との邂逅

 

  「花梨がお母さんの夢に潜ったと……?」

  「待って!」


  シオリが動揺を隠すことなく声を荒らげる。


  「『サイコダイブ』療法の対象者は犯罪者か、精神異常者のはず…どうして花梨のお母さんが『サイコダイブ』の対象者に選ばれるの……?」

  「…花梨のお母さんが花梨を閉じ込めたから。」


  シオリへの返答はまたしても答えになっていない。業を煮やしたシオリが身を乗り出す。


  「だから!なんで花梨が潜るの?自分のお母さんの精神の中に!!」

 

  シオリに対して目も合わせないクロエが淡々と告げる。


  「潜ってないよ。多分…お母さんが花梨を無理矢理呑み込んだ。」


  クロエの返答に私もシオリもますます困惑する。疑問が解消するどころかさらに加速する。

  クロエが適当を言っているのか、私たちがこの件を理解するのに知識が足りていないのか?


  「…無理矢理呑み込んだ?どういうことですか?」


  こんがらがる思考の中で私は必死に頭を回転させる。クロエは淡々と事実を--起っていることのみを語って聞かせた。


  「お母さんが適性を持ってる花梨を無理矢理自分に『サイコダイブ』させたんだ。で、戻って来れなくなった。」


  聞けば聞くほど--事態が理解し難い方向に向いているのを実感し、得体の知れない不安が胸を掻きむしる。

  理解出来ない出来事を淡々と語るクロエも不気味に見えた。


  お母さんが花梨を『サイコダイブ』させて戻ってこなくなった?

  なぜそんなことが起きる?


  私は花梨の母親を思い出した。


  橘秋葉--『オフィシャルテクニック』の代表取締役にして花梨の母親。

  私の頬を叩いた彼女のあの時の姿から、娘にそんな暴挙を働く気配は見られなかった。


  「…花梨は今、どういう容態なの?目は覚めるの?」


  数々の疑問を押しのけて、シオリが絞り出すようにクロエに問いかけた。その問答にあまり意味は無い。

  それでも訊かざるを得なかったのだろう…


  「…知らない。専門的なことは分かんないし、花梨の精神状態は、君らの方がくわしいっしょ?」


  精神状態も何も、花梨はそもそも目を覚ましていない。クロエの答えはまたしても、答えになっていない的を得ない内容だ。


  なぜ花梨がそんな状態なのか?

  なぜその花梨の母親の夢に私たちは潜らされたのか?


  「……『サイコダイブ』って、なんなんですか?」


  私の口から零れた声に、クロエはぴくりと小さく反応した。それは、表情などではなく、小さな身動ぎと、明らかに変わった雰囲気で…

  今までのどれとも違う、初めて見せる反応に見えた。


  「……それは、マザーに訊いたらいいよ。」


  それっきり、クロエは口を閉ざしてしまった。

  今この場での詳しい説明を求めたが、クロエはそれ以降、まるで人形のように反応を示さなくなってしまった。


  これ以上は無意味と判断した私とシオリも、口を閉ざしてただ目的地への到着を待った。


  私たちに与えられたのは断片的な情報のみ……


  形容しがたい不安と混乱の中、私たちはクロエの“マザー”の元に向かった。




 ※




  病院からどれくらい走っただろうか…


  私たちが目的地に着いた頃には十三時を三十分も回っていた。


  車から降ろされた先--目の前には豪邸と呼ぶに相応しい洋館が佇んでいた。

  豪邸--というかちょっとしたホテル位の広さの洋館は、その敷地と合わせて東京とは思えない雰囲気を漂わせていた。

  道中外が全く見えなかったが、一体どこなのだろうか?まるで外国に飛ばされたみたいだ。


  「さ、こっちこっち。道を外れないようにね〜。」


  と、緑に囲まれた庭をクロエが先行する。続く私たちもレンガの道を歩き始めた。


  広大な庭もまるで自然公園のようで、広い芝生に池、遠くの方に生えた木々はまるで森だ。


  私もシオリもすっかり面食らって歩いていると、道のすぐ脇を何かが走り抜けた。

  草木の揺れる音にそれらに目を向けると、茂みの隙間から毛むくじゃらのなにかの尻尾が一瞬覗いていた。


  「……?」

  「…なにあれ?」


  私とシオリが顔を見合わせる前で、すっかりいつもの調子に戻っているクロエが忠告してきた。


  「ここには色んな動物が放し飼いだからさぁ〜、道外れたら大変なことになるぞ?」


  ガウガウと、手を動物の爪に見立てて脅かしてみせるクロエの後ろを、巨大な黒い犬が悠然と歩いて横切った。

  襲われたら本当に大変なことになるであろう巨大犬に私もシオリも面食らう。

 

  道から外れないように注意しつつ、時々その存在を知らせてくる物騒なペットたちに脅かされながら、私たちは洋館へたどり着く。


  近くで見上げる洋館は遠くから眺めるよりさらに大きく、歴史を感じさせる荘厳な佇まいに圧倒される。

  遠くから見るよりずっと大きい。それだけ敷地の入口からここまで遠かったということだろうか。おかげで道中びくびくしっぱなしだ。


  扉の前の石階段を登り扉の前に立つ頃に、重厚な黒い扉がゆっくりと開いた。


  待っていたといわんばかりのタイミングで開いた扉から、黒いスーツの少女が顔を出した。


  「おっす、No.04。」


  クロエが陽気に手を挙げて中から出てきた眼鏡の少女に挨拶した。


  No.04?この人も『ナンバーズ』?


  クロエの陽気な挨拶とは対称的にNo.04は長い黒髪を揺らして丁寧なお辞儀を返した。


  「04、この子らね。お客さん。」

  「…お待ちしてました。」


  クロエが私とシオリを前に出して紹介とも言えない雑な紹介をするとNo.04は再び先程より深いお辞儀を返した。


  「No.01がお待ちですので…中に。」

  「ええ?マザーじゃねえの?」


  中に入るよう促すNo.04の言葉にクロエが素っ頓狂な声をあげた。不満げな表情を露わにするクロエにNo.04は振り向いて首を横に振った。


  「…マザーは留守にしてます。」

  「うぇぇ。」


  大袈裟に舌を出して顔をしかめて見せるクロエを無視してNo.04は私たちを招き入れた。


  --館の中は外の荘厳な佇まいに違わず、非常に広く優美な雰囲気だった。


  全体的に薄暗く、どこか幽霊屋敷という雰囲気を醸しているが、薄暗い館内と中に広がる内装は下品過ぎず凝っており、端的に表現すると城だ。


  No.04の案内で私たちは正面の大階段を登る。

  二階もまたバカみたいに広く、窓から差し込む陽光意外ほとんど光源がなかった。照明器具自体は小さなシャンデリアが取り付けられているが、明かりは灯っていない。

  薄暗い雰囲気とレトロな内装はどこか寄宿学校を思い出させた。


  二階の廊下は階段から見て前、左右の三方向に分かれていて、私たちはその正面の廊下の最奥の部屋まで通される。


  「…ここは、どこなの?」


  小声で後ろを歩くクロエに尋ねるシオリにクロエは返す。


  「だから、マザーの家。」


  ……あの理事長は一体何者なのだろう。


  そんなやり取りの最中、No.04が三度扉をノックする。間髪入れず男の小さな声が中から返ってきて、No.04はゆっくり扉を押し開けた。


  --部屋の中は廊下よりは明るかった。

  豪奢な外観や内装と同様室内も精緻な装飾が施された壁に囲まれ、本当に城の一室のような内装だ。

  部屋には応接用のテーブルにソファが置かれ、奥には大きなベッドやらテレビやら冷蔵庫やら生活用品が配備されていた。なんならワインセラーまである。


  そんな部屋の中央--赤い絨毯の上のこれまた豪奢な白い椅子に腰掛けた少年が私たちを出迎えた。


  私はその人物を知っていた。


  「……ようこそ。」


  椅子の上で尊大な態度で私たちにかけるよう促すのは、黒髪でくせっ毛、紅い瞳の少年だった。


  --私が初めて理事長に出会った日、一緒にいたあの少年…


  No.01が私たちを出迎えた。


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