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夜の帳が降りる頃に  作者: 白米おしょう
第4章 忘れてはいけないもの
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第4章 18 花梨との再会

 

  --目の前に広がるのは最新の医療設備に囲まれた最先端の施設だ。


  先程までの薄暗い通路とは一変して、天井の照明は強い光で施設内を照らしている。青白い照明の光は手術室を連想させた。


  壁にはモニターが埋め込まれ、何かしらのデータを逐一記録している。

  壁際に置かれた医療機器は私の知識ではなんのためのものなのかは想像もつかない。


  そんな施設の向こう側--分厚いガラスに阻まれた奥の病室のような一角に……


  こちらに体を向けてベッドに拘束された花梨の姿があった。


  ベッドはガラスを隔てたこちら側に正面をむけ、壁に設置されているように立っていた。

  ベッドの上からはガラスのカバーが被さっており、その中でずり落ちないようベルトに拘束された花梨が酸素ボンベのようなものと、管に繋がれた状態で寝かされている。


  その姿は、夢の中で出会った花梨に間違いなかった。


  「……花梨。」


  物々しい花梨の姿を前にシオリはガラスに張り付くようにして彼女を見やった。私たちの来訪に、眠り姫は反応を示すことはなく目を覚ます気配もない。


  「…生きてる、んですよね?」


  不謹慎にも、私はそんな問いかけをクロエに投げた。それにクロエも無言で頷く。


  「眠ってるんですか?」

  「どうだろうね。」


  クロエの返答は曖昧だ。誤魔化している気配もなく、彼女自身本当に、花梨がどういう状態か理解が及んでいないという雰囲気だ。


  「…なにが、あったの?なにをしたの?」


  と、振り返るシオリがクロエに問い詰める。

  私自身、動揺を隠せなかった。つい先日言葉を交わしたばかりの少女のこんな姿を見せられたのでは、動揺もするだろう。


  「だから、ウチらは何も……」

  「これは何?花梨に何があったの!?」

  「…シオリ、落ち着いて。」


  言い訳でもするみたいに否定するクロエにシオリが噛み付いた。静かな部屋の中でシオリの悲鳴みたいな怒号が反響する。

 

  「…ウチらが見つけた時には、ここでこうやって寝てたんだよ。」

  「…ウチらが、見つけた?」

  「クロエ先輩、花梨は今どういう状態なんですか?」


  私の問いにクロエは、固く目を閉ざした少女を見つめて返した。

 

  「抜け殻。生きてるけど、心はここにない。」


  クロエの返答に私は衝撃を隠せなかった。

 

  --“心”とは、すなわち精神のことではないか?

  私の中で、あの『サイコダイブ』と今の台詞が繋がった。

 

  私より先に反応したのはシオリだった。


  「…っ!じゃあ、あの『サイコダイブ』は…っ」

  「それは違うよ。あの夢は彼女の夢じゃない。」


  と、シオリに対して否定の言葉を返す。それは、私の憶測をも否定していた。


  「…?どういうこと?」

  「クロエ先輩。花梨は……花梨の精神状態は今どうなって…?」

  「生きてる。」


  私たちの方を真っ直ぐ見つめるクロエが、断言する口調でそう言った。


  「夢の中であったんでしょ?なら、花梨の心は生きてるよ。」


  そう口にするクロエの表情には、いつもの軽薄さが見られなかった。いつの間にか雰囲気の変わった彼女の声音に私は気付かぬうちに気圧されていた。


  「クロエの心はここにはないんだ。」


  そう告るクロエの声に感情の色はなかったが、私にはそれが意図して押し殺しているようにも見えて、初めてクロエが良心の呵責を感じているようにすら感じた。

  私にはますます、この人のことが見えなくなっていく。


  「……説明になってない。どういうこと?あの『サイコダイブ』は一体何?花梨はどこにいるの?」

  「お母さんの中だよ。」


  シオリの声に静かに返ってきたクロエの返答は、私とシオリの虚をついて固まらせた。


  さっきから話が見えるようで見えてこない。

  『お母さん』などという予想外の単語に私の思考は完全に停止した。


  「……きみらが潜ったのは、花梨のお母さんの夢の世界だ。」


  凍りついた私たちの時間の中で、クロエは淡々と事実のみを告げていた。




 ※




  --埃っぽい地下通路を歩いて私たちは地上に戻ってきていた。


 

  「--ここにはもう用ないから。」


  クロエはそう言ってあの地下施設を後にしようとした。それに対して噛み付くシオリにクロエはただ温度のない声音で事実を吐き捨てた。


  「あそこで見てても花梨は目覚めないよ?」


  あまりにも抑揚のないクロエの声は別人にすら聞こえ、同時にその事実に対して私たちは何も言い返せなかった。


  クロエに連れられ病院の外に出ると、一台の黒い車が玄関先で私たちを出迎えた。

  迷うことなく乗り込むクロエに私たちも戸惑いながら同乗する。


  車の窓にはスモークフィルムがはられており全く外が見えない。後部座席と前の席はカーテンで隔てられ運転手すら伺えない。


  私たちが乗り込んですぐに車は発進した。


  「……これ、どこに?」


  シオリの問いかけにクロエはまたしても衝撃的なことを口にする。


  「わたしのマザーのところだよ。」


  クロエの返答に私はギョッとして聞き返す。


  「マザーって、工藤理事長?」

  「そ。」

  「…待って、なんでそんな所に……?」


  慌てて聞き返すシオリにクロエは調子を崩さず返した。


  「…花梨に謝りたいんでしょ?」


  どうも先程からクロエの返答は答えになっていない。要領を得ない答えばかりで私たちははぐらかされている気分だ。


  「…あの『サイコダイブ』は花梨のお母さんの夢…で、その中に花梨がいるっていうのはどういうことなんですか?」


  私は質問を求めた。

  今一番重用なのは花梨の現状を把握すること……その為にはクロエの返答は説明が足りなすぎる。

  逃げるなという意志を込めて私はクロエを真っ直ぐ見つめる。


  「…取り込まれたんだ。」


  それに対してクロエも応えてくれた。


  「花梨はお母さんの精神に取り込まれて、戻ってこなくなった。」

  「待ってください…」


  こちらの理解を置いてけぼりで進む話に私は口を挟む。私の中にまたしても想像だにしなかった予想がよぎる。


  「なぜ花梨の精神がお母さんの中に?精神に入り込めるのは『ダイバー』だけ……」

  「花梨は『ダイバー』だよ。」


  衝撃的に過ぎるその答えに私もシオリも絶句した。


  「正確には、『ダイバー』の適性がある。」


  花梨に、『サイコダイブ』の適性が……?


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