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夜の帳が降りる頃に  作者: 白米おしょう
第4章 忘れてはいけないもの
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第4章 16 クロエとの攻防3

 

  --タクシーを走らせること約五分。


  駅に到着した私たちはタクシーを降りて窓口に向かう。タクシー代をクロエが出そうとしたので、流石に止めて私とシオリで払った。


  「んだよお…先輩にカッコつけさせろよ。そういうの、嫌われるんだぞ?」


  と、なぜかクロエが面白く無さそうだ。


  駅の窓口にやってきた私たちは東京行きの新幹線の時刻を調べ、乗車券を三枚購入。

  私もシオリも、新幹線など今まで乗った記憶がないので、ここはクロエに任せた。ので、代金はクロエ持ちだ。

  立て替えることを提案したら本気で嫌がられた。不思議な人だ。


  --私たちがホームに降りたのとほぼ同時に、新幹線が駅に到着した。

 

  初めて乗る新幹線に私もシオリもまるで修学旅行生みたいに目を輝かせていると、クロエが可笑しそうに笑った。


  車内は座席が三つずつ並んでいて私たちは並んで座った。シオリが窓側を所望したので譲り、クロエが通路側。私は二人に挟まれるかたちだ。


  ……新幹線って、在来線よりずっと早いんだ。


  最大時速四百キロをも超える新幹線の窓から映る景色は普段乗る電車よりずっとはやく流れていた。

  しかも車内の電光掲示板にはニュースまで流れている。驚きだ。


  別に新幹線がどういうものかまるで知らないわけでもなかったが、テレビの画面を通してみるものと生の体験ではやはり新鮮味が違う。

  初めて空港や飛行機に触れた時もそうだったが、自分で体験して自分の血肉になるのはやはり楽しい。


  「……ヨミは、ハルカとは友だち?」


  車内の空気を堪能する私の隣で、ぽつりとシオリが呟いた。それが私への質問だと気づき、私はシオリに向き直る。


  「…昨日病室にハルカが居たから、ちょっとびっくりした。」

  「あぁ…、ハルカとはもう小学部からの付き合いでね……」


  何気なく返した私の言葉にシオリは意外そうに目を丸くした。


  「……へぇ、幼馴染ってやつ?」


  そういうことになるんだろうか?まぁ、なるんだろう。

  幼少の頃の思い出がない私にはあまりピンと来ない例え方だ。


  「そう……なるのかな。シオリは、ハルカとは中等部からの付き合いだって?」

  「……ハルカが言ったの?」


  頷く私にシオリは「そっか。」と納得する。自分の知らないところで友人が自分の話をするのってどういう気分なんだろうか?


  「……私は覚えてないんだけどね。」


  と、どこか遠くの窓の外を眺めながらシオリは呟くように言った。

  そのか細い声と遠い眼差しはどこか寂しげな気かした。


  「……私も、昔のことは思い出せないな。ハルカはさ、古いことよく覚えてるよ?」

  「……適当こいてるだけなんじゃない?」


  辛辣なシオリの相槌に私は苦笑をこぼした。

  周りが色々忘れていく中で、一人だけ覚えてるというのも、辛いものがありそうだ。


  「おーい、そっちでばっかイチャイチャすんなよ?」


  と、退屈そうに通路側に座っていたクロエが私の肩に顎を乗せてくる。構ってくれよと絡んでくるクロエを交えて三人の会話が始まった。

  --その内容は核心に触れるものだった。


  「で?約束。忘れてねーだろ?」

  「約束?」

  「おぉい!とぼけんなよォ!『サイコダイブ』のこと聞かせるって言ったじゃん?」


  とぼけてみたがクロエはしっかり突っ込んで来た。忘れてはくれないみたいなので、私も腹を括って重い話題に足を踏み入れた。


  「……多分、こっちから質問を返すことになると思いますけど。」

  「ん。答えられる範囲でな〜。」


  彼女は一体どこまで把握しているのだろう。底が見えない『ナンバーズ』に不安を抱きながら私は切り出した。


  「……夢の世界で、花梨に出会いました。」


  遊びはなしで、私は単刀直入に切り込んだ。クロエの反応は私の想像のどれとも違っていた。


  「……生きてた?花梨ちゃんは。」


  クロエの返しにシオリが過敏に反応した。何か言い出そうとするシオリを制して私がクロエに聞き返す。


  「……それは、どういう意味ですか?夢の中で無事だったかということですか?」

  「ん、そうそう。元気してた?」


  口調が厳しいものに無意識に変わる中、動じることの無いクロエが肯定する。あまりに普段通りの反応に、機械的なものすら覚えて私は腹の底に冷たい不気味さを感じた。


  「……よく、分かりません。ただ、こちらに語りかけてきました。」

  「精神は無事なわけか。」

  「待って。」


  私とクロエのやり取りの中に割り込んできたのはシオリだった。彼女は動揺を隠すことすらなく、身をクロエの方に乗り出して問い詰める。


  「……あの夢の中に花梨がいたのを知ってるような口振り…あなたたち花梨に何をしたの?」

  「シオリ、落ち着いて。」


  今にもクロエに噛みつきそうなシオリを制する傍らで、クロエがシオリを指さした。


  「きみは花梨ちゃんとはどういう関係?ウチとヨミに着いてきてるのも、花梨ちゃんに関係あるのかな?」

  「……っ!」

  「…彼女は、花梨の昔の友人です。」


  質問を無視されてさらに興奮するシオリを抑えて私は説明した。

  私の答えに今日初めてクロエの顔が驚きの色に染まった。


  「……そっか。」

  「私たちは、今から花梨に会いに行きます。」


  ようやく外出の目的をクロエに告げる。それには反応を示さずクロエはシオリの方をじっと見ている。


  「……っ私の質問に答える気はないと?」

 

  いよいよ殺気立ってきたシオリが声を荒らげる。その声に何人かの乗客がこちらを見るが、当のシオリとクロエは知らぬ顔だ。


  「……その質問の答えだけどさ…」


  クロエはシオリをまっすぐ見据えて切り出した。


  「…ウチらは何もしてないよ?まだ……」


  まだ--?


  「…勿体つけないで、知ってることを起きててくれませんか?クロエ先輩。」

  「えぇ?今はこっちの質問ターンじゃないの?」


  と、苦言を呈するクロエ。しかし、おそらく私たちの答えられることは限られている。どうせクロエにとっては、知っても知らなくてもどうでもいいことだろう。


  話の核たる花梨については分かっていることが何も無い。

  ただ、クロエの答え次第で出せる結論もあるはずだ。


  「私たちが潜らされたあの夢は一体誰の夢ですか?花梨はやっぱり、あの夢の中にいたんですね?」

  「…花梨は『ダイバー』なの?」


  私とシオリの矢継ぎ早の質問にクロエは面食らったように落ち着けと私たちを宥める。


  「一気に言うなって…その答えはさ、自分らで確かめたらいいじゃん?どうせ今から会いに行くわけだし?」


  と、クロエは明確な答えを示さない。つまり、“答えられない範囲の話”ということか?


  「……これだけ教えて。」


  と、クロエを睨みつけるシオリが毅然として問う。


  「…花梨は、無事なの?」


  シオリのその問いかけに、クロエは参ったように眉根を寄せてため息をひとつ吐く。

  しかしそれでも、逃げることはせず私たちに向き合ったクロエは、ただ一言。


  「…ごめんな。」


  答えになってない、ある種の答えを差し出した。


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