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夜の帳が降りる頃に  作者: 白米おしょう
第4章 忘れてはいけないもの
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第4章 13 不良少女がふたり

 

 ※




  その日は一旦解散になった。

  私もシオリも流石に今から行動を起こすことはできない。

  シオリが退出した後、入れ替わりでハルカたちが戻ってきた。


  「…なんの話しだったの?」


  ハルカが剥いて切り分けたリンゴをさらに乗せてこちらに渡しながら、コハクが尋ねてくる。


  「…まぁ、大した話はしてないけど。お互い無事でよかったねって…」

  「ん?お茶を濁したね。秘密の悪巧み?」


  目ざとく私の返しに反応してくるコハクが茶化すように笑いかけた。

  まぁ、私とシオリが仲良くお話--というのも不自然なのかもしれない。

  しかし、茶化すだけでコハクもそれ以上は追求しない。隣に座るコハクが「食べさせたげる。あ〜ん。」とリンゴを一個私の口に持ってくる。


  「なにが“無事で”よ。あんた…また私が授業のノート取らないといけないじゃない。」


  と、リンゴを頬張る私にハルカが苦言を呈す。


  「いや…好きで入院する訳じゃないし。」

  「あんた、なんかほんと最近ついてないわね。」


  と、シラユキとコハクにリンゴを分けながらハルカはため息をひとつ吐く。


  「……そういえば、シオリとは前から知り合いなの?」


  と、ハルカが私とシオリの関係に興味を持ったようだ。交友関係の広いハルカは誰と友人でも不思議ではない。シオリのこともよく知っているようだ。


  「いや、この『ダイブ』が初めてだけど……」

  「そりゃそうよね……あの子とあんたじゃ一生関わりあいになりそうじゃないし。」

  「……?ソンナニ、アイショウワルイ?」

  「いやいや、二人ともボッチ体質だし?」


  と、シラユキにへらへらしながら失礼なことを言うので私は枕を投げつけておいた。


  「いたい!」

  「ねぇ、シオリってどんな子?」


  枕でズレたメガネ直すハルカに私は興味本位で問いかけていた。まぁ、ハルカが言った通り友達は少なそうなタイプだ。


  「本の虫。誰かといるより一人で本読んでたい人。」

 

  ハルカの淡々とした情報では今以上のことが何も分からない。ので、訊き方を変えた。


  「ハルカとはいつから仲良いの?」

  「初めてあったのは中等部の頃……そら、途中編入って珍しいじゃん?それで何となく声かけて……」


  …… 中等部でこの寄宿学校に入ってきたようだ。

  つまり、シオリと花梨の関係はそれ以前……


  --昔友達行ったもんなあっこ。


  私がこの寄宿学校の生徒と知った時、花梨がそんなことを言っていた。


  それを聞いた時は、その友達はもう花梨のことなど忘れてしまったのだろうと思ったが、シオリは覚えていた……


  きっと、本当に大切な人なんだろう。


  友達か分からないとシオリは言っていたが、きっと友人だ。それも、大切な……

  花梨だって、忘れずにいたんだから……


  私の中に、何とか二人を会わせてあげたいという気持ちが大きく広がる。


  「本の虫で、ボッチ体質か……」

  「…ヨミト、ナカヨクナレソウダネ。」


  コハクとシラユキが同時に私を見た。どういう意味だろうか?シラユキの笑顔が心を抉った。


  「……ま、いい子だよ。素直じゃないだけで、優しいし…ちょっと付き合うのが難しい子なんだ。」


  と、ハルカがこぼした。この場にいない友人を思う彼女の顔は柔らかく微笑みの形にほころんでいた。


  ……ハルカは私のいない所で私の話をする時は、こんな顔をするのかな…?


  よく分からない疑問がふとよぎってなんだか悶々とする。


  「……嫉妬?」

  「っ!?」


  ぼそりと横から飛んできたコハクの呟きが私の心臓を射抜いた。

  こいつは本当に変なところで鋭かったりする。いや、別に嫉妬ではない。


  「?」


  にやにや笑うコハクとそれを睨む私を交互に見てシラユキが首を傾げる。ハルカも不思議そうに私とコハクの間に入ってこようとするので、私は慌ててみんなを追い出した。


  --明日から忙しくなる。いつまでも騒いでいられない。


  部屋の灯りを消して明日からのことを考えながら、私は瞼を閉じる。


  眠るのが少し怖かった。

  瞼を閉じた時の暗闇がこんなに怖いと感じたことはなかった。また夢に落ちていくのではないかと心が不安に泡立った。


  こんなことは初めてだ……

  『サイコダイブ』に明確な恐怖を覚えたのは、初めてだ……


  目を閉じて闇を見つめながら、実感として湧いてくる感情を噛み締める。

 

  --負けたんだ。私は……


  目を閉じれば微笑みかける誰かの姿はもうない。それすらも寂しく感じながら私は眠りに落ちていった。


  --夢は何も見なかった。





 ※





  目が覚めたら月曜日。

  いつもよりずっと遅い起床を果たすと、待っていたとばかりに藤村先生がやってきた。


  朝の検診を二十分ほどかけてやると、先生は昨日よりは安心した表情で頷いた。


  「…一晩経って安定したね。気分が悪いとかはないか?」

  「……若干頭が痛い。」

  「一時的なものだよ…脳のダメージもないし、心肺機能も昨日までに比べて安定した。精神状態はまだ若干不安定だから、今日は外からの刺激に触れず、大人しくしているように。」


  ……私の身体は昏睡状態中かなり衰弱していたらしい。

  もし、もう少し戻ってくるのが遅かったら…なんて考えていたら背筋がゾッとしてきた。


  先生が退出して、私は運ばれてきた朝食を口に運ぶ。

  味のしない入院食を胃の中に詰め込んだ頃、病室の扉を新たな来訪者が開いた。


  「おはよう。シオリ。」

  「……。」

 

  細く扉を開いてこちらを伺うシオリに私は挨拶する。

  特に返事はなく、無愛想な来客は足音を殺すように忍び足で入ってくる。


  「…ここではそんなにコソコソしなくても…」

  「……身体は?」


  そっと扉を閉めて私に尋ねるシオリは、早くも制服に着替えていた。こちらの体調を確認しておきながら、やる気満々だ。


  「平気だよ。行こうか。」

  「……やっぱりそんなに無理しなくても。」

  「準備万端じゃん。」

 

  私がシオリの服装を指摘すると彼女は恥ずかしそうに顔を逸らした。


 

  --激しい『サイコダイブ』で身も心もボロボロにされた私たちは当然まだ絶対安静だ。

  授業も休みだし、制服に着替える必要もない。


  ではなぜ、着替えるかと言うと--


  「…抜け出して大丈夫?」


  シオリ同様制服に着替え、私たち二人はそっと病室を抜け出した。

  入院着で敷地内を出歩けば目立つ。しかし制服姿なら問題ない。


  「大丈夫。シオリは?無理してない?」

  「……うん。」


  一応入院棟の職員に見つからないように、コソコソと隠れながら私たちは廊下を進む。

  案外あっさり一階まで降りられた私たちは、正面からではなく裏口に回る。

  ゴミ集積所にゴミを出しに行く看護婦の背中にくっついて、裏口の扉が開いた瞬間外に出た。私もシオリも無駄のない身のこなしだ。日頃の戦闘訓練の成果がこんなところで出た。


  「…なんか不良になった気分。」

  「気分じゃなくて不良だ。」


  フェンスをよじ登って入院棟の敷地から脱出したシオリが呟いた。何故かその表情は少し楽しげにすら見える。

  真面目な子ほどこういうのにワクワクするものだ。


  入院棟の裏手からこっそりと学舎の方向に向かう私たち。

  道中、辺りを伺うシオリが私に小声で問いかけた。


  「…どうしてこんなに急ぐの?体調が完全に戻ってからでも…私は……」

  「…一刻を争う気がするから…」


  私の答えにシオリの表情が引き締まった。


  流石に平日の朝。皆学舎で授業中だからか、誰にも会うことなく学舎まで辿り着く。


  「……それで?これからどうするの?」

  「二つ、考えた。」


  シオリに対して私は今後の方針を二つ提示する。


  「ひとつは事情を知ってるだろうクロエを当たる。クロエの協力を得て校外に出て、花梨に会いに行く。」


  私の提示する案にシオリがぎょっとする。しかし、こちらはまだ現実的な方。


  「もうひとつは、このまま抜け出して東京に行く。」

  「ちょちょっ、待って?」

  「ただ、正直クロエの協力は得られないと思う。彼女の力で外出するのが一番成功する可能性は高いし、後々面倒にならないけど…」

  「待って?」

  「なので、自力で脱出する。」

  「待ってって?」


  どんどん話を進める私にシオリがストップをかけた。


  「なに?時間ないんだけど?」

  「え?会いに行くの?今から?抜け出して?」


  突然の提案にシオリは愕然としながら再度確認する。

  それに私は当然だろ?と返した。


  「だって花梨は東京にいるんだから……会いたいなら東京に行くしかない。」


  私の主張にシオリは完全に置いてけぼりで呆然としている。


  「ので、今からこっそり抜け出すよ。」

  「え?……なんか、え?」


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