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夜の帳が降りる頃に  作者: 白米おしょう
第4章 忘れてはいけないもの
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第4章 10 虚空地獄5

 

 ※




  「……オリ!、シオリっ!!」


  私を呼ぶ声が鼓膜を激しくノックする。同時に、はっきりした意識につられるように全身に鈍い痛みが走った。


  「……っ!」


  痛みに無理矢理叩き起され、私が目を開ける。


  先程の公園の光景はどこにもなく、目の前には赤い土と淀んだ空の荒野が広がっていた。


  仮初の夢から醒めて、目覚めた先はまた夢の中--


  「……っえっと?私…」


  先程見たのがなんだったのか……おそらく私の記憶だろうが…

  これも精神汚染なのだろうか…


  仰向けに転がる私を抱えるように、ヨミが上から覗き込んでいる。

  隻腕で片脚の潰れた彼女は、頭から血を流して白い肌を赤く染めている。


  まさに満身創痍、酷い有様だ。


  かく言う私も、身体に力を込めるが動けない。動こうとすると全身に痺れるような痛みが走る。


  どうやら地面に打ち付けられてあちこちの骨が折れたらしい。片腕の無い彼女よりはましだろうがどっちも笑えない状態だ。


  いやむしろ笑いすら込み上げてくる。


  私がヨミの腕の中で何とか身体を持ち上げると、眼前には、巨大な腕が今だそこにあったのだ。


  私たちをはじき飛ばした巨腕が、私たちを探すように、その爪の先をあちらこちらに向けている。

  そんな中、巨腕の隣の地面がひび割れ、土煙と岩盤の礫を撒き散らしながら爆ぜる。


  目の前にもう一本、白い巨腕が点を向かって伸びていく。


  「……うわ、サイアクだね。」

  「まぁ、腕は二本あるのが当たり前だ。私は一本だけど…」


  思わず口をついて出た私の呟きにヨミが自嘲気味に軽口を叩いて返した。彼女も相当参っている様子だ。


  このままでは為す術なく殺される。しかし、おそらくあの腕にも、私たちの攻撃は触れることすらできないのだろう。


  「……さっき言ってた、精神攻撃…」


  呆然と巨腕を見上げるヨミに私が声をかけた。弾かれたようにこちらに視線を落とすヨミ。


  「……惚けてる場合じゃない。どうやればいい?」


  平静を保っているが、私自身縋るような思いだった。

  吹き飛ばされる直前、ヨミが口にした突破口--このまま虫けらの如くひねり潰されるのを待つのみの私たちが今できるのはそれしかない。


  「……っ私たちの、感情を強く意識して…それを…」

  「それを?」

  「それを相手に流し込む…こう、強く念じて…多分…」

  「……なにそれ?もっと具体的に。」

  「いや、やったらできただけだから……そんな具体的なレクチャーとか…」


  なんとも頼りない話だ。


  こんなものに命を預けるのかと、半ば絶望しながらも私は地面に手を突いて、言われた通りに念じてみる。


  ……が、予想通り全くイメージがつかない。今できているのかすら、分からない。


  感情…自分の今の気持ち…強く意識して……


  グダグダやっている内に時間切れだ。


  私とヨミに巨腕が迫る。大きく開かれた掌は私たちを掴み、握りつぶさんと地面スレスレを走る。両側から包み込むように挟まれ、退路も絶たれた。

  もっとも二人ともこのダメージだ。ゆっくりちんたら這いつくばって逃げたならどの道ぺしゃんこだろう。


  やばいな……


  いよいよもって詰みだ。

  私を抱えるヨミが肉切り包丁を構える。無駄だ、そんなちっぽけな武器ではたとえ触れられたとしても通用しない。


  攻撃は当たらず、しかも敵はこの巨大さ--

  全く理不尽な夢もあったものだ。今まで最悪の悪夢だった。


  --数秒後、私の身体は掌に潰される。まるで飛び回る羽虫を潰すみたいに。

  多分助からない。現実の私もきっと戻っては来れないだろう。


  廃人となったマイの姿が脳裏に浮かぶ。


  ……私もああなるのか…


  待ち受ける死をただ座して待つというのも怖いものだ。意識すればするほど、気が狂いそうになる程の恐怖が膨れ上がる。


  じわじわと身を焼かれるような恐怖に、いっそ早く殺せと--


  そんなことを考えている中、やけにちんたらものを考えてられるなとぼんやり思った。


  死ぬ間際というのは時間が遅く流れているように感じると言うが、これがそうなのだろうか?


  --と、私がそんな停滞した時間の中でうっすらと閉じていた目を開ける。


  「……え?」


  少女が立っていた--


  私とヨミを挟み込むように迫っていた両手の平は、私たちに触れる直前で止まっており、その手のひらの間に佇む少女が私たちと向き合っている。


  まるで、少女を潰さないようにと掌が止まっているみたいに……


  歳の頃は私たちと同じくらいだ。

  茶髪に、童顔で親しみやすそうな童顔。大きくて丸い目--


  面影があった。

  ついさっき、記憶の中で見たあの少女に…


  「……花梨?」


  私を抱き抱えたヨミが目を見開いて呟いた。その呟きに私は彼女の顔を見上げる。


  --荒野の世界がひび割れたのはその直後だった。


  赤い地面がガラスみたいにひび割れて、砕け散った地面の下には底の見えない深淵が続いていた。


  足場を突然失った私たちは、当たり前にその深淵に落ちていく。


  「……ダメだよ。」


  落ちていく私たちの頭上、宙に浮かんだ少女が囁くように呟いた。


  「こんな所に来ちゃダメ……」


  --待ってっ…


  必死に手を伸ばすその指先が、はるか頭上の少女に触れることはなく……


  --深淵に落ちながら私の意識も暗闇に呑まれるみたいに消えていった。




 ※




  ズキズキと頭の内側から叩かれるような痛みが私を現実に引き戻した。

  唐突に襲い来る激しい頭痛に私は堪らず起き上がっていた。


  「--った……っ!」


  起き上がると目眩までした。身体はやたらと重く、頭痛のせいか思考もまとまらない。

  要するに酷い気分だ。


  「……っ」

  「ヨミ!!」

  「……っ起きた…っ!」


  ふらふらする私の思考と視界に、いきなり見知った顔が三つ割り込んできた。突然の情報過多で私は処理しきれずフリーズ。


  「ヨォミィッ!!」


  固まっている私に容赦なく抱きついてきて体重を預けてくるのはシラユキだった。


  ベッドに押し倒された私が今だ困惑していると間髪入れずに残り二人も雪崩かかってきた。


  「このバカぁっ!」

  「……良かった…良かったよ…っ」


  ……なにごと?


  「……シラユキ?ハルカ?コハク?」


  涙を浮かべる友人達に私は声を投げる。自分で発した声を自分で聞いてなんだか違和感を感じた。


  ……あれ?起きてる……生きてる……


  直前--というか、ここ最近の記憶が無い。

  思い出そうとすると随分前の記憶たちが頭に浮かんでは消えていく。


  「アンタ……っ四日も目醒さなかったんだから!!このバカ!!」


  呆然としている私の顔面に、ハルカの拳が飛んできた。


  「ぶっ!?」


  顔面を叩きつけられてようやく、私の意識と理解が現実に追いついた。


  --とりあえず、戻ってきたのだと。


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