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夜の帳が降りる頃に  作者: 白米おしょう
第3章 借り物の夢で
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第3章 20 一人だけの思い出

 

 ※



  ハルカが友人の見舞いに行った後--


  私とコハク、シラユキはコハクの暇つぶしに付き合う形で(株)オフィシャルテクニックについて色々調べる為動き出した。


  「ドウシラベルノ? 」

  「図書館だよ。」


  シラユキに返しながらコハクは私たち二人を率いて図書館に向かっていた。


  「……?図書館にそんな資料あるっけ?」


  ないともいいけれない。過去の新聞も保管しているだろうし…その中にはOT工業をとりあげた記事もあるかもしれない。


  が、そんなものを遡って探し出すのは骨だし、それを調べたところで何が分かるのか?

 

  「パソコンを使おう。」

  『パソコン?』


  コハクの提案に私とシラユキは揃って首を傾げた。


  「……パソコンはあるだろうけどさ…」


  それくらいのものは置かれてるだろうが、当然生徒には解放されていないはず…


  「そこはまぁ、こだまさんを言いくるめて…」


  と、私の指摘にコハクは適当な返事を返した。またこだまさんに迷惑をかける気か?


  「……リジチョウノ、オツカイナラ、『ナンバーズ』ニチョクセツキイタラ、イイトオモウ。」


  と、シラユキ。


  「……私に口止めしたあたり簡単に喋らないよ。まぁ、クロエは分からないけど…」


  しかし、口が軽いということは私たちが嗅ぎ回ったことも知れる可能性が高いということだ。

  私が簡単にペラペラ喋ったように、口の軽い奴は口止めしても全く信用ならない。

  というか、私はこれ以上この件に関わってペナルティを増やされたくない。

 

  「こういうのは地道な情報収集が大切なの、シラユキちゃん。それに、直接訊いたら答えに出ちゃうし。」


  コハクはあくまで自力で解き明かしたいらしい。要は探偵ごっこがしたいようだ。


  「……これはもう満足するまで止まらないな。」

  「ネ。」


  と、小声で呆れる付き合わされた私とシラユキ。


  「もしバレてなんか言われたら全部コハクのせいにしよう。」

  「ネ。」




 ※




  私は入院棟の受付で面会の旨を伝え、階段を登っていた。


  ……最近ここにもよく来るな。


  なんて、考えながら私は目的の部屋に到着し、扉を控えめにノックする。


  「……シオリ、起きてる?ハルカだけど…」

  「……ん。」


  部屋の中からいつも通りの無愛想な声が返ってきて、私は苦笑しながら扉を開いた。


  「……や、気分どう?」


  部屋の奥のベットには、起き上がって本を読むシオリの姿があった。入院中にも関わらず、あまりにもいつも通りなシオリの姿に私はひとまず安心した。


  「起きてて大丈夫?」

  「……身体には問題ない。」


  それだけの返答。シオリは再び視線を本の中に移していく。


  「……元気そうでよかった。大丈夫なんだね?」

  「……。」


  返事はない。今日は私と話すような気分じゃないのかもしれない。

  とりあえず体調はいいみたいだ。精神状態に関しては相変わらずよく分からない。しかし、取り乱す様子もなく意識もはっきりしてる。私を認識できてるし、問題ないだろう。


  なにか土産を持ってくれば良かったかな……


  なんてぼんやり考えながら私は本に没頭するシオリをしばらく見守る。


  ……大丈夫、いつも通りだ。


  シラユキの例があるので安心ばかりも出来ないが、ここで私が身構えてもどうこうならない。


  とりあえずいつも通りのシオリの姿を確認できたので、私は退散することにした。


  「じゃあ行くわ。ゆっくり休んで…読書も程々にね。」

  「……」


  相変わらず私のことなどお構い無しだ。

  一切意識を向けない友人に苦笑を漏らしながら私はシオリに背を向けて歩き出す。


  「……ハルカ。」


  不意に、そんなシオリの声が退出しようとする私の足を止めさせた。


  「ん?」


  少々驚いて振り返る。シオリは相変わらず本から視線を外さず、淡々と私に尋ねてきた。


  「……夢とか、見る?」

  「夢?『サイコダイブ』の夢じゃない夢ってこと?」


  質問の意図が分からず首を傾げる。


  「……夢の中でさ、昔のこと…思い出したりとか、することある?」


  シオリはそんな質問を私に投げかけてきた。シオリが私になにか尋ねること自体珍しいし、その内容もなんだか変だ。


  「……夢とか見ないよ。『ダイブ』の時だけ。」


  私は尋ねられた言葉をそのままんま汲んで返した。


  「私、昔の事とかも忘れないし、あんたら忘れん坊と違って。」


  おまけで冗談もつけてやる。いつも通りスルーされる類の軽口だが、今回は違った。


  「……そうだね。」


  シオリは初めて私の方を見て、にこりと小さく笑った。


  --彼女の笑顔など何年ぶりに見ただろう。もしかしたら、初めてかもしれない。


  いつもとほんの少し様子が違うシオリに私は困惑する。

  そんな私をよそに、それだけ返してシオリは再び本の世界に戻っていく。


  ……やっぱり、『サイコダイブ』でなにか心境に変化が…?


  少し不安になったが、すぐに私は考えを改める。

 

  だって、笑ったもの--


  記憶にある限り初めて見たシオリの笑顔。これ自体は、別に何も不安なことじゃない。


  気をつけてはおこう。でも、きっと大丈夫だ。


  そっと部屋の扉を開けて外に出ながら、私はそう結論づける。

  質問の真意は分からない。もしかしたらシオリは『自分の夢』でも見たのだろうか…?


  それで何を思い出したのか、気にはなったがきっとそれを探られるのは彼女にとって好ましくないことだろう。


  「……お大事にね。」


  そんなふうに考えながら、私はシオリに声をかけてそっと扉を閉めた。




 ※




  --シオリと初めて会ったのは十三歳の時。私たちが中等部に上がった頃だ。


  私は六歳からこの寄宿学校に入学していたけど、シオリは中等部から入学してきた生徒だった。


  たまにいた、途中から編入してくる生徒が。シラユキなんかがそうだが、きっと彼女も注目を浴びただろう。


  シオリもそんな一人だった。


  物心ついた時からこの学校から出たことがなかった私たちにとって、外を知っている子というのは興味の的で、彼女のところには連日人が訪れていた。


  私も、たしかそんな野次馬の一人だったはずだ。


  彼女の性格は当時から変わらない、きっと初めて会った時の彼女にしてみれば私は鬱陶しいことこの上ない邪魔者の一人だったのだろう。


  事実、彼女の塩対応に初対面の私の印象は良くなかったと思う。


  段々とシオリと関わろうとする生徒も減っていく中、私は何故か彼女に頻繁に会いに行った。


  理由は覚えていない。どうでもいい理由だったような気がする。とにかく、記憶にも残らないような些末なことだ。


  初めは鬱陶しがっていたシオリも、段々と私のことを無下に扱うことも減っていった。時間が私とシオリの距離を少しずつ縮めてくれた。


  --そんな馴れ初め。


  特に特別なことも無い。特筆すべきことも無い、二人の出会い。

  人に話してもつまらない、忘れられて当然な思い出を私はずっと持っている。


  忘れようとも思わない。かと言って思い出して当時のことをシオリに語り聞かせようとも思わない。

  たまに思い出して、「昔はあいつはあんなやつだった。」と一人懐かしむ程度のことだ。


  そんなことに意味があるのか?

  なぜみんな忘れていくことを私は覚えているのか?


  誰とも共有出来ない思い出になにか価値があるのだろうか?


  そんなことを考えていると、ふと寂しい気持ちになるけれど……


  --昔を思い出す、か。


  思い出したってしょうがないじゃない。


  なんて、いじけた子供みたいに私は心の中で呟いた。


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