第2章 12 友達でいよう
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寄宿学校最寄り駅から二駅先で電車を降り、駅から近いケーキ屋さんに私たちは入店した。
一人千五百円で好きなスイーツを食べ放題、ということらしい。私は三人分の代金を支払い、好きなスイーツをトレイに載せていく。
自分で提案しといてなんだがなんだか今日は私ばかりお金を出してる気がする。
そんな雑念は置いておいて私たちは各々甘味を楽しんだ。
--スポンジ生地のデザート達で腹を満たした私たちは、ケーキ屋を後にしてあてもなく街を歩いていた。
「朝ハンバーガー食べたからあんまり入らなかった…」
「食べ放題でいっぱい食べれないと負けた気になるね。」
お腹をさするハルカに私も頷く。こんなことなら朝食を抜けばよかった。しかしまぁ、千五百円でケーキ食べ放題なら、ケーキ一個の値段を考えても四つ五つ食べれば元は取れる気がする。
私たちの財布からしてみれば大した出費でもないが、バイキングとはそういうものでは無い。どれだけ胃袋に収められるかなのだ。
なんて、食い意地の張った庶民みたいなことに思考を巡らせていると、私とハルカの後を着いて歩くコハクが言った。
「…まだ、案内っぽいことしてもらってないな。」
おお、そうだった。
シラユキへの見舞い品を買って用事は済んだと思っていたが、今日はコハクに外を案内するなんてことを約束したんだった。
一応今までの買い物もそれっぽくはあるけれど、どちらかと言うと用事を済ませたという感じだ。
とはいえ…
「コハクはどこか行きたいところあるの?」
私の問いかけにコハクは首をかしげ、
「二人に任せるよ。」
と一言。
…別に私たちもここらの名所に詳しいという訳でもない。
行きたい場所がなく、用も済ませてしまった。私たちは向かうべき目的地を失った。
「ハルカ、どっかある?」
「特に用事ないけど…」
「二人はさ、外に出た時はいつも何してるの?」
私とハルカの会話の中に、物理的に間に入ってくる形でコハクが乱入する。
「…別に、宛もなくぶらぶら。」
「何か必要なものがあれば買うし、なくても色んなお店見たり…」
私とハルカの返答にコハクは「ふぅん。」 と頷く。
「…特に用もないのに、みんな外に出るのが楽しみなのか…」
「そういうものだよ。逆になんでコハクは外に出ないの?」
ハルカの問いかけにコハクは顎に指を当てどこか遠くに視線を投げる。思考を巡らせるように小さくうなり、簡潔明瞭な答えをひねり出した。
「…用事がないから?」
そんなものかもしれない。
外に出ることの何が楽しいのかと問われればよく分からない。ただ、普段触れることの出来ない当たり前に広がっている世界に出ていきたいだけなのだろうか。
そういうことに興味がなければ、あの程度の感想しか出てこないのだろう。
きっとコハクは寄宿学校での生活に不満がないのだ。
「でもさ、今日は楽しい。」
そんな風に勝手な分析を頭の中で繰り広げる私の視界に、満面の笑みを浮かべたコハクが割り込んでくる。
「友達と遊ぶなんて、初めてだ。」
--トモダチ。
どうやら、私たちは友達になったらしい。最も、向こうの勝手な言い分だけど…
ただ、それを言われて特に否定する気も起きなかった。
「まだ半日あるからさ。」
コハクの言葉が嬉しかったのか、ハルカも笑顔で応えてそう言った。
「…あ。」
そこで私はふと、先日談話室のテレビで見かけた映画の予告を思い出した。
ちょうどすぐそばに映画館の入ったショッピングモールがある。
「暇だし映画でも観ない?」
突拍子もない私の提案に二人は乗った。
--映画館を出た頃には、三時を回っていた。
映画の内容はスパイもので、アクションが非常に派手だった。ストーリーも作り込まれいていそれなりに作品に没頭できた。金をかけて作ってるだけの事はある。
ショッピングモールのすぐそばには大きな城が建っており、休日の昼下がりということもあり観光客で賑わっていた。
城の堀には大きな鯉が泳いでいて、手を叩くと寄ってきて餌を寄越せと顔を水面から突き出してくる。
そんな鯉の顔がなんだか間抜けで、私たちは三人で笑いあった。
ショッピングモールの一階の喫茶店に入店し、外の城を眺められるテラス席に三人で腰掛けお茶にする。
まだ風は少し冷たいが、天気も良くてとても気持ちがいい。よく晴れた青空に白い城と桜の木々がよく映える。
「--だからさ、あれは敵が間抜けだったんだって。普通はあそこで人質を逃がしたりしないって。やっぱり、ご都合主義だよね。」
「そう?自然な流れに見えたけど…」
コーヒーカップを口に運びながらコハクが熱っぽく映画の感想を語っている。聞き役に徹するハルカがあーでもないこーでもないと感想を述べるのを、私はぼんやりと眺めていた。
--こうしていると、本当に友人同士のお出かけだ。
こんな穏やかな日々を、今往来を行く人々は当たり前のように享受しているのだ。
そう考えると、私たちはやっぱり他とは違う。
気軽に出歩くことはできないし、普通の人は夢の中で命懸けの戦いなんてしない。
楽しげに城を背景に記念撮影する家族、
鯉に餌を投げ込むカップル、
ベンチに腰掛けぼんやりと空を眺める青年、
彼らと私たちと、一体どこで何が違ったのだろう…
こうして午後の風に吹かれていると、今世界中の犯罪発生率が上昇してるとか言われてもピンと来ない。
平和ボケした日常の延長だ。
夜になればまた世界の顔が変わるのだろうか…?だけど、私たちはそれを見ることはできない。
全く実感の湧かない治安の悪化と、この現実とのギャップに私は自分たちのやってる事はなんなんだろう…なんて考え出してしまう。
どうして犯罪者更生の為にあんな回りくどい手法が必要なのだろう……
「--まぁ、結論から言うと面白かったんだけどさ…」
「これだけダメ出ししといてその感想なの?聞いた?ヨミ。」
と、私の思考に呑気な友人たちの声が割り込んでくる。
「え?うん…そうだね、私も楽しめたよ。」
「夢中で観てたもんね。ヨミ、ほんと可愛いとこあるよ。きみ。」
頬杖をついてこちらに笑いかけるコハク。
コーヒーカップ片手に桜と城を背景にした姿はなんだかとってもよく似合っていた。それこそ映画の中みたいだ。
「はぁ…あてもなく楽しむってのも、いいもんだね。」
青空を仰いでコハクが呟く。まるで自由を全身で感じて謳歌してるみたいだ。
「…暇を楽しむってっていうのも悪くないよ。というか、そのための時間なのかもね。」
ハルカがコーヒーを口に含んでそんなことを言った。
暇を楽しむか…
「…また、一緒に遊んでくれる?今度はさ、シラユキって子も一緒に。」
私とハルカに向き直ったコハクが尋ねる。余程今日という一日が充実していたのか、次の機会を心待ちにするように……
「…次の外出日まで友達だったらね。」
「ちょっとヨミ!あんたはまたそういうこと……」
私なりの気の利いたジョークのつもりだったのだが、それに対してハルカが声を上げる。
そんなやり取りを可笑しそうに眺めながら、コハクは私たちに笑いかけた。
「…うん、友達でいよう。」




