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夜の帳が降りる頃に  作者: 白米おしょう
第2章 私の友達
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第2章 11 本屋デート

 

  駅ビルはファストフード店を出てすぐだった。

  人の集まる駅構内ということもあり、土産物屋や大手のデパートなども入っている。この地方都市の経済の中心地でもあった。


  私たちはとりあえず、三人で別れて何を買うのか決めることにする。


  私は地下に入っている土産物屋の方に向かった。ちょうど、北海道物産展をやっているようでここら辺では見ることがない特産品がずらりと並んでいる。


  ここら辺のものなら、イギリスから来たシラユキにも新鮮で喜ばれるのではないか。


  ……残念ながら人に贈り物などした事の無い私には、誰かに何かを買っていく時に何が適当なのか見当もつかなかった。

  とりあえず食べ物が無難かと思いここまで足を運んだが、物が多すぎてかえって選べない。


  やはり日曜の駅地下ということもあり人もそれなりに多く、私は人混みを掻き分けるように軒を連ねる店たちを物色した。


  ……サーターアンダギー、鮭の燻製、札幌ラーメン、蟹……


  流石にあまりに高価なものは買えない。それに日持ちするものがいい。かつ、イギリス人の口に合いそうなもの…


  結局、お菓子とかその辺になってしまう。個人的に食べたかった札幌ラーメンは自分用に購入し、有名店のチーズケーキを購入した。

  結構値が張った。たった二点の買い物で私の財布は急に寂しくなる。やはりこういう場所で買うと高い。土産物屋はつい財布の紐が緩くなる。


  --私たち『ダイバー』には給料が出る。

  それが、今回の様な外出日の主な財源となる訳だが…一回の『ダイブ』でおよそ十万前後…

  正直、学生には過ぎた金だ。

  普段使うあてもないので、無駄に貯まる。大体、ほとんどの生徒はこの外出日に散財してしまう。


  私もその例に漏れず、軽くなった財布を潤しにATMに向かう。

  口座から五万程引き落としてすっかり財布も重くなった頃、私は二人との合流地点に戻ってきた。


  駅の構内にはすでに二人が待っており、紙袋を下げた私を見てハルカが口を開く。


  「もう買ったんだ。何にした?」


  ハルカに紙袋の中身を見せて、私のチョイスに対する感想を求める。


  「…まぁ、いいんじゃない?なんで北海道のチョイスなのかは謎だけど。」

  「やってたんだよたまたま…」

  「…でも、食べ物はヨミに取られちゃったか…私も何か食べ物系買おうと思ってたんだけど。」


  困り顔のコハク。というか、今日は彼女に外を案内すると言っていたのに早速一人行動されられている。


  「二人は?目星はつけたの?」


  私は二人を交互に見つめる。コハクの方はゆるゆると首を振る。


  「どこに何があるのかわかんない。広いねここ。」


  ……なんだか申し訳ない気持ちになってきた。


  「というか、まだ会ったこともない人に何あげたらいいのか想像つかないや。」

  「それもそうね…一緒に選ぼうか、やっぱ。」


  最もなコハクの言い分にハルカが苦笑を返し、結局三人で再び駅ビルに入っていく。


  あくまで見舞い品、かつ病室で退屈しているシラユキが喜びそうなもの…


  私からしてみれば難易度が高いが、先程下見したからかこういうのには慣れっこなのか、ハルカがいくつかの候補をリストアップする。

  ビル内の案内図を見ながらおおよそのターゲットを絞り、私たちは下から上に店舗を見て回る。


  最初に訪れたのは書店。なかなか大きな店舗で様々なジャンルを取り揃えている。本をよく読むが自分で買うことはしない私にとって、本屋とは意外と刺激的な場所だった。


  図書館で大抵の本は読めるし、買って置いておくと場所を取るので私は自分では買わないが、こうやって本棚を物色しているとついつい欲しくなってしまう。


  「…そういや、あれから読んだよ。白鯨。」


  目的も忘れて自分用の本を探している私に並ぶコハクが、私と同じように本の背表紙を目で追いながら話しかけてきた。


  「…一回読んだんじゃなかったっけ?」

  「ちゃんと読んでみた。」


  私に返しながら適当な本を手に取るコハク。彼女自身、そこまで読書が好きという訳ではないと語っていたが、図書館に入り浸るだけあってなんだかんだ興味はありそうだ。


  せっかくこうして一緒に出てきたのだから、一冊くらい買ってあげてもいいかもしれない。なんて私は思った。


  「それで感想は?」

  「やっぱりつまんない。」


  コハクは私に向かって眉根を寄せて笑った。

  まぁ…そうなっても仕方ない。白鯨はそういう作品だとも思う。


  「…なんか欲しい本あったら買ってあげるよ。せっかくだし…」


  私は隣で楽しげに本を追うコハクにそう言った。


  「え?お金持ってるよ私。」

  「まーいいじゃん。友好の証にさ。なんかある?」

  「……っ」


  らしくもなくフレンドリーに、適当に口をついた台詞。そんな私の一言にコハクは驚いたような顔をした。


  「…友好の証か。じゃあ…」


  なんだか嬉しそうなコハクが跳ねるように他のコーナーに消えていく。数分して戻ってきたコハクの胸には、数冊の漫画本が抱かれていた。


  「…少女漫画?」

  「これ、好きなんだ。」


  漫画に触れる機会は多くないが表紙の絵柄と作品名は知っていた。

  というか、こんなに買ってやるつもりはないのだが…


  「ヨミは漫画は読む?」

  「…うーん、あんまり。」

  「そっか…じゃあ読んだら貸してあげるよ。面白いから、読んでみて?」


  嬉しそうにはにかむ彼女に私は何も言えなくなってしまった。


  「…うん。ありがとう。」


  いや、払うのは私だぞ?


  「読んだら感想教えてよ。」


  なんだかご機嫌なコハクに私もこくりと頷く。楽しそうな彼女の笑顔は普段と違いなんだか子供っぽくて、かわいらしい。

  こっちの方が妙に照れくさくなってしまい、思わず視線を逸らしてしまう。


  結局、自分用の本も何冊か購入して店を出る。

  会計する時、店を出る時、やたらとコハクが近い。なんだこれは本屋デートか?


  「おまたせ、ハルカ。」


  先に店を出て待っていたハルカにコハクが駆け寄る。私たち二人の買ったものを確認すると、


  「あんたら自分のばっか買ってんじゃないわよ。目的忘れてない?」


  ごもっともな突っ込みが飛んできた。

  ちなみにハルカも、最近話題らしい漫画を数巻と、有名著者の短編集、そして英語版のファンタジー小説を購入していた。


  外国人が日本語に触れるにはちょうどいいレベルの読み物と、普通に楽しめるだろう英語の本--やはりセンスがある。


  次に向かったのは雑貨屋だった。

  これは見舞い品と言うよりは、まだ入学して日が浅い彼女の為に、何か部屋が賑やかになるものでも買ってやろうというハルカの提案だ。

  とはいえ日常雑貨はすでに揃えているだろう。

  私たちはそれぞれ小さな置時計、クマの人形、オルゴールを購入。クマの人形に関してはうさぎの物と二種類あったが迷わずクマにした。


  その次におもちゃ屋に寄って、ボードゲームをいくつか買った。これも暇つぶしになるだろう。


  両手が紙袋で塞がった頃、私たちは昼食を摂るため駅ビルを出る。


  「何食べる?近くに美味しいラーメン屋あるけど…」

  「ラーメンはないなハルカ。それよりちょっと行ったところにスイーツバイキングがあるよ。」


  私がハルカの提案を却下すると、コハクが意外だと笑う。


  「スイーツとか好きなんだ。なんか、見た目のイメージと全然違うよね。きみ。」

  「…甘い物はみんな好きでしょ?」


  お昼にスイーツはなんか違うと渋るハルカを、私の奢りということで黙らせて私たちはスイーツバイキングに向かう。


  「で、どこにあんの?」

  「多分…ここから二駅くらいさきかな。」


  駅のホームに向かう私とハルカにコハクが驚きの表情。


  「電車とか、乗っていいの?」

  「いいよ。どうせどこに居ても分かるんだしさ。」


  懐から携帯端末を取り出して見せて私は券売機で切符を三枚買う。

  コハクも自分の携帯端末をじっと見つめて、一言

  「…これ捨てたらもうどこいるか分かんないってことだ。逃げられちゃうね。」


  冗談めかして笑った。


  「ちょっとダメよあんた、門限までに戻らないとマザーに殺されるから。」

  「君のとこのマザーは怖いんだ。うちのクラスはね……」


  コハクの冗談にハルカが苦笑を返し、二人並んで改札に歩いていく。


  …逃げられる、か。


  コハクの言葉が何故か耳から離れずに、私は携帯端末を見つめていた。


  --この閉鎖的な学校生活に嫌気がさす子もいるだろう。

  まして親の都合で勝手に放り込まれて、『サイコダイブ』までさせられて…


  過去に逃げ出そうとした子はどれくらいいるんだろうか。


  「ヨミー?」

 

  改札の向こうから私を呼ぶハルカの声に、私は思考を切り上げて改札口まで走った。

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