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夜の帳が降りる頃に  作者: 白米おしょう
第6章 夢から醒めて
142/214

第6章 27 歪む世界

 

 ※




  --どうするべきか悩んだ。


  今夜ハルカたちは『ダイブ』する。それが自信に降りかかる悪意と知りながらそれでも潜る。


  誰のせいでもない。私のせい……


  私には手をこまねくことしか出来ないのか。自分で蒔いた種でみんなが危ない目に遭う。

  だから、私にできることを精一杯考えた。


  私はクロエの言ってたことを思い出す。クロエたち『ナンバーズ』は頭に導入機が埋め込まれてるって……


  それを利用すれば正規の方法じゃなくてもこっそりハルカたちの潜る夢に入れるのでは、と……


  でも、クロエの都合を省みない身勝手な考えはすぐに振り払った。これ以上『ナンバーズ』でのクロエの立ち位置を悪くする訳にはいかない。


  ダメだ私……一人じゃ何もできない。


  自室で鏡と睨めっこをする。映り込むのは当然、私--

  なんでもできるって過信している、馬鹿な女、ヨミ……


  後悔はしてない……はずだ。後悔しないように行動した。

  だからシオリを放っておかなかった。花梨を助けようと思った。

  でも、後悔しない選択が正しいかは別だった。全部、あそこから始まった。


  --考えすぎか……少し休もう。


  過ぎたことと睨めっこばかりしても、前には進まない。私は鏡の中の私から視線を外して布団に潜った。


  コハクは言ったんだ……


  --ハルカたちのことも、心配ないから……

  --信じて?


  今は、信じようか…私には何も出来ないなら……

  ベッドの上で天井と睨めっこしながら、私はコハクの顔を思い浮かべる。

  なんだか、シオリやクロエとの距離が近づいた分、コハクが離れていく気がする。漠然とした不安が私の中でもやもやと広がった。


  こんな狭い世界で、同じように生きてきたコハクにすら、“秘密”はあるんだ…

  私はどこまで、コハクを信じられるだろう……


  はっきり自覚する。私は、『友達』に依存し過ぎてる……

 

  その点コハクは、ずっと大人なのかな……


  横になった途端に眠気がゆっくりと迫ってくる。睡魔に抗うように瞼を持ち上げるけど、見えない手に引っ張られてるみたいに瞼は下がって……


  引きづり込まれるみたいに私の意識は落ちていた--




 ※




  『ナンバーズ』と名乗った二人の子供を中心に、空間が捻れるように歪んでいく。それが視覚的なものではなく、空間に降り注いだ雨粒が不自然な軌道で地面に落ちていくのを見て、実際に夢の世界が捻れているのを確信する。


  巻き込まれるみたいに私の平衡感覚まで狂っていく。船酔いみたいに視界が揺れて頭がぐんと重くなる。


  「……っ、ハルカ、シラユキちゃん!」


  私が名前を呼んで距離を取るより早くに二人は後ろに逃げるように退ってた。

  後ろに跳びながら私は影に手を伸ばす。トースターから飛び出るパンみたいに跳ねて私の手に収まるのは鎖鎌だ。


  相手の得体が知れない。クロエを見る限りあの二人も普通の『ダイバー』とは一線を画す。近寄らない方がいい。


  「コハク、テキ?」

  「敵!シラユキちゃん、ハルカから離れないで--」

  「「にーがさない♪」」


  私の声を遮るように、二人の『ナンバーズ』が歌うように囁いた。


  その声に呼応するみたいに、私たちのすぐ背後のアスファルトがひび割れ、断裂する。

  あっという間に対岸から引き離される私たちの立つ一角は陸の孤島と化す。


  「鬼ごっこは嫌い。」

  「屠殺ごっこしよ?」


  子供たちの不穏な声に私は鎖鎌を投げていた。

  私の手を離れた分銅が一直線に私のイメージ通りに飛んでいく。

  しかし、『ナンバーズ』たちに触れるより早く、空を切って走っていた分銅は捻れた空間に巻き込まれるみたいに不自然な軌道で曲がる。無理やり目標から外された分銅と鎖はそのまま渦に巻かれるみたいに粉々に四散した。


  「……っ!」

  「コハク!どうする!?戦う!?逃げる!?」


  ハルカが大声で指示をあおぐ。しかし、正直どちらも現実的じゃない。


  直後、夢の世界が急変する。

  『ナンバーズ』の二人の周り以外の、断裂された一角の周辺の空間も、ぐにゃりと渦巻くように歪みだす。

  引きずられるみたいに周りの家々も捻れ、引っ張られ崩壊し、空間の渦に飲まれるみたいに残骸が頭上をぐるぐる回る。


  同時、私たちの立つ切り離されたアスファルトの地面--その断裂した対岸との空間から、無数の子供たちが這い出してよじ登ってくる。

  深淵の底から這い上がる子供たちの頭部は人間のそれでなく、一方は金貨、一方はりんごのような果実の形をした頭部を持っていた。

  そしてその全ての子供たちが手にナイフを握り、私たちを囲むように迫ってくる。


  「……!?サッキノ、『ナイトメア』トチガウヨ!?」

  「コハク!やっぱ『ナンバーズ』加入は反対よ!!」


  やけくそ気味に叫ぶハルカがククリナイフを横薙ぎに振るう。目の前まで迫ってたりんご頭の『ナイトメア』の頭部が、本物の果物みたいに砕け散る。


  私たちを見つめる『ナンバーズ』がケラケラ笑う。笑い声が伝搬するみたいに歪んだ世界が揺れている。


  私が振り回す鎖鎌の刃が、大きく円を描き空気を切り裂く。旋回する刃の軌道上、私たちに群がってくる異様な頭部の子供たちが一斉になぎ倒される。

  刃に穿たれ、斬られ、すり潰され、子供たちが紙切れのように舞う地獄絵図。


  「ダメだよ?お姉ちゃん。」

  「お姉ちゃんたちは、豚さんなんだよ?」


  『ナンバーズ』たちが笑い、指を鳴らす。その音を合図に私の足下の空間が歪む。


  --っ!?


  肉を引っ張られるみたいな感覚の痛みに口の中で苦悶が漏れる。私の右足首あたりの空間が円形に小さく歪み、爆ぜた。

 

  無理やり肉を引きちぎられるような痛み。無理やり加えられた圧に骨がへし折れ、私の体重に傷口が悲鳴を上げる。

  立っていられずに思わずその場に倒れる私に、金貨とりんごの『ナイトメア』が襲いかかる。


  「コハク!!」


  すかさず間に入るハルカがククリナイフを振るうけど、うなるハルカの右腕も、私の足と同様に捻れた渦に巻き込まれる。


  小さな空間の渦がハルカの腕を巻き込んで、右腕の肉と骨を撒き散らす。


  「……っ!!あぐ……っ!」


  肘から先を吹き飛ばされたハルカが後ろに倒れ込む。受け止める形で支える私に『ナイトメア』たちが一斉に襲いかかる。


  「--ッヤァッ!!」


  そんな『ナイトメア』たちを戦斧の一撃でミンチにするシラユキちゃんの背中から、さらに『ナイトメア』たちのナイフが斬りかかった。

  シラユキちゃんの背中に無数の刃が突き立つ。それを振り払いながら身体を回すシラユキちゃんの手から戦斧が離れる。


  遠心力でシラユキちゃんから弾き飛ばされるみたいに投げられた戦斧が回転しながら二人の『ナンバーズ』に襲いかかる。

  しかし、私の鎖鎌同様に、二人に届くより早く捻れた空間に巻き込まれ、まるで洗濯機にかけられたティッシュみたいにボロボロに砕かれた。


  「ダメだよそんなことしたって。」

  「分かるでしょ?」


  嘲笑うみたいに私たちを取り囲む『ナイトメア』たち。

  次々斬りかかって来る子供たちを手にした鎌でことごとく切り払う。


  これじゃだめだ。埒が明かない。

  かと言って攻撃は通用しないし、脚は壊れた。ジリ貧だ。

  夢の世界では逃げ場もない。『サイコダイブ』から醒めるしかないけど、それも絶望的だろう。

  No.01からの助太刀の気配もない。はめられたのだろうか……


  状況が悪くなる中で私の頭を刺すような脚の負傷の痛みが支配する。痛み以外の感覚が消えて、焦りと恐怖が胸中を埋めつくしていく--


  --コハク。

  --コハク。


  誰かが私を呼んでいる。いや、この声が聞こえてくるはずはない。


  --マザーは好きだけど、ボクは本当のお母さんに会いたい……


  最悪だやめて欲しい。私の中の記憶の蓋が押し上げられ、中から腐臭を放つ記憶の残滓がポロポロと溢れ出てくる。


  --コハクのお母さんは、どんな人かな?

  --会えたらボクにも、紹介してよ。


  やめろ。やめろ。


  --「私の一番の友達だって」ね。


  「--やめろっ!!!!!!」


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