【第4話】逃げましょう。
今回、キャラの起伏が激しいです。
「私は、とある村の一牧人でした」
「へ、平民の出なのですか?」
驚くほど綺麗な作法をするリー、リーンが平民だったとは衝撃。
「やはり、ミカエラも平民出は差別なさいますか?」
「まぁ、私は小汚い賄賂を渡してくる平民しか知りませんし……驚いたのは、顔が整っていて、所作も綺麗なのに……という感銘からです」
本心だし、嘘はついていない。賄賂を渡してくる平民以外と関わった覚えはなく、前世でも平民でここまで完璧な人はいなかった。それに、平民といえば、富士川様を思い出す。多分それもあるでしょう。
「そっか……で、話を戻しますが、私の村には掟があるのです」
「お、掟……でしょうか……?」
「うん」
「その掟は……村から出て買い物をするというものです」
「買い物……? そこでミーラ様に見つかったのでしょうか?」
「うん」
とても悲しそうに、嬉しそうに語るリー、リーン様。だけれど、何か違和感がある気がしてならない……?
「ミーラ様は、とても良い方なんですよ〜」
「そうですよね、ミーラ様は良い方ですよね」
その通りだと言わんばかりにうんうん頷く。
「ミーラ様は、とても良い方なんですよ〜」
「その通りです、本当に良くしてくれて」
本当に、良い方です。ミーラ様。
「ミーラ様は、とても良い方なんですよ〜」
「そうですね、はい、強調されるのもわかります」
わかりますよ、と思うが、それだけ重要なことなのだと思う。
「ミーラ様は、とても良い方なんですよ〜」
「三回も同じ事を言わなくても、わかりますよ」
えっと……何回言うつもりですか? リー、リーン。
「ミーラ様は、とても良い方なんですよ〜」
「あの、リー、リーン?」
あぁ、これもしかしなくてもアレですか。
「……復唱薬物?」
「ミーラ様は、とても良い方なんですよ〜」
「……どうやら、そのようですね」
「ミーラ様は、とても良i」
「はぁっ!」
気付いたら、リー、リーンのお腹を蹴っていた。少しやりすぎたか……?
「あっ、あっ、あぁあ?」
リー、リーンはその場でばたりと倒れる。
「あはははははははははは!」
「あれ、この声は……」
口をにっとあげてクスクス笑う令嬢。私は、はぁ、と溜息を吐く。
「……ミーラ様? なんの悪戯ですか?」
「ふふふ、あははははははははははははははははは!」
ミーラ様……? え、ミーラ様まで操られてます?
「ねぇ! ねぇねぇねぇ! なんでっ! リーンを! 落としちゃったの!」
「ミーラ様、私は落としてなどいません。ただの声の良い大切な友達の従者としか、思っていません」
「はぁぁぁあぁぁあ? 貴様っ! 何を呆けてるの? 私っ! 夜に聞いたのよ?」
「何を……ですか?」
「リーンにふざけて『パンケーキもう食べられないよぅ』っていう寝言をしてみたのっ! そしたらっ! リーンがっ! 私のっ! リーンがっ! 『ミカエラ様に話そう』って!」
「えっと……ミーラ様は、リー、リーンのことを?」
「気安く私のリーンをっ! 呼び捨てしないでっ!」
「えっと、リー、リーン……様はミーラ様の従者ですよ? ですから、ミーラ様はリーン様……」
「だっ! かっ! らぁぁぁあぁぁ!」
「私の『奴隷』よっ! リーンは! 私のっ! ものなのっ!」
奴隷……? 奴隷って、まさか。
「オークションで落札したのっ! かっこいいでしょう? しかもね、彼には薬物を投与したのっ! 知ってる? 奴隷投与薬って!」
「知っています」
「それをっ! リーンのっ!口にっ! どばどばどばって!」
「言いにくいのですが、その薬は、流石に犯罪では……?」
「あーっ! これだから真面目ちゃんはっ!」
「私とっ! リーンはっ! 誓ったのっ! お互いを愛し合うって! 保険のためにっ! 奴隷投与薬のっ! 内容は至ってっ! かぁぁぁあぁんたぁぁん!」
「ミーラ様、仲良くさせていただいていますが、流石にそれは無視できません」
「私とっ! リーンのっ! 永遠の愛っ! リーンは私のものっ!」
「わ、わかりました。 少し話し合いましょう?」
「ねぇっ! 死んでよっ!」
「待って! 私達友達じゃ!」
「そうね、そうだったわ。でもね、リーンを奪う人は私の敵なのですっ!」
「おい! ミーラ?」
その声は、ダイヤ様?
「あぁっ! ダイヤお兄様! ねぇ、この女、殺して良いですかぁっ?」
「いや、人殺しちゃダメだよ?」
正論を言うダイヤ様だが、手足にロープを持っている……?
「せめて、拷問くらいにしなきゃ……ね?」
シスコンでました……とか、そんな悠長なこと言っている場合ではない。
「こんなところで戦闘しても楽しくないですよ?」
そういった後、流石に命を奪われるのも嫌だったので、ミーラ様の首をトンっとして気絶させ、ダイヤ様も……そうするはずだった。
「俺の……妹に……許さないっ」
「淑女に殴りかからないでくださいな?」
「俺の妹に手を出した奴は、拷問で殺すって決めてるんだ!」
ダイヤ様の足に引っかかり、もう無理と思った矢先、彼も転んでくれた。ここになって漸く鍛えた体が役に立つ。
男性の本気は凄まじく、強い。 だからプラスでロープで縛る。動けぬように。意外と縛るのって難しい。
「疲れた〜、三対一って虐めでしょう……まぁ、ミーラ様となんて、そんな都合の良い話、あるわけないか。鍛えておいて正解だった。」
……さて、レイク国もリーグル帝国も危なそうなので。
スラムの不毛地帯、ルーシェ合併国に出向くとしましょう。
ルーシェ合併国は、ラスライド諸国とローナ連邦の合併国で、見渡す限りスラム街。スラムとかは出来れば行きたくないけれど、この乙女ゲーム、この三国以外ない仕様で仕方がない。
ついでに、ルーシェ民も助けられたらいいなぁ、と。
と、いうのも、民主主義のラスライド諸国と社会主義のローナ連邦が合併したことにより、社会が混乱したのがこの国の実態。
少なくとも、人を助けて悪い気はしないし。良ければ匿ってもらえる。
逃げよう。ルーシェ合併国に。